研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


寄附の受入

中村徹様(前列左)亀井所長(前列右)

 本年4月の当活動報告にもありますように、当研究所名誉研究員中村傳三郎(1916-1994)の旧蔵資料を、ご遺族の中村徹様から4月30日付でご寄附いただきました。ご寄附をいただいたことに対して、中村徹様に、亀井所長から6月2日に当研究所役員室にて感謝状を贈呈しました。当研究所の事業にご理解を賜り近現代彫塑史研究上重要な資料の寄附をいただいたことは、当研究所にとって有意義であり、今後の研究所の事業に役立てたいと思っております。

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6月施設見学(1)

分析装置について説明を受ける様子

 一般社団法人 日本分析機器工業会 12名
 6月20日、当研究所の文化財の先端研究開発・現場の状況を深く理解するために来訪。文化財情報資料部の写真室、保存科学研究センターの実験室、文化遺産国際協力センターの実験室を見学し、各担当研究員による業務内容の説明を受けました。

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6月施設見学(2)

説明を受ける招へい者

 国際交流基金 平成28年度中央アジアシンポジウム招へい者 約15名
 6月24日、東京文化財研究所の活動を参考にするためシンポジウムの参加に併せて見学。無形文化遺産部、保存科学研究センター、文化遺産国際協力センターを見学し、担当研究員による説明を受けました。

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文化財情報資料部研究会の開催―栗原玉葉に関する基礎研究

栗原玉葉《噂のぬし》大正3年、『第八回文部省美術展覧会出品絵葉書』より
栗原玉葉《清姫物語 女》、大正10年、『第三回帝国美術院展覧会出品絵葉書』より

 6月28日、文化財情報資料部では、「栗原玉葉に関する基礎研究―その生涯と作品について―」と題して、田所泰(文化財情報資料部)による発表が行われました。
 大正期に文部省美術展覧会(文展)などを中心に活躍した日本画家・栗原玉葉は、幼い少女や芝居に取材した女性像などを描いた作品を多く残しています。生前は東京一の女性画家と目され、京都の上村松園に対して東京の栗原玉葉とまで呼ばれる存在でしたが、現在では知名度も低く、研究もほとんどされていません。田所の発表では、図版の残っている展覧会出品作品を中心に玉葉の画業を概観し、その上で作品に見られる表現の変遷や、当時の画壇における玉葉の位置づけについて考察しました。美術雑誌や展覧会図録等のほかに、女性向け雑誌に掲載された作品の写真図版から、多くの現存作品の制作年や展覧会出品歴が明らかとなり、それらを踏まえて画業を概観したことで、玉葉が大正5(1916)年頃を境に画題を幼い少女像から芝居などに取材した女性像へと変化させていったことがわかりました。また、晩年の玉葉作品には、師である松岡映丘からの影響が、とくに色彩面に強く現れていることを示し、とりわけ金泥の使い方では、それまでには見られない独特の表現が試みられていることを指摘しました。こうした自身の制作のほかに、玉葉は多くの弟子を抱え、他の女性画家とともに女性日本画家団体・月耀会を結成するなど、当時の画壇、とりわけ女性画壇において大きな役割を果たしていたことが明らかとなりました。
 なお、今回の研究会には、コメンテーターとして、玉葉に詳しい長崎歴史文化博物館の五味俊晶氏をお招きしました。五味氏からは玉葉研究の現状や、長崎に現存する作品、また玉葉のご遺族などについて、貴重なご教示をいただきました。そのほか、実践女子大学の児島薫氏、佐倉市立美術館の山本由梨氏を交え、「女性画家」や「美人画」といった問題に関して、活発な意見交換が行われました。

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被災地民俗芸能保存団体の研修

苅宿鹿舞保存会と原馬室獅子舞・棒術保存会の皆さん

 福島県浪江町苅宿地区には、「鹿舞」が伝承されています。関東地方に数多い「三匹獅子舞」と、東北地方に多い「鹿踊り」双方の特色を併せ持つ珍しい民俗芸能です。しかし原子力発電所の事故によって、この区域は居住制限区域となり、住民は各地に分散避難を余儀なくされました。そのため、この鹿舞も震災後5年間で2回しか演じられていません。鹿舞保存会のメンバーも中には関東地方に移り住んでいる方もおり、集まることすら難しい状況にあるのが現状です。
 それでも何とか維持していく方策を考えたいと、保存会長からの発案でこのたび保存会員の研修旅行が企画され、無形文化遺産部が協力しました。6月18日、最初に埼玉県白岡市の獅子博物館を訪れ、日本各地及び世界の獅子頭を見学し、館長の高橋裕一氏に詳細な展示解説とレクチャーをいただきました。続いて鴻巣市の原馬室獅子舞・棒術保存会会長宅に伺い、保存会同士の交流を図りました。原馬室の獅子舞は関東地方に典型的な三匹獅子舞で、鹿舞との共通点もあります。両者の映像を見た後に、獅子舞を継承するための取り組みや課題について話を伺いました。
 原発事故の避難地域において無形文化遺産が継承されるか否かという問題は、地域コミュニティの存続にも関わる大きな問題です。これからどうなるのか不透明な部分が多い状況ですが、少しでも継承に貢献できるサポートを行っていくことも重要だと考えています。


可搬型X線回折分析装置を用いた飛鳥大仏の材質調査

可搬型X線回折分析装置を用いた飛鳥大仏の材質調査

 奈良県飛鳥地方の中心にある飛鳥寺には、像高約3メートルの銅造釈迦如来坐像、いわゆる飛鳥大仏が本尊として安置されています。史料によりこの丈六の大きさの飛鳥大仏が推古14年(606年)に鋳造されたことや、その作者が止利仏師であったことが知られます。日本で最初の丈六像として重要な作品ですが、鎌倉時代初期に火災にあったため、当初の部分がどこに相当するかについては諸説提示されているのが現状です。
 平成28年(2016)6月16日・17日の拝観時間後、大阪大学藤岡穣教授の「5~9世紀の東アジア金銅仏に関する日韓共同研究」(科学研究費補助金基盤研究(A))の一環として、美術史学、保存科学、修理技術者、3D計測の専門家等により、飛鳥大仏の保存状態や製作技法に関する大規模な調査が実施されました。東京文化財研究所からは、早川泰弘、犬塚将英、皿井舞の3名が参加し、昨年度に当所が導入した可搬型X線回折分析装置(理研計器 XRDF)を用いて飛鳥大仏表面の材質調査を行いました。
 今回の調査では飛鳥大仏の周りに堅牢な足場が組み上げられたことにより、頭部の螺髪や面部、手や腹部など飛鳥大仏本体で10カ所の箇所を測定することができ、またそのほか飛鳥大仏に付随していたとされる銅造断片3カ所の合計13カ所を分析することができました。
 可搬型X線回折分析装置では物質の結晶構造に関する情報が得られます。今回、この結晶構造に関する情報と、大阪大学や韓国国立中央博物館が行った蛍光X線分析による物質の構成元素の種類に関する情報とを組み合わせることによって、化合物の種類を特定することができるようになります。これらの分析によって、飛鳥大仏の表面に存在している化合物の種類を同定し、測定対象箇所の化合物を比較することが可能になります。
 現在はこれらのデータの詳細な解析を行っており、今年度中に分析結果の報告を行う予定です。


トルコ共和国における壁画の保存管理体制に関する調査

トルコ共和国文化観光省での面談の様子
教会壁画の視察調査(ウフララ渓谷)

 文化遺産国際協力センターでは、トルコ共和国における壁画の保存管理体制を把握すべく、6月18日から24日までの日程で現地調査を実施しました。アンカラでは、これまで同国内で数々の壁画修復事業を行ってきたガーズィ大学芸術学部文化財保存修復学科を訪問し、各事業で実際に行われた保存修復方法について説明を受けました。また、文化観光省では、トルコ共和国における壁画維持管理のさらなる充実を目指した当センターとの協力体制の構築について、文化遺産博物館局次長らとの合意が形成されました。さらに、岡浩駐トルコ共和国日本国特命全権大使への表敬訪問では、昨今の国際情勢を踏まえ、現地の最新の治安情勢・文化政策等についての意見交換が行われました。
 視察調査としては、(公財)中近東文化センター附属アナトリア考古学研究所所長大村幸弘氏の解説で、日本のODAにより建設されたカマン・カレホユック考古学博物館等の見学、カッパドキアギョレメ地区、ウフララ渓谷に点在する教会壁画の保存状況に関する調査を行いました。
 今後は、トルコ共和国各地の教会壁画の視察調査を継続するとともに、現時点における同国の壁画維持管理への理解を深め、改善点や課題を見出しながら、未来を担う壁画保存修復士および保存管理従事者の育成を目指した活動を実施する予定です。


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