研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


IPM研修

 川崎市との共催で、平成20年1月31日、川崎市民ミュージアム講義室でIPM研修をおこないました。講義は、「IPMの基本的考え方」と「対策の進め方」の2コマでしたが、参加人数が少なく小さな集まりでしたので、ロの字に組んだ机を講師と受講者が囲む形式となり、くつろいだ様子で受講いただけました。ムシの観察なども大きな会場では難しいのですが、今回はルーペを皆で覗きながら経験を交流でき、特にサイトミュージアムでは問題となるハチ対策などについても、各館の連携を助長できた点などがこれまでにはなかった経験でした。次々と質問があり、具体的な清掃方法についても実地に材料・道具を触りながら研修できたりなど、小集団への研修方法としておもしろい経験となりました。

第21回近代の文化遺産の保存修復に関する研究会「航空機の保存と活用」

会場の様子

 保存修復科学センター近代文化遺産研究室では、1月25日(金)に当研究所セミナー室において「航空機の保存と活用」を開催しました。当日は、イギリス海軍航空隊博物館の航空部門学芸員兼主任技術者のデイブ・モリス氏、日本航空協会の長島氏、平山郁夫美術館の平山助成館長の3氏をお招きし、ご講演いただきました。
 デイブ・モリス氏からは氏が手掛けられたコルセアの修復について詳細なお話があり、実際に作業された方にしかわからない細かい点まで含めてご紹介いただきました。長島氏からは、航空遺産の保存について所沢航空発祥記念館に展示されている91式戦闘機の保存を例にとりながらお話しいただきました。平山館長からは、館長が以前海上自衛隊鹿屋航空基地修理所に所属されておられた時に、現在の南さつま市において海中より引き上げられた零式3座水上偵察機の保存処理について、当時の資料を使ってお話しいただきました。お三方とも、実践を踏まえてのお話であっただけに、説得力もあり、会場からは、さまざまな質問が出て、予定した時間を大幅にオーバーする程の盛会でした。

高校生の所内見学

 当研究所には、国内外から様々な方が施設見学に訪れます。最近は、中学校や高校からの見学も増えています。12月には品川女子学院高等部と島根県立益田高校からそれぞれ約20人の高校生がやってきました。保存修復センターの旧保存科学部門では、犬塚研究員が高松塚古墳墳丘の冷却方法を検討するために行った石材や土の物性測定や温度変化のシミュレーションなどの話をしました。また、吉田は文化財の彩色に使われる色材の種類を触らずに分析する方法である蛍光X線法と、実際にこれを用いて行った絵画の色材分析についてパネルを使って説明しました。応用科学的な内容ですので、高校生にはやや難しかったかも知れませんが、若い人の「理科離れ」が問題となっているなかで、彼らが今習っている物理や化学、また生物などがこのような分野で活かされているということが分かっていただければ幸いです。

江袋教会の焼損調査と修復指導

長崎県新上五島町にある江袋教会 焼損前
長崎県新上五島町にある江袋教会 焼損後
焼損したステンドグラス

 長崎県教育委員会の要請により、新上五島町にあり、昨年2月に焼損した江袋教会の現地調査及び修復方針及び方法に関して指導を実施しました。江袋教会は明治15年(1882年)に建立された、木造瓦葺き平家建てで、長崎県内では最古と思われる木造教会であり、海を見下ろす急傾斜の山腹に建てられていました。屋根は単層構成、変形寄棟作りで構造的にも貴重なものとされていました。それが昨年(2007年)2月に漏電が原因で焼損しました。焼損したものの、立て替えてしまうよりは、使える部材は少しでも救いたいという地元の信者の皆様の願いにより、東京文化財研究所保存修復科学センターでは、現地の調査を実施し、比較的焼損の程度が軽い部材に関して、樹脂含浸を施し、利用できるようにするなどの修復指導を実施しました。

研究会「木質文化財の劣化診断」

 保存修復科学センターでは、文化財の生物劣化対策の研究の一環として、平成19年11月19日、研究所セミナー室において表記の研究会を行いました。今回は「文化財建造物の劣化診断と維持管理 –診断例とその対策、今後期待される技術-」と題して、京都大学の藤井義久氏から、広い範囲の最新の診断技術と実例についてわかりやすくお話をいただきました。また、九州国立博物館の鳥越俊行氏からは、「木彫像内部の生物被害を見る -文化財用X線CTによる非破壊劣化診断-」として、CTが木彫像などの虫による被害の検出を含むさまざまな情報を得る強力な手段であることを、カナダ保存研究所のTom Strang氏より、「温度処理による殺虫処理のポリシーと、木質文化財に与える影響の科学的評価」についてお話いただきました。(参加者60名)

韓国南東部における共同調査―日韓共同研究

感恩寺三層石塔の保存修復工事現場

 東京文化財研究所では、石造文化財を対象とした環境汚染の影響と修復技術の開発研究について、大韓民国・国立文化財研究所と共同研究を進めています。今回は、森井順之・張大石(東北芸術工科大学)の2名が、11月20日から24日までの5日間、韓国南東部(慶州・大邱)の石塔や石仏などを対象に、石造文化財保存修復の現状を調査しました。
 慶州では感恩寺三層石塔(国宝)などの石塔の調査を実施しました。感恩寺三層石塔は韓国では珍しく凝灰岩製の石塔ですが、風化による損傷が多く見られ、国立文化財研究所の直轄で解体修理が行われております。今回は修復現場を訪問し、韓国側研究者と修復材料や技法に関する議論を行いました。また、翌日は大邱に移動し第二石窟庵(国宝)などを訪問しました。崖地に仏龕を掘り花崗岩製の仏像彫刻を安置していますが、仏龕内部における漏水や仏像彫刻表面の層状剥離など劣化機構の解明や、将来の保存修復方案について今後議論を行うこととなりました。
 また、23日には国立公州大学校で開催された「石造文化財の保存に関する国際研究集会」に参加し、東京文化財研究所が国宝及び特別史跡・臼杵磨崖仏において実施している調査について講演を行いました。講演後は、多くの研究者から質問や助言を頂戴し、今後の参考となりました。

「保存担当学芸員フォローアップ研修」の開催

研修風景

 表題の研修は、毎年7月に2週間行っている「保存担当学芸員研修」の修了者を対象に、最新の保存技術などを伝える目的で毎年1回行っているものです。今年は、10月29日に開催し、過去24回の修了者約540名のうち62名の方が多忙の合間を縫って参加しました。今回のフォローアップ研修では、3名の修了者の方に、それぞれの勤務館に於いて、東京文化財研究所と協力して館内環境改善に取り組んだ成果をお話しして頂き、弊所の担当研究員が解説するという構成で行いました。参加者の方にとっては、他館での実践を直に聞く少ない機会であり、自身の取り組みとも重ね合わせ、皆興味深く聞き入り、そして活発な議論・意見交換が交わされました。我々にとっても、学芸員研修をはじめとする活動が実を結んだことは嬉しい限りで、今後も様々な形で、文化財保存環境に関する情報を発信していきたいと考えています。

日韓共同研究報告会2007の開催

當麻寺(奈良県)石造五輪塔の調査

 東京文化財研究所保存修復科学センターでは、国際共同研究「文化財における環境汚染の影響と修復技術の開発研究」に関して、大韓民国・国立文化財研究所と共同で、石造文化財、特に磨崖仏の保存修復について調査研究を進めています。その中で、両国の研究者がより親密に研究交流できるよう、毎年研究報告会を相互で開催しております。
 今年度は10月18日(木)、東京文化財研究所地下会議室にて研究報告会を開催しました。韓国側からは、李柱玩氏・全昞圭氏(国立文化財研究所)・李讚熙氏(公州大学校)をお招きし、石造文化財の劣化診断や保存環境、汚染物除去の事例報告についての講演を行いました。日本側からは朽津信明・早川典子・森井順之の3名が講演し、石造文化財の保存修復について両者による深い議論が交わされました。  研究報告会の後は、韓国側研究者と共に、関西地方の石造文化財についてその保存状態と周辺環境に関する調査を行ってきました。当日は悪天候にも関わらず限られた時間の中で多くの石造文化財について調査・議論を行いました。今後もこうした共同調査を継続し、日本と韓国の研究交流がより深いものになればと願っています。

文化財公開施設の環境調査

 国宝や重要文化財といった国指定品を、所有者以外のものが、その所在地の都道府県を越えて移動させ、展示するには、文化庁との協議が必要となります。美術館や博物館が特別展などの目的で、このような移動を伴う資料借用を初めて行うにあたっては、文化庁文化財部美術学芸課の依頼を受けた東京文化財研究所が、温湿度や空気環境などの保存環境調査を行って、報告書を作成します。例年20から30件程度、この環境調査を実施していますが、特別展の多い秋期にはその件数が集中しています。今年度も、主に9月から11月の間に始まる特別展のために、すでに14件の環境調査を全国の美術館、博物館を対象に実施し、報告書を作成しました。調べた保存環境と、借用する資料の材質、借用・展示期間などを総合的に検討して、施設内環境の適否を判断しています。また、必要に応じて、環境改善に向けた相談も随時受け付けておりますので、文化財保存施設の保存担当者の方は、どうぞお気軽にご連絡下さい。

第5回国際研修「漆の保存と修復」の開催

参加者の発表
漆掻きや漆に関する民俗資料の調査

 9月10日より1週間にわたり第5回国際研修「漆の保存と修復」を開催しました。この国際研修はローマに本部のあるICCROMと共同事業であり、隔年で漆と紙を取り上げています。今年度は漆の第5回目にあたるため、例年の研修とは異なり、過去の参加者による評価セミナーとして開催しました。最初の2日間で11名の参加者全員に本研修で学んだことを現在どのように活用しているかについて発表してもらい、後半の3日間で漆への理解をさらに深めるためのスタディーツアーを行いました。過去の研修で3週間にわたり学んだ実技や講習を各国での漆文化財の保存修復に様々な形で活かしている事例が発表され、多様な情報の交換が行われたことは、参加者だけでなく今後の研修を行っていく上でも非常に有意義であったと考えられます。

2007年新潟県中越沖地震における被災文化財調査

地震により倒壊被害を受けた大泉寺本堂

 2007年7月16日午前10時13分、マグニチュード6.8、最大震度6強の地震が新潟県中越地方を襲いました(平成19年(2007年)新潟県中越沖地震)。震源近くである柏崎市などでは、家屋の全半壊、ライフラインの寸断など大規模な被害をもたらすと共に、多くの文化財も被害を受けました。保存修復科学センターでは、新潟県中越沖地震における文化財被害について、被害状況や被害要因を早急に把握し、応急措置や将来の修復計画に関する助言を行うことを目的に現地調査を行いました。調査期間は、2007年9月4日から5日まで、長岡・柏崎市内の文化財展示施設、文化財建造物を対象に行いました。
 はじめに、長岡市内の文化財展示施設を調査しましたが、火焔型土器をはじめとする展示・収蔵品に大きな被害は見られませんでした。2004年の地震を教訓とし展示・収蔵方法の見直しが行われたことが、関係者のヒアリングにより明らかとなりましたが、地震では長岡市内でも大きな揺れが観測されていたため、見直しの効果が出たものと考えられます。
 翌日は、震源地に最も近い柏崎市内で調査を行いました。被害状況は長岡市内とは比べものにならないほど悲惨な状況でしたが、寺の本堂などが全壊被害を受けるなど、文化財でも同様であることを確認する結果となりました。
 2007年は、能登半島地震にはじまり、大地震が頻繁に起こっています。東京文化財研究所ではこれからも、文化財の防災に関する研究を推し進めてゆくとともに、積極的な情報公開により、文化財防災についてより多くの方に知って頂くよう努力してゆく所存です。

在外日本古美術品保存修復協力事業に関する工芸関係の調査

アシュモリアン博物館にて調査風景

 2007年9月24日から29日にかけて、イギリス(2館、ヴィクトリア&アルバート博物館及びアシュモリアン博物館)及びドイツ(1館、ケルン東洋美術館)において、7月に実施した調査の結果、来年度の修復候補としてノミネートされた作品を中心に日本古美術品の調査を実施しました。ヴィクトリア&アルバート博物館では1作品、アシュモリアン博物館では3作品が来年度の修復候補としてノミネートされており、現状の詳細な調査及び日本へ移送する際に問題となりそうな事項につき博物館側と協議をしました。現状でも塗膜や螺鈿の剥離が顕著で移送の時点でさらに状態が悪化する可能性のあるものなどについて、移送する際に十分な注意を払って梱包していただくようにお願いしました。ケルンでは現地で修復する作品を受取り、派遣した技術者の方々に引き継ぎました。今年度はケルンではケルン東洋美術館所蔵の洋櫃とウイーンからの月琴を修復する予定です。

保存修復科学センター連絡会議の開催

保存修復科学センター連絡会議の様子

 今年4月の文化財研究所と国立博物館との統合に合わせて、保存科学部と修復技術部が統合し、保存修復科学センターが設立されセンターには、4国立博物館・奈良文化財研究所の保存修復担当研究職員も併任として所属することになりました。8月3日には、保存修復科学センターの初めての連絡会議が、奈良文化財研究所の小講堂で開催されました。参加者は、28名でした。会議では、国立博物館や文化財研究所の職員紹介および本年度のプロジェクト概要紹介を行うと共に、情報交換を行いました。また、博物館の収蔵資料の科学的な調査に関して文化財研究所の協力をお願いしたいという要望など様々な意見が出ました。この会議に先立ち、高松塚古墳現地では、床石発掘状況や断熱覆屋の空調設備の見学や壁画修理施設に置かれている取り上げられた壁画の見学も行われ、有意義なセンター連絡会議でした。

特別史跡・キトラ古墳壁画の保存修復

天井作業風景

 東京文化財研究所では文化庁からの受託事業で、「特別史跡キトラ古墳壁画保存修復事業」を行っており、その中で、石室内の定期点検や壁画の取り外しなどを進めています。
 キトラ古墳では、側壁の四神および十二支神をすでに取り外し、天井・星宿図のみが現地に残っています。その天文図で、7月に一部のはく落が確認されました。その後の調査で、はく落の危険性が高い箇所が数十か所にのぼることが明らかとなるなど、著しく悪い状態です。そこで、東京文化財研究所では、落下の危険性が極めて高い部分から順次取り外し作業を進めています。

エントランスホールにおけるパネル展示「[キトラ古墳壁画]―壁画の取り出しと修復作業について―」

壁画取り外しに用いた機材の実物展示

 現在、エントランスでは、国の特別史跡キトラ古墳壁画の取り出しと修復作業について展示を行っています。パネルコーナーでは、壁画の図像部の拡大および原寸大写真を展示するとともに、キトラ古墳自体の概説や保存修復事業の概要を写真・イラストを用いて解説しています。特に、壁画の取り出しに関しては、現場での取り出し作業から特別展示のための処置までを、順を追って解説してあります。また、取り外しに使用する材料を選択するために作製したサンプルや、取り外しに使用した道具などは、現物が展示してあります。

「博物館・美術館等保存担当学芸員研修」の開催

文化財害虫同定実習を行っている様子

 昭和59年から始まった「博物館・美術館等保存担当学芸員研修」は、文化財保存施設において資料保存の任にあたる学芸員を対象に、基礎的な知識や技術を習得して頂く目的で毎年開催しているものです。第24回となる今回は、7月9日から20日まで、平日の9日間開催し、32名の受講生が全国から集まりました。
 研修は講義と実習からなり、前者では温湿度や虫害管理といった保存環境、および各種文化財の劣化とその防止を主な内容としています。後者では、機器を使った環境測定法を習得し、その応用として横浜市歴史博物館においてケーススタディ実習を行いました。また今回は、隣接する東京国立博物館の協力をいただき、当博物館における資料保存に関する講義と見学を実施しました。
 自然科学的な内容の多い研修なので、人文系を専門とする方の多い受講生は面食らうことも多いかも知れませんが、我々は出来る限り内容を理解して頂こうと、毎年工夫しています。また、2週にわたって同じ部屋で過ごした受講生の結束は堅く、研修後もメーリングリストなどを通じて情報交換を行い、それぞれの館での保存環境向上に大きく寄与しています。来年度の募集要項は、2月頃都道府県教育委員会を通じて、各施設に配布する予定ですので、資料保存を担当する学芸員の皆様はどうぞご応募ください。

文化財害虫カード

『文化財害虫カード』(東京文化財研究所、CCI、クバプロ 2007)

 東京文化財研究所とCCI(Canadian Conservation Institute)が共同で開催した“IPMワークショップ2004”において、CCIのトム・ストラング氏と当所の木川が考案した教材「虫名刺」が害虫カードになりました。『文化財害虫事典』に準拠した主要な文化財害虫33種のカードでは、害虫の重要度ランク、姿と実物大、加害する材質が一目でわかります。切りとって保管できるほか、裏にはメモ欄が設けてあります。携帯にも便利、博物館などの現場でご活用いただけますと幸いです。なお、このカードの作成に際して、ご助言・ご協力をいただきました客員研究員の山野勝次博士に深く感謝申し上げます。
 文化財害虫カード:定価600円で(株)クバプロ(電話:03-3238-1689)より発売中です。

在外日本古美術品保存修復協力事業 現地調査

アシュモリアン美術館での調査風景

 在外日本古美術品保存修復協力事業では、海外の美術館、博物館で所蔵されている日本の美術作品を日本へ一旦持ち帰り、修復して所蔵館にお返しします。修復することにより、展示や活用の機会が増えて日本文化への理解が深まるとともに、日本の文化財修復の手法や姿勢を知っていただくことも目的としています。
 本年7月3日から14日まで絵画の修理候補作品を選出するために、イタリア(2館、ローマ東洋美術館及びキヨソネ東洋美術館)、イギリス(2館、ヴィクトリア&アルバート美術館及びアシュモリアン美術館)に赴き、美術史学、修復技術・材料といった観点から調査を行いました。
 一方、工芸作品に関しては、7月10日から24日にかけて、東京国立博物館の竹内主任研究員と猪熊研究員とともに、イギリス(2館、ヴィクトリア&アルバート美術館及びアシュモリアン美術館)及びチェコ(1館及び3城、ムラビア国立美術館及びヴェルケ・メディチ城、フラノフ城、レドニッチ城)において、調査を実施しました。今回の調査で、日本で修復するもの数点とケルンで修復可能なもの数点がリストアップされ、来年以降の修復作業を実施して、再度展示可能な状態になります。

国宝 高松塚古墳壁画の保存修復

東第一石(男子群像)の表打ち作業
東第二石(青龍)の表打ち除去

 2007年4月から開始した高松塚古墳の石室解体も、6月26日に西第一石(男子群像)が解体され仮設修理施設へ移動したことで、残すは床石のみとなりました。東京文化財研究所では、高松塚古墳壁画の保存に関して、壁画養生・修復、環境・生物調査の分野で寄与しています。
 6月には、7日:東第二石(青龍)、14日:西第二石(白虎)、15日:南壁石、22日:東第一石(東男子群像)、26日:西第一石(西男子群像)の順に解体・移動が行なわれました。壁画養生・修復班では、安全に壁画を移動できるように、石間に被っている漆喰を取り外し、化繊紙を用いた画面の表打ちを行ないました。表打ちは、カビ発生のリスクを低減するように、材料や作業時期を考慮して行いました。また石が搬出される都度、古墳内では、環境・生物調査班が微生物の調査を行ない、壁画周囲の湿度を一定に保つための囲いをとりつけるなどの作業を行ないました。
 仮設修理施設にて受け入れた石材は、写真撮影・サンプリング・クリーニングを行なったうえで修理作業室に移動します。その後、画面表打ちの除去を行ったうえで、壁画面の状態を観察・記録し、これから長い期間をかけて行なう壁画修理に必要な情報収集を行なっています。

『独々涅烏斯草木譜』原本の科学的調査

「原本」表紙布の拡大像観察を行っている様子

 『独々涅烏斯(ドドネウス)草木譜』原本(以下、「原本」と記す)はベルギーの博物学者ドドネウス(Rembertus Dodonaeus、1517-1585)の著作である、植物の性質や薬効などに関し、図版を伴って詳細に記した本草書”Cruydt-Boeck”(草木譜)のオランダ語版第2版(1618年刊行)が江戸時代、国内に輸入されたものです。この”Cruydt-Boeck”の抄訳をもとに、徳川吉宗の命を受けた野呂元丈らが寛保元年(1741年)から寛延3年(1750年)にかけて「阿蘭陀本草和解(おらんだほんそうわげ)」を記したことが知られています。さらに、松平定信の命によって、石井当光、吉田正恭らが全訳にとりかかり、文政6年(1823年)ごろ、ほぼ完成したとされています。
 「原本」は複数冊輸入されていますが、そのうち早稲田大学図書館が所蔵しているものは、輸入後7冊に分冊されたのち再製本されたもので、第1分冊の修復作業が埼玉県寄居町にある修復工房“アトリエ・ド・クレ”(岡本幸治代表)で進められています。修復の過程で、岡本氏の調査により、「原本」の製本スタイルが高度な洋式であること、また国内で最も古く洋式製本された書物のひとつである可能性が出てきました。そこで岡本氏の依頼を受けた東京文化財研究所では、製本時期を絞り込むための情報を得る目的で、製本や装丁材料の科学的分析を他の機関とも協力して着手することになりました。これまでに、加藤雅人研究員(保存修復科学センター)による透過画像分析により、見返しの紙が18世紀後半にフランスで出版された書物に用いられたものであること、京都工芸繊維大学の佐々木良子氏による赤外全反射吸収スペクトル法を用いた分析により、綴じ糸には国産の大麻が使われている可能性が高いことが判明しました。また、吉田による可視反射スペクトル分析により、ジューイ更紗と考えられている表紙布のプリントにはインディゴ系染料が使われていることも明らかになりました。「原本」は傷みが激しいため、各材料の分析は極めて慎重に行っています。そのため、上記目的を達する結果を得るにはまだまだ時間がかかりますが、それぞれの材料に対する最適な分析手法を選びながら、少しずつでもこの「原本」の来歴を明らかにする作業を続けたいと考えています。

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