研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


10月施設見学

第二化学実験室での説明の様子

イラン国立博物館研究員1名、イラン文化遺産観光研究所研究員1名
 10月30日に博物館収蔵品を守るための日本の博物館における環境管理の事例などを視察するために所内を見学。第二化学実験室等で担当者による説明を受けました。

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フィジーにおける無形文化遺産の防災に関する調査

現地調査をおこなったビチレブ島東部N村の様子
現地住民への聞き取り調査の様子

 大阪府堺市にあるユネスコのカテゴリー2センターであるアジア太平洋無形文化遺産研究センター(IRCI)は、平成28(2016)年度よりアジア太平洋地域における無形文化遺産の防災に関する調査研究を実施しており、本研究所の無形文化遺産部もその事業に継続的に協力してきました。このたびIRCIが実施するフィジーでの現地調査に、IRCIの連携研究員である石村智・無形文化遺産部音声映像記録研究室長が参加しました。
 フィジーは大洋州地域の島しょ国で、平成28(2016)年3月に熱帯サイクロン「ウィンストン」が直撃したことにより、多くの地域が甚大な被害に見舞われました。今回の現地調査では、首都のあるビチレブ島東部の、特に被害が大きかった2村落で調査をおこない、現地住民から無形文化遺産と災害に関する聞き取り調査を実施しました。調査には、IRCIの野嶋洋子アソシエイトフェロー、フィジー博物館のエリザベス・エドワード氏、フィジー先住民省のイライティア・セニクラジリ・ロロマ氏、石村室長の4名が参加しました。調査期間は平成29(2017)年9月23日から10月3日です。
 いずれの村も、建物のほとんどがサイクロンによって破壊されたそうですが、フィジー政府や海外のNPOなどからの支援によって住宅の再建が進んでいました。しかし新しく建てられた住宅のほとんどは、トタン板やコンクリートブロックなどの近代的な素材を多用した建築であり、ブレと呼ばれる木造で茅葺の伝統的なスタイルの建築は完全に姿を消していました。
 地域住民への聞き取りでは、伝統的な知識の中に、サイクロンの到来を予知するような、防災に関連したものが多く含まれていることが明らかになりました。例えば、果物が多く実ったとき、特にパンノキのひとつの枝に複数の実が出来たときは、それがサイクロンの前兆とみなされてきたといいます。しかし近年ではこうした知識は軽んじられ、十分に活かされなくなったといいます。
 また聞き取りによって明らかになったことは、伝統的なブレの住宅は1960年代以降、その数は徐々に減り、昭和47(1972)年の熱帯サイクロン「べべ」の被害によってほとんど姿を消し、平成5(1993)年の熱帯サイクロン「キナ」の被災後には完全に姿を消してしまったとのことでした。しかし一方でブレの建物は、暑さや寒さをしのぐのに適しており、住み心地が良かったという意見も聞かれました。しかしブレの建物を作れる技術を持った人はほとんどいなくなってしまったとも聞きました。
 今回の現地調査で、災害が伝統的な生活様式を変化させ、それにともなう無形の技術も失われていく傾向にあることがわかりました。しかしそれは単に災害だけに原因があるのではなく、グローバル化や現代化の影響も大きいことがわかりました。
 こうした現地調査で得られた知見をもとに、私たちは「復興」と「文化の保護」をどのように両立させることができるかを、考えていきたいと思います。

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ユネスコ・アジア文化センター(ACCU)が実施する研修への協力

実演記録室における臨地研修

 公益財団法人ユネスコ・アジア文化センター文化遺産保護協力事務所(奈良市)は、平成29(2017)年10月10日から11月3日にかけて「文化遺産の保護に資する研修2017:博物館等における文化財の記録と保存活用」を実施しましたが、本研究所の無形文化遺産部もこの事業に協力し、平成29(2017)年10月30日午後に本研究所にて「臨地研修:無形文化遺産の記録法」の講義を担当しました。講師は石村智・無形文化遺産部音声映像記録研究室長です。
 本研修には、大洋州地域から6名(フィジーから3名、パプアニューギニアから2名、ソロモン諸島から1名)の研修生が参加していました。いずれも博物館などで実務に携わる専門家です。講義では、まず前半で日本における無形の文化財の保護制度について解説し、後半では具体的な無形文化遺産の記録法について解説しました。後半では特に映像による記録法について説明し、実際に無形文化遺産部が作成している映像記録(講談の記録作成、木積の藤箕製作技術の記録作成など)を教材として使用しました。
 今回の研修生の出身地域である大洋州地域には、多様な無形文化遺産が存在するものの、その記録作成についてはまだまだ十分ではないとのことでした。特に無形の技術は動きをともなうものが多く、文字などによる記録では十分でないことが多いため、映像による記録法の重要性については大いに認識してもらったようでした。また質疑応答においても、「日本では口承伝承の記録はどのようにおこなっているのか」など、具体的な内容に及ぶものも多く、彼らの関心の高さを感じることが出来ました。
 これまで無形文化遺産部が培ってきた研究成果を、日本国内のみならず国外の文化遺産の保護にも貢献することができれば意義深いことであると実感しました。

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無形文化遺産アーカイブスの公開

無形文化遺産アーカイブス地図画面
無形文化遺産アーカイブス個別画面

 「文化財防災ネットワーク推進事業」(文化庁委託事業)の一環として無形文化遺産部・文化財情報資料部では「地方指定等文化財情報に関する収集・整理・共有化事業」に取り組んでいます。その一環として、無形文化遺産部では全国の無形文化遺産の情報を収集し、データベース化および関連データのアーカイブ化を進めています。
 今回そのパイロット版として、和歌山県を対象とした「無形文化遺産アーカイブス」(http://mukeinet.tobunken.go.jp/group.php?gid=10027)の公開を開始しました。本アーカイブスは、地図や分類、公開月、キーワードなどから検索し、各無形文化遺産の名称・公開場所・概要・写真・動画などを閲覧できます。今回は和歌山県教育委員会に全面的にご協力いただき収集した、県内所在の無形の文化財に関する情報および画像を公開しています。
 今後、同様のデータ収集と公開を全国に拡大するとともに、関連する記録類についてもできる限り蓄積・公開していく予定です。


博物館の環境管理に関するイラン人専門家研修

東京文化財研究所で実施した座学の様子

 東京文化財研究所は、平成29(2017)年3月に、イラン文化遺産手工芸観光庁およびイラン文化遺産観光研究所と趣意書を取りかわし、今後5年間にわたり、イランの文化遺産を保護するため様々な学術分野において協力することを約束しました。
 平成28(2016)年10月に実施した相手国調査の際、イラン人専門家から、現在、首都テヘラン市では大気汚染が深刻な問題となっており、その被害が文化財にもおよび、イラン国立博物館に展示・収蔵されている金属製品の腐食が進行していると相談されました。
 そこで、今回、10月29日から11月5日にかけて、イランにおける博物館の展示・収蔵環境の改善を目指し、イラン国立博物館とイラン文化遺産観光研究所から各1名の専門家を招聘し、研修とスタディー・ツアーを実施しました。
 研究所において、博物館環境と大気汚染に関する座学を実施したほか、東京国立博物館の展示・収蔵環境や鎌倉大仏などの視察を行いました。
 来年度も、イランの博物館の展示・収蔵環境の改善を目指し、協力を実施していく予定です。


「トルコ共和国における壁画の保存管理体制改善に向けた人材育成事業」における研修「壁画保存に向けた課題と問題」の開催

研修参加者との集合写真
Tagar Church (St. Theodore Church)での調査

 文化庁より受託した標記事業の一環として、平成29年(2017)10月30日~11月2日にかけて、研修「壁画保存に向けた課題と問題」を開催しました。Nevşehir Hacı Bektaş Veli Universityを会場に開かれた本コースには、トルコ共和国内10箇所の国立保存修復センターより30名の保存修復士に参加いただきました。
 本研修は、トルコ共和国の壁画を保存していくうえで重要となる応急処置のあり方を見直し、そのプロトコルを確立させていくことを目標にしています。第1回目となる今回の研修では、イントロダクションとして「壁画の技法や劣化の原因」、「保存修復における原則」などをテーマに講義を行いました。それぞれの講義内容について発表者と受講者との間で意見交換の場を設けることで、課題について全員で取り組んでいこうとする姿勢が生まれ、結束力が高まりました。
 また、研修の最終日には来年度より開催を予定している現場実地研修の対象となるタガール教会(聖セオドア教会)を訪れ、前日までの講義内容に順じて教会内部に描かれた壁画の保存状態を観察しました。一般的な保存修復事業とは異なり、壁画を保存・管理していくうえで重要と考えられる応急処置方法とはどうあるべきかを議論し、様々な意見が飛び交いました。
 現時点においてトルコ共和国には、壁画の保存管理システムというものが十分に確立されていません。この事業は、トルコ共和国との歩みを揃えながら進めていくことが重要です。今回も研修事業が始まる直前には、内容の充実に向けた意見交換を目的にトルコ共和国文化観光省ならびにガーズィ大学芸術学部保存修復学科を訪問しました。研修は平成31年度までに計4回の開催を予定しています。その中で文化財の保存活動に従事する専門家が現実的に実施可能な仕組みを参加者全員で作り上げていきたいと思います。


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