研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


10月施設訪問

 開智高等学校1名
 10月10日に、同校の教育活動「首都圏フィールド・ワーク」の一環として調査活動のため来訪し、研究テーマ「世界遺産」について文化遺産国際協力センターを見学し、担当者が説明及び質疑応答を行いました。

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第42回オープンレクチャー「人とモノの力学」

青木茂教授の発表(第2日)

 10月8日、9日の2日間にわたり、研究所地下セミナー室を会場に、上記の公開講座を開催しました。第1日目は、勝木言一郎(企画情報部)「鬼子母神の源流をたずねる」、中川原育子(名古屋大学文学部)「クチャ地域の石窟に描かれた供養者像とその信仰について」の2発表があり、いずれも仏教美術の源流とたずねるテーマでした。翌日は、田中淳(企画情報部)「写真のなかの芸術家たち―黒田清輝を中心に」、青木茂(文星芸術大学)「明治10年・西南戦争と上野公園地図」があり、前者の発表は、写された写真をもとに画家の創作と生活を考える内容であり、後者の発表は、明治10年に制作されたう「上野公園地実測図」(銅版画)をもとに、同地の歴史の変遷をたどるものでした。一般の聴講者は、第1日が150名、第2日が127名を数え、アンケートの結果をみても、好評だったことがわかりました。

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“オリジナル”研究通信(6)―福田美蘭《湖畔》の展示

黒田記念館での福田美蘭《湖畔》展示風景

 今年7月の活動報告でもお知らせしたように、12月6~8日に開催する国際研究集会「“オリジナル”の行方―文化財アーカイブ構築のために」の関連企画として、現代美術家の福田美蘭氏による《湖畔》(1993年作)を10月9日より東京国立博物館黒田記念館で展示しました(12月25日まで)。「湖畔VS湖畔」と題したこの企画は明治の洋画家、黒田清輝の代表作《湖畔》にもとづく福田氏の作品を、黒田記念館で常時公開されるオリジナルとともに展示したものです。気鋭の現代美術家である福田美蘭氏は古今東西の美術品を素材に作品を制作、その“オリジナル”イメージを揺さぶる活動で知られています。今回展示した福田氏の《湖畔》も、黒田の《湖畔》の背景を延長して描くことによって、教科書や切手などですっかり見慣れた名画のイメージを一度くつがえし、再度新たなまなざしで原画に接するよう促しています。廊下をはさんで、向かいあうように飾られた黒田の《湖畔》と福田氏の《湖畔》のコラボレーションを、来館者の方々もやや戸惑いながら楽しまれていたようです。
 なお10月8日には森下正昭氏(当研究所客員研究員)の発表による、国際研究集会に向けての部内研究会を行いました。「美術館とオリジナル―コンテンポラリーアートをめぐる問題」と題した発表では、主にイギリスの現代美術を中心に、作家自らが制作したモノ、という旧来の作品概念を超えた活動を紹介し、それらをどのように伝えていくのか、という現代美術館の課題が浮き彫りにされました。作品がコンセプト化するなかで、とくに作家へのインタヴュー等を記録して現代美術を伝えようとするInternational Network for the Conservation of Contemporary Art (INCCA)の活動は、作品保存の今日的なあり方として興味深いものがありました。

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韓国国立文化財研究所での研修

 本年6月に韓国国立文化財研究所無形文化財研究室との間で合意に達した「無形文化遺産の保護に関する日韓研究交流」にもとづき、無形文化遺産部の俵木が、本年10月、韓国において二週間の研修を行いました。今回の研修の目的は、韓国における無形文化遺産の映像記録のアーカイブの現状を調査し、それを日本の無形文化遺産の記録の管理と活用に役立てることです。韓国では国立文化財研究所が積極的に無形文化遺産の映像記録作成を行っており、それらは国家記録院や韓国映像資料院といった機関と連携して管理されています。その組織的な管理体制には学ぶべき点が多いと感じました。また、研究所が作成した記録映像がテレビ放送の素材になるなど、積極的な活用の実態も印象的でした。無形文化遺産部では現在、日本の無形文化遺産の記録の所在情報のデータベース化の作業を行っており、今後はこうした方面での両国の情報共有などについても検討していきたいと思っています。

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研究会「屋外等の木質文化財の維持管理」

10月6日研究会風景

 保存修復科学センターでは、文化財の生物劣化対策の研究の一環として、平成20年10月6日、研究所セミナー室において表記の研究会を行いました。今回は「屋外等の木質文化財の維持管理 問題点と今後」をテーマに、寺社等建造物や木彫像の管理の生物被害上の最近の問題点について、奈良県教育委員会の神田雅章氏から、わかりやすく、かつ明確な問題提起をいただきました。また、京都大学の藤井義久氏(当研究所客員研究員)から、文化財建造物の劣化診断と維持管理体制の課題について、的確なご指摘をいただきました。九州国立博物館の本田光子氏からは、屋外で公開された文化財などを博物館内で展示・収蔵する際の対応について具体的なお話をいただきました。さらに、建築家の河上信行氏より、「弥生時代等の復元建物における維持管理の現状と課題」についてお話いただき、吉野ヶ里遺跡などを例に、非常に掘り下げた議論を行う機会となりました。屋外の木質文化財の保存には、難しい問題が山積しており、今後、プロジェクトの中で具体的方策を検討していく所存です(参加者79名)


敦煌派遣研修終了

紙本の裏打ち実習(倉橋さん)
壁画の修復実習(佐藤さん)

 6月1日から敦煌研究院へ派遣した佐藤香子さん(東京学芸大学大学院修士課程修了/保存科学専攻)と倉橋恵美さん(筑波大学大学院修士課程修了/日本画専攻)の研修が終了し、10月19日に無事帰国しました。この間、2人は莫高窟の宿舎に泊まりながら、敦煌研究院の全面的な協力を得て、壁画の現場調査、分析研究、保存処理作業の実習、壁画構造の再現制作と模写、世界遺産莫高窟の管理運営に関する講義など、壁画のみならず、文化遺産の保護に関する全面的な内容についての研修を受けました。また個人研究のテーマとして、佐藤さんは壁画に使われた赤色の色料についての分析・比較研究を行い、倉橋さんは科学的研究を根拠としながらの復元模写に挑戦し、その結果は最後の発表会において敦煌研究院の研究者からも高い評価を得ることができました。現場での貴重な体験とともに、同世代の敦煌研究院の仲間たちとの出会いと交流は、今後2人がそれぞれの道を歩む上できっと大きな意味を持つことでしょう。この研修は、あと2年間の実施を予定しています。

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シルクロード人材育成プログラム土遺跡保護修復班終了

甘粛省瓜州踏実墓修復現場
日干しレンガの補強作業

 中国文物研究所と共同で実施する「シルクロード沿線文化財保存修復人材育成プログラム」土遺跡保護修復班の第3年目の研修が9月1日から2カ月間、甘粛省瓜州市で実施され、10月31日には3年間合計7カ月の研修を締めくくる修了式が同市においてとりおこなわれました。土遺跡とは日干しのレンガを積んで構築した地上の建造物、考古発掘作業によって地下から出現した土構造の遺跡を指します。日本には考古遺跡の保存例は多数ありますが、地上のものとしては、完全に土を材料として作りそれが乾いただけのものという意味ではほとんど例がなく、自ずから修復保護の経験も乏しいジャンルです。しかし、西アジアから中国に至るシルクロードの各地に残るこれらの遺跡は、まさにその東の果てに位置する日本へ西方の文化が伝えられた、いわば道しるべのような存在ですから、その保護のための人材育成に協力することは、とても重要な意味があります。これまでイランや中央アジアの各国でも日本の専門家による修復協力活動が行われてきました。今回の研修では、瓜州のゴビ灘(砂利の沙漠)に築かれた2,000年前の墓の土製の門柱を対象として修復の実習作業を行いました。12名の研修生は、これまで2年間5カ月の研修によって身につけた概念と理論を駆使し、現場での調査や観察をもとにした検討を通して、この遺跡に最も相応しい修復と保護の状態を考え、実際の修復作業も行い、工事を完成させました。さらに、3年間の研修を集大成する報告書を作成しました。彼らはそれぞれの地域に戻り、地域のリーダーとして土遺跡の保護に従事していくものと期待されています。

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タジキスタン、アジナ・テパ仏教遺跡保護プロジェクト

坐像の印影のついた土器片

 文化遺産国際協力センターは、2006年よりユネスコ文化遺産保存日本信託基金による「タジキスタン、アジナ・テパ仏教遺跡保存プロジェクト」に参加してきました。本年は同プロジェクトの最終年にあたることから、今後の報告書の刊行を目指して、これまでの調査によって出土した遺物の整理や得られたデータの分析を実施しました。作業は10月2日から23日にかけて、タジキスタン共和国古物博物館において行いました。出土遺物の多くは、アジナ・テパ遺跡が居住されていた7世紀から8世紀の土器や日干しレンガの破片です。今回、こうした遺物の中に、印章が押された大甕の口縁部の破片を発見しました。押された印面は大小2つ見られます。大きな丸い印面の中央には坐像が描かれ、像から見て右側に水瓶、左側に錫杖と思われるものが配置されています。大甕の破片はアジナ・テパ遺跡から数多く出土していますが、こうした印章が押されたものは他に見られません。何か特別な用途をもった大甕に印章が押されていたのでしょうか。興味深い発見でした。

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