研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


ゲッティ研究所からの来訪

会議室にて当研究所の概要について説明をうけるゲッティ研究所のみなさん
ゲッティ研究所のみなさんは、早川泰弘分析科学室長より、研究成果の解説をたいへん興味深く聞いていらっしゃいました。

 10月22日、アメリカのゲッティ財団ゲッティ研究所の所長トーマス・ゲーケンズ博士をはじめとするスタッフ4名と同研究所の評議員のメンバー11名の方々が、視察のために来所されました。一行の来日は、関西をはじめとする国内各地の史跡等を見学し、同時に文化財研究関連の視察を目的とするものでした。
 当研究所においては、一行を迎えて、はじめに組織等の概要を説明した後、山梨絵美子(企画情報部副部長)から当研究所創設に縁のある黒田清輝について、その画業の解説があり、つぎに早川泰弘(保存修復科学センター分析科学研究室長)から、平等院鳳凰堂の鳳凰等を対象にした蛍光X線分析による最新の研究成果の一端を紹介しました。
 所長ゲーケンズ博士は、美術の研究情報発信をはじめ多様に研究をすすめるゲッティ研究所が当研究所とたいへん親近性のあることから、将来的に連携、協力をしたいとの言葉があり、今後、どのような研究の分野で実現できるのか協議をかさねていくことになりました。

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10月施設見学

第2修復実験室での説明

 文化庁主催 文化財(美術工芸品)修理技術者講習会受講者 計29名
 10月31日、文化財研究のナショナルセンターである当研究所を見学するため来訪。保存修復科学センター第1修復実験室及び第2修復実験室、漆アトリエ、第1生物実験室、無形文化遺産部実演記録室を見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。


岸田劉生作「古屋君の肖像(草持てる男の肖像)」(東京国立近代美術館蔵)光学調査

岸田劉生作「古屋君の肖像(草持てる男の肖像)」の画像撮影

 企画情報部のプロジェクト研究「近現代美術に関する交流史的研究」では、日本を含む東アジアを中心とする交流に関する調査研究を目的のひとつにしています。
 この一環として、東京国立近代美術館が所蔵する岸田劉生による「古屋君の肖像(草持てる男の肖像)」(1916年)、ならびに「壺の上に林檎が載つて在る」(1916年)の2点の油彩画の光学調査を10月16日に行いました。
 今回の調査では、いずれの作品も岸田劉生がアルブレヒト・デューラー等のヨーロッパ古典絵画から影響を深く受けていた時期の作品だけに、図様だけではなく、技法、表現等の画面の細部を検証するために行われました。
 ヨーロッパ古典絵画にみられる平滑な画面は、テンペラ、油彩等の技法をふまえて積み上げ得られた絵画であったといえますが、岸田劉生は、もとより複製図版からの受容であっただけに、そうした理解があったのかどうか、当時の作品を観察することは、受容史の面からも重要な問題です。撮影にあたっては、画家の筆致や現在の画面の状態を視覚化できるように画面に均一な光を与えるだけでなく、油彩による画面の凹凸が把握できるように作品の左側から鋭角に照らす光を加えて実施しました。(撮影担当:企画情報部専門職員城野誠治)また、同時に反射近赤外線撮影を行いました。このような撮影によって得られた画像から、描き直しや模索などの跡がまったくなく、制作時にまでにかなりイメージを固めた状態で描かれたことが確認できました。
 なお今回の光学調査は、東京国立近代美術館ならびに修復家斎藤敦氏の協力のもとに実施することができたものであり、深く感謝する次第です。またその成果は、『美術研究』に論文「岸田劉生の写実表現と『貧しき者』という芸術家像の形成―岸田劉生の『駒沢村新町』療養期を中心に」(仮題)中で公表する予定です。

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第48回オープンレクチャーの開催

講演の様子

 企画情報部では毎年秋に行うオープンレクチャーを、今年は10月31日(金曜日)、11月1日(土曜日)の両日にわたって「モノ/イメージとの対話」を総タイトルに掲げ、午後1時30分より地下セミナー室を会場にして開催いたしました。このオープンレクチャーは日々、文化財に向き合って研究を行うなかで得られた知見の一端を多くの人に知っていただくことを目的として開催しています。今年で48回目となりました。
 1日目は、文化形成研究室長・津田徹英が「一流相承系図(絵系図)の構想と機能」と題し、続いて、名古屋大学大学院教授・伊藤大輔氏が「院政期絵画における二つの美の原理―似絵の成立をめぐって―」題して講演を行いました。晴天に恵まれ108人の聴講となりました。
2日目は、近・現代視覚芸術研究室長・塩谷純が「仙台・昭忠碑、被災から復興に向けて」と題し、続いて、千葉工業大学教授・河田明久氏が「表象と本物」と題し、講演を行いました。塩谷の講演では、実際に修復に携われた高橋裕二氏にご登壇いただき報告をしていただきました。当日はあいにくの降雨となり肌寒い一日となったにもかかわらず55人の聴講がありました。
 両日ともに実施したアンケートの集計から、1日目は91.7%、2日目は83.7%の方々より満足を得たとの回答を頂戴いたしました。


新海竹太郎関係資料の受贈とガラス乾板のデータベース公開

新海竹太郎《鐘ノ音》(1924年作)制作のための写真
今回受贈した新海竹太郎関係資料より。竹太郎は《鐘ノ音》制作のために、自分の作品の鋳造をいつも頼んでいた阿部胤斎にモデルになってもらいました。その折に、さまざまな角度からモデルの姿を撮影した写真が残っています。
新海竹太郎関連ガラス乾板データベース、《鐘ノ音》の検索結果

 新海竹太郎(1868~1927年)はヨーロッパで彫刻を学び、《ゆあみ》(1907年作 重要文化財)をはじめとする作品を発表、日本彫刻の近代化に大きく貢献した彫刻家として知られています。昨年11月の活動報告でもお伝えしたように、竹太郎の孫にあたられる新海堯氏より、主にその作品を撮影したガラス乾板一式を当研究所へご寄贈いただいておりましたが、このたび新たに自筆ノートや制作に関する写真・書類等、竹太郎にまつわる資料一式をご寄贈いただくことになりました。同資料については、寄贈を仲介していただいた田中修二氏(大分大学教育福祉科学部准教授)の著書『彫刻家・新海竹太郎論』(東北出版企画、2002年)の中でも言及され、竹太郎の制作活動を解明する上で重要な資料であることが知られています。今回の寄贈を機に、田中氏にはあらためて同資料について、当研究所の研究誌『美術研究』でご紹介いただく予定です。また同資料には竹太郎と親交のあった明治期の仏教美術研究者、平子鐸嶺(ひらこたくれい)(1877~1911年)のノートも含まれており、日本近代彫刻史のみならず仏教美術史の観点からも今後調査を進めていきたいと思います。
 なお昨年ご寄贈いただいたガラス乾板については画像をデジタル化し、当研究所のホームページ上にてデータベースとして公開を始めました。
 (http://www.tobunken.go.jp/materials/sinkai)本サイトは企画情報部研究補佐員の小山田智寛の作成によるもので、竹太郎の作品および竹太郎が郷里の山形で師事した細谷風翁(ほそやふうおう)・米山(べいざん)父子の南画を撮影したガラス乾板182枚のデジタル画像を公開、作品名等の文字検索も可能です。竹太郎の代表作はもちろん、今日では現存しない作品の画像も含まれておりますので、ぜひご活用ください。

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イギリス・セインズベリー日本藝術研究所との「日本芸術研究の基盤形成事業」推進のための協議開催

Cathedral Hostryでの講演の様子

 セインズベリー日本藝術研究所(Sainsbury Institute for the Study of Japanese Arts and Cultures; SISJAC)は、ロンドンより北に車で約2時間、ノーフォーク県のノリッジ(Norwich)という小さな町に所在しています。セインズベリー夫妻によって1999年に設立されたSISJACは、日本芸術文化研究の拠点の一つとして、日本美術史や日本考古学の関係者にはよく知られた存在です。
 セインズベリー日本藝術研究所と東京文化財研究所(東文研)は、2013年7月より「日本芸術研究の基盤形成事業」を立ち上げ、主に欧米の日本美術の展覧会や日本美術に関する書籍・文献の英語情報を収集しています。これまで東文研は、日本美術にかかわる情報を収載した「文化財関係文献データベース」を公開してまいりましたが、これらの情報は日本国内に限定されたものでした。今後は、SISJACの収集した情報を東文研のデータベースに集約し、日本国外における日本美術関連情報も、東文研のデータベース上で検索が行えるようなシステムの構築を目指しております。
 本事業推進のため、2014年10月9日(木)より10月20日(月)までの約10日間、企画情報部の皿井舞がSISJACに滞在し、SISJACスタッフとともに、すでに収集した情報の確認作業や公開に向けての作業内容の手順確認等を行いました。
 また滞在期間中の16日(木)には、SISJACが毎月第3木曜日に行っている講演会Third Thursday Lectureにて、”Buddhist Wooden Sculptures in the Early Heian Period : From a Standpoint of Syncretisation of Shinto with Buddhism”と題した講演を行いました。SISJACに隣接した大聖堂内の講堂において、80人近くものノリッジ市民が日本の平安時代の木彫仏に関する講演に耳を傾けてくれました。講演後にも多くの質問が投げかけられ、日本美術に対する関心の高さを実感しました。

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第9回東京文化財研究所無形文化遺産部公開学術講座

「海道下り」佐藤友彦師

 10月18日、第9回東京文化財研究所無形文化遺産部公開学術講座を東京国立博物館平成館で行いました。今回のテーマは「流行歌としての道行―「海道下り」を中心とした能・狂言歌謡の源流と広がり―」です。旅の道程を謡った道行は昔から人々の心を引き、流行歌としてブレイクしました。大阪工業大学の岡田三津子氏の講演をまじえ、その諸相を鎌倉時代に流行した早歌から能・狂言へとたどり、現在の伝承について考察しました。第三部では佐藤友彦(和泉流狂言師)朝倉俊樹(宝生流能楽師)両氏による謡や小舞の実演も披露し、参加者から満足度の高い評価を受けました。


修復材料の適用に関する調査研究

厳島神社における試験施工

 保存修復科学センターでは、文化財の修復材料に関する調査研究を行っています。修復材料は、建造物や美術工芸品など多岐にわたる分野で様々なものが必要とされており、それぞれに対応する材料の開発や評価をします。
 厳島神社でも、大鳥居の修復材料について調査研究を継続してきています。厳島神社は、海上にあるため、苛酷な温湿度環境に置かれ、かつ風雨に直接曝され、塩類の影響も勘案しなくてはならないなど、修復材料の選定には厳しい条件が必要となります。また、潮の満ち引きなどもあるため、施工時間も限定されます。修復材料の選定は、実験室における様々な条件の劣化促進試験と、現地における曝露試験との平行で行われています。
 昨年度までの研究調査において、充填材の仕様が確定し、その表面仕上げ材について現在検討中です。10月22日と23日に今までの成果をもとに、一部の材料の試験施工を行いました。今後は、経過観察を行いつつ、適切な材料選択が可能になるよう調査を継続する予定です。


中国で開催された壁画の保護に関する二つの国際会議

敦煌検討会参加者集合写真
敦煌検討会で総括スピーチを行う山内室長
陝西省検討会参加者集合写真

 東京文化財研究所は、西アジアから日本までの広範な地域で、壁画文化財の保護のための調査研究を行っています。本年10月、その活動内容と私たちの目標をアピールする機会となる二つの国際会議が中国で開催されました。
 開催されたのは、当研究所とすでに四半世紀の共同関係がある敦煌研究院(甘粛省敦煌市)の設立70周年を記念する国際シンポジウム「2014年シルクロード古代遺跡保護国際学術検討会」(10月8、9日)と、墓室壁画の保存修復・展示公開で長年の経験を持つ陝西歴史博物館(陝西省西安市)の国際シンポジウム「全地球的視野のもとでの中国古代壁画の予防的保護研究に関する国際学術検討会」(10月16、17日)です。
 敦煌研究院からは、岡田と山内和也文化遺産国際協力センター地域環境研究室長が招待されました。岡田は「壁画の“保存”とは、何を意味するのか―莫高窟第285窟壁画調査を通して」という基調講演を行いました。山内は「アフガニスタン・バーミヤーン壁画の保護」という報告を行ったほか、最後に外国専門家を代表して会議の総括を担当し、各国の専門家が共同してユーラシア全域の壁画の保護に関する研究を行うことへの期待を述べました。
 陝西歴史博物館からは岡田が招待され、東京文化財研究所がすでに40年にわたってその保護に取り組んでいる高松塚古墳壁画の調査研究の成果をもとに、「ユーラシア大陸壁画の研究と保護―国際協力の意義」と題する報告を行い、広範な視点をもって壁画研究を行うことにより、その文化的価値についての理解を深めるべきである、という提言を行いました。

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選定保存技術の調査―蒔絵筆・本藍染・檜皮採取

蒔絵筆制作
本藍染
檜皮採取

 文化財は人類共通の財産として後世に守り伝えていく必要があります。そして文化財を作る材料、道具、修復する技術も継承、活用されていかなければ、文化財を良好な状態で保存していくことはできません。日本の文化財の保存修復技術はその有用性が海外でも認識され、応用されています。文化財の保存のために欠くことのできない伝統的な技術で保存の措置を講ずる必要があるものを、文部科学大臣は選定保存技術として選定し、その保持者および保存団体を認定しています。現在、選定保存技術の選定件数は71件、保持者数は57名、保持団体は31団体あります。
 文化遺産国際協力センターでは、選定保存技術にかんする調査を進め、広く国内外に情報発信を行っています。選定保存技術保持者の方々から作業工程や作業を取り巻く状況や社会的環境などについて聞き取り調査を行い、作業風景や作業に用いる道具などについて撮影記録を行っています。2014年10月には、京都・村田九郎兵衛商店にて村田重行氏による蒔絵筆の制作、滋賀・紺九にて森義男氏による本藍染、兵庫・粟賀神社にて大野浩二氏による檜皮採取の調査・取材を行いました。今回調査させて頂いた3件は漆芸、染織、建築といったそれぞれ異なるジャンルの伝統的、専門的技術ですが、天然の材料と真摯に向き合い、さまざまな環境の変化に対応しながら人の叡智と技術によって伝統を守り続けていることは共通すると言えます。この調査で得られた成果は、文化財の研究資料として蓄積・活用して行くと同時に、海外向けには視覚的効果の高い画像を使用したカレンダーという頒布媒体を通じて、日本文化のありかたや、文化財をつくり、守る材料・技術として国際的に発信していく予定です。


キルギス共和国及び中央アジア諸国における文化遺産保護に関する拠点交流事業

アク・ベシム遺跡出土土器の実測実習

 文化遺産国際協力センターは、文化庁の文化遺産国際協力拠点交流事業の枠組みに基づき、2011年度より、キルギス共和国及び中央アジア諸国における文化遺産保護への協力を実施しています。これまで、キルギス共和国において、「ドキュメンテーション」、「発掘」、「保存修復」、「史跡整備」をテーマに文化遺産保護に関連する分野の人材育成ワークショップを行ってきました。
 本事業の最終年度にあたり、本年は、7月に日本国内での史跡整備と展示に関する視察及びワークショップを実施し、それに引き続き、10月27日から11月1日までの6日間、第8回ワークショップ「展示と調査報告書作成に関する人材育成ワークショップ」をキルギス共和国のビシュケクで実施しました。このワークショップには、キルギスから12名の研修生が参加しました。
 キルギス国内の博物館は未だ十分な設備と人材が整えられているとは言い難いのが現状です。このため、ワークショップでは博物館における展示技法、照明や温湿度管理及び展示室の管理手法に関する講義を行いました。また、それに続いて、遺物実測や観察表作成等を含む報告書作成の技術についての講義・実習を行いました。あわせて、近年、考古学調査手法の多様化により、調査報告書に掲載される内容も多種の自然科学分析が含まれるようになってきたことから、2012~2013年度にかけて発掘研修を行ったアク・ベシム遺跡でサンプリングした動植物遺存体の分析手法に関する講義・実習も行いました。
 本枠組みでのワークショップ開催は今回で終了となります。しかしながら、キルギス及び中央アジア諸国の博物館や保存修復施設、史跡整備の現状を鑑みると、今なお文化遺産保護全般に関する国際支援が必要です。文化遺産国際協力センターは、今後もひき続き、中央アジアの文化遺産の保護を目的とした様々な文化遺産国際協力事業に取り組んでいく予定です。


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