研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


7月施設訪問(1)

 中華人民共和国国家文物局人事部副部長5名ほか
 7月14日に、中華人民共和国国家文物局人事部副部長 黄元氏ほか4名が、文化庁の行う日中行政官交流のため来訪。東文研で行なわれている調査・研究について、4階保存修復科学センター分析科学研究室、3階保存修復科学センター修復アトリエ、地階無形文化遺産部実演記録室を見学し、それぞれの担当者が説明および質疑応答を行ないました。

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7月施設訪問(2)

 文化庁文化財部美術学芸課美術館・歴史博物館室長ほか2名
 7月23日に、文化庁文化財部美術学芸課美術館・歴史博物館室長 高比良氏ほか2名が、概算要求事項にかかる現状視察のため来訪。4階文化遺産国際協力センター、保存修復科学センター化学実験室、生物実験室、3階保存修復科学センター物理実験室、2・3階サーバ室を見学し、それぞれの担当者が説明および質疑応答を行ないました。

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7月施設訪問(3)

 独立行政法人国立文化財機構新任職員42名
 7月27~29日に、独立行政法人国立文化財機構新任職員研修会が地下会議室で開催され、接遇や法人全体の概要など多岐にわたる内容の講義が行われました。29日には理事講話として、鈴木所長より「文化財保護の理念と我々の立場」について、また中野副所長より東文研で行なわれている調査・研究業務についての概要説明がありました。視察については、28日に22名、29日に20名が、3階保存修復科学センター修復アトリエ、2階企画情報部資料閲覧室、地階無形文化遺産部実演記録室を見学し、それぞれの担当者が説明および質疑応答を行ないました。

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「近代日本洋画の巨匠 黒田清輝展」を島根県立石見美術館で開催

島根県立石見美術館での黒田清輝展会場

 黒田清輝の功績を記念し、あわせて地方文化の振興に資するために、1977(昭和52)年から年1回、開催館と共催で行なっている「近代日本洋画の巨匠 黒田清輝」展は、今年度、島根県立 石見いわみ 美術館を会場として、7月18日(土)より8月31日(月)まで開催されています。重要文化財≪湖畔≫≪智・感・情≫をはじめ油彩画・デッサン等147点、写生帖、書簡などが出品され、初期から晩年までの黒田清輝の画業を跡づける展観となっています。
 石見は、明治の文豪森鷗外の出身地です。鷗外は、陸軍軍医として衛生学を勉強するため1884(明治17)年から1888(明治21)年までドイツに留学し、本務のかたわら美術館や劇場を頻繁に訪れて、芸術にも親しみました。帰国後、文筆活動の一環として美術批評も行い、黒田清輝が裸体画論争のなかで第二回白馬会に≪智・感・情≫を出品し、批評の的になった折には、この作品に敬服している一人であると発言しています。後年、鷗外は帝国美術院の初代院長となりますが、1922(大正11)年に鷗外が逝去すると、黒田がその後を襲い、二代目院長となるなど、鷗外と黒田はさまざまな接点を持っています。
 石見美術館では、黒田清輝展にあわせて森鷗外と関連する同館の所蔵作品を常設展示しています。黒田の作品や師ラファエル・コランの作品、鷗外の墓碑を書いた洋画家・書家中村不折の作品などが展示され、明治・大正期の文化人の交遊の一端を知ることができます。


『概要』2009年度版の刊行

『東京文化財研究所概要』2009年度版

 このたび『東京文化財研究所概要』2009年度版を刊行しました。
 『概要』は研究組織をはじめ、今年度、研究所が行おうとする各部・センターの活動、研修、助言・指導、大学院教育、国際シンポジウム、公開講座、情報発信、刊行物などを視覚的にわかりやすく、また日英2ヶ国語で紹介しています。
 『概要』は、国および都道府県の美術館・博物館、都道府県や政令指定都市の教育委員会、埋蔵文化財センター、文化財研究部門をもつ大学図書館、大使館、友好協会宛に資料用1部として配布しています。
 また『概要』は一般の方々にもご利用いただけるように、『東文研ニュース』とともに黒田記念館や研究所でも配布しています。さらに『概要』はホームページ上でもPDFファイル形式で配信しています。どうぞご利用ください。


紀州徳川家伝来楽器コレクション調査

 無形文化遺産部では、平成18年度から国立歴史民俗博物館の共同研究「紀州徳川家伝来楽器コレクションの研究」に研究代表者として参加しています。紀州徳川家は、江戸後期に彦根藩と並んで雅楽器を中心とする一大コレクションを形成しましたが、その中には由緒のある楽器が多く含まれています。7月は、箏と琵琶の内部にCCDカメラを挿入して内部に書かれている銘などを観察する補足調査を行い、いくつかの情報を入手しました。報告書は平成22年度に公表する予定です。


博物館・美術館等保存担当学芸員研修

学芸員研修における実習の様子

 今回で26回目となる表題の研修を7月13日より2週間行い、北は岩手、南は沖縄から31名の文化財施設に勤務する学芸員が参加しました。参加者の専門は、考古から現代美術まで様々ですが、本研修では、あらゆる文化財資料を対象に、保存環境や劣化、修復などに関する基礎的な知識や技術を、講義と実習を通して学んでいただき、保存に役立てていただくことを目的としています。
 保存環境実習を実地で応用する「ケーススタディ」は千葉県立中央博物館をお借りして行いました。参加者が8つのグループに分かれて、それぞれが設定した温湿度や照度、防災設備などの調査を行い、次の日にその結果を全員の前で発表しました。
 本研修の修了者は今回で597名となりました。皆さん、文化財保存の最前線で活躍しておられます。我々は今後も、現場の声を大事にしながら、更なる研修内容の充実に努めていきたいと思っています。


東大寺法華堂安置仏像群の耐震に関する調査

法華堂安置仏像群の三次元計測

 東大寺法華堂には、国宝・乾漆不空羂索観音立像をはじめ多くの乾漆像や塑像が須弥壇上に安置されております。奈良盆地では高い確率で大地震が発生することが予測されており、法華堂安置仏像群について早急な耐震診断および対策立案が求められています。そこで保存修復科学センターでは、耐震診断に必要な情報を得るため、安置仏像群の三次元計測および法華堂建物および須弥壇の目視調査を実施しました。
 三次元計測では、前回の東大寺戒壇堂の国宝・塑造四天王立像でも使用した「ステレオカメラの移動撮影に基づいた簡易形状計測システム」(凸版印刷株式会社にて開発中)について、法華堂須弥壇内にて安全に計測できるようにケーブルレス化したものを用いました。その結果、調査期間内に6体躯の計測が終了しました。
 また、法華堂建物および須弥壇の目視調査は、木質構造の専門家を招へいのうえで実施しました。今後はその結果をもとに、須弥壇および建物の常時微動調査を進めていきたいと考えています。


カンボジア出張

微生物除去の薬品塗布風景

 7月24~28日に、カンボジアのアンコール遺跡群で、石造遺跡の劣化に関する調査を行いました。タ・ネイ遺跡では、遺跡で用いられているのと同種の砂岩新材を用いて、その表面に微生物を繁茂させることで、微生物が岩石風化に与える影響に関する調査を続けています。また、表面に地衣類が繁茂している石材の一部に、薬剤を塗布することでクリーニングを試み、その効果や弊害などについても観察を行っています。今回はこうした調査・研究に関する基礎的なデータを現地で収集し、また施工実験を行いました。また、奈良文化財研究所が調査を行っている、西トップ寺院でも、石材表面の微生物をクリーニングする実験に協力し、それに関わるデータの収集も行いました。


タンロン皇城遺跡の保存に関する専門家協議

保存センターにおける全体協議

 ベトナムの首都ハノイの都心に立地するタンロン皇城遺跡では、国会議事堂建て替えに伴う調査で李朝期(11-13世紀)をはじめとする歴代皇宮の建物や区画施設の跡、大量の遺物等が発見され、日越両政府の合意に基づく保存支援協力が継続されています。緊急発掘調査も一応の区切りを迎え、出土遺構および遺物をいかに保存・活用していくかが大きな課題となっています。
 今回は、日越合同専門家委員会の考古・建築・歴史・社会学・保存管理計画の各専門委員が訪越し、越側委員や関係機関と今後の協力につき協議しました。7月28日の全体協議には文化庁と在越日本大使館からも参加を得て、中長期の計画とともに来年のハノイ建都千年祭や3年後の新議事堂竣工に向けた短期的課題についても話し合い、遺跡の価値に関する従来の研究に加え、遺構・遺物の保存措置や整備・展示計画といった分野でも専門的支援を行うことで合意しました。
 なお、この派遣は文部科学省科研費による研究の一環として行いましたが、今後は近々始動予定のユネスコ日本信託基金事業との連動により、さらに効果的な協力を目指していきます。


第33回世界遺産委員会

ル・コルビュジエの作品群登録可否に関する投票の開票作業
審議風景。スクリーン中央に議長、両側に英仏2カ国語で審議内容が映る

 第33回世界遺産委員会は、6月22日~30日にスペインのセビリアで開催されました。40℃を超える暑さの中、時折迷い込んだ野鳥が飛び回る展示場を会場に、連日23時まで議論が行われました。日本からは関係省庁や研究機関、地元の遺産の一覧表への登録を目指す地方自治体関係者などが参加し、当研究所からは筆者を含め2名が参加しました。
 世界遺産一覧表には13件の遺産(自然2件、文化11件)が登録、1件が抹消され890件となりました。登録の傾向として、奴隷貿易関連の遺産が諮問機関の勧告を覆し登録されるなど、人権に関する遺産への高評価が伺えます。今回は情報照会の決議でしたが、国立西洋美術館を含むル・コルビュジエの作品群のような、複数の国にまたがる複数の遺産を1件として推薦することも、国際協調の観点から推奨されているようです。
 また、ドレスデン・エルベ渓谷の一覧表からの抹消が決議されました。登録直後に渓谷を横断する橋の建設が計画され危機遺産とされましたが、建設は中止されず、ドイツ側から具体的な代替案も提案されなかったためです。一覧表からの抹消は2例目ですが、遺産を持つ国が削除を希望していないにもかかわらず抹消されたのは初めてです。
 今回、予定されたいくつかの審議が来年に延期されました。秘密投票を伴う審議が複数あったのも原因ですが、同趣旨の発言の繰り返しも目立ち、議論の進行にも問題があるように思われました。また、国境問題を抱える国同士の対立による審議内容変更など、世界遺産の外交上の重要性を改めて認識することとなりました。


大エジプト博物館保存修復センタープロジェクト 初の在日研修

合成染料による染色実習

 文化遺産国際協力センターでは国際協力機構(JICA)の要請を受けて、エジプトのギザで建設が進んでいる「大エジプト博物館(Grand Egyptian Museum)」の付属機関である「保存修復センター」の設立に向けたプロジェクトにおいて、専門的な見地からの技術支援を行っています。
 2009年7月8日から9月1日までの約2ヶ月間、本プロジェクトにおける日本で初めての研修を、人材育成・技術移転を目的として実施しています。大エジプト博物館保存修復センターに所属するエジプト人保存修復家22名の中から選抜されたダリア・アリー・アブデルアアル・エルサイド氏 とベニス・イブラヒム・シャハタ・アティーア氏 の2名の研修生が、東文研の運営費交付金およびユネスコ文化遺産保存日本信託基金事業の一環として東文研へ招聘しているイラク人研修生と共に、「染織品の保存修復」に関する研修を受講し、その専門性を磨いています。この研修は、女子美術大学を中心とした専門家の協力のもと、講義と実習を組み合わせた実践的な内容で行われています。


拠点交流事業モンゴル:木造建造物の彩色塗装に関する技術交流ワークショップ

日本の彩色塗装修理の事例紹介
実習:図柄の輪郭を目視で把握する
実習:デジタル顕微鏡を使った顔料の調査

 モンゴルにおける拠点交流事業の一環として、7月20日から29日までの日程で、日本より5名の専門家がモンゴルを訪れ、モンゴル東部にあるヘンティ県のベレーヴェン寺院の復原現場において、木造建造物の彩色塗装に関する技術交流ワークショップを開催しました。これは、モンゴルの現状に即した木造建造物の保存修理の技術の向上を目的として、東京文化財研究所とモンゴル教育・文化・科学省(MECS)と共同で企画したものです。
 ワークショップ前半は、彩色塗装の修理復原計画と実施・伝統的な修理と復原の技法・科学的研究分析についての発表と意見交換をしました。後半は、寺院の古材を用いた分析実習と日本の伝統的な彩色技法についての実習を実施しました。モンゴル側は、国立文化遺産センター(CCH)と歴史的建造物の保存修理を請け負うスードゥール社から、それぞれ彩色塗装担当職員4名が参加しました。両国の現場を担う専門家同士が、活発な意見交換を行い、日本とモンゴルの伝統的な技法と材料に関して、基本原則は共通していることを確認するとともに、相違点も明らかとなり、今後の技術交流において有意義な情報の共有を諮ることができました。
 なお、ワークショップ終了後には、日本側の専門家だけでモンゴル北部セレンゲ県のアマルバヤスガラント寺院に立ち寄り、現存する彩色塗装について科学分析調査を行いました。この調査を通して、分析法や結果についてさらに情報共有を図ることの重要さをはじめ、今後も専門家間の交流を続けたいという認識を参加者が感じることができました。日本の経験と技術がモンゴルの文化遺産保護に貢献できる場がひとつ増えたのではないでしょうか。


シルクロード人材育成プログラム古建築保護修復研修コース終了

修了証書授与

 昨年秋の北京での3カ月間の研修に引き続き、中国青海省のチベット仏教寺院、塔爾(タール)寺で4月初旬から4カ月間の日程で実施してきたシルクロード人材育成プログラム古建築保護修復研修コースが無事に終了し、7月31日、中国国家文物局、中国文化遺産研究院、東京文化財研究所、青海省文物局、塔爾寺、そして本事業の資金提供者である中国サムスン社からそれぞれ代表が出席し、修了式を開催しました。新疆、甘粛、寧夏、青海、陝西、河南の各省・自治区から集まった計12名の研修生は、必ずしも全てが同じ建築保護の経験を持っているわけではなく、研修カリキュラムが求めている内容の理解や、成果の達成に苦労しました。しかし各自が持つ能力を活かし、互いに助け合いながら合計7カ月に及ぶ長期研修を乗り切ることができました。日本側講師、中国側講師も研修生が直面している様々な問題について一緒に考え、解決の道を探しました。文化遺産保護が、いかに多くの人々の智恵と技術を結集したものであるかを実感させる7カ月間であったと言えます。その結果、研修生たちは、昨年の北京・故宮紫禁城での調査報告書、今年の塔爾寺での調査報告書、そして個人テーマによる研究論文12本をまとめた実習報告書を完成しました。彼らはすでにそれぞれの所属機関に戻り、日常の作業に従事しています。今回の研修が、彼らがこれから歩む道の足下を照らす、心強い灯りとなってくれることを願っています。

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