研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


7月施設見学(1)

実演記録室での説明(7月21日)

 独立行政法人国立文化財機構新任職員36名
 7月21日及び22日に、独立行政法人国立文化財機構新任職員研修会の一環で、各日17名及び19名が来訪。4階保存修復科学センター化学実験室、2階企画情報部資料閲覧室、地階保存修復科学センターX線撮影室及び無形文化遺産部実演記録室を見学し、それぞれの担当者が説明及び質疑応答を行いました。


7月施設見学(2)

資料閲覧室での説明(7月26日)

 文化女子大学服飾文化コース服飾史専攻学部生ほか10名
 7月26日に、美術作品等の科学的研究の現状を学ぶために来訪。4階保存修復科学センター化学実験室及び文化遺産国際協力センター、2階企画情報部資料閲覧室、地階無形文化遺産部実演記録室を見学し、それぞれの担当者が説明及び質疑応答を行いました。


企画情報部研究会

村越向栄筆「十二ヶ月花卉図屏風 右隻」
足立区郷土博物館蔵
村越向栄筆「十二ヶ月花卉図屏風 左隻」
足立区郷土博物館蔵

 2010年度4回企画情報部研究会を7月28日に行いました。発表者と題目は下記の通りです。
・江村知子(企画情報部研究員)
「鈴木其一の草花図について―ポートランド美術館所蔵・鈴木其一筆草花図小襖を中心に」
・真田尊光氏(足立区立郷土博物館学芸員)
「千住と江戸琳派]
 江村は、上記作品の表現技法に、其一の光琳画学習が密接に関与していることを作品と文献の双方から検証し、未だ不明な点の多い其一のパトロン層にも考察を加えました。真田氏には、2011年3月に足立区郷土博物館で開催予定の企画展「江戸琳派」展にちなんで、其一の門弟筋にあたり、千住で活躍した村越其栄・向栄父子の活動と作品について発表していただきました。コメンテーターとして、玉蟲敏子先生(武蔵野美術大学教授)をお招きし、研究討議を行いました。今回の発表および討議で得られたことは、今後、論文や展覧会のかたちで成果公開し、さらなる研究交流・推進に努めて参ります。


女子美アートミュージアムにおける調査

女子美アートミュージアムにおける調査風景

 服飾文化共同研究拠点における共同研究の一環で、平成22年7月12日に女子美アートミュージアムにおいて染織品調査を行いました。この共同研究は平成20年11月より開始され、文化服飾博物館に所蔵される三井家伝来小袖服飾類とそれに付随する円山派衣装下絵との関係を服飾文化史的視点から明らかにすることを目的としています。今回の調査は、女子美アートミュージアムに所蔵されている旧鐘紡株式会社所蔵の小袖の中から本研究テーマである三井家伝来小袖と類似するものを中心として、技法・意匠構成、仕立てを含めた詳細な調査を行いました。これらの調査で得られた知見は来年度の報告書刊行に向けて更なる精査を進めていきます。


博物館・美術館等保存担当学芸員研修の開催

ケーススタディの様子

 27回目となる表題の研修を、7月12日より2週間開催し、全国から32名の学芸員や文化財行政の担当者が参加しました。本研修では、あらゆる文化財資料を対象に、保存環境や劣化、修復などに関する基礎的な知識や技術を、講義と実習を通して学んでいただき、現場での保存に役立てていただくことを目的としています。
 保存環境実習を実地で応用する「ケーススタディ」は袖ヶ浦市郷土博物館をお借りして行いました。参加者が8つのグループに分かれて、それぞれが設定した温湿度や照度、防災設備、屋外文化財の保存環境などの調査を行い、次の日にその結果を発表し、質疑応答を行いました。
 自然科学的見地からの資料保存がますます重要視されていくことは、平成24年度から、大学での学芸員課程において「博物館資料保存論」が必須になることからもわかります。本研修も時代の動向を見据えながら、より充実したものとなるよう、カリキュラムも内容も精査していきたいと考えております。


ロビー展示「国宝高松塚古墳壁画の劣化原因調査」

ロビー展示「国宝高松塚古墳壁画の劣化原因調査」

 現在、研究所1階のエントランスホールでは、表題のパネル展示を行っています。これは、昭和47年の発見以来、現地保存が行われていた高松塚古墳壁画が、平成19年に解体されるきっかけとなった図像の劣化原因を、平成20年7月に設置された「高松塚古墳壁画劣化原因調査検討会」のもとで、自然科学的かつ多面的な視点から調査を実施した結果の概略です。調査結果の全体は、「高松塚古墳壁画劣化原因調査報告書」として平成22年3月24日に文化庁より公表されましたが、この展示では、そのうち材料、生物、保存環境調査に関して、図版を多用しながら詳しく解説しています。多くの方にご覧いただければ幸いです。


第24回国際文化財保存修復研究会の開催

総合討議風景

 2010年7月8日に、71名の参加を得て、第24回国際文化財保存修復研究会「覆屋保存を考える」を開催しました。遺跡の保存を目的として覆屋がかけられることがありますが、そのメリット・デメリットを理解するためには、建設から既にある程度の年数が経過した覆屋について、その後の状況を知る必要があります。こうした理由から、タイ芸術局のアナト・バムルンウォンサ氏による「プラーチンブリー県の二つ一組の仏足跡の覆屋:その問題と解決への指針」、福岡県文化財保護課の入佐友一郎氏による「福岡県における覆屋の諸形態と現状」、韓国国立文化財研究所のシン・ウンジョン氏による「韓国の石造文化財における覆屋の現状と事例研究」という3件の発表をお願いし、その後、総合討議が行われました。遺跡を保存するためには、遺跡の周辺環境まで含めた条件を理解した上で、覆屋の仕様を適切に考えていく必要があるのはもちろん、覆屋建設後も継続してモニタリングを行うことが重要であることが認識されました。


大エジプト博物館保存修復センター 人材育成研修の開催

様々な素材や形状の遺物梱包実習
重量物の移送実習

 文化遺産国際協力センターでは、国際協力機構(JICA)が行う大エジプト博物館保存修復センターの設立と稼働に向けた技術支援プロジェクトへの協力を続けています。
 その一環として、7月3日から19日の日程で、JICAが日本通運社員から4名の講師を現地へ派遣して「移送梱包研修」を保存修復センター内で開催しました。昨年10月にエジプト人保存修復専門家7名を日本に招聘し、東文研内で1週間の研修を行いましたので、今回の研修は2回目となります。
 できる限り現地調達可能な資材や教材を用い、保存修復センター内に設置された機材に加え、日本から輸送した最新の機材を使用して実習を行いました。また、研修で梱包する対象物は、小さな物から200kg前後の重量物までを扱い、レプリカだけでなく本物の遺物も使用しました。研修内容としては、外部収蔵庫や博物館から保存修復センターへ移送するための厳重な梱包、移送のためのトラックへの積み下ろし、センター内のラボ間で移動するための簡易梱包と移動の練習も行いました。前回同様、技術移転だけでなく、遺物を愛しむ心を持って仕事にあたる日本の精神を伝えることにも意を払いました。今回の研修で技術と心を学び、実際の移送梱包作業でも丁寧かつ迅速な作業が行われることを望みます。
 今後も、センターの本格的稼働に向けて、多様な専門家各個人のレベルにあわせた効果的な人材育成への協力を進めていきます。


第34回世界遺産委員会への参加

世界遺産委員国会議―議長席

 第34回世界遺産委員会が、本年で建都50周年となるブラジリアにおいて7月26日から8月3日まで開催されました。(現在、日本は委員国ではなくオブザーバー) 今回の委員会で顕著だったのは、諮問機関が「情報照会」や世界遺産一覧表への「記載延期」を勧告した物件の中から、これを覆して「記載」を決議されたケースが多くみられたことです。一部の委員国からは諮問機関の専門的意見を尊重し一覧表の信頼性を考慮すべきとの発言もありましたが、同機関の不透明性や近年の記載勧告率低下に対する各国の不満や反感は強いとの印象を受けました。一方、保存状況の報告では、既に世界遺産となっている遺跡を含む土地の領有権問題が複数、顕在化しました。
 既に記載されている遺産であれ、新規の記載であれ、世界遺産に関する制度は大きな転換点にさしかかっていると言えます。二年後の世界遺産条約40周年に向け、解決策の提言など日本がなすべきことは少なくないと考えます。


第6回文化遺産東アジアネットワーク会合

 文化庁の依頼により、インドネシアのソロで開催された第6回文化遺産東アジアネットワーク会合に参加しました。会合には、アセアン諸国と東アジア3カ国(日本・中国・韓国)の代表が参加し、アセアンが展開している各プロジェクト報告が行われました。センターからは、文化庁から受託している文化遺産国際協力コンソーシアム事業の枠組みで平成21年度に実施した「被災文化遺産復旧に係る調査」の報告を行いました。報告に対し参加国からは、今後も被災文化遺産に関する調査、ワークショップ、会議などを積極的に行ってほしいとの希望が示されました。
 韓国からは文化財研究所保存科学センター長が参加しており、第7回会合は韓国で開催される予定です。アセアン諸国と東アジア諸国の関係性を深めるうえでも、今後、本会合の重要性はより増していくと考えられます。


バーミヤーン遺跡保存事業―第10次ミッションの概要

壁画の保存修復を行う現地の保存修復家

 文化遺産国際協力センターは、2003年よりアフガニスタン情報文化省と共同で、バーミヤーン遺跡保存事業を行っています。今年は、7月9日から7月30日にかけて第10次ミッションを派遣し、壁画の保存修復および考古学調査を実施しました。
 壁画の保存修復では、東大仏に隣接するC(a)窟、C(b)窟、D窟、D1窟での作業を開始しました。アクセスが容易なこれらの4窟では、意図的な破壊行為や売買目的のための切り取り、観光客による落書きなどの被害がとくに目立ちます。今年度は、C(a)窟、そしてD窟のベランダ部分に残された壁画の応急的処置を完了しました。来年度以降も、一般公開に向けて、この4窟での作業を継続する予定です。
 考古学調査では、これまでの調査で得られた考古遺物の資料整理を行いました。これらの遺物は、異なる地点で実施してきた試掘調査や仏教石窟の清掃の過程で発見されたもので、バーミヤーン谷の歴史を知るうえで重要な資料です。また、来年度以降の発掘調査候補地であるシャフリ・ゾハーク遺跡やバーミヤーン遺跡の王城推定地などの予備調査もあわせて実施しました。


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