研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


8月施設見学

第2修復実験室での説明

 高岡地域文化財等修理協会 計14名
 8月18日、富山県の高岡地域文化財等修理協会から14名が来訪。保存修復科学センター燻蒸室・第2修復実験室、修復アトリエ(漆)を見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。


企画情報部研究会―黒田清輝宛書簡について2件の研究発表

高羲東(コ・フィドン、1886-1965)「程子冠をかぶる自画像」、1915年、東京藝術大学蔵

 企画情報部の文化形成研究室では、プロジェクト研究として「文化財の資料学的研究」を進めています。この研究は、日本を含む東アジア地域における美術の価値形成の多様性を解明することを目的に、基礎的な資料の解析等を行っています。基礎的な資料の一つとして、当研究所が保管する黒田清輝宛書簡約7400件の整理とリスト化を継続的にすすめています。
 その一環であり、同時に研究成果として、黒田清輝宛書簡のなかから、中国、朝鮮等のアジア諸地域から東京美術学校に留学し、黒田に師事した学生たちの書簡、ならびに黒田と深い関係にあった画家藤島武二の書簡に基づく研究会を8月6日に開催しました。研究会では、吉田千鶴子(東京藝術大学)氏が、「黒田清輝宛外国人留学生書簡 影印・翻刻・解題」、児島薫(実践女子大学)氏が「藤島武二からの黒田清輝、久米桂一郎宛書簡について」と題して、それぞれ発表が行われました。前者については、朝鮮からの留学生であった高羲東(コ・フィドン、1886-1965)をはじめとして、東京美術学校で学んだ後にそれぞれの国の美術界で重要な活動をした人物からの書簡等6通について留学生たちの紹介とそれぞれの書簡の内容の検討がありました。また後者では、当研究所が保管する藤島書簡37通、ならびに他機関が所蔵する書簡をもとに、藤島武二が東京美術学校西洋画科に迎えられる折の交信など、これまでの藤島武二研究ではみられなかった黒田、久米と藤島の関係が次第に親密になっていく過程や、美術学校内の人事をめぐる様子が検証、紹介されました。
 今回の両氏による発表にもとづく研究成果は、『美術研究』の「研究資料」として順次掲載する予定です。

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『大洋州島嶼国調査報告書』の刊行と南太平洋大学との研究交流

大洋州島嶼国調査報告書
南太平洋大学の研究所スタッフとともに

 昨年度実施された文化庁委託文化遺産保護国際貢献事業(専門家交流)の一環である大洋州島嶼国調査報告書が刊行されました。気候変動に伴う海水面上昇による影響が懸念されるキリバス共和国・ツバル両国の文化遺産や、それを取り巻く環境について写真を中心に構成された報告書です。
 また本年度の文化遺産国際協力拠点交流事業として大洋州島嶼国の文化遺産保護に関する事業を改めて実施することになり、相手国拠点であるフィジーの南太平洋大学を8月8日に訪問。同大学の環境・サステイナブルデベロップメント(持続可能な開発)太平洋センター所長のエリザベス氏らと面会し、研究交流に関する覚書を締結するための協議を行いました。またキリバス共和国・ツバルの無形文化遺産を中心とした調査報告も行い、それに対するご意見も頂きました。
 無形文化遺産部では、本事業を通じて大洋州島嶼国の無形文化遺産の保護および記録のための技術移転・人材育成などを今後も進めてゆきます。


韓国国立無形遺産院との研究交流

膠の原材料(ニベの浮袋)

 無形文化遺産部では韓国国立無形遺産院と研究交流を行っています。本年度は菊池が8月18日より2週間、韓国の染織技術について伝承の現状を調査しました。
 染織技術の伝承には「材料や道具」の情報が不可欠です。出来上がりの見た目が似たものであっても、材料や道具が異なることで、やり方(技法)が変わり、技術にも影響があります。
 現在、日本では文化財保護法の重要無形文化財の各個認定(人間国宝)には指定要件が設けられていません。それは、どのような材料を選び、道具を用い制作していくのかの選択をできることが保持者にとって欠かせぬ要素であるとも考えられているためでしょう。一方、保持団体認定には指定要件の中で材料や道具を制限しているものもみられます。各個認定と団体認定の大きな違いがここにあると考えられます。材料や道具を制限することは制作活動において様々に作用します。生活環境の変化により、手に入りにくい材料や道具もあるからです。このような日本の現状を踏まえて、韓国では材料と道具に焦点をあてて聞き取りを行いました。
 今回調査したのは韓国で重要無形文化財として指定されている金箔、組紐、裁縫、木綿織、藍染の技術です。これらの技術は日本にも根付いていますが、材料や道具が異なります。たとえば金箔を比べてみると、日本では和紙に柿渋を塗り作られた型にフノリ、姫糊、もち糊等が使われてきたと考えられています。一方、韓国では木型とニベという魚の浮袋で作った膠を使用し接着する技術が伝承されています。現在では、ニベ膠を取り巻く環境は変化し、手に入りにくい材料となっているということでした。
 今回の調査を通じて、韓国でも日本同様、どのような材料を選び、道具を用い制作していくのか選択できることが保有者に欠かせぬ要素であると考えられていると感じました。両国とも材料や道具の供給の状況は日に日に変わっています。今まで用いていた材料や道具が選択肢として失われぬよう、技術を支える技術も伝承していくことは両国共通の課題であることが分かりました。


歴史的木造建造物保存に関するミャンマー文化省職員招聘研修

瓦を寄進する研修生(東大寺大仏殿)
修理工事の現場説明(姫路城)
乾拓の実習(天野山金剛寺)

 文化庁委託による「ミャンマーの文化遺産保護に関する拠点交流事業」で昨年度より継続中の歴史的木造建造物保存研修プログラムの一環として、日本国内での第1回招聘研修を実施しました。今回は、既にミャンマー国内での研修に参加しているメンバーの中から、ミャンマー文化省考古・国立博物館局の職員3名が、8月21日から30日までの日程で来日しました。わが国における文化財建造物保存の考え方と修理事業の実情等への理解を深めてもらうことを主な目的とする本研修では、基本的テーマに関する座学の他、関西方面をはじめとする文化財建造物修理工事現場を訪問し、設計監理を担当する修理技術者の方々からお話を伺いながら作業の手順や調査・計画の具体的手法等を学んでもらいました。
 初めて目にする大規模な修理工事の現場や、整然と並べられた解体部材の状況などは、研修生たちに強い印象を与えた様子で、現場での熱心な質疑や実習等を通じて、多くの知見を得られたようです。とりわけ、修理の過程に伴って綿密に行われる建物の調査や記録の方法、大工職人の丁寧な仕事ぶり等には大いに関心が示されていました。無論、わが国で行われている方法の全てが直ちにミャンマーに移植できるものではありませんが、今後ミャンマーでの歴史的木造建造物保存修復を担っていくべき彼らが、自らの文化遺産をいかにして将来に護り伝えていくかを考える上で、貴重な経験になったことと思います。引き続き協力事業を実施することで、同国の文化遺産保護に貢献していきたく思います。

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