研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


2月施設見学

佐野保存科学研究室長による説明の様子

 祐天寺 計7名
 2月2日、東京文化財研究所の施設を見学し、祐天寺の文化財や寺宝の管理に活かすため来訪。企画情報部の資料閲覧室と、保存修復科学センターの共同研究室及び第2修復実験室、燻蒸室、分析科学研究室を見学し、各担当者による業務内容の説明を受けました。


企画情報部研究会の開催―韓国の「東洋画」について

稲葉真以氏の発表による研究会

 企画情報部の近・現代視覚芸術研究室では、日本を含む東アジア諸地域の近現代美術を対象にプロジェクト研究「近現代美術に関する交流史的研究」を進めています。その一環として2月17日の企画情報部研究会では、韓国・光云大学校助教授の稲葉真以氏に「韓国の「東洋画」について」の題でご発表いただきました。
 今日、韓国で「東洋画」と呼ばれているジャンルは、もともと日本の植民地時代に「日本画」が移植される過程で形成されたものです。その一方で、解放後の「東洋画」批判を経て、同じジャンルを指しながらも民族アイデンティティ確立の意味合いを籠めた「韓国画」の語も、1980年代から広く用いられるようになりました。稲葉氏の発表では、そのような政治的背景をもつ「東洋画」および「韓国画」の現在まで至る経緯と課題について、作例の紹介も交えながらお話しいただきました。
 日本でも1990年代から2000年代にかけて、近代以降に成立した「日本画」の概念をめぐる議論が評論家や美術史家、そして作家の間で盛んに行なわれました。さらに近年では、中国や台湾といった東アジアで展開する「岩彩画」「膠彩画」の動向を視野に入れた上での「日本画」系作家による再検討も進められています。今回の研究会でも、ルーツを共有しつつも国境を隔てて独自の展開をみせる韓国の「東洋画」の在り様に目を見張るとともに、ガラパゴス化した「日本画」を相対的にとらえ直す、よい機会となりました。歴史認識をめぐる日韓間の摩擦が取り沙汰される昨今ですが、研究会にご参加いただいた金貴粉氏(国立ハンセン病資料館学芸員)の「不幸な出会い方をした分、見ないようにするのではなく、改めてお互いを見ていく必要がそれぞれの研究を深化させる上であるのではないか」という感想を噛みしめつつ、今後の研究につなげていきたいと思います。

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無形文化遺産(伝統技術)の伝承に関する研究会「染織技術をささえる人と道具」の開催

会場風景

 無形文化遺産部では平成27年2月3日、文化学園服飾博物館と共催で無形文化遺産(伝統技術)の伝承に関する研究会「染織技術をささえる人と道具」を開催しました。本研究会では、染織技術を伝承するうえで欠かすことのできない道具について、技術と道具の関わり、その現状についてパネルディスカッションを行いました。コメンテーターに京都市繊維試験場で勤務されていた藤井健三先生をお迎えし、パネラーには「時代と生きる」展の担当である文化学園服飾博物館の吉村紅花学芸員、展覧会映像撮影調査にご協力いただいた染織技術者の方々、当研究所保存修復科学センターの中山俊介近代文化遺産研究室長、そして無形文化遺産部からは菊池が登壇しました。
 技術者からは、作業効率を上げるために機械を導入するか、受け継いだ道具を使い続けるか等、常にいかなる道具を使うかの選択に迫られてきたことが報告されました。そして、近年では道具を作る技術そのものが失われつつあり、今まで簡単に入手できたものが手に入らないという報告もありました。受け継ぎたくても道具が入手できないというのが現状です。
 一方、残すべき技術は消費が伴うものでなければ残らないという意見もでました。現在、着物は特別な時に着用するものです。その生産量は着物が日常着であった時代とはくらべものにならないほど少ないものです。染織技術は無形文化遺産ですが、産業という枠組みの中にあります。作り手が生活をしていくためには生産したものが売買されなければなりません。つまり、消費者がどのような着物を求めるか。それにより、残されていく技術が変わるということができます。
 染織技術をささえる人は作り手だけではありません。それを購入し着る人、残したいと願う一人一人がささえる当事者です。本研究会では、そのことを多くの参加者に認識してもらえる有意義な研究会となりました。時間に限りがあり突き詰めた議論が行えなかったこと、テーマが広範囲であったこと等、多くの課題が残ります。参加者からの意見を反映させながら、今後も無形文化遺産部では様々な立場の方たちと染織技術の伝承について議論する場を設けていきます。


文化財の保存環境に関する研究会「文化財の保存環境の制御と予測」

研究会の様子

 文化財の保存を考える上で、温湿度、光、空気質等の保存環境を適切に保つことが重要です。そして、空気調和設備の技術的な発展に伴い、展示・収蔵施設における温湿度環境は著しく向上されてきました。一方で、作品の貸し借りや移動に伴う環境の変化や省エネ等の観点から、文化財を保存するための温湿度条件に関する議論が国内のみならず世界的にも再び高まりつつあります。
 保存修復科学センターでは、文化財を取り巻く温湿度環境が文化財へ与える影響、温湿度環境の予測や制御に関する研究を行っています。2015年2月9日に開催した研究会「文化財の保存環境の制御と予測」では、保存科学の研究者(間渕創氏(三重県総合博物館)、古田嶋智子氏(東京藝術大学))や建築分野の専門家(権藤尚氏(鹿島技術研究所)、北原博幸氏(トータルシステム研究所)、安福勝氏(近畿大学))をお招きし、文化財の展示・収蔵施設における空調設備を用いた温湿度制御の事例、新しい設備を開発し導入した事例、展示ケース内における温湿度や空気質を調査した事例、コンピューターシミュレーションを用いた温湿度環境の予測及び実測値との比較等の事例を通じて、文化財の保存環境に関する最新情報の共有とディスカッションを行いました(参加者:29名)。


日本美術技術博物館Manggha所蔵の日本絵画作品調査

日本美術技術博物館Manggha、クラコフ(ポーランド)
所蔵作品の調査風景

 日本の古美術品は欧米を中心に海外でも数多く所有されていますが、これらの保存修復の専門家は海外には少なく、適切な処置が行えないため公開に支障を来している作品も多くあります。そこで当研究所では作品の適切な保存・活用を目的として、在外日本古美術品保存修復協力事業を行っています。修復協力への要望が強く、その意義が認められると考えられた日本美術技術博物館Manggha所蔵の作品調査を行いました。
 同館は、クラクフ(ポーランド)に所在する東欧で有数の日本美術品を有する博物館で、アンジェイ・ワイダ監督らの発意による京都クラクフ基金や民間からの募金協力、日本・ポーランド両国政府の援助によって1994年に設立されました。同館のコレクションは美術品収集家のフェリクス・ヤシェンスキ(1861~1929)が収集した作品を中核とし、浮世絵をはじめとする日本絵画、陶磁器、漆芸品、染織品など多岐に渡っています。
 調査は2015年1月13日~23日及び2月3日~6日の2期に分けて行いました。1期目の調査で84点の絵画を調査し、美術史的な作品価値、修復の必要性と緊急性の観点から7点の作品を選出しました。2期目の調査では、その7点の作品について、修復に要する期間や適切な修復方法を検討するための詳細な調査を行いました。
 今後、調査した作品の修復計画を立案し、在外日本古美術品保存修復協力事業において修復を行う予定です。また、調査で得られた情報を同館の学芸員、保存修復担当者と共有し、作品の保存・展示に役立てていただきたいと考えています。

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研究会「ミャンマーの木造建築文化」の開催

パネルディスカッションの様子

 運営費交付金事業「東南アジア諸国等文化遺産保存修復協力」の一環として、2月13日に当研究所セミナー室で標記研究会を開催しました。
 当研究所では、平成25年度よりミャンマーの文化遺産保護に関する文化遺産国際協力拠点交流事業を文化庁から受託するなど、同国の文化財保存に関する調査研究や人材育成等に協力しています。対象分野の一つである歴史的木造建造物の保存については、調査手法に関する研修等を実施していますが、ミャンマーの木造建造物自体に関する調査研究の蓄積が国内外ともに乏しく、未だ十分な理解が進んでいないのが現状です。
 同分野における調査研究の先駆者である元ラングーン工科大学建築学部教授のレイモンド・ミョーミンセイン氏と、気鋭の若手研究者である技術大学マンダレー校建築学部准教授のザーチミン女史のお二方をお招きし、日本側からの発表とあわせて、同国の伝統的木造建造物に関するこれまでの研究成果を共有するとともに、ミャンマー人にとっての文化的意義や今後の研究課題等をめぐっても様々な意見が交わされました。
 なお、本研究会については、各発表者による論考とパネルディスカッションの内容を掲載した報告書が刊行されます。


平成26年度協力相手国調査の実施―マレーシア・ネパール―

サラワク州博物館館長らへのインタビューの様子(マレーシア)
パタン・ダルバール広場(ネパール)

 文化遺産国際協力コンソーシアムは、2月にマレーシア及びネパールにおいて協力相手国調査を実施しました。本調査は、文化遺産保護に関し、現状や課題等の情報を収集し、ニーズを把握するとともに、国際協力の可能性を探ることを目的としています。
 マレーシアでは、まず観光文化省国家遺産局局長らと面会し、国レベルでの文化遺産保護体制の概況情報を得ました。その後、世界遺産「マラッカとジョージタウンの歴史都市」、ケダ−州のルンバ•ブジャン考古遺跡群等を視察し、保護の実情を調査しました。また少数民族が今も伝統を守りつつ暮らすボルネオ島のクチンも訪問し、マレー半島と異なる有形・無形の文化遺産保護の体制や取り組みについて情報を収集しました。
 ネパールでは、世界遺産である「ルンビニ遺跡」で実施中のユネスコ文化遺産保存日本信託基金事業、及び「カトマンズ盆地」の伝統建築の保存管理状況等を視察しました。無形遺産では、ヒンドゥー教祭礼のシバラトリーと、チベット正月の行事ギャルポ・ロサールを視察し、聞き取り調査を行いました。その他ユネスコ・カトマンズ事務所、文化省、考古局、NPOカトマンズ盆地保存トラストを訪問し、情報を収集しました。
 報告書は関係機関に配布するとともに、コンソーシアムのウェブサイトでも公開予定です。


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