研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


7月施設見学

第1修復実験室での説明

 独立行政法人国立文化財機構新任職員 計44名
 7月24日、独立行政法人国立文化財機構新任職員研修会の一環として44名が来訪。企画情報部資料閲覧室、無形文化遺産部実演記録室、保存修復科学センター分析科学研究室・第1修復実験室を見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。


7月企画情報部研究会

研究会の様子

 企画情報部では、毎月、研究会を行っています。7月は、29日(火曜日)午後3時より、部内の研究会室において、文化形成研究室長・津田徹英を発表者として、「平安木彫像の内刳りの始源」というタイトルで口頭発表を行いました。今回の発表は、自身が研究代表者となっている科研「近江の古代中世彫像の基礎的調査・研究―基礎データと画像蓄積のために―」(平成24~26年)の成果報告も一部兼ねるものでもあります。当日、研究会には、かつて当研究所の所長であった西川杏太郎氏が参加されました。西川氏は津田の口頭発表の後、ご自身が長年、仏像彫刻の修復の現場に立ち会われて、そこで培われてきた豊富な知見に立脚しながら、発表に対する所見を述べるとともに、あわせて様々なアドバイスをして下さいました。その所見・アドバイスは、専門外の参加者にも非常にわかりやすく魅力的であり、かつ、普段なかなか知り得ない仏像の造像技法に関する専門的な情報を多く含むものであり、それらを惜しみなく披瀝され、発表者はもとより研究会参加者にも非常に貴重な機会となりました。


京都文化博物館での黒田清輝展開催

《智・感・情》の光学調査に基づく画像の展示と、植田彩芳子氏(京都文化博物館学芸員)によるギャラリートークの様子
《昔語り》の原寸大画像

 1930(昭和5)年、洋画家黒田清輝の遺産を基に発足した当研究所は、その功績を顕彰するため黒田記念室を設けて代表作《湖畔》や《智・感・情》をはじめとする作品を展示し、また昭和52年より毎年一回、国内各地の美術館で「近代日本洋画の巨匠 黒田清輝展」を開催してきました。2007(平成19)年に作品が東京国立博物館へ移管となった後も同館との共催で各地での巡回展を続けてきましたが、黒田の没後90年となる今年は、《舞妓》や《昔語り》等、たびたび黒田作品の舞台となった京都での開催となり、京都文化博物館を会場に6月7日から7月21日まで行ないました。
 今回の展観では《湖畔》や《智・感・情》といった黒田の作品に加え、当研究所での光学調査による画像もインスタレーション風に展示されました。また当研究所に残っていたガラス乾板をもとに、戦災で失われた大作《昔語り》の原寸大画像(189×307㎝)を展示、その大きさをあらためて実感する機会となりました。開催初日の6月7日には特別講演会「黒田清輝と日本の近代美術」で塩谷が講師をつとめ、6月21日には京都文化博物館学芸員の植田彩芳子氏が「黒田清輝は京都で何を見たか」と題して、最新の研究成果をふまえたレクチャーを行ないました。黒田の留学先にちなんで6月20日には京都市立芸術大学音楽学部生によるフランス音楽のコンサートも開かれるなど、より多くの方が楽しめるイベントもあり、展覧会は好評のうちに終了、例年の巡回展をはるかに上回る4万余の方々にご来場いただきました。
 なお、これらの黒田作品を常時公開する黒田記念館が平成27年1月2日からリニューアル・オープンするのに伴い、このたびの京都展をもって、毎年催してきた巡回展は終了となります。《湖畔》や《智・感・情》にくわえ、《読書》や《舞妓》といった黒田の代表作を一堂に展示し、また従来よりも開館日数を増やしますので、より多くの方々に上野でご鑑賞いただきますよう、今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

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宮城県女川町の復活獅子振り調査

復活!獅子振り披露会に集まった女川の獅子

 宮城県女川町では、獅子舞を「獅子振り」と呼びます。女川町にはリアス式海岸の入り組んだ浦に点在する集落のほとんどに、その獅子振りが伝承されています。しかしその多くが東日本大震災によって壊滅的な被害を受け、道具類が数多く流失しました。それでも再開を望む声は高く、幸いにもいくつかの支援を受けて道具類の再建が叶いました。
 そうして昨夏、復活した獅子振りが一同に会して「復活!獅子振り披露会」が催されました。獅子は本来正月の行事ですが、震災前には7月末に「女川みなと祭り」の中で海上獅子舞がおこなわれていました。集落ごとの獅子が漁船に分乗して海上パレードをするこの行事は、歴史的には新しいものですが既に女川の人々の中に深く根付いています。本年は未だ港湾施設の復興が叶わず、小学校の校庭での披露会となりましたが、集まった大勢の女川町民は、いくつもの獅子が乱舞する様子に、盛んに声援を送っていました。無形文化遺産部では、震災後の女川の獅子振りを継続調査していますが、今年度は獅子振りを中心とした民俗誌の作成に取りかかっています。


「博物館・美術館等保存担当学芸員研修」の開催

殺虫処置実習の様子

 表題の研修は、資料保存を担う方々が、そのための基本知識や技術を学ぶことを趣旨として、昭和59年以来毎年、東京文化財研究所で行っているものです。今年度は、7月14日より2週間の日程で行い、全国から31名の資料保存を担う学芸員や文化財行政担当者が参加しました。
 2週間の間に、温湿度や空気環境、生物被害防止といった資料保存環境の重要事項、また、資料の種類ごとの劣化原因と対策、さらに今回は、災害対応として、水損や放射性物質汚染に関する内容を研究所内外の専門家がそれぞれ担当し、講義や実習を行いました。博物館の環境調査を現場で体験する「ケーススタディ」は清瀬市郷土博物館のご厚意により、同館で行いました。参加者が8つのグループに分かれて、それぞれが設定したテーマに沿って調査し、後日その結果を発表しました。
 参加者のほとんどは、現場での長い実務経験があり、それぞれに資料保存において解決すべき施設や設備上の問題意識を持っています。本研修は、学術的観点からの資料保存に重きを置いているため、その理想と現実とのギャップに戸惑う参加者も多く、そのために講義ごとに非常に多くの質問や相談が寄せられます。まさに、そのギャップを認識し、博物館の第1の使命である資料保存のために、現状をスタート地点として何をすべきかを考えて頂くことが本意であり、研修後も参加者とのつながりをしっかりと維持して、相談や助言に応じていきたいと考えています。
 例年、本研修の受講者募集と応募は、都道府県教育委員会の担当部署を通じて行っており、次回の開催通知は平成27年2月頃より、配布予定です。


キルギス共和国及び中央アジア諸国における文化遺産保護に関する拠点交流事業

人材育成ワークショップに参加した研修生と金沢大学の大学院生

 文化遺産国際協力センターは、中央アジアの文化遺産保護を目的に、文化庁の受託を受け、2011年度より、中央アジア、キルギス共和国において「ドキュメンテーション」、「発掘」、「保存修復」、「史跡整備」をテーマに一連の人材育成ワークショップを実施しています。
 2014年7月3日から7月14日までの12日間、第7回目のワークショップ「史跡整備と展示に関する人材育成ワークショップ」を実施しました。
 今年の6月カタールで開催された世界遺産委員会で中央アジアのシルクロード関連史跡が世界文化遺産に登録されることが決定しました。しかし、ほとんどの史跡では史跡整備が追い付いていないのが現状です。現在、史跡整備、オンサイト・ミュージアムの建設は、中央アジア諸国で緊急の課題となっています。
 そのため、今回、キルギス共和国から3名、アフガニスタン・イスラーム共和国から3名の若手専門家を日本に招聘し、「史跡整備」と「展示」に関する人材育成ワークショップを実施しました。東京文化財研究所、奈良文化財研究所において、講義を実施したのち、日本を代表する考古博物館や史跡などの視察を行いました。
 また、今回の人材育成ワークショップには、金沢大学国際文化資源学センターが実施する「文化資源マネージャー養成プログラム」などの大学院生8名も参加してくれました。


カンボジア・タネイ遺跡における三次元写真計測

データ処理に取り組むアプサラ機構のスタッフたち
SfMによるタネイ遺跡内回廊西辺西側の三次元モデル

 アンコール遺跡群の保存管理を担当するアプサラ機構との共同研究・協力事業の一環として、7月21日から30日までの日程で、タネイ遺跡において同機構のスタッフとともに三次元写真計測を行いました。アプサラ機構が近年中に着手を予定しているタネイ遺跡の保存整備事業に向けた計画検討のための基礎資料作成に対する技術支援として、写真測量による三次元計測をもとに、立面図と散乱石材の記録のための一連の手順の確立を目指したものです。
 三次元計測の技術は日進月歩ですが、今回、私たちが試行したのはSfM(Structure from Motion)という手法で、高価な機材やソフトウェアを必要としない比較的簡便な方法であることが特筆されます。現場ではスマートフォン等の簡易なカメラで遺跡の現状写真を網羅的に撮影し、それらのデータをオープンソースのソフトウェアを用いて処理することにより、対象物の三次元モデルを得ることができます。一連の作業を通して得られたモデルの精度については、更に詳細な検証を要しますが、基礎資料として利用可能な水準にあるものと考えています。
 今後、カンボジア側がこのような手法を用いて寺院全域を記録していく過程で、実用面ではなお乗り越えるべき課題が残されているものと思いますが、特別な予算や機材を準備することが難しい同国のような発展途上国の遺跡保存の現場において、現地のスタッフ自らが日常業務の範囲内で遺跡の現状を記録できる手法として発展していくことが期待されます。

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