研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


寄附金の受入

東京美術商協同組合中村理事長(左)と亀井所長(右)
㈱東京美術倶楽部三谷社長(左)と亀井所長(右)

 東京美術商協同組合(中村純理事長)より東京文化財研究所における研究成果の公表(出版事業)の助成を、また、株式会社東京美術倶楽部(三谷忠彦代表取締役社長)より東京文化財研究所における研究事業の助成を目的として、それぞれ寄附金のお申し出がありました。
 11月5日、東京美術倶楽部においてありがたく拝受し、ご寄附をいただいたことに対して、東京美術商協同組合中村純理事長並びに株式会社東京美術倶楽部三谷忠彦代表取締役社長にそれぞれ、亀井所長から感謝状を贈呈しました。
 当研究所の事業にご理解を賜りご寄附をいただいたことは、当研究所にとって大変ありがたいことであり、今後の研究所の事業に役立てたいと思っております。


無形文化遺産の保護に関する第9回政府間委員会への参加

「和紙」審議の様子
会場風景

 標記の委員会が2014年11月24日~28日にパリのユネスコ本部で開催され、当研究所からは4名が参加し、無形文化遺産条約実施の現状について情報収集を行いました。
 今回、34件の無形文化遺産が人類の無形文化遺産の代表的な一覧表(代表一覧表)に記載され、うち日本からは「和紙:日本の手漉和紙技術」が記載されました。この提案はすでに代表一覧表に記載されていた「石州半紙(せきしゅうばんし)」に「本美濃紙(ほんみのし)」と「細川紙(ほそかわし)」を加えるもので、記載済の無形文化遺産への同じ国による構成要素の追加は初めてです。審議の当日、会場には多くの日本の報道関係者が見られましたが、昨年の「和食」に続き「和」という言葉を含む提案だったことも、関心を高めた要因のひとつだったのかもしれません。
 一方で、代表一覧表への記載の提案や、代表一覧表記載済案件の保護状況の報告に関し、提案や報告を行った国に対して別の国が「自国の案件を含んでいる」と非難した例がありました。国と国との関係を反映したこのような衝突は避けられないのかもしれませんが、代表一覧表への記載は、その無形文化遺産が記載を提案した国だけのものであることを意味しませんし、他の類似の無形文化遺産と比較しての起源や独自性を認めたことにもなりません。このことは、国内外を問わず広く知られる必要があると思われます。
 ところで、各国から提出される代表一覧表記載などへの提案書について、そのほとんどに不備があり差し戻されたことが、ユネスコの事務局から報告されました。文書作りに不慣れなだけでなく、文書に記入すべき無形文化遺産保護の体制自体がまだ十分に整っていないこともその理由です。代表一覧表への記載が目的化されることは避けるべきですが、多様な無形文化遺産を認識し保護するために、提案書作成を最初の目標とした保護のしくみの構築に対する支援が必要であり、日本もそのような支援の一翼を担うことができると考えます。


第28回近代の文化遺産の保存修復に関する研究会「洋紙の保存と修復」

研究会の様子

 保存修復科学センター近代文化遺産研究室では、11月21日(金)に当研究所セミナー室において「洋紙の保存と修復」を開催しました。当日は、元国立国会図書館副館長、現学習院大学非常勤講師をされておられる安江明夫氏、(株)プリザベーションテクノロジーズジャパン専務取締役横島文夫氏、(株)修護の主任技師小笠原温氏、メキシコ国立公文書館修復部門責任者アレハンドラ・オドア・チャベス氏、カナダ国立図書館公文書館紙美術品、地図文書修復部門主任アン・メイヒュー氏の5氏をお招きし、ご講演いただきました。安江氏からはアーカイブの視点から資料保存の取り組みに関する変遷等のお話を頂きました。横島氏からは大量脱酸処理に関するお話を伺いました。小笠原氏からは、現在携わっておられるノートの修復に関して問題点等を紹介頂きました。アレハンドラ・オドア・チャベス氏からは没食子インクによる劣化の状態と対処の方法についてのお話を頂きました。アン・メイヒュー氏からは酸性紙や没食子インクに対する処置に加えて、ゲランガムと呼ばれる材料を使った修復手法のご紹介が有りました。皆様それぞれ実践を踏まえたお話であっただけに説得力が有り聴衆の方々も熱心に耳を傾けていました。当日は予想したよりも多くの129名に上る方々がご参加下さり熱気に満ちた研究会となりました。


徳島大学附属図書館所蔵「伊能図」の彩色材料調査

伊能図の彩色材料調査風景

 徳島大学附属図書館が所蔵する、伊能忠敬(1745-1811)による実測地図(以下「伊能図」)の本格的な学術調査を目的とする「徳島大学附属図書館伊能図検証プロジェクト」(統括:福井義浩・同館長)の一環として、彩色材料の科学調査を平成26年11月25日より4日間、同館にて行いました。伊能図は、国内では初の精密な科学的測量に基づいた地図であるとともに、地形や山河、建物等が絵画的に描写、彩色されており、近世絵図としての特徴も有しています。調査では、非接触分析手法である蛍光X線法と可視反射分光スペクトル法によって、使用されている顔料や染料の同定に関わるデータを取得しました。現在、データの解析を進めています。
 今回、調査対象とした「沿海地図」(3枚)、「豊後国沿海地図」(3枚)、「大日本沿海図稿」(4枚)はいずれも1800年から1816年の間に行われた測量に基いて作成された地図であり、それ自体の資料価値とともに、伊能図の最終版である「大日本沿海輿地全図」に至る過程を知る上でも非常に貴重です。プロジェクトでは彩色材料調査と併せて、使われた紙質や、測量図としての技術調査なども行われています。今後、これらの成果によって、伊能図の成立に関する重要な知見が得られると期待しています。


第18回ICOMOS総会への参加

会場外観
総会の様子

 2014年11月9日から14日にかけて、イタリア・フィレンツェで開催されたICOMOSの第18回総会に参加しました。ICOMOS(International Council on Monuments and Sites)は、1964年に記念物と遺跡の保存と修復に関する国際憲章(ヴェニス憲章)が採択されたことを受け、文化遺産の保護と保全に尽力する国際的なNGOとして1965年に設立されました。現在では全世界で10,000名以上の会員を擁しており、UNESCOの諮問機関として世界遺産申請の審査にあたっていることでも知られています。
 総会は3年に一度開催され、執行部の選挙や国際シンポジウムが行われます。今回の選挙ではグスタボ・アローズ会長が会長職に再任され、九州大学の河野俊行教授が5名いる副会長の一人に選出されました。また、総会と同時に開催された国際シンポジウム「Heritage and Landscape as Human Values」では、伝統的知識に基づいた持続的な保全や地域社会主導の遺産保全など、各国が遺産保護の現場で直面する共通の問題について、多岐にわたる発表がありました。さらに、今年はヴェニス憲章が採択されて50周年、オーセンティシティーに関する奈良ドキュメント(奈良文書)が採択されて20周年であることを記念して、関係者からこれらが採択された背景やその後の発展について、パネルディスカッションが行われました。
 本研究所では、今後もこうした国際会議へ参加しつつ、文化遺産保護に関する国際情報の収集と蓄積に努めたいと考えています。


国際研修「ラテンアメリカにおける紙の保存と修復」の開催

小麦糊準備の実習
裏打ち作業のデモンストレーション

 本研修は、文化財保存修復国際センター(ICCROM)のラテンアメリカ・カリブ海地域における文化遺産の保存プログラム(LATAM)の一環として、当研究所、ICCROM、メキシコ国立人類学歴史機構国立文化財保存修復機関(CNCPC-INAH)の3者協同で開催されました。11月5日から11月30日にかけて CNCPC-INAH で行われ、スペイン、キューバ、コロンビア、エクアドル、ブラジル、ペルー、アルゼンチン、メキシコの8カ国から、文化財修復の専門家9名の参加がありました。
 本研修では、日本の伝統的な紙、接着剤、道具についての基本的な知識と技術を教授し、それらを応用して各国の文化財の保存修復に役立てることを目的としています。研修の前半は、装潢修理技術に用いる材料、道具、技術をテーマに、日本人講師が講義、実習を行いました。本年度の研修では、修復作業時の安全性に直接つながる作業環境の整備、作業準備、道具の手入れ、片づけなどに重点を置いて実習を行いました。後半では、当研究所の事業「国際研修 紙の保存と修復」を修了した後、日本の技術を欧米の文化財修復に応用した経験のあるメキシコ、スペイン、アルゼンチンの講師がその活用事例を紹介し、実習を行いました。日本の装潢修理技術が、各国の文化遺産の保存修復に応用されることを期待して、今後も同様の研修を継続してゆく予定です。

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選定保存技術の調査2-琉球藍・和紙漉簀制作・左官

琉球藍(泥藍)
漉簀制作
ちりまわり(壁塗りの一工程)

 先月に引き続き、文化遺産国際協力センターでは、選定保存技術についての調査を進め、選定保存技術保持者、選定保存技術保存団体の方々から実際の作業工程やお仕事を取り巻く状況や社会的環境などについてお話を伺い、作業風景や作業に用いる道具などについても撮影記録を行っています。2014年11月には、沖縄で琉球藍製造、愛媛で和紙漉簀(すきす)制作、東京で左官の調査・取材を行いました。
 琉球藍は本土の藍とは植物の種類が違い、栽培や製造の工程も蓼(タデ)藍による藍染めとは大きく異なります。選定保存技術保持者である伊野波盛正氏と同氏の技術を継承されている仲西利夫氏より、最近の台風や天候不順が藍の生育に影響を及ぼしている状況や、藍の製造工程などについてお話を伺いました。
 愛媛では全国手漉和紙用具製作技術保存会会員で愛媛県伝統工芸士にも認定されている井原圭子氏より、漉簀制作の現状、材料である竹ひごや絹糸の調達、後継者育成の難しさなどについてお話を伺いました。
 また東京の伝統建築物復元工事現場において、中島左官株式会社による壁塗りの工程の一部を取材させて頂きました。伝統的左官技術は、全国文化財壁技術保存会が選定保存技術保存団体として認定されています。
 文化財はそのものを守るだけではなく、文化財を形作っている材料や技術も保存していく必要があります。この調査で得られた成果は、文化財の研究資料として蓄積していくと同時に、その一部は海外向けに視覚的効果の高い画像を使用したカレンダーという媒体を通じて、日本の文化財のありかた、文化財をつくり、守る材料、技術として発信していく予定です。


板橋区立板橋第一中学校で「国際理解教育」の授業を実施

授業風景1
授業風景2

 2014年11月13日、東京都板橋区立板橋第一中学校で、文化遺産国際協力コンソーシアムの関雄二副会長(国立民族学博物館教授)が、「国際理解教育」の授業を実施しました。
 板橋第一中学校は、学校支援地域本部活動校で、今回その活動の一環として、同中学の地域コーディネーターから総合授業「国際理解教育」の講師派遣依頼を受けました。コンソーシアム事務局では中学校からの依頼は初めてでしたが、今回は板橋区出身の関副会長の派遣を決定し、実現に至りました。
 授業は「文化遺産の国際協力」と題し、50分間、2学年の生徒約150名が参加する講演形式で行われました。
 前半では、まず文化遺産とは何か、日本の城郭や歌舞伎等の写真を交え、有形及び無形の文化遺産を紹介しました。次に、なぜ文化遺産を保護しなければならないのか、保護しないとどのような状況が起こるのか、保護するためには国際協力が必要であり、どのような文化遺産に関する国際協力が実施されているのか、スライドを使用してわかりやすく解説を行いました。
 後半では、関副会長の専門である南米(ペルー)での文化遺産保護に関する国際協力を事例として採り上げ、自身の幅広く豊富な経験を交えつつ、ペルーでの協力事業に関する写真を用いて説明を行いました。
 コンソーシアムでは今後もこのような文化遺産国際協力活動に関する広報・普及活動を実施し、国際協力の重要性を伝えていく予定です。


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