研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


企画情報部研究会の開催―廉泉の大村西崖宛書簡について

廉泉のポートレート(東京芸術大学美術学部教育資料編纂室蔵)

 企画情報部の近・現代視覚芸術研究室では、日本を含む東アジア諸地域の近現代美術を対象にプロジェクト研究「近現代美術に関する交流史的研究」を進めています。その一環として4月25日の企画情報部研究会では、東京工業大学准教授の戦暁梅(せんぎょうばい)氏に「廉泉(れんせん)の大村西崖(おおむらせいがい)宛書簡について」の題でご発表いただきました。廉泉(1863‐1932)は書画蒐集家、詩人として活躍した近代中国の文人で、数回にわたり来日し、コレクションの展覧や図録の出版を行っています。東洋美術史の泰斗として知られる大村西崖(1868‐1927)に廉泉が宛てた書簡34通が、東京芸術大学美術学部教育資料編纂室に近年寄贈された西崖関連資料の中に含まれており、今回の発表はその調査研究に基づいたものです。廉泉は唐寅(とういん)、文徴明(ぶんちょうめい)、王建章(おうけんしょう)といった明清書画家の扇面1000点余を所持していましたが、書簡にはとくにその扇面コレクションの売却をめぐる内容が多くみられ、文面からは西崖への信頼関係の深さがうかがえます。西崖も大正10(1921)年から翌年にかけての中国旅行の折に、呉昌碩(ごしょうせき)や王一亭(おういってい)といった書画界の著名人への紹介等、廉泉の世話になったことが書簡からわかり、当時の日中文化人の交流をヴィヴィッドに伝える貴重な資料といえるでしょう。研究会には著述家・中国版画研究家の瀧本弘之氏や東京芸術大学美術学部教育資料編纂室の吉田千鶴子氏も参加され、議論を深めていただきました。この廉泉の書簡については、当部編集の研究誌『美術研究』で戦暁梅氏によりあらためて翻刻・紹介する予定です。

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南相馬市山田神社の祭礼調査

山田神社祭礼

 東日本大震災の被災地における無形文化遺産に関する状況調査の一環として、2014年4月23日に、福島県南相馬市の山田神社例祭を訪れました。海岸部にある同神社は、震災時の津波によって流失し、氏子地区にも多大な犠牲が出ています。宮司の森幸彦氏は福島県立博物館の学芸員をも勤められ、無形文化遺産部で開催した無形文化遺産情報ネットワークでも様々なご意見を頂戴しています。
 山田神社は、震災後に熊本県からのボランティア活動によって仮社殿が建てられ、また広く報道も為されたために、当日は氏子以外にも多くの参列者がありました。しかし、周辺では氏子組織が崩壊の危機に瀕している地域も多く、神社の維持・再建にはなお大きな課題が残されています。神社や寺院といった宗教施設は、政教分離の観点から文化財行政とは切り離して考えられる傾向にありました。しかしその一方で、そうした存在が無形文化遺産の継承と深く結びついていることも事実です。そのためには、今後も情報や課題を共有してゆく必要があると考えています。


東京藝術大学大学院との協力-新学年を迎えて

水浸した紙の取り扱い実習風景

 平成7年4月から東京藝術大学大学院に協力して、文化財保存学専攻にシステム保存学連携講座を開設し、当所研究員6名が保存環境や修復材料に関する授業を行い、大学院教育に従事しています。新学年を迎えて、文化財保存学専攻に修士1年21名、博士1年9名が入学しました。システム保存学講座も新たに修復材料学教室に修士1年生(指導教員:早川典子連携准教授)を1名受け入れ、保存環境学教室に在籍する修士2年生(指導教員:佐野千絵連携教授)1名と合わせて、2名の学生の論文指導を行っています。当所研究員の研究範囲は多岐にわたるため、大学院の既存講座ではカバーできない保存科学の広範囲の研究者を育てることができる点がこの連携大学院の魅力で、他の講座の学生も質問にやってきます。また教員にあたる所員にとっても、学生の疑問や興味を通して未解決な課題を見つける機会となり、更なる研究の発展が期待できます。新しい分野に飛び込んできた学生たちと、充実した1年がまた始まります。


ロビー展示「海外の文化財を守る日本の伝統技術」

ロビー展示風景
展示部分画像「絵を描く」群青が絵絹にのる様子

 当研究所1階エントランスロビーでは、定期的に研究成果や事業紹介を行っています。今回の展示では書画を作り、鑑賞し、修復し、保存していくために必要不可欠な材料と技術についてご紹介します。企画は文化遺産国際協力センターが担当し、全ての画像を企画情報部画像情報室の城野誠治が撮影しました。そして文化財が様々な材料と技術が複合的に用いられて形作られていることを実感して頂くため、表紙と軸木も取り付けた、縦1.15m、横14mの長大な絵巻仕立てで構成しました。紙の繊維が重なって一枚の紙ができていくところ、岩が砕かれて鮮やかな絵具として精製されるところ、糊が入念に練られてしなやかにのびていくところなど、それぞれの材料や技術の特性が表れる一瞬を、大きな画像で示しています。併せて和紙・絵絹・絵具・唐紙・装潢の道具などの実物も展示ケースにて展示しています。今日では、この展示で紹介する材料や道具を作る技術、文化財を修復する技術自体も守っていく必要があり、国の重要無形文化財、選定保存技術に指定、認定されています。一方で、これらの日本で培われてきた技術や材料は広く海外でその有効性が認知され、海外の文化財修復に応用されてきています。当研究所では日本の修復技術や材料に関する正しい知識の普及のため、海外向けの研修事業も行っております。日本の優れた伝統技術によって、世界の文化財が守られ、後世に伝えられていくことにご理解いただければ幸いです。


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