研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


2月施設訪問

 東京学芸大学文化財科学専攻6名
 2月25日に、文化財の研究機関における分析の現場の視察のため来訪し、3階保存修復科学センター修復アトリエ、4階保存修復科学センター分析科学研究室について見学。それぞれの担当者から説明を受け、質疑応答を行いました。

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在外日本古美術品保存修復協力事業の関連調査

仮張り乾燥中のローマ本(部分)

 今年度修復している作品のなかに、国立ローマ東洋美術館(イタリア)の「虫の歌合絵巻」があります。この作品はさまざまな虫たちが和歌の優劣を競う様子を描いた愛らしい絵巻物ですが、残念ながら欠紙と錯簡のあることが明らかでした。そこで類例をさがしたところ、同内容で首尾完結した作例が個人宅に収蔵されていることがわかりました。所蔵者に事情を説明したところ、調査をご快諾いただき、2月5日(木)、現品を拝見することができました。いくつかの疑問点も残っていますが、少なくともローマ本(の当初の状態)を直接模写したのが個人本であるか、あるいは両者に共通の原本があるか、いずれにせよ両者が非常に近しい関係にあるということはわかりました。これによって確証をもってローマ本の錯簡を訂正し、欠紙部分を相応に処置することができるようになったわけです。その結果をもって同日、修復作業を行っている松鶴堂(京都市)にも行き、修復についての最終的な詰めの協議を行いました。作品は本紙への作業をほぼ終えて仮張り乾燥させているところで、近々、巻子装に仕立てられ、修復が完了します。その後、イタリアへ返却する前の5月下旬に、東京国立博物館で一般公開する予定です。


第2回アジア無形文化遺産保護研究会

第2回アジア無形文化遺産保護研究会の様子

 無形文化遺産部では、アジア地域における無形文化遺産保護の政策的な取り組みについて学ぶ研究会を昨年度より開催しています。今年度は、2009年2月19日に、韓国文化財庁無形文化財課長の金三基氏を迎え、「韓国の無形文化財制度」と題した講演をしていただき、外部からの関係者も交えて討議しました。とくに無形文化財の指定・保有者の認定のプロセスや、韓国の無形文化財保護制度の特徴といえる、無形文化財保有者に義務づけられた専授教育制度について詳細に紹介され、参加者からも活発な質問や意見が出されました。日本と韓国は、ともに世界に先駆けて無形の文化の保護を制度化してきましたが、今回の研究会ではその共通点と相違点が浮き彫りになり、それぞれが抱える問題点について双方の取り組みを参照することの有効性があらためて感じられました。

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珍敷塚古墳のカビ対策のための調査

修復のための状態調査

 特別史跡珍敷塚古墳の保存修復のための指導助言及び調査を行いました。珍敷塚古墳は赤やグレーの顔料で文様が描かれた装飾古墳です。長い歴史の中で墳丘は失われ、現在は石室に用いられた石が露出しており、その周囲を覆屋で保護しています。この覆屋内の石の表面に大量のカビが発生し顔料が不鮮明となっていることがわかりました。そこで本格的な修復作業に向けた予備調査として、カビのサンプリングを行い、紫外線や筆などによるカビの除去を試みました。また、石表面温度の測定、近赤外水分計による水分量の測定を行い、処置が石に与える影響を検討しました。これらの調査結果を踏まえ、来年度には本格的な修復作業が実施されます。また、緊急的な処置だけでなく、覆屋内の環境制御を含めた中長期的な保存対策が求められています。


「第13回博物館保存科学研究会」の開催

報告会における質疑応答の様子
(於 三重県立美術館)

 表題の研究会を2月13日、14日の2日間、三重県内で開催しました(主催 博物館保存科学研究会、三重県博物館協会、東京文化財研究所)。この研究会は、担当学芸員研修の受講経験者や開催県内の学芸員などが参加し、主に文化財施設における実践的な保存活動についての講演や情報交換を行うものです。初日は、三重県立美術館において、報告会を行いました(参加者60名)。まず、三浦定俊客員研究員が「保存環境づくりのこれまでとこれから」というタイトルで基調講演を行いました。そして、三重県内の4人の学芸員および犬塚将英研究員が、環境管理や施設改修、整備に関する報告を行い、それぞれに対して、活発な質疑応答が繰り広げられました。2日目は、伊勢市にある皇學館大學佐川記念神道博物館、神宮徴古館、神宮農業館および神宮美術館を見学しました。参加者の皆様はそれぞれの館における保存環境と比べながら、ここでも様々な角度から情報交換や議論を行っていました。この研究会は、旧交を温め、また受講年度の異なる学芸員が交流する機会を持つOB会という側面と、普段はあまり接する機会の少ない、他地方の文化財保存の現場を目の当たりにすることで、自身の勤務館における保存のあり方を見つめなおすという大きな意義があります。本研究会の実現にご協力頂いた多くの皆様に深く御礼申し上げます。


「文化財建造物等の地震対策に関する日中専門家ワークショップ」開催

総合討議の様子
被災現場視察(二王廟)

 昨年5月の四川大地震では多くの文化財も被災し、中国全土から派遣された専門家や技術者がその復興に尽力しています。これを支援し、今後の防災政策立案にも寄与することを目的に、2月9日から12日まで同省の成都市でワークショップ(文化庁と中国国家文物局の共催)が開催され、文化遺産国際協力センターは、プログラム策定や講師の人選、テキスト作成等の実務を文化庁から受託しました。
 日本側はセンターの4名を含む16名を派遣し、中国側は70名以上が参加して、建造物分野を中心に博物館の地震対策等も加えた内容で講演と討議、現地視察を行いました。阪神大震災以来の日本の文化財地震対策や耐震技術を紹介しながら、今回地震での文化財被災状況とその後の対応に関する中国側報告や、都江堰市の文化財復旧現場視察も踏まえて、両国が抱える課題や今後の対策等につき意見を交換しました。3省4市と20の文化財修復機関に民間企業や博物館も加えた代表が各地から集まったこの会議は、日中専門家間はもとより、国内技術者間の交流促進にも大いに役立ったようです。
 目下、復旧の具体的設計や文化財耐震指針の検討等が進められていますが、構造技術者の不足など課題も多く、さらなる支援の必要性を改めて認識させられました。また、わが国における文化財保存の考え方を正しく理解してもらうための一層の努力も必要と感じました。


イエメン共和国における洪水の被災状況調査

シバーム全景
洪水被害の様子

 イエメン東部のハドラマウト州では、2008年の10月末におきた集中豪雨と洪水によって、多くの家屋が被害を受けました。洪水の被害は、砂漠の摩天楼と呼ばれる世界遺産シバームにも及びました。文化遺産国際協力センターが事務局を受託している文化遺産国際協力コンソーシアムでは、イエメン政府の要請を受け、洪水によって被災した世界遺産シバームとその周辺の被災状況調査を行うために、2月10日から2月21日にかけて専門家を派遣しました。
 ハドラマウト州にはシバームに比肩しうる泥レンガでつくられた高層建築があちこちに残っており、独特な文化的景観を形作っています。しかし、先の集中豪雨と洪水の被害によって、シバームだけでなくこうした周辺の文化遺産や歴史的建造物にも、亀裂の発生や建物の倒壊といった被害が随所でみられました。今後、関係諸機関と協議しながら、この地域においてどのような文化遺産復興の支援ができるのか、検討していく予定です。


ユネスコ/日本信託基金龍門石窟保護修復事業の終了

日本政府、中国政府、ユネスコ三者による会議
龍門石窟保護修復事業のメンバー記念撮影

 2001年11月、日本がシルクロード沿線の文化遺産保護のためにユネスコに提供した信託基金100万ドルによって中国・河南省洛陽市の龍門石窟の保護修復事業がスタートしました。東文研はユネスコの委託を受け、同事業のコンサルタントを務めるとともに、日本側専門家のまとめ役として、活動してきました。また、同資金では不足する経費を財団法人文化財保護・芸術研究助成財団(平山郁夫理事長)やJICAの支援を得るほか、自前の予算も捻出し、観測機材の購入・設置・メンテナンス、龍門石窟研究院保護修復センター研究員の長期短期の教育、さらに同研究院における画像データベース構築のための写真撮影など、多彩な内容で同事業をサポートしてきました。これら東文研がユネスコの資金とは別途に捻出した金額は合計で約6,000万円になります。その龍門石窟保護修復事業が2008年度で終了するにあたり、2月20日には北京の中国文化遺産研究院において最終の総括のための会議が開かれました。この会議は、同時に終了する新疆省のクムトラ千仏洞の保護修復事業と合同のもので、洛陽市文物管理局と新疆省文物局からそれぞれ事業の報告があり、専門家による討議を経て、中国政府、日本政府、ユネスコ北京事務所の代表が講評を行いました。会議の翌日には同研究院において両プロジェクトの終了を記念するシンポジウムが開催され、プロジェクトの成果についてそれぞれのメンバーによる発表が行われました。

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