研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


カリフォルニア大学ロサンゼルス校、ヨシダ・ヨシエ文庫の視察

Conservation Centerで保全処置を済ませたヨシダ・ヨシエ文庫(左)とその請求ラベル
カリフォルニア大学ロサンゼルス校 Charleds E. Young Research Library

 2月20日、アメリカ、カリフォルニア州にあるカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)にて、同大学図書館が収受したヨシダ・ヨシエ文庫の開設記念シンポジウムが開催され、これにあわせて当研究所文化財情報資料部の橘川が同大学図書館群における特別資料(アーカイブズ)関連部署の視察を行いました。視察は日本研究司書であるTomoko Bialock氏にご同行いただき、East Asian Library (Charleds E. Young Research Library 2階)、Special Collections (同 Library 地下)、Conservation Center(Powell Library)、Southern Regional Library Facilityを巡り、資料保全処置、ファインディングエイド作成、個別アイテムのデジタル化、長期保存の各担当者から特別資料の選定・収受・利用者への提供及び保存について、ヨシダ・ヨシエ文庫を例としてご説明いただき、またそれぞれの担当者と日本における美術分野における特別資料の状況について情報交換・協議を行いました。アメリカを代表する大規模な総合大学で、政治家・歴史家・文学者など様々なジャンル、そして膨大な数の特別資料収受を持つ同校において、その高度化された収受方法、また分業体制のなかで発揮されるスタッフの専門性などを実見しました。日本における特別資料をめぐる予算規模・人員配置などを含めた構造的な違いを再認識する機会となりました。この視察については、5月開催の文化財情報資料部研究会にて報告し関係者と共有する予定です。

「東京文化財研究所美術文献目録」のOCLCへの提供

WorldCatで検索された展覧会カタログ所載文献の表示画面の例

 東京文化財研究所では美術に関する文献・資料の収集と活用に努めています。世界最大の図書館サービスであるOCLCを通じて国際的に情報発信を行うため、日本での代理店を務める株式会社紀伊國屋書店OCLCセンターと協議を重ねながら事業を推進し、このたび平成30(2018)年1月に世界最大の共同書誌目録データベースであるOCLCのセントラル・インデックスに「東京文化財研究所美術文献目録 (Tokyo National Research Institute for Cultural Properties, Art Bibliography in Japan)」として、展覧会カタログに掲載されている記事・論文等のデータ約5万件を提供しました。これによって、WorldCat.org(https://www.worldcat.org/)やArt Discovery Group Catalogue (https://artdiscovery.net/)などの検索サービスなどにおいて、美術に関する作家・作品など各種キーワードを入力すると、「東京文化財研究所美術文献目録」も検索対象となり、展覧会カタログ掲載論文に関する書誌データが検索結果として表示されるようになりました。
 書籍や雑誌として刊行されているものは、一般的な検索エンジンや図書館等のデータベースでも検索することができますが、展覧会カタログに収録されている記事・論文は、専門性が極めて高いものの、その存在が広く知られる機会は限られていました。今回提供した情報は、当研究所がその草創期から継続してきた『日本美術年鑑』編さん事業を通して、全国の美術館・博物館から寄贈された展覧会カタログ所載記事・論文のデータを再利用したものです。検索結果からそのままオンラインで全文にアクセスできるような機能はなく、今後の課題はありますが、世界中のインターネット・ユーザーに対して、資料発見の可能性を新たに提供した意義は大きいと考えられます。今回提供した情報は昭和5(1930)年から平成25(2013)年までのものですが、今後も継続的に新たな情報を追加するなど、さらなる情報発信強化を行ってまいりたいと思います。
なお、この成果は、平成28(2016)年より国立西洋美術館と実施している共同事業「美術工芸品を中心とする文化財情報の国内外への発信にかかる基盤形成事業」によるものです。

現代美術の保存・修復をめぐって――文化財情報資料部研究会の開催

研究会、小川絢子氏による発表の様子

 ひところは難解なイメージで敬遠されがちだった現代美術ですが、近年では日本でも親しみやすい現代“アート”として身近な存在となってきているようです。美術館でも現代美術の作品を展示し、収蔵するのが常となっていますが、その素材や技法が多種多様であるために、従来の保存修復のノウハウでは対処しきれない問題も生じているのが現状です。1月30日の文化財情報資料研究会では、そうした現代美術の保存・修復をめぐる状況について、小川絢子氏(国立国際美術館特定研究員)と平諭一郎氏(東京藝術大学Arts & Science LAB.特任准教授)よりご発表いただきました。
 「美術館における現代美術の保存と修復」と題した小川氏の発表は、美術館という現場で直面する課題に即した報告でした。小川氏の勤める国立国際美術館では、映像やインスタレーション、パフォーマンスなど、美術館の枠に収めるのが難しいとされるタイム・ベースド・メディア作品(表現形式に時間軸を伴う作品)を積極的に収集・展示しています。この研究会の直前に同館で始まった「トラベラー まだ見ぬ地を踏むために」展(2018年1月21日~5月6日)に出品の、ロバート・ラウシェンバーグの作品やアローラ&カルサディーラのパフォーマンス作品等を例に、それらの受け入れや展示に至るまでの取り組みが紹介されました。
 平氏の発表は「保存・修復の歴史において現代はそんなに特別か」と題した、日本古来の文化財と欧米由来の美術の保存修復のあり方に一石を投じるものでした。1960~80年代に制作された、ナムジュン・パイクに代表されるヴィデオ・アートの作品は、液晶ディスプレイが主流の今日ではほぼ代替不能なブラウン管テレビが使用されています。今日、その修復にあたり液晶ディスプレイを用いることで物質的な同一性が損なわれたとしても、作品の遺伝子ともいうべき核心的同一性は確かに伝えられるのではないか――伊勢神宮の式年遷宮等に見られる日本古来の文化財の伝承法をも見据えた、広い視野に立つ提言は、現代美術のみならず、修復対象によって補彩・補作や想定復元をめぐる考え方が異なる文化財修復のあり方にも再考を促すものとなりました。
 いつもは美術史的な発表内容の多い文化財情報資料部の研究会ですが、今回は保存・修復がテーマということもあり部外からの参加者も多く、発表後のディスカッションではさまざまな専門の立場から意見が交わされました。

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研究会「キャスリーン・サロモン氏(ゲッティ研究所副所長)講演―日本美術資料の国際情報発信に向けて」の開催

講演風景

 東京文化財研究所は、2016年2月にゲッティ研究所と日本美術の共同研究推進に関する協定書を締結し、両機関における研究者の交流、日本美術に関するデジタル情報のゲッティ・リサーチ・ポータルへの公開などを協働して行なっています。文化財情報資料部では文化庁の受託研究「著名外国人招へいによる日本美術の発信をテーマとした調査研究事業」によってゲッティ研究所副所長のキャスリーン・サロモン氏を招へいし、ご講演頂いたほか、東京文化財研究所、東京国立博物館、東京国立近代美術館、国立西洋美術館、国立新美術館、京都の国際日本文化研究センターなどの美術アーカイブを視察し、協議を行いました。
 12月6日に東京国立博物館黒田記念館で開催した研究会では、サロモン氏にゲッティ研究所と同図書館のこれまでの歩みと現在の世界的な取り組みについてご紹介頂き、美術研究資料の情報発信における最新の国際動向についてご講演頂きました。そして川口雅子氏(国立西洋美術館)に講演についてのコメントを頂き、当研究所副所長の山梨絵美子の司会によって、日本における美術資料の国際情報発信に向けての課題と展望を考える場としてディスカッションを行いました。当日は美術館・博物館のアーカイブ担当者、大学や研究機関の図書館関係者、美術史研究者など、41名の方々にご参加頂きました。この研究会の報告書は、いずれ当研究所ホームページで公開する予定です。

黒田清輝を支えた人々、岸田劉生を育んだ名画――文化財情報資料部研究会の開催

黒田清輝(後列右端)とその親族。前列左が実父清兼、右が養父清綱。
明治37(1904)年、平河町の黒田自邸にて撮影。

 12月26日に文化財情報資料部月例の研究会が、下記の発表者とタイトルにより開催されました。
・近松鴻二氏(当部客員研究員)「黒田清輝関係文書書翰類の解読」
・田中淳氏(当部客員研究員)「岸田劉生における1913年から16年の「クラシツク」受容について」
 近松氏の発表は、当研究所が所蔵する洋画家黒田清輝(1866~1924年)宛の書簡類に関する調査報告です。研究会では、これまでも度々黒田宛書簡の調査報告を行なってきましたが、今回近松氏が対象としたのは清輝の実父清兼(1837~1914年)、養父清綱(1830~1917年)をはじめ、養姉の嫁ぎ先である橋口家や同家から養子をとった樺山家など、主に親族縁戚から寄せられた書簡類です。2016年8月の田中潤氏による研究会で報告された養母貞子からの書簡もそうでしたが、とくに清輝がフランス留学中に法律家から画家へ転進したことをめぐっては、親族のあいだで議論があった様子が今回報告された書簡からもうかがえました。
 田中氏は洋画家岸田劉生(1891~1916年)の東京、代々木在住期(1913~16年)の画業に焦点をあてた発表を行ないました。劉生は『劉生画集及芸術観』(1920年刊)のなかでデューラーやマンテーニャ、ファン・エイク等、西洋の巨匠の名を挙げ、「これ等のクラシツクの感化をうけた事は本当によき事であつたし、又至当な事である」と述べています。田中氏は、なかでもイタリアルネサンス期の画家アンドレア・マンテーニャに注目、劉生が眼にしたであろう洋書の画集をたよりにその受容のあとを辿りながら、代表作《道路と土手と塀(切通之写生)》(1915年作)等をはじめとする写実表現の形成過程について考察を深めました。

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第51回「オープンレクチャー」の開催

講演会の様子

 文化財情報資料部では、11月2、3日の2日間にかけて、オープンレクチャーをセミナー室において開催しました。毎年秋に一般から聴衆を公募し、外部講師を交えながら、当所研究員が日頃の研究成果を講演の形をとって発表するもので、今回第51回目を迎えました。この行事は、台東区が主催する「上野の山文化ゾーンフェスティバル」の「講演会シリーズ」一環でもあり、同時に11月1日の「古典の日」にも関連させた行事でもあります。
 本年は11月2日に、「海を渡った日本絵画―ライプチッヒ民俗学博物館所蔵「四条河原遊楽図屏風」の紹介をかねて」(東京文化財研究所文化財アーカイブズ研究室長・江村知子)、「穢土としての身体―日本中世絵画に描かれた病と死体」(共立女子大学教授・山本聡美)、3日に「写された枇杷図―狩野探幽と江戸の再生」(東京文化財研究所主任研究員・小野真由美)、「田楽を作る歌仙―伊藤若冲の歌仙図について」(神戸市外国語大学準教授・馬渕美帆)の4題の講演が行われました。両日合わせて聴講者225名の参加を見、アンケートの結果、ほぼ9割の聴衆から、「満足した」「おおむね満足した」との回答があり、好評を博しました。

タイにおける螺鈿工芸の変遷とその意味―文化財情報資料部研究会の開催

文化財情報資料部研究会風景

 タイの首都、バンコクの王宮や巨大なリクライニング・ブッダで有名なワット・ポーなどを訪れた方はご存知かも知れませんが、タイでは18世紀以降、膨大な数の細かな貝片を組み合わせる精緻な螺鈿工芸が発達します。この螺鈿制作は現在でも細々ながら続いていますが、タイの螺鈿史についての研究はきわめて少なく、それがどう変遷しどのような社会的な意味を持っていたのか、といった研究は、日本国内ではもとより、タイにおいても行われることがありませんでした。11月21日に開催した第9回文化財情報資料部研究会では、タイの仏教美術史を専門とするサイアム大学の高田知仁氏から、こうしたタイの近世近代螺鈿史についてのご発表をいただきました。
 高田氏は、まずタイの螺鈿が仏教寺院の扉や窓、また高坏、僧への供物を入れる鉢、経箱や厨子といったものに認められ仏教と密接な関係を持って寄進されたものであること、またそれらがタイ王室と強い関係を持ってかなり限定的に制作されていたことを示します。そして分析対象を制作や建立の年代が確実な寺院扉に代表させ、主題となっているそのモチーフや文様、また使われている技法などの違いから、18世紀から20世紀初めまでの螺鈿を第1期(18世紀中葉から19世紀初めまで)、第2期(19世紀前半から中葉まで)、第3期(19世紀後半から20世紀初めまで)の三つの画期に区分されました。その上で文様やモチーフが伝統的な唐草文や神像などで構成され外来的な影響を見出しがたい第1期は、仏教における三界観といった価値観を木造彫刻や絵画から螺鈿に置き換えて表現されたものであること。これとは対照的にラーマヤナ物語や中国的な装飾文様が現れる第2期は、この時代に行われた中国や東アジアとの外交的な関係を反映していること。さらに勲章の形態を螺鈿で表現した文様などが造られる第3期は、この時代に起きたタイと西洋との関係や王室権威の高まりなどが螺鈿制作に影響を与えたことなどが指摘されました。
 この研究会では、タイ美術史がご専門の九州国立博物館原田あゆみ氏にもご参加いただき専門的な見地によるタイ螺鈿の起源や対外関係等ついてのコメントを、また東京藝術大学美術学部工芸科(漆芸)の小椋範彦氏からは制作者の立場からのご発言をいただいたほか、近年バンコクで発見が相次いでいる19世紀の日本製螺鈿との影響関係について盛んな議論が交わされるなど、これまで学術的に取り上げられることの少なかったタイ螺鈿の重要性について刮目するよい機会ともなりました。

フランスの美術アーカイブをうかがう―文化財情報資料部研究会の開催

フランス、国立美術史研究所図書館の内部

 東京文化財研究所は、その前身である美術研究所が1930(昭和5)年に創設された当初から美術に関する資料の収集、整理、そして公開に努めていますが、これはヨーロッパの美術アーカイブを模範としたものでした。それから80年以上を経て、ヨーロッパの美術アーカイブはどのような発展を遂げたのか――9月5日に行なわれた文化財情報資料部研究会での齋藤達也氏(客員研究員)による発表「フランスにおける近代美術資料 美術館・図書館・アーカイブ・インターネットリソースの紹介と活用例」は、フランスを例にその現状をうかがう格好の機会となりました。
 現在、パリのソルボンヌ大学博士課程でフランス近代美術を研究する齋藤氏は、フランスのアーカイブに日々接しています。その利用者としての目線から、発表では主な公的機関として、フランス国立図書館、国立美術史研究所、国立公文書館、オルセー美術館の例を紹介されました。日本と比較すると、総じて各機関の運営するデジタルアーカイブが質量ともに充実しているようです。とりわけ芸術家の書簡をはじめとする手稿資料のデジタル化が進んでいるのは、同様の資料を多数所蔵する当研究所のスタッフにとって大変刺激になりました。その一方で、資料の一部始終がデジタル化されているわけではなく、万全を期すには原資料に当たる必要もあるという話も、一研究者としてうなずけるものがありました。
 この研究会にはコメンテーターとして一橋大学の小泉順也氏にご発言いただき、また国立西洋美術館の川口雅子氏、陳岡めぐみ氏、山梨県立美術館の小坂井玲氏にもご参加いただきました。日ごろは日本美術を対象とすることの多い文化財情報資料部ですが、この研究会では、西洋美術の研究者と美術アーカイブのあり方をめぐって活発な意見が交わされました。

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甲賀市水口藤栄神社所蔵十字形洋剣に対するメトロポリタン美術館専門家の調査と第7回文化財情報資料部研究会での発表

テルジャニアン博士による調査
文化財情報資料部研究会での発表

 滋賀県甲賀市水口の藤栄神社が所蔵する十字形洋剣は、水口藩の祖で豊臣秀吉や徳川家康に仕えた戦国大名加藤嘉明(1563-1631)が所持したと伝えられる西洋式の細形長剣です。優れた出来栄えのこの剣は、日本やアジアで使われた刀剣とはまったく異なる形であり、2016年度に実施した国内専門家による調査検討の結果、16世紀から17世紀前半にかけてヨーロッパで造られた西洋式長剣レイピア(Rapier)が、国内で唯一伝世した作例であることが明らかになりました(東文研ニュース65号既報)。しかしながらこの時点の研究では、この剣が果たして日本製であるのか、それともヨーロッパからの渡来品が国内で伝世したものなのか、またその正確な年代はいつなのか、といった大きな疑問が解決されないままに残されました。
 そこでこうした謎を解明するため、この度、世界でも有数のレイピアコレクションを誇るニューヨークのメトロポリタン美術館武器武具部門長、ピエール・テルジャニアン博士にご来日いただき、現地での調査を実施のうえ、この洋剣に対する見解について第7回文化財情報資料部研究会にて、「ヨーロッパのルネッサンス期レイピアと水口レイピア」と題したご発表をいただきました。
 博士の見解は、銅製の柄部分は明らかに日本製であること、また剣身も日本製あるいはアジア製であってヨーロッパ製ではないこと、そして水口レイピアのモデルとされたヨーロッパ製レイピアは1600年から1630年の間に位置づけられ、その間でもより1630年に近い時期であるが、この剣自体には実用性に欠ける面がある、というものでした。
 この見解は、17世紀前半の日本において、ヨーロッパからもたらされた洋剣を日本人が詳細に調べ上げ、その模作までも行っていたという、これまでまったく知られていなかった新たな事実を意味するものです。またその一方で、この剣には高度なネジ構造によって柄と剣身とを接続するなど、ヨーロッパのレイピアには認められない独自の技術が使われていることも明らかとなりました。こうした独自の特徴は、当時の日本の職人が見慣れぬ西洋の剣を自身の持つ技術で正確に再現しようと努力苦心し、工夫を重ねた結果であると理解できるでしょう。
 このように、水口に伝わった一振りの洋式剣の研究から、17世紀前半の金属工芸技術や外来文化の受容に関するさまざまな事実が明らかになりつつあります。この剣がどこで誰がどのように造ったのかといった問題など、さらに詳しい調査や研究を進め、今後もこの剣の実態やそれをめぐる歴史的な背景などについての検討を行っていく計画です。

EAJRS(日本資料専門家欧州協会)第28回年次大会「日本学支援のデジタル対策」への参加

EAJRS第28回年次大会 オスロ大学Professorboligenでのセッション
EAJRS第28回年次大会 リソース・プロバイダー・ワークショップ

 EAJRS(European Association of Japanese Resource Specialists:日本資料専門家欧州協会)第28回年次大会がノルウェーのオスロ大学において、9月13日から16日の日程で開催され、当研究所からは文化財情報資料部の橘川が参加しました。EAJRSは、ヨーロッパで日本研究資料を取り扱う図書館員、大学教員、博物館・美術館職員などの専門家で構成されているグループで、今年の年次大会は「日本学支援のデジタル対策」と題して催され、90名あまりの関係者が参加しました。14にわたるセッションで構成されたこの大会では、チェスタ ー・ビーティー・ライブラリー、コロンビア大学C.V.スター東亜図書館などの在外日本資料コレクションに関する研究、国文学研究資料館、国立歴史民俗博物館、国際日本文化研究センター、アジア歴史資料センター、渋沢栄一記念財団などによるデジタル・アーカイブ事業、国立国会図書館によるインターネット上のツールを活用したレファレンスのノウハウ、EAJRS在欧和古書保存ワーキンググループの取り組みなど、30件の発表が行われました。
 本大会において、当研究所の研究事業とアーカイブを紹介するため、リソース・プロバイダー・ワークショップ、ブース出展を行い、当研究所の刊行物、デジタル・アーカイブについて展示、解説しました。大会期間中の談話でも、当研究所刊行物への評価、機関リポジトリを介した情報発信のあり方など、海外の専門家らならではの具体的な助言をいただくよい機会となりました。今大会の模様をEAJRSサイト(http://eajrs.net/)で視聴できますのでご参照ください。なお、来年2018年の大会は、リトアニアのヴィータウタス・マグヌス大学で開催することが決定しました。

雪舟研究の最前線-文化財情報資料部研究会の開催

雪舟筆《山水図》(部分)東京国立博物館所蔵(提供:東京国立博物館)

 雪舟等楊は、中国(明)に渡り水墨画を大成しました。この雪舟入明に関する史料に、呆夫良心『天開図画楼記』と雪舟筆「山水図」自賛(「破墨山水図」東京国立博物館蔵)があります。橋本雄氏(北海道大学)は、「雪舟入明再考」(『美術史論叢』33、2017年3月)において、日明関係史研究の立場から、雪舟の入明は積極的に試みられたものであるとする説を提示されました。また氏は、『天開図画楼記』の「向者、大明国北京礼部院、於中堂之壁、尚書姚公、命公令画之」の「之」は北京の礼部院に雪舟が描いた画題を指し、それは鍾馗像だったのではないかと仮定し、傍証として鍾馗と科挙、礼部院との関係を論じました。さらに、「山水図」自賛の「於茲長有声并李在二人得時名、相随伝設色之旨兼破墨之法兮」部分は、従来の解釈のような「雪舟が長有声や李在に師事した」ことを意味するのではなく、長有声・李在が相随(あいしたが)って伝統的筆法を学び取ってきたことを意味すると読み取りました。
 この論考をうけて、8月7日文化財情報資料部研究会にて綿田稔氏(文化庁)は、「橋本雄「雪舟入明再考」に寄せて」と題し、『天開図画楼記』および「山水図」自賛についての橋本説に厳しい検討を加えました。司会に島尾新氏(学習院大学)、コメンテーターに伊藤幸司氏(九州大学)、米谷均氏(早稲田大学)、須田牧子氏、岡本真氏(東京大学史料編纂所)をお招きし、美術史のみならず、歴史学、文献史学からの意見をふまえた研究会となりました。
 綿田氏は、かつて『漢画師 ―雪舟の仕事』(ブリュッケ、2013年)にて『天開図画楼記』の「命公令画之」を「之に画く」と読みましたが、従来の「之を画く」であるとしても「之」が直前の「墨鬼鍾馗」であるとする橋本説に疑問を呈しました。研究会の出席者からは、「之」が何を指すかは、文法による解釈だけでは断定できないとの意見が多く、画題を鍾馗像とすることについては再検討の余地があることが指摘されました。なお橋本氏が示した傍証などから、鍾馗像であった可能性も否定できないという意見もみられました。研究会では、解釈の可能性とともに礼部院にふさわしい画題の探求が今後の課題とされました。
 また綿田氏は、自賛に記された「相随伝」の主語は、「余曽入大宋国」以下の主語が「余」すなわち雪舟であるべきことから、従来どおり雪舟が相随伝えたと読む立場をとりましたが、研究会出席者からは、従来説では文章の構造上矛盾があるという見解が多く、橋本氏の解釈を支持する結論となりました。雪舟が「長有声」「李在」という二人の画家を例示した意図はわかりませんが、「数年而帰本邦地、熟知吾祖如拙周文両翁製作楷模」に着目すると「長有声并李在」と「如拙周文」が対をなすことから、雪舟の意図は「如拙周文」を際立たせることにあったといえそうです。綿田氏は「相随伝」したのを雪舟にしなければ、「至于洛求師」、すなわち雪舟が中国で師を求めたという記述に合わないことを指摘されました。司会の島尾氏からはテキストにおけるクリシェ(常套句)の峻別が示唆され、史料読解や解釈にとどまらない幅広い視野からの研究が必要であるという認識を共有する機会となりました。
 綿田氏からの問題提起によって、史料の解釈の可能性と振幅を改めて共有することができました。今後の雪舟研究の展開が期待されるでしょう。

IFLAヴロツワフ大会への参加

IFLA世界大会メイン会場となった百周年ホール
キャスリーン・サロモン氏による発表

 国際図書館連盟(IFLA:The International Federation of Library Associations and Institutions)第83回世界大会がポーランド西部の都市・ヴロツワフにおいて、8月19日~25日の日程で開催されました。IFLAは1927年にスコットランドのエディンバラで設立された図書館の国際組織で、ブルーシールド国際委員会の一部でもあります。本部はオランダのデン・ハーグに置かれ、約140か国・1400団体が加盟しており、毎年1回世界大会が開催されています。国立図書館、大学図書館、公共図書館など様々な種類の図書館やテーマによって、248件のセッション(会合・会議・研究会)が行われました。今回は初めて文化財情報資料部から江村知子が参加し、美術図書館など当所のアーカイブに関連の深い研究会や会議などに出席して、各国の参加者との情報交換、研究交流を行いました。
 8月22日にヴロツワフ建築博物館で開催された美術図書館分科会「美術・建築の探索:美術史研究のオープン・アクセス・ツール」では、オランダ、イタリア、アメリカ、ハンガリーから4人の発表が行われ、美術に関する文献・研究資料をより広く情報共有し、発展的な研究に広げていくための様々な取り組みが報告されました。ゲッティ研究所のキャスリーン・サロモン氏の「美術史のバーチャル図書館:ゲッティ・リサーチ・ポータル」では、今年5月から当研究所がゲッティ・リサーチ・ポータルの情報提供元となり、当研究所所蔵の明治期の雑誌や展覧会目録が搭載されたこと、英語以外の稀観書も広く利用できる仕組みとなっていることが紹介されました。今回の美術図書館分科会や常任委員会には日本やアジアからの参加者は他におられず、美術資料の国際的活動は欧米の関係者によって推進されている印象を受けましたが、世界各国で日本の美術作品や図書資料なども多く所蔵されている現状も知ることができました。あわせて当研究所のアーカイブ機能と国際的な情報発信を強化することによって、より広く研究支援や日本文化の理解促進に貢献できる可能性を認識致しました。専門性を十分に確保しながら、国際的な連携を推進することを今後の課題としたいと思います。

国宝孔雀明王像及び普賢菩薩像(東京国立博物館蔵)の蛍光X線分析の実施

国宝孔雀明王像の蛍光X線分析の様子(東京国立博物館)

 東京文化財研究所は東京国立博物館と共同で、同館所蔵の仏教美術作品に関する光学的調査研究を行っています。この共同研究の一環として、平成29(2017)年8月2日~3日の2日間、孔雀明王像及び普賢菩薩像を対象に、蛍光X線分析による彩色材料調査を行いました。両作品は平安時代(12世紀)に描かれた絹本の絵画で、いずれも国宝に指定されています。
 蛍光X線分析では、物質を構成する元素の種類と量を非破壊・非接触で知ることができます。特に近年は、高性能な可搬型機器が広く普及したことで、安全に精度の良い情報が得られるようになりました。今回のような絵画作品の調査では、顔料の種類や、金・銀などの金属組成を特定することができます。
 本共同研究ではこれまでに、今回の調査作品を含む平安時代の仏画5点の高精細カラー、蛍光、赤外画像を取得しています。今回の蛍光X線分析では、これらの画像を詳細に検討し、作品の中に使われている色や描写を網羅的に調査しました。
 孔雀明王像及び普賢菩薩像については、これまでに数多くの美術史的研究がなされていますが、今回の分析によりこれまで知られていなかった新たな事実が明らかになることが期待されます。また、本共同研究には、美術史、分析化学、画像形成など複数の分野の研究者が参画しており、分野横断的な調査研究を通じて、平安時代の仏画に対する新たな研究展開が図れる可能性があります。そこで、研究者間の連携を図りながら引き続き検討を行うとともに、他の平安時代の仏画についても調査を進めていきます。

美術とジェンダー、この20年の歩み―文化財情報資料部研究会の開催

栃木県立美術館「揺れる女/揺らぐイメージ フェミニズムの誕生から現在まで」展チケットより

 社会的・文化的な男女の違いを意味する“ジェンダー”を視点にすえた美術史研究は、1970~80年代に英米で展開されました。日本でも90年代に美術史学会のテーマに採り上げられ、全国の美術館で展覧会が開催されるなど注目を集めました。それから20年あまりを経て、ジェンダー研究はどのような進展を遂げたのか――「日本の美術史研究・美術展におけるジェンダー視点の導入と現状」と題した小勝禮子氏による発表は、その歩みを跡づける内容でした。
 1997年に栃木県立美術館で開催された「揺れる女/揺らぐイメージ フェミニズムの誕生から現在まで」の企画者である小勝氏は、同展をきっかけのひとつとして議論の応酬がなされた、いわゆる“ジェンダー論争”の当事者でもあります。論争を通して浮かび上がったのは、現実の社会と切り離された“美術”という別世界が存在するのかどうか、という論点であり、小勝氏は今日でもそのような認識の差は美術界に広く認められるといいます。2004年から06年にかけて社会問題となった“ジェンダーフリー・バッシング”に対して、美術史研究者も交えて抗議活動が行なわれたことは、社会と美術の動きが連動したひとつの例といえるでしょう。
 発表後には、コメンテーターとして山村みどり氏(日本学術振興会特別研究員)より、米国でのジェンダー研究の現状についてご発言いただきました。また金子牧氏(カンザス大学)や水野僚子氏(日本女子大学)も出席され、とくに水野氏からは日本の古美術研究におけるジェンダー論の諸例をご紹介いただき、美術とジェンダーをめぐって多角的な意見交換が行なわれました。
 なお今回の小勝氏の発表内容は、2016年刊行の『ジェンダー史学』12号にまとめられていますのでご参照ください。

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文化財情報資料部研究会の開催―日本画家と哲学者の意外な交流

橋本雅邦《四聖像》下絵(橋本秀邦編『雅邦草稿集』所載

 橋本雅邦(1835~1908)は、狩野芳崖とともに近代日本画の革新に努めた画家として知られています。その雅邦の筆による、これまであまり紹介されることのなかった作品について、6月27日の文化財情報資料部研究会で田中純一朗氏(井原市立田中美術館)が「橋本雅邦の人物表現―東洋大学蔵《四聖像》をめぐって」と題して発表を行ないました。
 現在、東洋大学が所蔵する《四聖像》は、ソクラテス、釈迦、孔子、カントの四聖人を掛幅に描いた、雅邦の作品の中でも大変珍しい一点です。これは同大学の創始者で明治期の哲学者である井上円了(1858~1919)の依頼によるもので、画中の四聖人を古今東西の哲学の代表者とする円了の哲学観を直接的に反映しています。長らく東京・中野の哲学堂(四聖堂)で催される哲学祭で用いられていましたが、その制作時期や経緯については、まだ不明な点もあるようです。またソクラテスやカントといった、従来の日本画にはないモティーフをについて、雅邦がどのような典拠をもとに描いたのか気になるところですが、いずれにせよ明治期の日本画家と哲学者の意外な交流をうかがわせる、ユニークな作品であることは間違いないでしょう。

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呉春筆「白梅図屛風」の史的位置―文化財情報資料部研究会の開催

研究会の様子

 平成29(2017)年5月30日、文化財情報資料部では、安永拓世(当部研究員)により、「呉春筆「白梅図屛風」(逸翁美術館蔵)の史的位置」と題した研究発表がおこなわれました。
 呉春(1752~1811)は、与謝蕪村の弟子として活躍した後、円山応挙の画風を継承し、四条派と呼ばれる画派を築いた画家として知られています。彼の代表作である「白梅図屛風」(逸翁美術館蔵、重要文化財)は、浅葱色に先染めした粗い裂を貼った六曲一双屛風の上に、わずかな土坡と、枝を広げる三株の白梅を描いた、幻想的な作品です。この屛風は、梅の枝を描く付立技法や、署名の書風から、天明7(1787)年から寛政年間(1789~1801)初年ごろの制作と想定され、呉春が蕪村風から応挙風に画風を変化させた時期の作例にあたります。
 安永は、「白梅図屛風」の表現と素材を詳細に分析することで、まず、梅という主題における応挙画風の摂取の問題を解明し、そのうえで、浅葱色に先染めした異例の背地表現には、蕪村画学習に基づく南蘋画風や中国絵画からの影響が看取されることを指摘しました。さらに、葛布とみられるかなり特殊な基底材の使用に関しては、呉春以外の葛布を用いたとみられる作例との比較を通して、「白梅図屛風」の基底材の推定をおこなうとともに、こうした葛布の使用が、呉春の池田における文人交流と関連する可能性を示しました。発表後は、特殊な基底材の使用について質問が集中し、その同定の可能性などについて活発な議論が交わされました。

東京国立博物館との平安仏画共同研究

千手観音像のカラー高精細画像撮影

 文化財情報資料部では、東京国立博物館とともに、東博所蔵の平安仏画の共同調査を継続して行ってきました。毎年1作品ごとに東京文化財研究所の持つ高精細のデジタル画像技術で撮影し、細部の技法を知ることのできるデータを集積してきましたが、本年度より「仏教美術等の光学的調査による共同研究」として覚書を交わし、これまでのカラー高精細デジタル画像に加え、近赤外線画像、蛍光画像、顔料の蛍光X線分析、透過X線画像による多角的調査な光学手法を用いた共同研究をあらためて発足することになりました。これらデータからは、目視では気づかれることのなかった意外な技法を多角的に認識することができ、それらが平安仏画の高度な絵画的表現性といかに関連しているかを両機関の研究員が共同で探ってゆきます。2017年4月27日には、国宝・孔雀明王像と同・千手観音像の全画面のカラー分割撮影を行いました。得られた画像データは東京国立博物館の研究員と共有し、今後その美術史的意義について検討し、将来の公開に向けて準備を進めてまいります。

文化財情報資料部研究会の開催―「おいしい生活」第三次産業への転換期の日本の文化を考察する

日本万国博覧会(大阪、1970年)の会場風景

 「おいしい生活」は、1982年に西武百貨店が打ち出したキャンペーン広告のコピーです。物質的な豊かさを求める高度成長期が終わりを告げ、このコピーが謳うような個性的なライフスタイルを築こうとする時代に、アーティストはどのように呼応したのか――4月25日に行なわれた文化財情報資料部研究会での、山村みどり氏(日本学術振興会特別研究員)による発表「「おいしい生活」第三次産業への転換期の日本の文化を考察する」は、そんな1980年代の社会と文化の淵源を探ろうとする試みでした。
 山村氏によれば、80年代末から90年代にかけて登場したアーティストにとって、1970年に大阪で開催された日本万国博覧会は大きな影響を及ぼしたといいます。多くの日本人を熱狂させた万博には、当時の美術家もパビリオンの設計や展示に参画したものの、一方で情報産業や都市化を受け入れた姿勢に批判的だった現代美術家は、一般大衆との乖離を深めていくことにもなりました。しかしながら、より若い世代のアーティストはむしろ都市での日常的な生活感覚に寄り添った制作活動を展開していきます。70年代から80年代にかけて西武百貨店を中核とする流通系のセゾングループが、時代の先端を行く美術、音楽、演劇、映画を発信する文化戦略を打ち出した、いわゆる“セゾン文化”は、そうしたしなやかなアーティストの感性を育む役割を果たしたといえるでしょう。
 研究会には埼玉県立近代美術館の前山祐司氏も出席し、70年代~80年代の文化状況についてご発言いただきました。参加者の多くが同時代を体験していることもあり、専門の枠をこえて熱のこもった意見が交わされました。なお今回の発表内容は、REAKTION BOOKSから出版される『Japanese Contemporary Art After 1989』の第一章としてまとめられる予定です。

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公開研究会「南蛮漆器の多源性を探る」の開催

公開研究会予稿集
公開研究会における討論の様子

 南蛮漆器とは、16世紀後半以後日本に到来したポルトガル人やスペイン人らの発注を受け、17世紀前半までの間に京都の蒔絵工房での制作のうえ欧米に輸出された独特の様式を持つ漆器です。こうした漆器の存在は国内では昭和10年代頃から知られるようになり、1970年代頃からは、かなりの数が日本に逆輸入され現在全国の博物館・美術館コレクションとなっています。また近年の調査では、スペインやポルトガルのキリスト教会などには、今なお多くが伝えられていることが分かってきました。この数年は、南蛮漆器に焦点を当てた展覧会も国内外で頻繁に開催されていますので、実際に目にされた方も多いのではないでしょうか。
 さて、南蛮漆器の特徴は、西洋式の器物を日本伝統の蒔絵や螺鈿技術で装飾した姿にあると言えますが、文様や材料、製作技術に対する美術史や文献史学、また有機化学、木材学、貝類学や放射線科学といった多面的な研究によって、この漆器は単にヨーロッパと日本との要素だけでなく、東アジア・東南アジアや南アジアといったアジア各地の要素も持ち合わせた大航海時代ならではの特徴的な文化財であることが明らかとなってきました。
 こうした南蛮漆器の多源的性格を具体的に跡付け、認識を共有することを目的として、この公開研究会は2017(平成29)年3月4日と5日の二日間にわたり当研究所で開催され、国内外の専門家11名による12本の報告と熱心な討論が交わされました。またこの研究会には、海外(欧米・アジア)から延べ25名、国内各地から延べ160名と多数の参加があり、南蛮漆器に対する国内外の高い関心が改めて実感されました。

松澤宥アーカイブに関する研究協議会の開催

松澤宥アーカイブに関する研究協議会の様子

 3月14日、研究プロジェクト「近・現代美術に関する調査研究と資料集成」の一環として、松澤宥アーカイブに関する研究協議会を行いました。
 松澤宥(1922-2006)は、独自のコンセプトによる作品とパフォーマンスで知られ、東洋的な宗教観、宇宙観、現代数学、宇宙物理学等を組み入れながら思考を深め、そこから導き出された思想、観念そのものを芸術として表現した、日本だけでなく、国際的にみても「コンセプチュアル・アート」の先駆的な存在として語られる重要な人物です。この研究協議会は、一般財団法人「松澤宥プサイの部屋」(理事長松澤春雄氏)が取り組んでいる同アーカイブの概要とその整備活動について、関係者と共有し、研究資料としての価値を確認するために開催したものです。まず以下の発表・報告をしていただきました。嶋田美子氏(美術家)「松澤アーカイブ構築にむけて 現況2017年3月」、細谷修平氏(東北芸術工科大学映像学科研究補助員)「松澤宥関連フィルムの調査及びデジタイズの現状報告」、山村みどり氏(当研究所特別研究員)「草間彌生書簡―松澤宥アーカイブを通して見えて来る草間彌生像」、富井玲子氏(美術史家、ポンジャ現懇主宰)「アーカイブ研究における松澤宥アーカイブの位置」(以上、発表順)。またこの後に行われたディスカッションでは、戦後日本美術の専門家を交えて、松澤宥アーカイブ整備の課題、日本の戦後美術から現代美術の作家アーカイブズの散逸防止、さらには作家アーカイブズ収蔵専門機関の必要性などについて意見交換が行われました。

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