研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


国際研修「紙の保存と修復」の開催

実習

 国際研修「紙の保存と修復」を8月30日~9月17日まで行いました。今回は世界中の文化財関係者およそ80名の応募者がありましたが、アイルランド、オーストラリア、マレーシアなどからの参加者(10名)を選抜しました。この研修では、材料学から書誌学まで様々な観点からの講義を行いました。同時に実習では、欠損部の補填から、裏打、軸付けなどを行い巻子を仕上げ、さらに和綴じ冊子の作製も行いました。見学では、修復にも使用される手すき紙の産地として美濃を訪れ、また伝統的な表装工房および京都国立博物館文化財保存修理所などの修復現場を訪問しました。伝えられた技術や知識は海外で所蔵されている日本の紙文化財の保存修復や活用の促進につながり、さらには海外の作品の保存修理にも応用されることが期待されます。

所沢飛行場における、日本航空史の黎明期の写真の公開

日本陸軍 会式一号飛行機(1911年)

 保存修復科学センターでは、2009年1月に所沢の喜多川方暢氏より寄贈を受けた、所沢飛行場における日本の航空の黎明期のファルマン他の飛行機関連の写真を東京文化財研究所のホームページ上にて公開を始めました。これらの写真は喜多川方暢氏の父君である故喜多川秀男氏が主に所沢飛行場にて撮影した写真であり記録メディアはガラス乾板が主な物です。このガラス乾板の保存をすると供に、デジタル化した写真を日本航空100年の記念すべき年に公開を始められたのはひとえに喜多川方暢氏及び関係各位の協力の賜物であると思っています。今回公開した写真の中には、日本で初めて飛んだ航空機を始めとして、愛国号等、数多くの貴重な写真が含まれており、研究者の方々、あるいは、興味をお持ちの方々にとって非常に貴重な資料になる事は間違い有りません。今後とも、保存修復科学センターでは、このような貴重な資料を公開すべく努力していく所存です。

都久夫須麻神社本殿における蒔絵および漆塗装の劣化に関する調査

蒔絵部分における劣化状態の拡大観察

 保存修復科学センターでは、都久夫須麻神社本殿における蒔絵および漆塗装の劣化に関する調査を行っています。都久夫須麻神社本殿は、滋賀県の琵琶湖に浮かぶ竹生島に所在し、伏見城の御殿の一部を移築したとされる桃山文化を代表する建造物の一つです。この本殿内部には、七五桐紋や菊紋、花鳥文様などを蒔絵技法で加飾した漆塗装の柱や長押、外陣壁面や扉には極彩色を施した木彫などが配置されていることでも有名ですが、前回の修理からすでに75年ほどが経過したため屋根や塗装などに傷みが目立つようになってきました。さらに京都の高台寺霊屋と双壁をなす建造物内部の華麗な蒔絵技法の加飾の劣化が著しくなってきたことが関係者の間で問題となってきました。そこで保存修復科学センターでは、現在、滋賀県教育委員会と都久夫須麻神社によって進められている修理工事に協力して、劣化現象の原因を追求するための基礎調査と、琵琶湖の湖上という特殊な環境の中でこの劣化を食い止めるための検討を行いました(写真)。この成果を、都久夫須麻神社本殿の貴重な蒔絵および漆塗装の劣化を少しでもよりよい状態で保守管理するうえで役立てたいと考えています。

博物館・美術館等保存担当学芸員研修の開催

ケーススタディの様子

 27回目となる表題の研修を、7月12日より2週間開催し、全国から32名の学芸員や文化財行政の担当者が参加しました。本研修では、あらゆる文化財資料を対象に、保存環境や劣化、修復などに関する基礎的な知識や技術を、講義と実習を通して学んでいただき、現場での保存に役立てていただくことを目的としています。
 保存環境実習を実地で応用する「ケーススタディ」は袖ヶ浦市郷土博物館をお借りして行いました。参加者が8つのグループに分かれて、それぞれが設定した温湿度や照度、防災設備、屋外文化財の保存環境などの調査を行い、次の日にその結果を発表し、質疑応答を行いました。
 自然科学的見地からの資料保存がますます重要視されていくことは、平成24年度から、大学での学芸員課程において「博物館資料保存論」が必須になることからもわかります。本研修も時代の動向を見据えながら、より充実したものとなるよう、カリキュラムも内容も精査していきたいと考えております。

ロビー展示「国宝高松塚古墳壁画の劣化原因調査」

ロビー展示「国宝高松塚古墳壁画の劣化原因調査」

 現在、研究所1階のエントランスホールでは、表題のパネル展示を行っています。これは、昭和47年の発見以来、現地保存が行われていた高松塚古墳壁画が、平成19年に解体されるきっかけとなった図像の劣化原因を、平成20年7月に設置された「高松塚古墳壁画劣化原因調査検討会」のもとで、自然科学的かつ多面的な視点から調査を実施した結果の概略です。調査結果の全体は、「高松塚古墳壁画劣化原因調査報告書」として平成22年3月24日に文化庁より公表されましたが、この展示では、そのうち材料、生物、保存環境調査に関して、図版を多用しながら詳しく解説しています。多くの方にご覧いただければ幸いです。

第4回伝統的修復材料および合成樹脂に関する研究会「膠(Ⅰ)」

研究会会場の樣子(1)
研究会会場の樣子(2)

 保存修復科学センター伝統技術研究室では、6月21日(月)に当研究所の会議室において「膠(Ⅰ)」と題する研究会を開催しました。膠材料は種類も多く、日本のみならず世界的にも古くから広く使用されてきた伝統的な材料の一つです。現在では伝統的な和膠の生産も希少となり、物性を含めた実態については不明な点が多くあります。今回の研究会ではこのような背景を踏まえて、まず当センターの早川典子が修復材料としての膠の物性について概要を述べ、引き続き国宝修理装こう師連盟の山本紀子先生から、装こうにおける膠の用い方という題材で装こう修理をされている技術者の立場からのお話をいただきました。さらに東京芸術大学の関出先生からは、画家というお立場から材料研究の成果について御講演いただきました。そして最後にかつて国立民族学博物館で膠づくりの取材を行われた愛知県立芸術大学の森田恒之先生からは、映像をまじえて膠づくりの工程の解説をいただきました。講師の先生方のお話は、それぞれのお立場での話題提供であっただけに説得力もあり、さらに会場では関先生にお持ちいただいた膠材料を見学することもでき盛会でした。

保存担当学芸員フォローアップ研修

間渕客員研究員による講演の様子

 保存担当学芸員研修修了者を対象に、保存環境に関する最新の知見等を伝えることを目的とした表題の研修会を6月21日に行いました。まず、地球温暖化防止などの観点から、最近急速に普及が進んでいる白色LEDについて、吉田が最新の技術動向を紹介したのち、改築を機に、展示室に導入した根津美術館副館長の西田宏子氏に、そのいきさつについてご講演いただきました。続いて、間渕創客員研究員が、自身の研究テーマでもある文化財施設における微生物調査法に関して、また佐野千絵保存科学研究室長が、木材から放出される有機酸の調査方法について取り上げました。今回は、多くの文化財施設にとっても関心の深い内容でもあり、例年よりも多い約100人が参加しました。フォローアップ研修は毎年行っており、学芸員のニーズにも応えながら、最新かつ重要な情報をこれからもお伝えする場にいたします。

厳島神社における外観塗装材料の劣化に関する調査

曝露試験用手板試料の作成
手板試料の設置

 保存修復科学センターでは、「伝統的修復材料及び合成樹脂に関する調査研究」プロジェクトの一環として、厳島神社における外観塗装材料の劣化に関する調査を行っています。厳島神社といえば青い海に浮かぶ鮮やかな朱色の社殿のコントラストの美しさで広く知られていますが、何分海水と接する厳しい環境下に建造物自体が曝されています。そのため、せっかく塗装した朱色の外観塗装材料の黒化現象が比較的短時間で発生したことが関係者の間で問題となってきました。そこで保存修復科学センターでは、この黒化現象の原因追求を実験室レベルで行うとともに、厳島神社工務所の皆さんと共同で、これまで厳島神社の外観塗装材料として用いられてきたと考えられる数々の歴代の外観塗装材料を再現した手板試料を作成し、5月13日に実際の社殿の床上と海面と接す柱に設置しました。これから少なくとも1年間かけて厳島神社の環境の中で曝露試験を行い、外観塗装材料の劣化の様子を観察していくことにします。 この成果を厳島神社社殿の外観塗装を少しでもよりよい状態で保守管理するうえで役立てたいと考えています。

保存修復科学センター

キクイムシやフナクイムシによる被害状況

 保存修復科学センターでは、「周辺環境が文化財に及ぼす影響評価とその対策に関する研究」プロジェクトの中で、木造建造物の劣化状況についても調査を行っています。屋外の環境にさらされる木造建造物の中でも、特に広島県廿日市市宮島町にある厳島神社は、厳しい気候や海水の影響など過酷な条件のもとに存在しています。強い紫外線や風や雨の影響、海水の存在や波による影響、また、海中のキクイムシやフナクイムシなどの被害も甚大です。現在、このような状況で木材の劣化を軽減する方法や、劣化した木材の修復方法や修復材料などについて、研究中です。そのために、強度試験や硬化試験などの物性試験や、現地での様々な形態での曝露試験を行って最適な手法を検討中です。このような調査によって得られた成果は、他の木造建造物にも活用することが期待されています。

『保存科学』49号 発刊

『保存科学』49号

 東京文化財研究所保存修復科学センター・文化遺産国際協力センターの研究紀要『保存科学』の最新号が、平成22年3月31日付けで刊行されました。高松塚古墳・キトラ古墳の保存に関する研究情報、その他保存科学に関する基礎研究や調査結果など、当所で実施している各種プロジェクトの最新の研究成果が発表・報告されています。ホームページから全文(PDF版)をお読みいただけますので、ぜひご利用ください。(http://www.tobunken.go.jp/~hozon/pdf/49/MOKUZI49.html

2009年度日韓共同研究報告会の開催

臼杵磨崖仏周辺岩盤の樹脂耐候性試験

 保存修復科学センターは、大韓民国・国立文化財研究所保存科学研究室と「文化財における環境汚染の影響と修復技術の開発研究」を進めております。共同研究では、相互の研究サイトで共同調査を行うとともに、年1回の研究会を持ち回りで開催し、意見交換を行っております。
 今年度の研究会は、平成22年3月18日、東京文化財研究所地階会議室で開催しました。韓国から国立文化財研究所および公州大学校の研究者にご参加頂き、日本および韓国の研究者による発表および議論を行いました。研究発表は主に石造文化財の保存修復に関するものでしたが、今回は日韓の研究者による共同発表の成果が目立つようになり、より緊密な関係が築けるようになってまいりました。
 今後もこのような形での研究交流を進めてゆき、両国の文化財保存修復の発展に尽くしてゆきたいと考えております。

東大寺法華堂の常時微動調査

東大寺法華堂建物の常時微動調査(強制加振)

 東京文化財研究所では、文化財の防災計画に関する調査研究の一環として「塑造・乾漆造仏像群の地震対策に関する研究」を進めています。現在調査を実施している東大寺法華堂においては、須弥壇及び建物の揺れ方が把握できることで、万が一強い揺れが観測されたときに、仏像群がどのように揺れるかを推測するこ とができます。
 そこで私たちは三重大学などの協力を得て、法華堂建物および須弥壇の常時微動の計測を実施しました。これから計測結果を解析することで、法華堂建物およ び須弥壇の振動特性や耐震性を評価するとともに、仏像群の地震対策に役立てていきたいと考えています。

第3回伝統的修復材料および合成樹脂に関する研究会「建築文化財における漆塗料の調査と修理-その現状と課題-」

研究会における講演の様子
会場からの質疑応答の様子

 保存修復科学センター伝統技術研究室では、1月21日(木)に当研究所セミナー室において「建築文化財における漆塗料の調査と修理-その現状と課題-」を開催しました。現在、浄法寺漆などの日本産漆塗料のうち、実に80%以上は日光東照宮などの建築文化財の塗装修理に使用されています。確かに日本では建築文化財の塗装材料として古くから漆を用いてきた歴史と伝統がありますが、その一方で漆自体は紫外線や風雨などに弱いという弱点もあり、その現状と課題には数々の問題点があります。今回の研究会ではこの問題を取り上げるため、まず明治大学の本多貴之先生に分析化学の立場から漆の劣化メカニズムについてわかりやすい解説をいただきました。次に伝統技術研究室の北野が塗装技術史の立場から実際の建築文化財で用いられていた漆塗装材料の実例について通史的に述べました。以上の内容を踏まえて日光社寺文化財保存会の佐藤則武先生からは、実際に塗装修理をされている技術者の立場から現在日光東照宮などで行なわれているさまざまな伝統的な塗装修理の状況について詳細なお話をしていただきました。そして最後に文化庁文化財部参事官(建造物担当)の西和彦先生から行政指導を行なっている立場から、漆にとどまらず塗装修理一般に対する文化庁の取り組み方やご自身のお考えなどをご講演いただきました。講師の先生方のお話は、科学、歴史、修復技術、行政指導それぞれのお立場での実践を踏まえての建築文化財の漆塗装に関する話題提供であっただけに、説得力もあり、会場からはさまざまな質問も出て大変盛会でした。

文化財施設内の温湿度解析および建築部材内の熱・水分移動解析に関する研究会の開催

講演するアンドレアス、ニコライ研究員

 1月26日(火)に、標記の研究会を東京文化財研究所で開催いたしました。ドレスデン工科大学のグルネワルド教授、東文研の吉川氏からは、図書館内の環境評価とカビ発生リスクに関するシミュレーション解析、同大学のニコライ研究員からは、不飽和多孔質建築部材内の塩分移動と相変化に関するモデル化と数値解析、同大学のプラーゲ研究員からは、建築部材の水分特性の測定法というテーマで講演頂きました。本研究会では、環境解析を行うための解析手法、解析に必要となる建築部材の水分特性の測定法、および実際の建造物に適用した場合の解析事例などが総合的に紹介され、活発な意見交換がなされました。

博物館の省エネ化

ラトゲン保存研究所ステファン・シモン氏の講演

 2009年12月8日に、東京文化財研究所セミナー室で昨年に引き続き、「文化財の保存環境を考慮した博物館の省エネ化」というテーマで研究会を開催しました。今年は、ドイツ、ラトゲン保存研究所のステファン・シモン氏に「欧州での博物館の省エネ化と展示、収蔵施設内の保存環境」、京都大学の鉾井修一教授に「温熱環境からみた博物館の省エネ化」の講演を頂き、さらに国土交通省の足永晴信氏からは「低炭素社会での持続可能な都市空間実現に向けた取り組み」という題で講演を頂きました。最後に、東京国立博物館の神庭信幸氏から「低炭素社会と共存する文化遺産の保存」という題で、東京国立博物館での取り組みについて紹介頂きました。参加者は、全部で75名であり、活発な意見交換が行われました。

キトラ古墳の漆喰集中取り外し作業終了

側壁における取り外し作業
取り外した漆喰片

 保存修復科学センターでは文化庁からの受託事業「特別史跡キトラ古墳保存対策等調査業務」の一環としてキトラ古墳壁画の取外しを行っています。5月に行った今年度第一回の集中取り外しをふまえ、秋の集中取り外しは10月19日〜11月6日までと11月16日〜12月4日の日程で、間に1週間をはさみ、3週間ずつ二度に分けて行いました。前回よりも長期にわたったものの、3週間ずつ行ったことで、取り外しを効率よく進捗させることができました。今回の作業で天井のすべての漆喰が取り外され、2年ぶりに周囲の側壁の漆喰取り外し作業を再開することができました。今後は、紫外線照射による微生物の制御を行いつつ、定期的に点検を行い、来年度に再び集中取り外しを行う予定です。

研究会「文化財の生物劣化の非破壊調査と虫害調査、および修理における利用」

2009年11月20日の研究会の様子

 保存修復科学センターでは、文化財の生物劣化対策の研究の一環として、平成21年11月20日、研究所地下会議室において研究会を行いました。今回は、実際に現場に携わる専門家メンバー向けの研究会で、具体的な議論を十分に行えるよう円卓形式で行われました。まず、「日光山輪王寺本堂での隠れた虫害-対応と修理について」と題して、(財)日光社寺文化財保存会の原田正彦氏から、重要文化財でおそらく始めての例であるオオナガシバンムシの被害実例についてお話をいただき、また、(財)文化財虫害研究所の小峰幸夫氏より、虫害調査の実例について、詳細な報告が行われました。京都大学大学院の藤井義久氏からレジストグラフやアコースティックエミッションを用いた現場の調査について、そして九州国立博物館の鳥越俊行氏からは、文化財用X線CTによる実際の被害材の解析事例での内部の虫の検出についてお話いただきました。以上のことを踏まえ、今後の調査とどのように殺虫処理を行うかについて、基礎実験計画の立案や、今後の修理にどのようにそれらの結果を活用していくかについて活発に議論が行われました。(参加者15名)

国際研究集会「日本絵画の修復 ―先端と伝統―」の開催

総合討論会

 11月12日~14日の3日間、第33回文化財の保存及び修復に関する研究集会「日本絵画の修復 ―先端と伝統―」を東京国立博物館平成館において開催しました。日本絵画の修復に関して、国内外での現状を科学的・客観的に確認することで、材料・技法を再認識し、ここで得られた知識を共有することで、広く世界で所有されている日本絵画の保存と活用を促進することを目的して、海外から4件、国内から11件の講演が行われました。修復技術者、保存科学者、学芸員、伝統材料の製造元などの分野から、350名を超える参加がありました。講演・討論会に関する詳細な内容については、来年度、報告書を刊行する予定にしております。

「東アジア文化遺産保存学会第1回大会」への参加

開会式の様子

 日本、中華人民共和国、そして大韓民国において、文化財保存に携わる研究者が最新の成果を発表する表題の大会が、10月17日から3日間、北京の故宮博物院において開催されました。当研究所からは、石崎武志保存修復科学センター長が寒冷地における石造建築物の劣化に関する招待講演を、また森井順之同研究員が溶結凝灰岩の非破壊的劣化調査について、さらに吉田が高松塚古墳壁画の状態調査に関してそれぞれポスター発表を行いました。その他、国内他機関からも多くの参加があり、各国の研究者間で活発な議論が行われました。歴史的に深い関わりを有する3国には、文化的にも多くの共通点があります。一方、異なる国ですから、文化財保存についての理念などには相違点も多数あります。今後、1大文化圏としての我々がこれらの点について、どのような共通認識を持ち、また協力し合えるかは、この学会のこれからに大きくかかっているとも言えます。次回の大会は2年後、再び中国国内で開催される予定であることがアナウンスされました。

国際研修「漆工品の保存と修復」

一連の修復作業が終了した常香盤(東京都港区實相寺所蔵)
漆を用いた接着作業の実地訓練風解

 保存修復科学センターでは、9月17日から10月15日にかけて国際研修「漆工品の保存と修復」を行いました。この研修は、先にICCROM(文化財保存修復国際センター)との共同で開催した国際研修「漆の保存と修復」に引き続いて保存修復科学センターが独自に行なう研修プログラムです。この研修では、先行して開催した2週間の「漆の保存と修復」で日本の漆文化の基礎を勉強した研修生の中から若干名の修復技術者をえらび、一ヶ月かけて実際の漆工品を教材とした保存修復の実地訓練を行ないました。今回は、ドイツのアントンウルーリッヒ公美術館のガスナー・アッダ氏とハンガリー国立博物館のバラシュ・レンツ氏の2名が、漆工品修復技術者の山下好彦氏による実地訓練、その間9月21日から9月23日にかけての姫路・京都・奈良における漆文化財の現地見学、また10月5日には教材を提供してくださった東京都港区の實相寺(江戸時代には会津松平家縁の江戸菩提所の一つ)を尋ね、実際の大名諸道具などの漆工品を見学しました。そして、研修の締めくくりに今回の研修に関するプレゼンテーションを行いました。さて、今回の教材は、汚れや痛みが激しい三葉葵金御紋付の朱塗り常香盤(江戸時代後期頃の会津松平家什器:)です。これをお借りして保存修復科学センター内の漆修復アトリエに搬入し、事前調査・写真撮影・科学分析・養生・クリーニング・漆や膠などの伝統修復材料を用いた漆塗膜や破損部分の接着作業など、研修生は一連の作業を経験しました。彼らは今後自分が所属する美術館や博物館で漆工品の保存修復の実務に携わる予定の修復技術者であるだけに、問題意識はとても高く、大変熱心でした。なお、それまでは移動も困難であるくらい痛みが激しかったこの常香盤は、一ヶ月という短い期間内で可能な緊急措置としての修復作業を終え、今年度末には東京都港区文化財に指定される予定です。

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