研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


10月施設見学(1)

化学実験室での説明(10月7日:タイ・チュラーローンコーン大学)

 タイ・チュラーローンコーン大学 14名
 10月7日、日本の伝統的建造物・建築物の保存の先端技術見学のため来訪。保存修復科学センター分析科学研究室室及び文化遺産国際協力センターを見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。


10月施設見学(2)

実演記録室での説明(10月7日:東京学芸大学)

 東京学芸大学教育学部文化財科学ゼミ 17名
 10月7日、文化財の保存・修復の現場を見学するため来訪。企画情報部資料閲覧室、無形文化遺産部実演記録室及び保存修復科学センター分析科学研究室を見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。


10月施設見学(3)

修復実験室での説明(10月11日:「市民と共に ミュージアムIPM」参加者)

 文化庁ミュージアム活性化支援事業「市民と共に ミュージアムIPM」参加者 36名
 10月11日、文化財の保存・修復の現場を見学するため来訪。保存修復科学センター生物実験室、修復実験室を見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。


10月施設見学(4)

国際研修室での説明(10月18日:金沢大学)

 金沢大学 14名
 10月18日、文化遺産保護に関する国際協力や最新保存修復方法の現状を学ぶため来訪。保存修復科学センター分析科学研究室、文化遺産国際協力センターを見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。


第8回無形文化遺産部公開学術講座「昭和初期上方落語の口演記録」

第8回無形文化遺産部公開学術講座の案内

 無形文化遺産部では、昨年度に引き続き、所蔵資料を題材とした公開学術講座を開催しました。これまで研究目的で収集蓄積してきた資料の存在を、広く一般の方々にも知っていただくことを目的の一つとしています。
 今年はニットーの長時間レコードを取り上げました。ニットー(日東蓄音器株式会社)は大阪にあったレコード会社で、昭和初期(1920年代後半)に長時間レコードを発売していました。一般的なレコードとは異なる方式で録音されていたため、今日では容易に聴くことができません。
 ニットー長時間レコードには、戦前の上方を代表する落語家、初代桂春団治、二代目立花家花橘、二代目笑福亭枝鶴(五代目笑福亭松鶴)が吹き込みを行っていました。ニットー長時間レコードにしか収録されていない演目が含まれているばかりでなく、その出来栄えとしても非常に面白い口演が記録されていました。今回の学術講座では、可能な限り多くの時間を割いて、昭和初期の上方落語の名演を聴いていただきました。

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タジキスタン共和国出土初期イスラームの壁画の保存修復

壁画断片の接合部の形状確認作業(タジキスタン、フルブック遺跡出土)

 9月19日から10月14日まで、タジキスタン国立古代博物館においてフルブック遺跡出土の壁画断片の保存修復作業を実施しました。この壁画断片は、初期イスラーム時代に製作されたと推定されており、類例が少ないため、同国の歴史に関わる貴重な学術資料のひとつです。当研究所では、2010年度よりこの壁画断片の本格的な保存修復を実施しています。
  壁画は断片化した状態で発掘されており、処置の開始時には彩色層および下塗りの石膏層が著しく脆弱化した状態でした。昨年度までに、彩色表面の強化、細かく割れた小断片の接合、裏打ちなどの処置を行いました。今年度は、よりいっそうの断片の構造的な安定化を目指し、壁画断片の背面に土壁を模した擬似土を接着しました。また、この処置によりこれまで不均一であった断片の厚さをほぼ一定にすることができ、表面の高さを合わせることが可能になりました。さらに、断片の欠損個所や接合箇所には充填を行い、全体のバランスを見ながら充填箇所の色合わせを行うことにより、図像が見やすくなりました。今後は、タジキスタン国立古代博物館において安全に展示する方法を検討していく予定です。
 なお、本修復事業の一部は、住友財団「海外の文化財維持・修復事業」の助成により実施しています。

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バーミヤーン遺跡保存事業-第11次ミッション-

フォラディ谷で新たに発見された石窟

 文化遺産国際協力センターは、2003年よりアフガニスタン情報文化省及び奈良文化財研究所等と共同でバーミヤーン遺跡保存事業を行っています。アフガニスタン現地の治安情勢を鑑み、2010年に実施した第10次ミッション以来現地調査を中断せざるを得ない状態が続いていましたが、9月28日から10月6日にかけて約3年振りとなる第11次ミッションを派遣しました。
 3年間の空白を埋めるべく実施された今回の予備的調査では、まずバーミヤーン谷やフォラディ谷での仏教壁画や石窟の保存状態を確認しました。併せて、気象観測データや石窟内の温湿度等の環境計測データの回収も行いました。これらの基礎情報に基づいて、来年度以降のミッションでの保存修復活動をより具体的に計画・立案する予定です。また、過去3年間進んだ開発に伴う考古遺跡の遺存状態を確認するために考古遺跡の踏査も行いました。特にフォラディ谷の踏査ではこれまでの調査で記載されていなかった新たな石窟寺院が発見されました。この石窟はフォラディ谷では最古級の6世紀後半に年代づけられる可能性があります。そのほか、武庫川女子大学の協力を得て進められている新博物館構想に向け、博物館建設予定地の景観に関する基礎情報も収集しています。現地バーミヤーン大学の学生を対象としたバーミヤーン遺跡の歴史や文化、これまでの保存活動に関するレクチャーも実施し、多くの参加者が集まりました。アフガニスタン現地で文化遺産保護を担う新たな世代の登場が大いに期待されます。


ミャンマーの文化遺産保護に関する現地調査

パゴタ No.1205
気象観測装置の設置

 東京文化財研究所が文化庁から受託している「文化遺産保護国際協力拠点交流事業」の一環として、10月23日から11月1日にかけて、ミャンマー連邦共和国にてミャンマーの文化遺産保護に関する調査を行いました。今回のミッションでは、ミャンマーの美術工芸品のうち、寺院の壁画と漆製品に関する調査を行い、ミャンマー文化省考古・国立博物館図書館局の担当職員や、大学職員の方々に同行・対応をいただきました。
 バガンで行った寺院の壁画の調査では、日本とミャンマーとで調査修復を行う予定である仏教遺跡パゴダ、No.1205で堂内の壁画の撮影や損傷状態の調査を行いました。また、壁画の劣化に影響を及ぼす気象条件を知るための環境モニタリングとして、パゴダNo.1205の堂内外に温度湿度データロガーを、ミャンマー文化省考古・国立博物館図書館局バガン支局敷地内に気象観測装置を設置しました。今後、同支局員らと協力しながらデータの回収と解析を行い壁画の修復方針を検討してゆく予定です。
 マンダレーで行った漆製品に関する調査では、現在ミャンマーで製作されている漆製品の技法や材料についての見学や聞き取りを行うために、カマワザ、ガラスモザイク、乾漆や鉄鉢などの工房を訪問しました。また、バガンでは竹工芸材料の原材料調査と漆芸技術大学の付属博物館に収蔵されている古い漆製品の悉皆調査を行いました。今後も同様の調査を継続してゆく予定です。


「世界遺産の未来―文化遺産の保護と日本の国際協力」の開催

キショー・ラオ世界遺産センター長基調講演
会場風景
パネルディスカッション

 文化遺産国際協力コンソーシアム(以下コンソーシアム)では、毎年一般の方を対象にシンポジウムをおこなっています。今年は10月26日(土)に、国連大学ウ・タント国際会議場にて、「世界遺産の未来―文化遺産の保護と日本の国際協力」(主催:コンソーシアム、文化庁)として開催しました。
 昨今、世界遺産が大きな注目を集めており、世界各地の世界遺産の保護に向けて、我が国の文化遺産国際協力にも期待が高まっています。今回のシンポジウムにおいては、カンボジア・アンコール遺跡やアフガニスタン・バーミヤーン遺跡など、我が国が行なってきた世界遺産に対する国際協力について紹介すると同時に、こうした協力の現場で活躍する我が国の専門家より、それぞれの世界遺産が直面する様々な課題をご報告頂き、今後の国際協力のあり方について議論する場としました。
 まず、基調講演として、世界遺産条約が過去40年に亘って信頼性のある国際的な枠組みの提供を通じて達成した文化遺産保護におけるその課題と今後の展望について、キショー・ラオユネスコ世界遺産センター長からご講演いただきました。
 次に、世界各地の文化遺産の保護と国際協力の事例報告として、カンボジアについて石澤良昭会長より、ホンジュラスについて寺崎秀一郎中南米分科会委員より、エジプトについて近藤二郎西アジア分科会委員より、アフガニスタンについて前田耕作副会長より、ご報告いただきました。
 報告後のパネルディスカッションでは、関雄二中南米分科会長を司会にお迎えし、我が国が行う世界の文化遺産保護の国際協力の強みと今後の課題について、活発な議論が展開されました。
 今回は、我が国が世界文化遺産に対して行ってきた国際協力の話を数多く紹介した今回のシンポジウムとして、例年より幅広い年齢層の方にお越しいただき、来場者からも高い評価を頂きました。今後も、コンソーシアムでは、文化遺産保護に係る問題をより多くの方にご関心を持って頂ける機会を設けていきたいと考えています。

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シンポジウム「シリア復興と文化遺産」

発表を行うユーセフ・カンジョ博士

 「アラブの春」に端を発した中近東諸国における民主化運動はアラブ世界に大きな変化をもたらしました。シリアにおいても2011年4月に大規模な民主化要求運動が発生し、そのうねりはとどまることを知らず、現在では事実上の内戦状態となっています。シリア国内の死者はすでに10万人を超え、多くの国民が難民となることを余儀なくされ、隣国に逃れる中、対立は激しさを増しており、いまだに出口が見えない状況です。
 内戦が繰り広げられる中で、文化遺産の破壊もまた世界的なニュースとして大きく取り上げられています。とくに、風光明媚な古都として知られているシリア第2の都市アレッポでは激しい戦闘が行われ、世界遺産に登録されている歴史的なスークが炎上し、アレッポ城が損壊を受けるなど、文化遺産が重大な危機に曝されています。これを受けて、ユネスコ世界遺産委員会は、2013年6月20日、内戦が続いているシリア国内にある6つの世界遺産のすべてを「危機遺産」に登録しました。
 このような状況を踏まえ、東京文化財研究所は、日本西アジア考古学会の後援を受け、さる10月31日にシンポジウム「シリア復興と文化遺産」を主催しました。
 シンポジウムでは、現アレッポ博物館館長であるユーセフ・カンジョ博士を含む9名の専門家が、「シリア内戦の現状と行方」、「シリアの歴史と文化遺産」、「シリア内戦による文化遺産の破壊状況」、「文化遺産の復興と国の復興」に関して発表を行い、その後、パネル・デスカッションにおいて、「現在そして今後、シリアの文化遺産復興に関して何をなすべきなのか」を活発に議論しました。


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