研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


9月施設訪問

 台東区立御徒町台東中学校7名
 9月18日に、仕事の内容を知り、働くことの大切さを知るという主旨の「職場訪問学習」により来訪し、中野副所長の概要説明ののち、4階文化遺産国際協力センター、2階企画情報部資料閲覧室、地階無形文化遺産部実演記録室を見学し、それぞれの担当者が説明及び質疑応答を行いました。

/

感謝状の贈呈

前列左より、佐藤代表取締役、鈴木所長、後列左より、田中企画情報部長、中野副所長、北出管理部長

 8月10日に研究所に搬入のあった、株式会社大塚巧藝新社(佐藤末春代表取締役)からの刀剣のガラス乾板ならびに紙焼き資料一式(企画情報部にて受入)について、ご寄贈いただいたことに対して、9月14日佐藤代表取締役に鈴木所長から感謝状を贈呈しました。
 その後、所長室にて文化財保存・修復並びに美術品等の展覧会に関する文化事業など、多岐にわたる話題について懇談しました。
 当研究所の事業にご理解を賜りご寄贈をいただいたことは、当研究所にとって大変有難いことであり、研究所の事業に役立てたいと思っております。

/

所内エントランスのパネル展示「X線透過撮影による仏像の調査・研究」

 9月18日(金)より、企画情報部の担当で、所内エントランスのパネル展示「X線透過撮影による仏像の調査・研究」を行っています。この展示は企画情報部の研究プロジエクト「美術の技法・材料に関する広領域的研究」の一環として保存修復科学センターの協力を得て、これまで行ってきた調査・研究の一端を紹介するものとして企画されたものです。なお、このパネル展示は年末までを予定しております。


カリフォルニア大学バークレー校日本文化研究所シンポジウム

 今年度9月25日から27日の3日間、カリフォルニア大学バークレー校日本文化研究所の創立50周年を記念して、Tracing Japanese Buddhism(日本仏教学のあゆみ)と題したシンポジウムが開催されました。仏教学、仏教史、仏教美術史など、仏教に関わる領域を専門にしているアメリカ、日本、ヨーロッパの研究者が一同に会し、多くの講演や報告が行われました。各日80名近くにのぼる参加者とともに活発な議論が交わされ、お互いの研究成果を知る貴重な機会となりました。
 1日目には、“Numinous Materials and Ecological Icons in Premodern Japanese Buddhism”をテーマにした仏教美術史のパネルがあり、そのパネリストの一人として、皿井は平安時代初期一木彫像の代表作である神護寺薬師如来像に関する発表を行いました。その他のパネリストは、木彫像に用いられる材の樹種について、近年の研究成果などに関する知見を紹介するなど、最新の情報を交えた報告を行いました。 アメリカでは日本の仏教彫刻に関する研究者が数少ないこともあり、仏像に関しては知られていないことが多いようです。今後こうした機会を活用し、海外においても日本の仏像に興味を抱いてもらえるよう、国際交流を積極的に進めていきたいと思います。

/

今泉雄作『記事珠』について

今泉雄作『記事珠』 巻2には「光琳八橋図」の摸写が描き添えられ、図様や図中の色注などから現在東京国立博物館に所蔵される「伊勢物語八橋図」であることがわかります。

 昭和5年の開設以来、当研究所は文化財に関する資料を収集・整理してきました。それらは目録化し、公開・閲覧できるよう鋭意努めていますが、なにぶん80年近くの長きにわたって集積した諸資料の中には、時として未整理のまま、日の目を見ずにいるものもあります。
 ここでご紹介する今泉雄作の『記事珠』は、そのように長らく埋もれていた資料のひとつです。今泉雄作(1850~1931年)は、文部省や東京美術学校(現、東京藝術大学)、東京帝室博物館(現、東京国立博物館)に勤務し、岡倉天心とともに近代日本の美術行政を支えてきた人物です。『記事珠』は明治20年から大正2年にかけての、全38巻からなる今泉自筆の日記で、とくに彼が鑑定や調査を行なった美術工芸品が略図を交えながら詳細に記録されています。これらは資料整理中に当時学生だった依田徹氏(さいたま市文化振興事業団)が発見し、すでに今泉雄作研究で実績のある当研究所客員研究員の吉田千鶴子氏によって確認されました。
 もっか『記事珠』の書き下しを進めている吉田氏によって、その中間報告が9月30日に企画情報部研究会で行われました。今泉の広範にわたる古美術品の記録に、さまざまな分野を専門とする各部員から大きな関心が寄せられ、資料の重要性をあらためて認識しました。

/

神田松鯉師による講談の実演記録

神田松鯉師による講談の実演

 無形文化遺産部では、2002年度(当時は芸能部)以来、一龍斎貞水師と宝井馬琴師による講談の実演記録を作成しています。両師には、近年上演の機会が得られ難くなっている長編物の連続口演をお願いしていますが、今年度より新たに神田松鯉師からもご協力を得られることとなりました。
 松鯉師も長編の続き物を得意とされています。数多くのレパートリーの中から、時代物『徳川天一坊』と世話物『幡随院長兵衛』を選んでいただきました。第一回目の記録作成は、9月29日に実施されました。

/

国際研修「漆の保存と修復」

スターディーツアーにおける漆掻き見学
漆工品の修復実技

 保存修復科学センターでは、9月2日から15日にかけて国際研修「漆の保存と修復」をICCROM〔国際保存修復研究センター〕と共同開催で行いました。この研修は、講義、実技、見学からなります。今回の研修には、オーストリア・ドイツ・イギリス・ポ-ランド・ロシア・ポルトガル・カナダ・アメリカから8カ国9名の研修生が参加し、漆工の歴史、漆の科学と調査方法、伝統的な漆工技術、漆工品や漆塗装の修復理念と修復方法などについて、それぞれの専門家から学びました。またスタディーツアーでは、日本産漆の80%ちかくを生産している二戸市浄法寺町周辺を訪れました。まず、八戸市縄文学習館や御所野縄文博物館で日本列島における漆のルーツにあたる縄文時代の出土漆器を見学し、次に浄法寺町での漆掻きと隣の青森県田子町での漆掻き用具作りを見学しました。さらに八幡平市では安代漆工技術センターでは実際の漆精製作業を見学し、現在では珍しくなった大正時代から昭和初期に使われていた古い時代の漆室(塗蔵)と漆工用具も見ました。そして、最後に中尊寺金色堂を見学しました。今回の研修生は、自分の美術館や博物館に日本からもたらされた漆工品を所蔵しておりその対処に苦慮しているか、実際の修復現場にいる人たちが主でした。そのため、問題意識はとても高く、皆、大変熱心でした。とくに「日本の漆のことはある程度本で学んだことはあるが、実際の物や作業を見て勉強できたことは、今後に向けてとても良い経験になった」という言葉はとても印象的でした。


アジャンター壁画の保存修復に関する調査研究事業~第2次ミッション報告

アジャンター石窟第2窟における高精細写真撮影
アジャンター石窟第2窟における高精細写真撮影

 東京文化財研究所とインド考古局は、文化庁委託「文化遺産国際協力拠点交流事業」の枠組みにおいて、アジャンター壁画の保存にむけた共同研究に取り組んでいます。アジャンター壁画は、玄武岩の亀裂を伝って洞窟内に浸入した雨水による害、コウモリの糞尿による害(白色化、黒色化)、人為的な要因による損傷に加え、過去の修復に用いられたシェラック(ワニス)の黄化による色調変化や彩色層の亀裂と浮き上がりといった問題を抱えています。
 平成21年9月に行った第2次ミッションでは、壁画の保存状態を詳細に記録するため、第2窟内部壁画全面を対象とした「高精細デジタル写真記録」、「色彩計測」を行いました。インド人専門家と共同で撮影・計測作業を行うことで、文化財保存におけるデジタルドキュメンテーションに関する知識の共有、技術交換を目指しています。

/

タイ・スコータイ遺跡での日タイ共同研究

スリチュム寺大仏

 東京文化財研究所は、タイ文化省芸術局とタイの文化財の保存に関する共同研究を行っており、9月14日~16日、共同の現地調査を行いました。スコータイ遺跡のスリチュム寺院には、煉瓦の芯に表面を漆喰で仕上げた高さ15m余りの仏像があります。その表面にはかつてコケ類や藻類が繁茂していましたが、11年前の撥水処理により、しばらくの間はきれいな状態を保っていました。しかし、近年再び藻類などによる汚れが部分的に目立つようになったため、その対策について仏像自体の観察やサンプルを設置しての実験、微気象の観測などにより検討を行っています。今回はスリチュム寺院でのこのような活動のほか、周辺の遺跡での観察も実施し、特に、覆屋を遺構に設置した場合の効果や欠点について検討を行いました。


to page top