研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


8月施設見学

業務内容の説明(8月5日)

 香港特別行政区政府・立法議会 内政委員ほか15名
 8月5日に、日本における文化・芸術振興の手法を学ぶために来訪。亀井所長への表敬訪問後、宮田無形文化遺産部長から同部の業務内容について説明及び質疑応答を行いました。


「近代日本洋画の巨匠 黒田清輝展」を岩手県立美術館で開催

 黒田清輝の功績を記念し、あわせて地方文化の振興に資するために、1977(昭和52)年から年1回、開催館と共催で行なっている「近代日本洋画の巨匠 黒田清輝」展は、今年度、岩手県立美術館を会場として、7月17日(土)より8月29日(日)まで開催されました。重要文化財≪湖畔≫≪智・感・情≫をはじめ油彩画・デッサン等147点、写生帖、書簡などのほか、昨年度ご寄贈を受けた≪舟≫≪芍薬≫≪日清役二龍山砲台突撃図≫、二点の≪林政文肖像≫も出品され、初期から晩年までの黒田の画業を跡づける展観となりました。
 岩手県は、東京美術学校で黒田清輝に師事し、アカデミックな絵画教育を受けた後、西欧の新しい芸術運動に学んで日本近代絵画に新風をもたらした萬鉄五郎や松本竣介の出身地です。岩手県立美術館はそれらの作家の作品を常設展で紹介しており、黒田展と合わせて、日本近代絵画の流れを追えるよい機会となりました。同展は11942名の入場者を得て、盛会のうちに終了しました。


都久夫須麻神社本殿における蒔絵および漆塗装の劣化に関する調査

蒔絵部分における劣化状態の拡大観察

 保存修復科学センターでは、都久夫須麻神社本殿における蒔絵および漆塗装の劣化に関する調査を行っています。都久夫須麻神社本殿は、滋賀県の琵琶湖に浮かぶ竹生島に所在し、伏見城の御殿の一部を移築したとされる桃山文化を代表する建造物の一つです。この本殿内部には、七五桐紋や菊紋、花鳥文様などを蒔絵技法で加飾した漆塗装の柱や長押、外陣壁面や扉には極彩色を施した木彫などが配置されていることでも有名ですが、前回の修理からすでに75年ほどが経過したため屋根や塗装などに傷みが目立つようになってきました。さらに京都の高台寺霊屋と双壁をなす建造物内部の華麗な蒔絵技法の加飾の劣化が著しくなってきたことが関係者の間で問題となってきました。そこで保存修復科学センターでは、現在、滋賀県教育委員会と都久夫須麻神社によって進められている修理工事に協力して、劣化現象の原因を追求するための基礎調査と、琵琶湖の湖上という特殊な環境の中でこの劣化を食い止めるための検討を行いました(写真)。この成果を、都久夫須麻神社本殿の貴重な蒔絵および漆塗装の劣化を少しでもよりよい状態で保守管理するうえで役立てたいと考えています。


2010年度シルクロード人材育成プログラム開講

清水真一文化遺産国際協力センター長による日本の文化財保護制度についての授業

 2006年から東京文化財研究所と中国文化遺産研究院が共同で実施しているシルクロード沿線文化財保存修復技術者育成プログラムは、今年が最終年度となり、8月16日、北京市の中国文化遺産研究院において、最後の壁画保存修復コースと染織品保存修復コースがスタートしました。シルクロード沿線に位置する新疆・甘粛・青海・寧夏・陝西・河南の各省自治区から、壁画コース14名、染織品コース12名の研修生が参加して、12月17日までの4カ月間、理論講座と修復実習講座を学ぶことになります。日本からは両コース合わせて12名の講師が参加するほか、最終年度は両コースに韓国からの講師を招くことになっています。これまで4年間に実施した6つのコース同様に大きな成果があがるものと期待されます。

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拠点交流事業モンゴル:アマルバヤスガラント寺院保存への協力

背後に仏塔や大仏が新たに建立された伽藍の全景
ワークショップの模様
建造物保存調査の模様

 6月末から7月初旬、および8月下旬の2次にわたって、北部セレンゲ県所在のチベット仏教寺院、アマルバヤスガラントでのワークショップおよび保存調査をモンゴル教育文化科学省と共同で実施しました。
 今年度ワークショップのテーマは、文化遺産としての保存管理に万全を図るための計画づくりで、当面は保存区域の設定を目標としました。当寺院での宗教活動再開から20年の節目にあたる本年は、寺院関連施設の新築・整備が加速し、遺産価値の大きな要素である歴史的景観が急激に変化しようとしています。また、旧伽藍建物跡などの地中遺構の保存への影響も懸念される状況にあります。このため、県や郡、地元住民代表とも実地踏査や討議を重ね、信仰の対象となっている周囲の山々や伽藍建設時の材料生産遺跡なども含む広範囲を文化遺産法に基づく保存区域とする方向で基本的合意に達しました。
 一方、多数の木造建造物で構成されている伽藍本体については、経年や不十分な維持管理のために劣化・破損が進行しており、人命の安全を脅かしかねないような状況も一部で発生し始めています。このため、8月ミッションでは上記ワークショップと並行して、モンゴル人若手技術者の養成研修を兼ねた、全建物の保存状況に関する基礎調査を実施しました。昨年度の実習にも参加した4名の研修生とともに行った調査の結果はレポートとしてモンゴル政府側に提出する予定で、今後の応急措置や本格的修理計画立案に活かされることが期待されます。


拠点交流事業モンゴル:ヘンティ県所在の石質文化財保存修復に関する研修

赤外線温度計による岩石表面温度の計測実習
(セルベン・ハールガ遺跡)
過去の発掘坑を利用した地層はぎ取りの実習
(アラシャーン・ハダ遺跡)

 8月下旬に、文化庁委託文化遺産国際協力拠点交流事業の一環として、モンゴル文化遺産センターの専門家を対象とする石碑・岩画の保存に関する現地ワークショップを、奈良文化財研究所の専門家とともに実施しました。昨年に引き続き、ヘンティ県のセルベン・ハールガおよびアラシャーン・ハダで行ったワークショップでは、石質文化財の保存方法検討のために必要な、石の材質や劣化状態、周辺環境に関する一連の調査を行い、またモンゴル側の専門家と共同で作業することを通じてその具体的方法を伝えていきました。これと併せて、モンゴル側から要望のあった地層はぎ取りの実習も行いましたが、これは同国では初めてのことだそうです。
 今後も引き続き、保存処理実験やその評価方法に関する研修を日本やモンゴルで実施するとともに、国内外の機関と連携を図ることによって、対象遺跡に関する理解を深め、より適切な保護手法について検討していく予定です。


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