研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


韓国国立文化財研究所芸能民俗研究室との「無形文化遺産の保護に関する日韓研究交流」合意書の締結

日韓研究交流合意書を交わすキム韓文研芸能民俗研究室長(右)と宮田東文研無形文化遺産部長(左)

 この合意書は、2005年に締結された「日本国独立行政法人文化財研究所・大韓民国国立文化財研究所研究交流協約書」に基づいて、東文研の無形文化遺産部と韓文研の芸能民俗研究室との間で、無形文化遺産分野での研究交流について具体的に定めたもので、去る6月3日に韓国の文化財研究所において署名締結されました。今後はこの合意書にしたがって、研究員の相互訪問・研修等を行い、今後の共同研究の実現に向けての協議を行うとともに、それらの成果を2010年度末に共同論文集として刊行することが決められました。

第30回国際研究集会「無形文化遺産の保護」報告書の英語版

グウェン・キム・ズン氏「近年のベトナムにおける無形文化遺産の保護」より

 2007年2月14から16日まで開催された第30回国際研究集会「無形文化遺産の保護 国際的協力と日本の役割」の報告書の英語版を、ホームページにアップしました。「無形文化遺産の保護に関する条約」が2006年4月に発効したことを受けて行われたシンポジウムです。ご覧になりたい方は、
http://www.tobunken.go.jp/~geino/e/kokusai/06ICHsympo.html
まで。  なお、日本語版は
http://www.tobunken.go.jp/~geino/kokusai/06ICHsympo.html
でご覧になれます。

梅村豊撮影歌舞伎写真の整理

 梅村豊(1923・6・15―2007・6・5)氏は、雑誌『演劇界』のグラビア頁を長く担当されていた写真家です。昨年12月、無形文化遺産部は、故人の遺されたネガや写真の一部を、未亡人にあたられる宣子氏からご寄贈いただくことになりました。現在、凡その点数を把握するための整理をしています。今年度中には、正式に東京文化財研究所への寄贈手続きを完了したいと考えています。
 故人の写真が最初に『演劇界』に掲載されたのは昭和22年だったそうです。ご寄贈いただいたネガ・写真は、昭和37年頃に撮影されたものが最も古いようですが、それでも研究所に搬入する時点で、ダンボール箱で10数個に上る膨大なものでした。20世紀後半の歌舞伎を撮り続けてきた写真家の貴重な記録です。

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SPレコード鑑賞会開催

SPレコード鑑賞会の様子

 3月28日、SPレコード公開鑑賞会を無形文化遺産部研究室で開催しました。無形文化遺産部は、芸能部時代から伝統芸能に関する音源を収集してきましたが、そのなかには、現在では希少価値となった多くのSPレコードも含まれています。大正時代から昭和初期にかけて録音されたSPレコードを一般の愛好者に公開し、伝統芸能の継承に関して、あるべき継承の姿をレコードを通して考える場としたい、という意図のもとに、能狂言に対象を絞って鑑賞会を行いました。会場の都合で参加者を限定しましたが、当日は21名が参加し、かつての謡の表現の多様性にみな感慨を深くしていました。

『緑林五漢録』完結

一龍斎貞水師による講談

 東京文化財研究所では、平成14年から講談の実演記録を実施しています。ご協力いただいているのは、一龍斎貞水師と宝井馬琴師のお二人です。
 重要無形文化財「講談」保持者の貞水師には、時代物と世話物、二席の連続長講をお願いしていますが、世話物の『緑林五漢録』が、平成20年2月13日、貞水師としては第21回目となる実演記録をもって、遂に完結の運びとなりました。第1回目が平成14年6月11日ですから、足掛けで7年を費やしたことになります。
 緑林(みどりのはやし)とは盗賊のことです。『緑林五漢録』は、五人の義賊が次々に登場しては、刑場の露と消えてゆくまでを描いた長大な物語です。
 時代物は『天明七星談』(平成17年12月26日完結)に続き、現在は『仙石騒動』を口演していただいています。来年度からは新たな長編の世話物が始まる予定です。

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ACCU無形文化遺産保護パートナーシッププログラム 無形文化遺産保護のための集団研修

 この集団研修は、文化庁及びユネスコアジア文化センター主催で、アジア諸国から無形文化遺産保護に関わる行政官を招き、1月21日から26日に行われました。東京文化財研究所は共催機関としてその企画段階から参画し、研修の実施に当たっても、無形文化遺産部の宮田が講師として参加し、「日本における無形文化遺産の保護及び目録作成のメカニズムについて」「東京文化財研究所の無形文化遺産活動について」の2テーマについて、講義を行いました。参加者からは、日本の制度はもちろん当研究所の活動についても多くの質問が寄せられ、その関心の高さがうかがわれました。

第2回無形文化遺産部公開学術講座「上方寄席囃子 林家トミの記録」

講演の様子

 無形文化遺産部主催の公開学術講座が、2007年12月12日、大阪の国立文楽劇場小ホールで開催されました。 開催地の大阪に相応しい題材をということで、昭和37年(1962)に記録作成等の措置を講ずべき無形文化財「上方寄席下座音楽」の関係技芸者に指名された林家トミ師(1883-1970)を取り上げました。当日のプログラムの詳細は、東京文化財研究所ホームページ
http://www.tobunken.go.jp/ich/public/lectures)をご覧下さい。
 公開学術講座は旧芸能部時代から通算すると38回目となりますが、会場が東京以外となったのは今回が初めてです。今後も各地での開催を積極的に計画して行きたいと考えています。

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第2回無形民俗文化財研究協議会

会議の様子

 東京文化財研究所芸能部では昨年度より、無形の民俗文化財の保護と継承に関わる諸問題について話し合う研究協議会を開催しております。その第2回を、「市町村合併と無形民俗文化財の保護」をテーマとして、2007年12月7日に当研究所セミナー室において開催しました。様々な文化財の中でも、地域のなかで伝承され、保護が図られる民俗文化財は、合併の影響をとくに大きく受ける分野です。当日は、近年合併を経験した市町村、およびこれまでに合併を経験しながらそれを無形民俗文化財の保護に活かしてきた市町村から、保存会活動の組織化や学校教育との連携などについて報告があり、それをもとに総合討議がなされました。この協議会の内容は、2008年3月に報告書として刊行される予定です。

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人形浄瑠璃文楽の囃子に関する聞取り調査

 無形文化遺産部では、プロジェクト研究「無形文化財の保存・活用に関する調査研究」の一環として、11月12日に国立文楽劇場(大阪)楽屋で、昭和38年以降、文楽の囃子を引受けてきた望月太明藏(もちづきたぬぞう)社中の、藤舎秀左久(とうしゃしゅうさく)師と望月太明吉(もちづきたぬきち)師の聞取り調査をおこないました。秀左久師は主として笛を、太明吉氏は笛以外の鳴物を担当される社中のベテランで、文楽を陰で支える重要な役割を担いながら、これまであまり注目されていなかった囃子について、その移り変わり、修業のありさまなど興味深いお話を、公演中のお忙しい中にも関わらず、丁寧にしていただきました。

第49回近畿・東海・北陸ブロック民俗芸能大会調査

「伊勢太神楽」(三重県桑名市)

 去る10月28日に和歌山県上富田町の上富田文化会館に於いて開催された上記大会を調査しました。無形文化遺産部無形民俗文化財研究室では、毎年全国各地で開催される民俗芸能大会の調査を継続的に行っており、今回もその一環として実施しました。今年度から近畿・東海・北陸ブロック民俗芸能大会はその運営方法を大きく見直し、ブロック内各府県が隔年で出演する形となり、6県から8団体が出演しました。新しい方式の初年度とあって、その運営が注目されましたが、会場は終始超満員で盛り上がり、演技時間も昨年までと比べ比較的十分確保されるなど、成功裏に実施されたことが確認できました。

伝統楽器情報検索のデータを大幅更新

 今年5月に、ホームページ上で伝統楽器情報検索を開始しましたが、データを2倍にふやしてリニューアルしました。元になったデータベースは、平成13年より行った伝統楽器のアンケート調査ですが、都道府県市町村の教育委員会からの回答に加えて、今回アップしたのは全国の博物館から寄せられた回答分です。従来は文化財に指定された楽器を中心としていましたが、博物館のデータが加わったことで、各地の博物館が所蔵する名器や珍しい楽器が検索できるようになりました。検索項目や方法は以前と同じですが、三味線、箏、鼓など、いわゆる楽器らしい楽器のデータがぐっとふえて、検索の楽しみがいっそう増しました。

無形文化遺産保護条約第2回政府間委員会

無形文化遺産保護条約第2回政府間委員会

 去る9月3日から7日まで、東京国際交流館プラザ平成において、無形文化遺産保護条約第2回政府間委員会が開催されました。今回の会合は、5月に中国の成都で行われた臨時政府間委員会に続いて、無形文化遺産保護条約の実施に関わる作業指針が討議され、2009年の代表リスト・危機リストの第1回登録に至る具体的スケジュールの決定など、多くの事項で具体的な成果を挙げました。東京文化財研究所は、今回の会合において、組織として正式なオブザーバー資格を獲得し、文化遺産国際協力センターの稲葉と無形文化遺産部の宮田が全日程に出席しました。

International Seminar for Traditional and Ritual Theatre(テヘラン)での講演

Iranian Artist's Forum-Beethoven Hollでの講演[22日]
City Theatre Cafe(City Theatre of Tehran BF1)での演奏会[25日]

 Dramatic Arts Center of Iranからの依頼を受け、Iranian Artist’s Forum(8月20日~22日テヘラン)におけるInternational Seminar for Traditional and Ritual Theatreで、“Bunraku: Traditional Japanese Puppet Theatre”(飯島満)、“Folk Performing Arts and Traditional Festivals in Japan”(俵木悟)と題する講演を行いました。あわせてIranian Academy of the Artsでの懇談会に出席し、今後の研究協力等について意見を交換しました。
 今回のセミナーは、13th Tehran International Ritual-Traditional Theatre Festival(8月23日~28日)に先立って開催されたものです。フェスティバルの会期中は、イラン国内および近隣諸国を中心に、各地から招かれた様々の芸能がテヘラン各所で公演されていました。日本ではまず実見できないような中東の諸芸が数多く参加しており、その意味においても得るところの大きい極めて有意義な調査となりました。

国立歴史民俗博物館蔵紀州徳川家伝来楽器コレクションの調査

 昨年より、国立歴史民俗博物館と共同で同博物館蔵紀州徳川家伝来楽器コレクションの調査を始めました。紀州家10代藩主治宝が、収集した雅楽器を中心とするコレクションは一部散逸していますが、博物館が所蔵する楽器だけでも総数157件をこえ、その他楽譜や付属文書も多数有しています。博物館では平成16年に資料図録を刊行しましたが、それに基づきながら専門家の目を加えてさらに詳しい調査をすすめる予定です。7月から管楽器の調査が始まりましたが、調査の結果、従来「賀松」と呼ばれてきた能管が、『銘管録』(明和年間に徳川幕府に提出した銘管一覧)に記載のある「古郷の錦」である可能性が強くなりました。

芸北神楽の調査

神楽ドームでの定期公演の一場面

 無形文化遺産部では、我が国における無形民俗文化財の保存・活用に関する調査研究をすすめています。この一環である民俗芸能の伝承の実態や公開のあり方に関する調査の一例として、広島県安芸高田市美土里町の神楽門前湯治村の活動の実地調査を行いました。安芸高田市美土里町(旧広島県高田郡美土里町)は、広島県北西部に伝承され、芸北神楽と総称される神楽が盛んな土地で、現在も13の神楽団が町内で活動しており、いくつかの演目や団体は、広島県の無形民俗文化財に指定されています。しかし現在この神楽がよく知られているのは、新舞と呼ばれる、戦後に創作され新たな趣向を取り入れた演目が定着し、地域の人々にひろく娯楽として親しまれるようになっているからです。そして、この新しい神楽現象のシンボル的な存在が、平成10年に美土里町にオープンした療養娯楽施設「神楽門前湯治村」と、その中にある3,000人収容の神楽専用常設舞台である「神楽ドーム」です。
 神楽ドームでは、毎週末の日曜日および国民の祝日に、美土里町の神楽団出演による定期公演を行っているほか、土曜日には付属施設の屋内舞台であるかむくら座劇場での公開練習、さらに「神楽の甲子園」とも呼ばれる「ひろしま神楽グランプリ」をはじめとする各種競演大会などが催されます。こうした公演は県内外から多くの観客を集めています。また、定期的な練習の場として開放されており、上演機会が通年的に確保されることから、美土里町の神楽団の伝承拠点としての役割も果たしています。実際に、定期公演の観客も多くは近隣の住民であるとのことであり、地域に根ざした施設であると言えます。
 こうした観賞のための上演を目的とした神楽は、きわめて新しいあり方であると思われるかもしれませんが、実際には広島県を中心とした地域では、戦前から神楽や盆踊りの競演大会が行われていたという報告もあります。現在も開催されている競演大会の最古のものでも昭和22年より続けられており、すでに50年以上の歴史を持っています。また、多くの競演大会では人気のある新舞と同時に、伝統的な演目である旧舞のわざを競う部門も設けられており、このようなイベントが伝統的な演目の伝承を支え、活性化してきたという面を見逃すこともできません。現在このような「見せる神楽」の隆盛は、島根県や岡山県にも広がってきています。
 経営面の安定や、神楽の変質への危惧、主な出演団体を美土里町の神楽団に限るべきか否かなどの問題も指摘されていますが、このように文化の伝承や地域のアイデンティティの形成に一定の効果を挙げていることが認められています。民俗芸能の現代における伝承実態の興味深い例であると言えるでしょう。

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伝統楽器情報検索、開始しました

伝統楽器情報データベース一覧表示画面

 『東文研ニュース』No.25の記事でご紹介した『伝統楽器・所在データベース』(芸能部編刊 平成18年3月)に基づく「伝統楽器」検索が、本格的にご利用いただけるようになりました。元になったデータベースは、平成13年より全国の博物館及び都道府県市町村の教育委員会に依頼して行った伝統楽器のアンケート調査のうち、教育委員会からの集計結果とホームページより入手した情報が中心になっています。検索項目は、楽器分類、楽器名、指定、都道府県名の4項目で、分類はザックス・ホルンボステル法に基づき、弦鳴楽器・気鳴楽器・体鳴楽器・膜鳴楽器・出土楽器となっています。楽器名は「鼓」「鐘」「笛」など名称の一部でも検索可能ですし、指定は、国・都・道・府・県・市・区・町・村の9種で検索できます。ただし、情報を得た時点のデータに従っているため、データ入手後市町村合併が行われた場合の変更は反映していません。伝統楽器の所在確認に役立つよう、データは随時追加を行っていく予定です。

ユネスコ「無形文化遺産保護条約に関する専門家会議」

無形文化遺産 「クッティヤッタム」

 去る 4月2日から3日間、ユネスコ・インド政府主催による上記会議が、各国 29名の無形文化遺産専門家の参加により、インドのニューデリーで開催されました。当研究所からは、無形文化遺産部の宮田が参加しました。
 この会議は、 5月の第1回臨時政府間委員会(中国、成都)及び9月の第2回政府間委員会(日本、東京)に向けた重要な会議として位置づけられるものです。討議は、条約の中心となる無形文化遺産の「代表リスト」と「危機リスト」に関して、その関係性やそれぞれの登録基準等をテーマに行われ、そこでの専門家の意見をユネスコ事務局が今後の作業指針原案作りに活かしていくことが目的とされました。しかし、参加した専門家間で、「代表性」や「緊急の保護」といった共通概念が十分でなかったため、やや抽象的議論に終始した感が否めず、結局の所会議としての勧告等の採択には至らずに終了しました。
 このように当初の目的からは必ずしも成功とはいえない会議でしたが、様々な文化プログラムなど、ホスト国のインドが示した無形文化遺産保護への意欲は並々ならぬものがありました。今後無形文化遺産部としても、インドとの交流を図っていく必要性を強く感じました。

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