研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


『美術研究』400号、『美術史論壇』30号記念日韓共同シンポジウム「人とモノの力学-美術史における『評価』」開催

洪善杓氏による基調講演「国史形美術史の栄辱―朝鮮後期絵画の解釈と評価の問題」
ディスカッションの様子

 2月27日に、当研究所において表題にあるシンポジウムを開催しました。『美術研究』(1932年創刊)は、当研究所企画情報部が、また『美術史論壇』(1995年創刊)は、星岡文化財団韓国美術研究所が刊行している学術誌です。韓国美術研究所長の洪善杓博士は、『美術研究』の海外編集委員を委嘱している関係から交流があり、実現したシンポジウムでした。当日は、はじめに洪博士の基調講演があり、韓国側からは、張辰城(ソウル大学校)、文貞姫(韓国美術研究所)両氏に発表願い、また当研究所からは、綿田稔、江村知子の両名の発表があり、その後ディスカッションが行われました。美術史における「評価」という重要な問題をとりあげ、意見交換する機会となりました。
 なお、3月12日には、同じ発表者による、韓国ソウル市(梨花女子大学校)にてシンポジウムを開催する予定です。

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文化財施設の環境解析と博物館の省エネ化に関する研究会の開催

ドレスデン工科大学のグルネワルド教授の講演

 2011年2月25日に、東京文化財研究所セミナー室で「文化財施設の環境解析と博物館の省エネ化」に関する研究会を開催しました。現在、地球温暖化の問題から、あらゆる施設で温室効果ガスの排出削減に向けた取り組みが必要になってきています。博物館、美術館等の施設に関してもこの例外ではありません。博物館、美術館等の施設では、文化財を安全に後世へ伝えていくために、それを取り巻く環境を良好に保ちながら、施設の省エネ化を図っていくことが必要です。今回は、ドイツの建物の省エネ化に関するプロジェクトで環境解析を担当しているドレスデン工科大学のジョン・グルネワルド教授には、「ドイツにおける建物の省エネルギー化と環境解析技術」、同じくドレスデン工科大学のルドルフ・プラーゲ博士には、「環境解析に関わる建材の物性測定法」というテーマで講演頂きました。プラーゲ氏の講演では、ベルリンのウンター・デン・リンデン通りの大理石の石造彫刻の劣化と周囲環境の解析についての話題提供もありました。また、清水建設株式会社の菅野元衛、矢川明弘、太田昭彦さんには、「文化財施設内の環境解析のための気流シミュレーション技術と応用事例」というタイトルで、環境解析手法および根津美術館の収蔵庫の改修の際に行った解析事例の紹介を頂きました。参加者は、全部で50名であり、活発な意見交換が行われました。


文化財保存修復国際研修に関する研究会の開催

討議の様子

 文化遺産国際協力センターでは2月2日・3日の2日間にわたり、「海外の文化財保存修復専門家養成を目的とする国際研修等の実施に関する研究会」を、東京文化財研究所会議室にて開催しました。本研究会は、当センターが行っている「諸外国の文化財保護に係る人材育成」事業の一環として、国際研修のより効果的かつ実践的な実施に向け、国内外の研修実施機関との情報共有および意見交換の場として企画したものです。途上国を中心とする外国からの研修生を対象とした保存修復技術や能力開発の研修に焦点をあて、プログラムの具体的内容や教授方法、さらには研修成果の評価法や問題点などについて、海外4機関および東文研を含む国内3機関の担当者から報告を受けたのち、これらを踏まえて参加者による意見交換を行いました。
 研修実施事例の分析を通じて、いくつかの共通課題が浮き彫りとなりました。主なものとしては、研修事業自体のマネージメント、研修の継続性とプログラム同士の相互連携、研修情報の共有などが挙げられます。このようなテーマでの研究会は従来あまり行われてきませんでしたが、今後も様々な機会を通じて、研修方法の改善や多国間での相互連携の可能性などにつなげていきたいと考えています。


ミクロネシア連邦における文化遺産国際協力コンソーシアム協力相手国調査 ~ナン・マドール遺跡~

王の墓といわれるナン・ダワス
ミクロネシア連邦政府側との打ち合わせ
干潮時遺跡調査

 文化遺産国際協力コンソーシアムでは2月18日から25日まで、ミクロネシア連邦のナン・マドール遺跡を対象として協力相手国調査を実施しました。この遺跡は6世紀から16世紀の間につくられたと伝えられており、92もの人工島とその上に建つ建造物からなっています。現在でも遺跡の全容は解明されておらず、神秘の遺跡といわれています。今回の調査は、遺跡の現状を調べるとともに、遺跡保護のために何が必要か把握し、我が国の協力の可能性を検討することを目的として行いました。
 玄武岩の石柱を重ねてつくられた建造物には、崩壊した部分も多く見られました。その要因としては、自然風化やマングローブなど植物の繁殖が影響していると考えられます。さらには近年の温暖化にともなう水位上昇により、満潮時に水没する遺跡も見られました。このような点について今後詳細な調査を行い、管理計画を策定する必要があると考えられます。同時に、遺跡保護に関する現地の人々の理解を促進することも不可欠でしょう。いくつかの島や建造物は王の墓や祭儀場であったと伝えられています。遺跡そのものを守るとともに、このような伝承も含めた包括的な保護を図る必要性を強く感じました。


アルメニア共和国における文化遺産国際協力コンソーシアム協力相手国調査

写真1 アルメニア共和国文化省での関係者との面談
写真2 古文書研究所・博物館での聞き取り調査

 文化遺産国際協力コンソーシアムは、2011年2月7日から13日まで、アルメニア共和国において協力相手国調査を実施し、東文研からは専門家として2名が参加しました。この調査の目的は、日本による同国における文化遺産保護分野での将来的な協力可能性を探ることにありました。
 今回の調査では、文化遺産保護を管轄している文化省(写真1)をはじめ、歴史博物館、国立美術館、マテナダラン古文書研究所・博物館(写真2)、歴史・文化財科学研究センターといった保護や調査・研究に関わる諸機関を訪れ、担当者と面談を行うとともに、情報収集や意見交換を行いました。その結果、アルメニアがこの分野において今日抱える主要な問題として、ソ連邦からの独立後に生じた資金の不足やロシアを中心とした教育システムの終焉による人材育成面の困難などがあることが明らかとなりました。機器供与や博物館建設といったハード面の充実も必要ですが、同国にとっては文化遺産保護に関わる人材を育成することが急務であると感じられました。
 今後の日本からの協力のあり方としては、アルメニアの研究機関と連携しながら、アルメニア人専門家の人材育成を主眼とした共同研究や研修などを実施していくことが考えられます。

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