研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


武村耕靄と明治期の女性日本画家――文化財情報資料部研究会の開催

武村耕靄《幼稚保育図》明治23年、お茶の水女子大学蔵
武村耕靄《百合図》お茶の水女子大学蔵

 4月24日の文化財情報資料部月例の研究会では、「武村耕靄と明治期の女性日本画家について」と題し、田所泰(文化財情報資料部)による発表が行われました。
 武村耕靄(たけむら こうあい)は花鳥や山水を得意とした、明治期の女性日本画家です。現在、耕靄は美術教育者として位置づけられており、彼女の画家としての経歴や作品についてはほとんど解明されていません。今回の発表では、共立女子大学図書館が所蔵する耕靄の日記を手掛かりに、彼女の画家としての側面にスポットを当て、その画業を明らかにしたうえで、明治期における女性画家の活動の様相にまで視野を広げての考察が行われました。
 耕靄は本名を千佐、また貞といい、嘉永5(1852)年に仙台藩士の子として江戸に生まれました。幼いころより絵に興味を示し、狩野一信、山本琴谷、春木南溟、川上冬崖などに画を学びます。このように耕靄はさまざまな画派の絵画を学び、西洋画風の作品を残したりもしています。また英語の才にも恵まれ、明治9(1876)年には東京女子師範学校に英学教授手伝いとして着任、明治10年ごろからは画学教授として女子教育に努めました。明治22年には日本美術協会へ入会、翌年秋の同会へ出品した《幼稚保育図》は銅賞牌となり、同会総裁の有栖川宮熾仁親王買い上げとなります。明治31年4月には病気のため女子高等師範学校を退官しますが、そのわずか2か月後の第1回日本画会展へ出品した《渓間百合図》は優等中の優等として、同会名誉会員の下條正雄や荒木寛畝等に激賞されました。また明治43年の日英博覧会婦人部へは《百合図》を出品して銅賞を獲得。同作では輪郭線の強弱や彩色の濃淡、モチーフの配置などにより、画面に奥行きと空間的な広がりが表されています。
 耕靄はまた、自宅にて門下生の指導を行っていますが、その数は通算で150人にも及び、なかには華族の夫人や令嬢、外国人女性なども多く含まれました。
 こうした耕靄の活動を丹念に見ていくと、明治期の女性画家には、女性画家としての役割、需要があったことがわかります。こうした役割は、展覧会への出品といういわば画壇の表舞台での活動に対し、いうなれば舞台裏での活動でした。
 今後この時期における女性画家の活動や交流に関する研究がさらに進められることで、その実態や社会的な認識の様相、また大正期における女性画家隆盛への展開が明らかにされると期待されます。

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日本絵画作品のデジタルコンテンツ所内公開

デジタルコンテンツ閲覧

 東京文化財研究所では、さまざまな手法で文化財の調査研究を行い、研究成果の公開を行っています。このたび徳川美術館所蔵「源氏物語絵巻」、サントリー美術館所蔵「四季花鳥図屏風」および「泰西王侯騎馬図屏風」のデジタルコンテンツを作成し、資料閲覧室にて公開を開始致しました。専用端末にて、高精細カラー画像、X線画像、近赤外線画像などの各種画像や、蛍光X線分析による彩色材料調査の結果などをご覧いただけます。ご利用は学術・研究目的の閲覧に限り、コピーや印刷はできませんが、デジタル画像の特性を活かした豊富な作品情報を随意に参照することができます。現在、上記の3作品のほか、「十一面観音像」(奈良国立博物館)、「彦根屏風」(彦根城博物館)、「本多平八郎姿絵屏風」「歌舞伎図巻」「相応寺屏風」(徳川美術館)、尾形光琳筆「紅白梅図屏風」(MOA美術館)の全8作品のデジタルコンテンツを公開しています。今後もこうしたデジタルコンテンツを増やし、専門性の高い研究資料を提供していく予定です。この画像閲覧端末は、資料閲覧室開室時間にご利用いただけます。閲覧室については、利用案内をご参照下さい。
http://www.tobunken.go.jp/~joho/japanese/library/library.html


『かりやど民俗誌』の福島県浪江町苅宿地区への贈呈

『かりやど民俗誌』
祈念碑除幕式での民俗誌完成披露スピーチ

 福島県浪江町苅宿地区では、「鹿舞」や「神楽」などの無形文化遺産が伝承されてきました。しかし2011年の東日本大震災に伴う原子力発電所事故により住民全員が避難。民俗芸能も継承の危機に至りました。そこで無形文化遺産部では、鹿舞・神楽を中心に、それを支える地区の歴史や暮らしについて、民俗誌という形で残すべく調査を重ね、平成30年(2018)3月に『かりやど民俗誌』として刊行しました。
 苅宿地区は2017年4月より帰還が可能になりましたが、1年経った現在でも帰還したのは数世帯という現状です。そのような中で地区の復興を祈念して「大震災苅宿地区復興祈念碑」が建立されることとなりました。4月21日にその除幕式があり、無形文化遺産部より久保田裕道が臨席しました。式典中、民俗誌の完成披露も行われました。民俗誌は、苅宿地区の全戸に配布できるよう贈呈しました。この民俗誌が地区の無形文化遺産の継承に少しでも役立つことを、また地区の復興が進むことを願っています。


無形文化遺産ファンサイト「いんたんじぶる」の公開

「いんたんじぶる」トップページ。キャラクターは左がコバヤシ、右がにゃでしこ。

 無形文化遺産部では「文化財防災ネットワーク推進事業」(文化庁補助金事業)の一環として、ウェブサイト「いんたんじぶる」を作成し、公開・運用を始めました。東日本大震災では、無形文化遺産に関する被災・支援情報が非常に少なく、迅速な救援や復興に支障を来たしていました。とくに無形文化遺産には指定文化財以外のものも多く、そうしたさまざまな情報を集めるにあたっては、関係者や愛好者のネットワークが重視されました。
 本サイトは、そうしたネットワーク構築のための情報共有を目的として開設致しました。より多くの方々に閲覧いただけるよう、無形文化遺産に関するニュースや見学レポート、またギャラリーやコレクションといった愛好者向けのページを作成。キャラクターも加えて親しみやすいページを目指しています。
http://intangible.tobunken.go.jp/


第2回祭ネットワーク開催

第2回祭ネットワーク参加者

祭りや民俗芸能などの愛好者を対象にした「祭ネットワーク」の第二回目が、株式会社オマツリジャパンとの共催にて4月14日(土)に東京文化財研究所地下会議室にて開催されました。今回のテーマは「シシマイ×シシマイ」。富山県より獅子絵田獅子方衆の勝山理氏、射水町獅子舞保存会の勝山久美子氏、香川県より讃岐獅子舞保存会代表の十川みつる氏、同保存会広報・東京讃岐獅子舞代表の中川あゆみ氏の4人にゲストスピーカーとしてご登壇いただきました。両県ともに圧倒的な数の獅子舞を伝える地域。地域の獅子舞に対する情熱を熱く語っていただき、その後参加者との活発な質疑応答が交わされました。参加者からは、地域の祭りや伝統へのこだわり、地方の人口減少や世代間ギャップなどの問題を、実際の事例で改めて認識することができたといった声があがりました。


トリノ・エジプト博物館と南スイス応用科学芸術大学での意見交換と講演

トリノ・エジプト博物館における壁画の展示
マドンナ・ドンジェロ礼拝堂の外観

 文化遺産国際協力センターでは、平成30(2018)年4月19日~4月29日にかけて、国際情報の収集および当センターと国際機関とのネットワーク構築を目的に、イタリアのトリノ・エジプト博物館およびスイスの南スイス応用科学芸術大学(SUPSI)を訪問しました。
 トリノ・エジプト博物館では、学芸員、作品登録管理者、保存修復士の方々にお集まりいただき、所蔵品の維持管理や保存修復について具体的にどのような取り組みがなされているかについてお話をうかがいました。南スイス応用科学芸術大学では、当センターが現在取り組んでいる事業について講演する場をご提供いただき、同大学教員や学生の方々にご聴講いただきました。また、文化財保存修復学科長のジャチンタ・ジェーン氏に解説いただきながら、大学内研究施設や同大学が現在ストゥッコ装飾の調査研究を行っているマドンナ・ドンジェロ礼拝堂を見学し、スイスにおける文化財保存の考え方や保存活動の現状についてお話をうかがいました。
 文化財保存修復の分野では、様々な地域から発信される情報を収集しながら見識を深め、問題の解決法や維持管理の在り方について意見交換を重ねていくことが大切です。なぜなら、そうした取り組みが先入観や主観にとらわれず、客観的に文化財と向き合う姿勢を保ち続けていくうえで重要だからです。今回の訪問でも、お互いの意見を交換するなかで、普段の活動ではなかなか気付くことのできない発見や研究テーマを見出すことができました。文化遺産国際協力センターでは、これからも国際機関とのネットワーク構築に励みながら、継続的な国際協力関係の強化を目指していきます。


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