研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


研究会「アート・アーカイヴの諸相」の開催

 研究プロジェクト「文化財の研究情報の公開・活用のための総合的研究」の一環として、2月25日に加治屋健司氏(広島市立大学)、上崎千氏(慶応 義塾大学アートセンター)を招へいし、企画情報部アソシエートフェロー橘川英規を加えて、日本及びアメリカの現代美術のアーカイヴに関する研究会 を当研究所セミナー室で開催しました。
 第1部の個別発表では、加治屋氏がアメリカにあるアーカイヴ機関(スミソニアン美術アーカイヴ、ゲッティ研究所、MoMAなど)を美術史家という 利用者の視点からその利用について、クレメント・グリンバーグの書簡を挙げて紹介、上崎氏は草月アートセンターのエフェメラ資料群データベースを 用いてアーキヴィストの思考性について発表、橘川は画家中村宏氏作成ノートを例に「ライブラリアンによるアーカイヴ資料紹介」を試みました。第2 部では、個別発表を踏まえ、ディスカッションを行い、その中で、それぞれの立場でのアーカイヴの考え方の共通性と差異性が明確に提示されまし た。本研究会には外部聴講者を含めて95名の方に参加していただき、会場の専門家らからも活発に意見が交わされ、改めて「美術研究にとって有益な アーカイヴの在り方」を考え直す良い機会となりました。


馬場南遺跡出土鼓胴の調査

馬場南遺跡から出土した鼓胴(写真・京都府立埋蔵文化財センター蔵)

 2008年に京都府木津川市の馬場南遺跡で出土した須恵器製の鼓胴について、京都府埋蔵文化財調査研究センターにおいて発掘状況および、復元の過程について調査員と検討をおこなった。陶製の鼓胴は、日本ではこれまで正倉院の三彩鼓胴しかなく、馬場南遺跡での発掘は楽器史上、大きな意義を持つ。2010年の報告書と研究センター紀要の松尾氏論では、復元した結果が異なっていた。その経緯について松尾氏から話をうかがい、実際に計測等をおこなって、報告書や松尾氏論とも異なる復元法も可能であるとの知見を得た。さらに調査を進めて、古代陶製鼓胴についての論をまとめる予定である。


文化財の放射線対策に関する研究会

研究会の様子①
研究会の様子②

 平成23年3月東日本大震災に伴って起こった東京電力福島第一原子力発電所事故により多量の放射性物質が排出され、文化財の被災が懸念される事態となりました。文化財保護の観点から、福島県の文化財施設や文化財の放射線被害の現状把握、計測手法の確立、文化財の移動の基準、除染方法等を検討するため、東京文化財研究所は、独立行政法人文化財機構、独立行政法人国立美術館、全国美術館会議、福島県教育庁、福島県内文化施設とともに、平成24~25年度の2か年をかけて「文化財の放射線対策に関する調査研究」を進めました。その総括報告会として2014年2月12日に標記の研究会を開催しました。
 当日は、まず研究リーダーである石崎武志副所長が主旨説明を行い、桧垣正吾先生(東京大学)から放射線に関する講義がありました。続けて伊藤匡氏(福島県立美術館)からは経緯について貴重なお話をうかがうことができました。その後、ワーキンググループの活動報告を当センターの佐野千絵・北野信彦が行いました(外部からの参加者 36名)。
 研究会の配布資料の一部、『博物館美術館等のリスクマネージメント-放射性物質に汚染された塵埃への対応を中心に-(20140210案)』、『文化財の除染に対する基本的考え方(20140210案)』については、ホームページで公開しております。ぜひご覧ください。


ミャンマー壁画修復専門家の日本招聘研修

研修風景(日本の古墳壁画修復事例の紹介)

 文化庁委託「平成25年度文化遺産国際協力拠点交流事業」の一環として、ミャンマー連邦共和国文科省に所属する壁画修復専門家2名を、2月3日から2月7日の間日本に招聘しました。招聘期間の前半には、壁画修復に関する研修として、日本の絵画書籍を修復する修復工房の見学、日本における壁画修復の事例についての講義や、日本の古墳壁画の修復に使用される材料や技術についての講義と実習を行い、招聘期間の後半には、京都・奈良にある寺院壁画等の視察を行いました。視察中は、講義で紹介した壁画を実際に間近で観察しながら、日本およびミャンマーにおける修復材料や技術について活発な意見交換が行われ、ミャンマー招聘者の壁画修復に対する意欲の高さがうかがわれました。今後も同国の壁画修復家らを招聘し同様の研修を行うことで、壁画修復に関する両国の協力体制をより強固なものにしてゆきたいと考えています。

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ミャンマーにおける第1回木造建造物保存研修

文化財保護に関する基礎講義
インワ・バガヤ僧院での実測調査

 文化庁委託文化遺産国際協力拠点交流事業の一環として、2月4日から12日までの日程で、第1回の木造建造物保存研修をマンダレー及びインワにて実施しました。本研修は、ミャンマーの伝統的建造物の中でも未だ十分な保護の対象となっていないコンバウン王朝時代の木造僧院建築に焦点をあて、その適切な保存に向けた基礎調査、記録・図面作成、保存管理・修理計画策定等をテーマに実施するもので、主に同国文化省考古・国立博物館局の若手から中堅のスタッフを対象として、3年間で全5回の現地研修を予定しています。第1回研修には11名の研修生が参加し、建築史・修復史や文化財保護制度等に関する基礎講義の後、インワのバガヤ僧院において、建造物調査のもっとも基本となるスケッチと平面実測を行いました。
 歴史的な木造建造物の保存及び修理に関して我が国は豊富な専門知識と経験を蓄積していますが、ミャンマーの伝統的な建築技法や様式等に関しては調査研究が十分ではなく、未解明の点が多く残されています。往時の建造物がどのような寸法体系で、どのように設計され、建築されたのか、といった視点をもって、研修生とともに調査に臨むことを通じて、ミャンマーにおける木造建造物の史的再評価も目指しています。研修生たちは非常に意欲的に参加しており、今後の一連の研修の中で必要な技術と視点を身に付けていくことが期待されます。

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アメリカ・ボストンにおける動産文化財の保護についての調査

ボストン美術館
イザベラ・ガードナー美術館

 文化遺産国際協力センターでは各国の文化財保護制度に関する調査・研究を行っています。そのプロジェクトの一環として、昨年度に引き続き、アメリカにおける動産文化財の保護についての調査を実施しました。世界有数の博物館・美術館が存在しているにも関わらず、アメリカには動産文化財の保護・管理に当たる省庁はなく、国として規制・監督していることは限られています。昨年度までの調査により、アメリカでは当該分野に関連する非営利団体と関係省庁が自発的に連携し、災害時や問題発生時には複数の組織が効率よく機能し、問題解決を実現している様子が確認されました。また、日々の動産文化財の管理については、各博物館・美術館の独自の倫理観に大きく依拠している現状も明らかになりました。
 そこで、今年度は、2014年2月10日~14日にかけて、江村知子と境野飛鳥の2名で、ハーバード大学美術館とボストン美術館を対象に、より具体的な聞き取り調査を行いました。また、イザベラ・ガードナー美術館では個人の遺言が所蔵品の管理方法に対して大きな効力を及ぼしている状況について調査しました。今回の調査を通じて、特にボストン美術館は、地元の有志によって公的組織として設立されたという経緯から、社会における同館の位置付けが重要視されており、それが同館の所蔵品管理における倫理観にも影響を及ぼしていることを窺い知ることができました。
 美術館・博物館の設立経緯やコレクションの形成過程が、今の文化財管理に反映されている可能性も視野に入れつつ、今後もアメリカ国内の博物館・美術館において、調査を継続したいと考えています。


キルギス共和国及び中央アジア諸国における文化遺産保護に関する拠点交流事業

土器の修復、復元を行うキルギス人若手専門家

 文化遺産国際協力センターは、中央アジアの文化遺産保護を目的に、文化庁の受託を受け、2011年度より、中央アジア、キルギス共和国において「ドキュメンテーション」、「発掘」、「保存修復」、「史跡整備」をテーマに一連の人材育成ワークショップを実施しています。
 2014年2月10日から2月15日までの6日間、キルギス共和国国立科学アカデミー歴史文化遺産研究所と共同で、第6回目のワークショップ「出土遺物の保存修復に関する人材育成ワークショップ」を実施しました。
 今回の研修では、各研修生がキルギス国内で発掘した考古遺物を持ち寄り、専門家の指導のもと、それぞれが保存修復作業を実施しました。また、新規の内容として「考古遺物のレプリカ作り」に関する実習も行いました。
 今回の研修には、毎回、参加するキルギス人若手専門家8名のほかに、キルギスタン・トルコ・マナス大学のタバルディエフ教授が学生を引き連れ見学にこられ、研修は盛況のうちに終了しました。
 文化遺産国際協力センターは、今後もひき続き、中央アジアの文化遺産の保護を目的とした様々な人材育成ワークショップを実施していく予定です。


ミャンマー文化省職員の日本招聘及び研究会開催

研究会「ミャンマーの文化遺産保護に関する現状と課題」
今城塚古墳公園

 2月17日から22日までの日程で、ミャンマー文化省考古・国立博物館局職員3名を日本に招聘しました。18日には東京文化財研究所において、「ミャンマーにおける文化遺産保護の現状と課題」と題した研究会を昨年度に引き続き開催したほか、関東及び関西地域に所在する様々なカテゴリーの文化遺産(建造物、美術工芸品、史跡、重要伝統的建造物群保存地区等)を見学するとともに、各地の保存管理担当者よりお話をうかがい、意見交換を行いました。
 研究会では、ミャンマー側の3氏から、ご自身が携わる文化遺産保護に関する取り組みを中心にご発表いただきました。ピュー古代都市での発掘調査や遺跡保存の状況、ベイタノーでの保存管理計画や住民啓発活動、またインワのバガヤ僧院での修理・補修工事について、多数の写真を交えながらご報告いただきました。日本側からは、東京及び奈良の文化財研究所から3名の専門家が、ミャンマーとの間で実施している協力事業の進捗と今後の展望について報告し、会場との間でも活発な質疑応答が行われました。
 国内の文化遺産関連施設見学では、東京国立博物館、大塚・歳勝土遺跡公園、横浜市歴史博物館、仁和寺、法隆寺、奈良文化財研究所・平城宮跡、京都府南丹市美山町重要伝統的建造物群保存地区、今城塚古墳・古代歴史館・新池埴輪製作遺跡等を訪問し、わが国の文化遺産保護の現状について理解を深めていただきました。

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