研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


11月施設見学(1)

修復実験室での説明(11月10日)

 九州国立博物館ミュージアム活性化支援事業「市民と共に ミュージアムIPM」参加者 計14名
 11月10日、今後の博物館美術館等文化施設におけるIPM(総合的有害生物管理)実践に役立てるために文化財保存にかかる研究活動について見学するため来訪。保存修復科学センター修復実験室、燻蒸室及び生物科学研究室並びに文化遺産国際協力センター修復アトリエを見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。


11月施設見学(2)

画像情報室での説明(11月15日)

 韓国文化財研究所 クォン・ハクナム氏 ほか4名
 11月15日、韓国文化財研究所の文化財保存事業の一環として来訪。企画情報部画像情報室、保存修復科学センター修復実験室及び第1科学実験室を見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。


11月施設見学(3)

化学実験室での説明(11月21日)

 三菱重工業株式会社 長崎造船所 史料館・館長 横川 清氏
 11月21日、三菱重工業株式会社 長崎造船所史料館の所蔵品「あるぜんちな丸一等食堂 漆棚」の修復を東京文化財研究所に委託するに当たって、修復作業を行う実験室・アトリエを見学するため来訪。保存修復科学センター修復実験室及び化学実験室並びに文化遺産国際協力センター修復アトリエを見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。


11月施設見学(4)

修復アトリエでの説明(11月25日)

 モンゴル国際遊牧文明研究所国際プロジェクト・コーディネーター教授A.オチル氏
 大谷大学文学部教授 松川節氏
 11月25日、近年モンゴル国で発現した白樺樹皮文書についての意見交換と、日本における紙文書の保存修復の現状視察のため来訪。保存修復科学センター修復実験室及び生物科学研究室並びに文化遺産国際協力センター修復アトリエを見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。


第45回オープンレクチャー「モノ/イメージとの対話」の開催

髙岸輝氏の発表風景(11月11日)
佐々木守俊氏の発表風景(11月12日)

 企画情報部では、日々の研究の成果をより広く知っていただくために、所外の方々に向けたオープンレクチャー(公開学術講座)を毎年秋に開催しています。45回を数える今回は、新たに「モノ/イメージとの対話」と銘打ち、動かぬモノでありながら人々の心の中に豊かなイメージを育む文化財の諸相をめぐって、所内外の美術史研究者4名が11月11・12日の両日にわたり当研究所のセミナー室で発表を行いました。
 11月11日は「日本美術史における様式の複線性―様式の選択と編集」というテーマのもと、当部研究員の皿井舞が「平安時代前期から後期へ―六波羅密寺十一面観音像の造像」、東京工業大学大学院准教授の髙岸輝氏が「鎌倉時代から室町時代へ―中世やまと絵様式の源流と再生」の題で発表しました。“様式”という美術史ならではの概念をキーワードとしながら、皿井はとくに制作背景との関わりから10世紀半ばという様式過渡期の造像について考察し、また髙岸氏は平安末期~室町期の絵巻を通して、やまと絵様式の流れを重層的にとらえる自論を展開されました。
 12日は「古美術のコンセプト」というテーマで、当部広領域研究室長の綿田稔が「室町漢画の基盤―周文と雪舟の場合」、町田市立国際版画美術館の佐々木守俊氏が「平安~鎌倉時代の印仏―スタンプのほとけ」と題して発表を行いました。造形的な面ばかりが語られがちな古美術ですが、綿田は雪舟筆「秋冬山水図」(東京国立博物館蔵)やその師である周文の作品を、佐々木氏は仏像の内部に納入された印仏を対象に、それぞれ当時の制作状況や機能に照らしながら、今日ではすっかり忘れられてしまったそれらの“コンセプト”をあぶり出しました。
 今回は各日128名、108名と例年にも増して多くの方々が受講され、会場は満席状態でした。いずれの発表も各研究者の最新の研究成果を報告したものでしたが、学会レベルの内容にもかかわらず、受講者の方々の関心も高く、最先端の話題にご満足いただけたようです。

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アゼルバイジャン国立美術館所蔵日本関係美術品調査

アゼルバイジャン国立美術館
同館調査風景

 平成23年11月27日から12月6日の日程で、独立行政法人国際交流基金文化協力事業として、アゼルバイジャン国立美術館所蔵日本関係美術品調査を行いました。アゼルバイジャンは、1991年に旧ソ連邦から独立した国で、首都バクーはカスピ海西岸に位置し、旧市街には世界遺産に登録された中世の建造物も遺されています。アゼルバイジャン国立美術館(Azerbaijan National Museum of Art)は、1920年にバクーに設立され、国内をはじめロシア・ヨーロッパの絵画・彫刻作品を中心に所蔵・展示を行っています。所蔵作品の中に、日本や中国の東洋美術の作品、300点ほどが含まれていましたが、同館には東洋美術の専門家がおらず、日本の美術作品と、中国やその他の地域のものの判別もつきかねる状況でした。そこでこのたび国際交流基金文化事業部生活文化チーム越智彩子氏とともに、秋田市立千秋美術館の小松大秀館長と江村が同館を訪問し、作品の調査と展示・管理についての助言を行いました。その結果、今回調査した約270点の作品のうち、約100点の日本美術作品(陶磁器・彫刻品・漆工品・金工品・染織品・絵画・版本)が含まれることが判明しました。今回調査した作品の大半は、19世紀後半から20世紀前半にかけて、日本および中国から海外に輸出された陶磁器で、稀少性はさほど高くないものの、このような輸出陶磁器のコレクションの存在が判明したことは重要な意味をもっています。調査データの整理が完了次第、調書を翻訳して同国に提供する予定で、同国における日本文化の理解に役立ててもらうとともに、日本国内の輸出陶磁器研究においても未知の在外作品所在情報として活用されることが期待できます。
 滞在中には在アゼルバイジャン日本国大使館を訪問し、特命全権大使・渡邉修介氏に面会し、今回の調査を二国間の文化的交流の好機としたいというお話がありました。また二等書記官で本事業担当者の小林銀河氏をはじめ大使館職員の方々のご尽力により、終始円滑に作業を進めることが出来ました。来年2012年は、日本と同国との国交樹立から20年の節目の年にあたり、同美術館と在日本大使館を中心として、記念の展覧会を企画する動きも出てきています。こうした両国友好の企画をはじめ今後の活動においても、たいへん有意義な調査となりました。


茨城県日立市十王「ウミウの捕獲技術」の調査 第二弾

15㍍の断崖にあるトヤ(鵜を待つ小屋)と囮の鵜
カギを使って捕獲されたばかりの鵜

 11月上旬、茨城県日立市十王町にて「ウミウの捕獲技術」(日立市無形民俗文化財)の調査を行ないました。春に震災被害の調査を兼ねて同地を訪ねてから、二回目の調査です。今回はちょうど秋の鵜捕りシーズンに当たっており、実際の捕獲の様子も調査・記録することができました。鵜捕りは、囮の鵜を用いて飛来する鵜をおびき寄せ、長いカギで引っ掛けて捕獲するものです。捕獲された鵜は、嘴をハシカケと呼ばれる専用の道具で固定し、竹かごに入れて依頼のあった全国の鵜飼地へ輸送されます。今秋は囮の鵜三羽を含む、一九羽が捕獲されました。
 今回の調査では、たまたま一羽の鵜の捕獲に立ち会うことができましたが、何日待っても一羽も飛んでこない時もあるということで、技術体系としては、鷹の捕獲技術やマブシ猟などと同じ、待ち伏せを基本とする古い狩猟の形態をよく保存しています。質のよい鵜だけを見極めて獲る必要があること、大量の捕獲の必要がないことなどから選択・継承されてきた捕獲方法といえます。しかし逆に、鵜捕りだけでは生業として成り立ちにくいことから、後継者不足もひとつの課題になっています。全国の十二の鵜飼地において用いられる鵜は、ほとんどすべてがこの場所で捕獲されたものであり、鵜飼の伝承を下支えするものとしても重要な意味を持つ民俗技術です。今後、技術の伝承を支えていくための、さらなる保護が必要になってくるものと思われます。


無形文化遺産保護条約第6回政府間委員会

無形文化遺産保護条約第6回政府間委員会

 無形文化遺産保護条約第6回政府間委員会は、去る11月22日から29日の1週間、インドネシアのバリ島ヌサドゥア地区のバリ国際会議センターにおいて開催され、東京文化財研究所からは、無形文化遺産部の宮田繁幸・今石みぎわ、企画情報部の二神葉子の3名が参加しました。今回の会合では、緊急保護一覧表に11件、代表的一覧表に19件の新たな無形文化遺産の記載が、また推奨保護計画として5件の登録が決定されました。日本からは、代表的一覧表への推薦済み案件のうち、6件が審査され、「壬生の花田植」、「佐陀神能」の2件が記載、「本美濃紙」、など4件は情報照会の決議がなされました。この情報照会という手続きは、今回の委員会から運用が始まったもので、補助機関が記載・不記載の勧告をするのに申請書の情報が不足である場合になされる勧告です。今回は初めてということもあり、この情報照会の是非を巡り、個別案件ごとにかなり議論が展開されました。また、1昨年度から問題とされている、申請書処理数の制限、各国申請件数のシーリング、専門家による諮問機関の導入の是非、等に関しては、昨年まで以上に委員国間の意見対立が大きく、いくつかの議題では今までにない多数決投票による決定にまで至りました。本格的な運用開始から3年あまりで、無形文化遺産保護条約は大きな転換点に来ている状況を如実に表したものといえるでしょう。日本国内でも関心が高い問題であり、また無形文化遺産分野での国際交流を進めていく上でも、今後ともこの動向を注視していくことが必要です。


熊本における第16回資料保存地域研修の開催

研修の一場面

 表題の研修会を11月16日、17日の2日間、熊本市現代美術館において開催し(主催:東京文化財研究所・財団法人熊本市美術文化振興財団、後援:熊本県博物館連絡協議会・熊本県市町村文化財担当者連絡協議会)、68名が参加しました。
 本研修は、我々が地方に出向き、学芸員や文化財行政担当者を対象に資料保存に関する基礎知識を学んで頂くことを目的としており、総論、温湿度、照明、空気環境、および生物被害管理などに関する講義を行いました。当研究所では毎年夏、「保存担当学芸員研修」を2週間にわたって行っていますが、長期におよぶ参加が叶わない方にとって、この地域研修は保存を学ぶための貴重な場となっています。
 また、今回ははじめて“現代美術館”における資料保存に関しての講義も行いました。現代美術館では、近代以前の作品を対象とした施設とは異なるコンセプトのもとで設計されていることが少なくなくありません。しかし一方、現代美術館でも国指定品を含む古典作品を扱う場合もあるため、その安全な保存と展示のためには、担当者が施設の特徴を認識したうえで、適切な対処と取扱いを行う必要があるためです。また、将来歴史的・美術的に価値付けられる可能性がある現代美術作品の保存についても、真剣に考えなくてはならない時期が来たとの認識がありました。現代美術については、我々も作品と施設の両方に対して、経験や研究の蓄積が十分とは言い難いことは否めません。だからこそ、現場で扱う方からのニーズを積極的に頂きたいとの思いもあり、これを取り上げるに至ったものです。
 この研修は、各都道府県からの要望に応じて実施していますので、ご希望がありましたらご遠慮なくお知らせください。


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