研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


「膠と修理 ー《序の舞》を守るー 展」開催報告

展示風景

 保存科学研究センターでは、修復に必要な材料の開発を行ってきています。そのような研究対象の一つとして膠があります。膠は古代から接着剤として用いられている材料で、動物のコラーゲンの分解物です。使用された動物の種類は文献に残る限り多岐にわたり、さらにその製造方法も様々な工夫が凝らされてきました。その一方で、材料・製造方法による膠の物性の差異については科学的にはほとんど明らかになっておらず、近年、ようやく研究が行われるようになりました。修復材料研究室では、これらのデータをもとに、修復材料としての膠の性質について研究を行ってきています。
 重要文化財「序の舞」を修復するにあたり、これらの成果をもとに膠の選定が行われ、特に胡粉の発色を妨げない膠を用いることにより、修復による変化をできる限り生じないような修復が可能となりました。
 この成果を平成30(2018)年10月14日〜19日の会期で東京藝術大学陳列館において「膠と修理 ー《序の舞》を守るー 展」として、東京藝術大学大学院保存科学研究室と共に主催展示いたしました。共催の膠文化研究会のご協力も得て、使用された膠の実資料、科学的データ、及び修復中に撮影された拡大画像を含む多数の画像を用いた展示となり、宇髙健太郎客員研究員によるギャラリートークも行われ、研究成果と文化財修復現場との関連について、広く理解を得られる貴重な機会となりました。

歴史的木造建造物の新たな殺虫処理方法の開発–中禅寺鐘楼の現地視察

「日光山中禅寺(輪王寺別院)鐘楼の湿度制御高温処理と現地視察の様子」

 平成30(2018)年9月10日に、中禅寺鐘楼で開始した「湿度制御高温殺虫処理」の現地視察を行いました。湿度制御高温殺虫処理とは、木造建造物の柱、梁など木材を食害する害虫を高温(60℃程度)によって駆除する方法です。通常は加温していくと木材が割れたり歪んだりしてしまいますが、木材の含水率が一定に保たれるように処理空間内の湿度を制御しながら加温すると、木材の物性にほとんど影響を与えずに木材の内部まで温度を上げていくことが可能になります。従来の歴史的木造建造物の殺虫処理は、建造物を被覆密閉して内部に気化させた薬剤を充満させて木材内部の害虫を駆除する燻蒸殺虫処理が唯一の手法でした。しかし、燻蒸ガスは人体にも影響があるため安全対策上のリスクも大きく、木造建造物のような大規模処理を継続するのは困難な状況にありました。湿度制御高温殺虫処理は、このような課題を克服する新しい方法として期待されています。
 これまでに、日光社寺文化財保存会、京都大学、九州国立博物館、トータルシステム研究所、文化財建造物保存技術協会、国立民族学博物館、千葉県立中央博物館、そして東京文化財研究所からなる研究チームで歴史的木造建築物への適用に向けた基礎研究から応用技術の確立まで研究を進めてきました。基礎研究では、チャンバーを使った試験で処理中の空間の湿度分布と木材内の温度分布、表面ひずみの計測、材質への影響を確認しました。そして、実際の建物を想定した温湿度制御ユニットを作成し、モデル建物での処理試験を経て、今回、中禅寺愛染堂に次ぐ国内で2度目の歴史的木造建築物の現地処理試験に至りました。中禅寺で行った2棟の処理結果を整理して、本法が新たな殺虫処理法の一つとして普及していくことを目指して研究を進めていきたいと考えています。

IIC2018トリノ大会への参加

IIC2018トリノ大会での質疑応答の様子

 平成30年(2018)9月10日から14日にかけて、IIC(International Institute for Conservation of Historic and Artistic Works)の大会がトリノ(イタリア)で開催されました。東京文化財研究所からは保存科学研究センター・犬塚将英が参加しました。
 今回の大会では「文化財の予防保存」がテーマとして掲げられました。このため、大会中は文化財の保存環境、分析、修復等の各論にとどまらず、予防保存の重要性、そのために求められるリーダーシップ、公衆関与等についての活発な議論も行われました。
 屋外に置かれている文化財のための予防保存についての議論を行うセッションでは、国内の装飾古墳の保存施設に見られる結露の問題とその対策に関する発表を犬塚が行いました。また、ポスターセッションでは、保存環境研究室が取り組んできました日本の博物館等の環境調査の歴史と現状に関する内容のポスターを掲示し、参加者との情報交換を行いました。

『科学的な材料とその使用方法の講習会』の開催

分子模型を用いた有機溶媒に関する講義
汚れ除去の実習風景

 装潢文化財(日本画・書跡等)の修理にあたっては、近年、自然科学的な知識が必要とされるようになってきています。平成30(2018)年7月31日-8月1日に修復技術者を対象に基礎知識の講義から実習形式までを含めた講習会を国宝修理装潢師連盟と共催で開催しました。基本的な実験器具・薬品の取り扱い方法のほか、有機溶剤や酵素等の特質を正しく理解し、より適切で安全な修復に活かすことを念頭にカリキュラムを組み、受講者が講義の内容を修復現場で実践できるよう、実用的な知識の習得を目的としました。今年度で3回目になります。
 参加者は、国宝修理装潢師連盟に加盟している技術者の方の計11名でした。
 保存科学研究センター長・佐野より「有機溶媒等の安全講習」について、生物化学研究室長・佐藤より「修理工房における文化財IPM」について、修復材料研究室長・早川から「接着剤や汚れ等の除去」についてそれぞれ講義を行いました。特に今年度は、適切な溶媒の選択のために、分子模型を使用した有機化学の講義を行い、二日目にその講義を踏まえて、実際に各種の汚損物質で汚された紙資料を用意し、適切な溶媒や酵素を使用して除去する実習を行いました。また、水で移動しやすい色材の上を一時的な保護材料としてシクロドデカンで保護する方法についても併せて実習で扱いました。実習には国宝修理装潢師連盟技師長・君島隆幸氏が講師として実技的な指導を行いました。
 議論や質疑応答も活発にあり、このような形の講習を今後も引き続き開催していく予定です。

台湾における「近代化遺産の保存と推動計画に関する国際シンポジウム」への参加

シンポジウムの様子
現地調査の様子。台北機廠鉄道修理工場内の鍛治工場に残された台工141号スチームハンマー(東洋鐵工所製作、昭和9(1934)年購入)

 近代文化遺産研究室では、平成29(2017)年度から台湾の文化財担当者及び研究者と交流を行い、近代文化遺産の保存活用について、互いの経験と課題の共有を図りつつ、その解決に向けた研究を進めております。
 その一環として、台湾文化部文化資産局と台湾中原大学の主催で平成30(2018)年8月17日に台北市にて開催された「近代化遺産の保存と推動計画に関する国際シンポジウム」に参加しました。シンポジウムには、日本の産業遺産、鉄道、機械分野を代表する専門家が講演を行い、東京文化財研究所からは近代文化遺産研究室長の北河が近代化遺産に係る文化財行政について講演を行いました。シンポジウムには、台湾の行政担当者、文化財所有者、大学研究者、市民団体などが数多く参加し、近代化遺産の保存活用の理念から手法に至る幅広い議論が展開されました。
 シンポジウムに合わせて、台湾の研究者と共に、日本統治時代に建設された水利施設、工場、鉄道施設の保存活用の状況を確認し、その手法や課題について議論を行いました。中には、オートバイメーカーが電動アシスト機能を搭載したレールバイクを開発し、文化財として保護されている鉄道廃線跡の活用を図りながら施設運営も行う、という興味深い事例もありました。また、台中市にある台湾文化部文化資産局も訪問し、施局長らと日台の近代化遺産に係る文化財保護制度や保存活用の歴史、考え方について意見交換を行いました。

シンポジウム「“ここ”の歴史へ -幻のジェットエンジン、語る-」

シンポジウムの様子(ICUアジア文化研究所提供)
会場に展示されたジェットエンジン部品(ICUアジア文化研究所提供)

 国際基督教大学アジア文化研究所・平和研究所と東京文化財研究所は、平成30(2018)年6月2日、同大学においてシンポジウム「“ここ”の歴史へ -幻のジェットエンジン、語る-」を開催しました。これは、平成27(2015)年に大学構内で発見されたジェットエンジン部品3点の文化財的な価値を広く共有すると共に、かつてこの部品を開発した中島飛行機株式会社の研究所の敷地につくられた国際基督教大学(以下、ICUという。)キャンパスの歴史を振り返ることに主眼をおいて行われたものです。
 シンポジウムは2部から構成され、第1部では高柳昌久ICU高等学校教諭が当該部品の発見の経緯と意義について発表したのに続き、東京文化財研究所と日本航空協会が平成29(2017)年に実施した文化財調査の成果を長島宏行元客員研究員が、今後の公開活用に資する参考情報を苅田重賀客員研究員が発表しました。そして、学生による映像作品の上映を挟んで、第2部では作家の奥泉光氏、加藤陽子東京大学教授、大門正克横浜国立大学教授が、それぞれの観点から、ジェットエンジン、多摩地区さらには第二次世界大戦の歴史を考えるための貴重な視点を提供し、最後に会場からの質問をもとに総合討論会が行われました。
 文化財を糸口として大学や地域の歴史を紐解き、その価値を多くの人に伝えながら、それが提起する問題について考察する。こうした教育・研究機関ならではの保存活用のあり方が、ICUを中心として、今後も引き続き検討されて行くことと思われます。

東日本大震災から7年を経て

内覧会の様子
展示の様子

 東日本大震災という未曽有の災害から、7年という月日が経過しました。改めまして犠牲になられた方々に哀悼の意を表するとともに、今なお復興にご尽力されております皆様に心から敬意を表します。今回、岩手県立博物館で3月から5月に開催された津波被災資料を残す価値を総括的に伝える展覧会の機会に、様々な被災資料の処置に関わった各機関の専門家と情報交換を行いました。
 これまでに修復を終えた被災資料が2つの展覧会「明日につなぐ気仙のたからもの-津波で被災した陸前高田資料を中心に-」(平成29年3月3日~3月28日)、「未来への約束―いま語りはじめた気仙のたからもの―」(平成30年4月3日~5月6日)で紹介されました。展覧会開会式では、出席の叶わなかった本研究所亀井伸雄所長代理として山梨絵梨子副所長が来賓挨拶を行い、内覧会では、佐野千絵保存科学研究センター長が保存科学研究センターで行っている被災紙資料の安定化処理に関する研究について解説しました。修復を終えた資料だけでなく、処置前後の状況や処置方法もまとめて展示されており、意欲的な取り組みだと感じました。
 7年間の活動で全46万点の被災資料の内22万点の修復が完了したものの、まだ24万点の資料が処置される日を待っているとのことです。津波被災した資料は膨大な点数であることに加え、保管中の異臭の発生など多くの問題を抱えています。今後とも科学的な面からの研究を通じ、被災資料の修復に貢献していきたいと考えています。

日本航空協会所有の三式戦闘機「飛燕」の修理について

飛燕全景。右主翼上面の国籍マーク(日の丸)は投射された赤色光で再現されています。
胴体右側の国籍マーク(日の丸)はプロジェクションマッピングで2分間隔で再現されています。
胴体左側の国籍マーク(日の丸)の痕跡。戦後にオーバーサイズの日の丸が塗られたため、二重になっています。
スーパーチャージャーの空気取り入れ口の下にある機体番号「6117」の痕跡。

 (一財)日本航空協会(以下、航空協会)が所有する三式戦闘機「飛燕」二型は、1944年に川崎航空機(株)岐阜工場で製造され、1945年の終戦時には東京の福生飛行場の陸軍航空審査部に配備されていました。終戦後、我が国の航空機がほぼ全て廃棄処分される中で、理由は不明ですが処分を免れ、1953年まで米軍横田基地に展示されていました。現在、飛燕としては博物館に展示されている世界で唯一の機体です(ニューギニアから回収された残骸などから飛燕の復元を企画している例は複数あります)。本機は1953年に米軍から航空協会に無償譲渡され、1986年に知覧特攻平和会館(南九州市)に展示されるまで日本各地で展示されましたが、その間、部品の紛失や機体の損傷などが起こり、その応急的処置が逐次なされる一方、1965年からはオリジナルとは全く異なる塗装・マーキングが施されました。
 近年、航空協会は保存科学研究センターとの共同研究を通して飛燕を文化財として新たに認識するようになっていたところ、2016年が川崎重工業(株)(以下、KHI)の創立120周年に当たったことから、同社の記念事業として飛燕の修理に全面的協力が得られることになり、2015年から同社岐阜工場で約1年を掛けて修理が行われました。
 修理に先立って、航空協会とKHIの協議により飛燕を文化財として修理することが決定され、個々の修理箇所についてはKHIから修理の仕方について提案し、航空協会がそれを確認・了承するという手順で進められました。KHIによる修理は、機体表面の塗装の剥離から始まり、戦後に付け加えられた異品の取外し、機首のエンジン上部のパネル、操縦席の計器板など新規のレプリカ部品の作成など、広範囲なものとなりました。
 機体表面の塗装を剥離した結果、製造時にドリル工具の刃が滑った痕や、国籍マークおよび注意書などの痕跡が各部にあることが確認され、機体番号(製造番号)が「6117」であることも新たに確認されました。国籍マークの再塗装についてはKHIから提案がありましたが、新たな塗装は機体表面に影響を与える可能性があること、そして発見された痕跡そのものを見せることに価値があることを考慮して、新たな塗装は行わないことになりました。2016年秋に、神戸ポートターミナルホール(神戸市)で約1カ月展示された際には、KHIの要望によりラッピングフィルムで国籍マークなどが再現されましたが、「かかみがはら航空宇宙科学博物館」(各務原市)に搬入後に剥がされました。同館は2016年9月からリニューアルのため閉館していましたが、同年11月から2017年11月まで収蔵庫で分解された状態で展示されました。
 KHIによる修理作業の終了後、航空協会は保存科学研究センターの監修のもとに飛燕の調査を行い、劣化が進んでいたゴム部品を除去する一方、操縦翼面(方向舵、昇降舵、補助翼)の羽布の張り替えを実施しました。操縦翼面は、同時期の多くの航空機と同様に、金属骨格に羽布が張られていますが、1986年に張り替えられた際には、羽布をリブ(小骨)に縫い付ける作業を省略したものとなっており、外観も違ったものになっていました。そのため、保存科学研究センターでは当時の羽布の材質調査などを実施し、2017年秋から本年2月に掛けて行われた羽布の張り替えに根拠となるデータを提供しました。また、機体の再組立前後で記録撮影も行いました。
 本年3月24日、同館が「岐阜かかみがはら航空宇宙博物館」としてリニューアルオープンすると飛燕は目玉展示の一つになりました。同館によれば、国籍マークが塗装されていないことは見学者の多くから好意的に受け止められており、航空機を文化財として扱うことが社会に浸透しつつあることが感じられます。

国宝高松塚古墳壁画修理作業室の一般公開

国宝高松塚古墳壁画修理作業室一般公開受付の様子

 国宝高松塚古墳壁画修理作業室の一般公開において、解説員として参加しました。修理作業室の一般公開は、平成19(2007)年の高松塚古墳の石室取り出し以降年2回のペースで行っていましたが、平成29年度より、キトラ古墳壁画体験館四神の館における壁画公開とあわせて年4回開催に増えたものであり、第1回より東京文化財研究所も主催者として取り組んでおります。
 通算20回目となる今回は、西壁(女子群像、白虎、男子群像)および北壁(玄武)を見学通路近くに配置し、取り出しから10年経過した現時点での壁画修理の進捗状況を確認いただき、同時期に公開されているキトラ古墳壁画(玄武)と比較できるようにしました。明日香村観光で訪れる人が少なくなる冬期に、当日受付も含めて約1000人の来場者がありました。来場者の多くが壁画クリーニングの進み具合に驚いており、今後の修理や展示について興味を持ってお帰りになられました。

バガン漆芸技術大学との意見交換およびミャンマー漆器製作現場の視察

ミャンマー漆器製作現場の視察

 東京文化財研究所では、国内だけではなく国外の教育研究機関や民間団体等とも連携して文化財の保存修復や調査研究を行っています。そのうちの一つとして東京文化財研究所は 2014年にミャンマー協同組合省小規模産業局とミャンマーの漆工文化遺産保護に関する協定を締結し、2016年に漆器に関するワークショップをバガン漆芸技術大学で開催しています。協定の失効後も2017年2月に同大学でワークショップを開催し、漆工芸品の観察実習と、保存修復の事例と科学分析に関する講義を行い、協力関係を保持しています。
 今後の協力事業の方針を決定するため、2017年12月7日に同大学を訪問し、意見交換を実施しました。バガン一帯で販売している漆器の科学的観点に基づいた安全性や特性が主な議題となり、理解を深めていくべきであると双方で意見が一致しました。また、今後の円滑な連携のため12月7日~8日にはミャンマー漆器製作現場を視察しミャンマー漆器への理解を深めました。

国際基督教大学所蔵ジェットエンジン部品の調査

研究所に運び込まれたジェットエンジンの排気ノズル2点。右側の部品はカバー付き
カバー分離作業の様子

 保存科学研究センターでは、国際基督教大学の依頼を受け、同大学構内から昭和25(1950)年頃出土したとされ、ジェットエンジン部品の可能性がある資料2点の調査を日本航空協会とともに実施しました。平成29(2017)年5月20日に同大学で実施した調査で第2次世界大戦中に日本が製造したジェットエンジンの排気ノズルの可能性が高いことが判明し、このことを受け7月6日から10月26日にかけて当研究所にてより詳細な調査を行いました。
 文献および目視による調査に加え、主要寸法・重量の測定、材質の調査を実施し、合せて記録撮影を行いました。また、部材構成および内部構造の調査のために東京国立博物館の協力を得てエックス線CT撮影を行いました。調査資料2点のうち1点は2つの部品から構成されていたため研究所に搬入の後、分離作業を行い、資料の表面に付着した土埃や枯葉などの異物を取り除き、合せて防錆処理を行いました。
 調査の結果、戦時中に生産された他の日本の航空機においても確認されている製造時の刻印と類似の刻印が確認されたこと、全ての部品がステンレスを用いた耐熱性の高いものであること、形状・構造が戦時中に日本が開発していたジェットエンジン「ネ130」「ネ330」の排気ノズルに類似していることなどから、日本製ジェットエンジンの排気ノズルであり、国際基督教大学の敷地に第2次世界大戦中に存在した中島飛行機が日立製作所とともに開発していた「ネ230」である可能性が極めて高いと判断しました。排気ノズルにはボルトを使ってジェットエンジン本体に取付けられた形跡がないことから、未使用のものと思われます。
 当時日本で開発されたジェットエンジンのうち、国内に現存するものは2点しか確認されておらず、今回の資料は1940年代当時の日本の技術の先進性を示すと共に、わが国航空機開発の過程を示す貴重な資料です。
 10月26日、国際基督教大学を訪問し、日比谷潤子学長に対して調査の中間報告を行いました。今後、文化財的な価値の調査結果などを含めた最終報告書の編集を予定しています。

文化財防災ネットワーク構築のためのヒアリング調査

資料処置現場でのヒアリング調査
水損資料を乾燥させている真空凍結乾燥器

 昨今、地震や台風などによる文化財の被災件数が増加しています。国立文化財機構では、地域にとって貴重な文化遺産を守り伝えていくための文化財防災ネットワークの構築を目指し、文化財防災に関するヒアリング調査を全国の文化財関係組織を対象に行っています。東京文化財研究所は北海道・東北ブロックを担当しており、9月15日には山形県山形市にある東北芸術工科大学にてヒアリング調査を行いました。
 東北芸術工科大学では、東日本大震災で水損してしまった文書資料の真空凍結乾燥処理を現在も継続して行っていました。災害発生時から現在に至るまでの文化財レスキューの流れについて貴重なお話を伺えたことに加え、実際に処置を行っている現場の様子を見せていただけたことで、現場でなければ分からない問題や課題についても知ることができました。
 こうした北海道・東北地方での調査を進めていく中で、地域によって異なる文化財防災の特徴が明らかになってきました。引き続き各地域における現状調査を継続し、災害の規模に関わらず何か問題が起こってしまった時の助けとなるような、文化財防災ネットワークの構築に繋げていければと考えています。

博物館・美術館等保存担当学芸員研修の開催

実習の様子

 本研修は、文化財保存施設において資料保存を担う学芸員に、そのための基本知識や技術を伝える目的で昭和59年以来行っているものです。今年度は、7月10日より2週間の日程で行い、全国から31名が参加しました。
 本研修のカリキュラムは、温湿度や空気環境、生物被害防止などの施設環境管理、および資料の種類ごとの劣化要因と様態、その防止の2本の大きな柱より成り立っており、研究所内外の専門家が講義や実習を担当しました。博物館の環境調査を現場で体験する「ケーススタディ」は埼玉県立歴史と民俗の博物館をお借りして行い、参加者が8つのグループに分かれて、それぞれが設定したテーマに沿って調査し、後日その結果を発表しました。
 大規模改修を控えた施設も多く、またLED照明への転換など、資料保存に係る大きな動きが起こる中で、適切な管理について的確に伝えられるよう、今後もカリキュラムを精査していきたいと考えております。

台湾における鉄構造物の保存修復に関する現地調査

意見交換の様子

 保存科学研究センター近代文化遺産研究室では、平成29年8月19日から27日の9日間で台湾に現存する日本統治時代(1895-1945)に建造された鉄構造物の保存修復状況に関する調査を実施しました。今回の調査では、大空間を有する工場建築や橋梁など大規模建造物の調査が中心となりました。
 統治時代の建造物の保護は、1987年の戒厳令解除以降に本格的に始まり、指定・登録文化財のおよそ半数が統治時代の建造物です。
 今回の調査では、製糖工場を中心に調査しましたが、煙草や酒の製造工場は1990年代まで国の専売品として管理・製造されていたため、建物や製造機械類が操業停止時の状態で残されていました。こうした工場は、立地環境に大きく左右されますが、台北市などの大都市部に現存する工場の多くは、商業・文化施設へと活用され、まちづくりの拠点として新たな役割を担っていました。
 22日には、文化部文化資産局を訪問し、施國隆局長らと台湾での文化財保存の取り組みについてディスカッションを行いました。台湾では、2000年以降から生産・流通・加工などを含めた産業システムの保存に取り組まれるようになり、日本国内で取り組まれている産業遺産の保存について関心を寄せられ、活発な意見交換が行われました。

『科学的な材料とその使用方法の講習会』の開催

佐野センター長による有機溶媒についての安全講習
君島技師長による汚れ除去の実習風景

 装潢文化財(日本画・書跡等)の修理にあたっては、近年、自然科学的な知識が必要とされるようになってきています。特に近年の修理現場で一般的となってきた薬品等の取り扱い方法と修理への応用について修復現場からのニーズが高く、平成29年8月8日-9日に修復技術者を対象に基礎知識の講義から実習形式までを含めた講習会を国宝修理装潢師連盟と共催で開催しました。基本的な実験器具・薬品の取り扱い方法のほか、有機溶剤や酵素等の特質を正しく理解し、より適切で安全な修復に活かすことを念頭にカリキュラムを組み、受講者が講義の内容を修復現場で実践できるよう、実用的な知識の習得を目的としました。
 参加者は、国宝修理装潢師連盟に加盟している各社より各1名の計11名でした。
 佐野センター長より「有機溶媒等の安全講習」について、佐藤室長より「修理工房における文化財IPM」について、早川から「接着剤や汚れ等の除去」についてそれぞれ講義し、その上で、実際に各種の汚損物質で汚された紙資料を用意し、適切な溶媒や酵素を使用して除去する実習を行いました。また、水で移動しやすい色材の上を一時的な保護材料としてシクロドデカンで保護する方法などについても併せて実習で扱いました。実習には国宝修理装潢師連盟の君島技師長が講師として、実技的な指導を行いました。
 議論や質疑応答も活発にあり、このような形の講習を今後も引き続き開催していく予定です。

津波被災資料の安定化処置に関する現地調査

陸前高田市立博物館(旧生出小学校)
紙資料の脱塩を行う水槽の水質調査

 2011年の東北地方太平洋沖地震により引き起こされた大津波は、地域にとって貴重な文化遺産に多大なる被害をもたらしました。震災から6年を経た今も、被災地での津波被災資料の処置は継続されています。今年度、当所は岩手県陸前高田市からの受託研究として、被災資料の処置中に発生する問題や作業環境について保存科学的な面からの研究を行い、改善策の提案を目指しております。
 2017年7月25、26日に陸前高田市立博物館において、被災資料処置現場の現地視察と研究計画の打ち合わせを行いました。陸前高田市立博物館は現在、閉校になった旧生出小学校校舎を仮収蔵施設としており、校庭では民具、1階では紙資料の泥落しや脱塩作業、標本資料の分類作業を行い、処置が完了した資料は2階や校庭、体育館内に設置された収蔵庫で保管されています。
 2日間という短い調査ではありましたが、現地のみなさまの協力のおかげで、作業環境改善に有効な空気環境を評価するためのガスサンプリングや、処置方法改善のための基礎データを得ることができました。作業環境については、温湿度測定を現在も継続して行っております。これらの分析やデータ解析を通じ、現地で発生している問題解決に繋げていければと考えています。

琉球絵画の光学調査

沖縄県立博物館・美術館での琉球絵画の光学調査の様子

 平成29(2017)年6月20日~23日に、沖縄県立博物館・美術館において琉球絵画の光学調査を実施致しました。調査内容は、高精細カラー画像撮影による描写方法の調査と、蛍光X線分析による彩色材料の調査です。東京文化財研究所では平成20(2008)年度以降、沖縄県内外に所在する琉球絵画の光学調査を継続的に実施し、平成29(2017)年3月には『琉球絵画 光学調査報告書』を刊行しています。今回の調査は、沖縄県立博物館・美術館および沖縄美ら島財団が所有する絵画作品10点と、沖縄県立図書館が所有する重要文化財「琉球国之図」を対象としました。
 琉球絵画の多くは第二次世界大戦の戦禍により消失してしまい、十分な研究が行われることなく現在に至っています。今後も沖縄県内外に所在する琉球絵画の光学調査を継続的に実施し、その調査結果を公開していく予定です。これらの調査によって、琉球絵画への理解が深まることが期待されます。

台湾での震災遺構保存事例の視察

921地震教育園區内の被災した光復國民中學の展示
車籠埔断層保存園區での断層露頭を用いたプロジェクションマッピング

 平成28(2016)年に起きた熊本地震の際に、田んぼに露出した断層が大きく注目されて保存の要望が出されましたが(現在は益城町指定天然記念物)、こうした断層露頭を保存して公開・活用が行われている事例としては、日本では例えば平成10(1998)年にオープンした野島断層保存館(阪神淡路大震災を引き起こした兵庫県南部地震で現れた断層を保存した博物館)がよく知られています。その翌年平成11(1999)年に台湾では集集大地震が起きましたが、特に被害の大きかった台中市の近郊には、野島断層保存館に学びそれを発展させたような博物館が建てられているため、その視察を行ってきました。921地震教育園區は、被災した中学校校舎の上に覆屋をかけてそのまま保存公開が試みられているなど、地震の怖さを伝え、また耐震や免震の有効性を説いた防災博物館としての展示が目立ちました。一方の車籠埔断層保存園區の方は、調査で確認された断層断面を覆屋内でそのまま露出展示した科学博物館であり、地震が起きるメカニズムや過去の地震の歴史が示されていました。特に、断層面に投影したプロジェクションマッピングにより、現在の地層面を見ただけではすぐには理解しにくい複雑な地層の歴史が、順を追ってヴィジュアルでわかりやすく示されているのが印象的でした。このような展示方法は、日本でも、地層の展示ばかりでなく例えば考古遺跡における遺構の説明など、様々な分野での応用性が期待されます。

厳島神社大鳥居における修復後の現地調査

大鳥居修復から半年後の現地調査

 保存科学研究センターでは、文化財の修復材料に関する調査研究を行っています。
 厳島神社においても、大鳥居の修復材料について調査研究を継続しています。厳島神社大鳥居は海上に位置するために、苛酷な温湿度環境、風雨や塩類の影響を受けるほか、潮の満ち引きもあり、耐侯性や施工に要する時間を考慮した修復材料の選定が必要となります。
 これらを踏まえ、2010年度~2016年度における研究調査では、充填材や表面仕上げ材の検討を行いました。昨年度は大鳥居の袖柱の1本に対して部分施工をし、約半年経った5月25日には、施工箇所の調査を行い、異状がないか確認をしました。
 今後は経過観察を行いつつ、未施工の柱の修復計画に協力していきます。

津波被災紙資料から発生する臭気の発生原因調査

設置した機器類の様子

 岩手県立博物館と共同で、陸前高田市で津波被災した紙資料の安定化処置方法の検証を進めています。岩手県では2011年の津波で多数の資料が被災し、すでに約9万点の紙資料の安定化処置を進めてきましたが、いまだ終了時期が見通せない状況にあります。昨年度までの共同研究で発生原因がほぼ推定できたことから今年度は、すでに安定化処置した試料からの臭気の除去方法の確立、また臭気がどのような条件で発生するのか安定化処置を記録し改善を検討する計画に取り組んでいます。5月17日に岩手県立博物館を訪問し、共同研究者の赤沼英男氏とともに、今年度計画の打ち合わせや水温や酸素濃度を監視する機器のテスト設置、修復施設内の温湿度や施設内の温度伝達を明らかにするための表面温度測定機器の設置を、岩手県立博物館に隣接している陸前高田市博物館被災文化財等保存修復施設で行いました。6月、7月には、各1週間程度の共同調査を行います。

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