研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


中国・甘粛省文物考古研究所、甘粛省博物館職員来訪

分析科学研究室にてセンター長より説明を受ける来訪者

 11月6日に中国・甘粛省文物考古研究所及び甘粛省博物館職員が、秋田県立博物館の招聘に伴い、東京文化財研究所の施設見学のため来所しました。一行は、保存修復科学センター長から研究所の概要についての説明を受けた後、保存修復科学センターの分析科学室及び1階ホールの企画展示の見学、文化遺産国際協力センター長との意見交換を行いました。


久野健氏資料の寄贈受け入れ

 今年7月、87歳で逝去された当所名誉研究員の久野健氏のご遺族より、久野氏の調査による写真資料と調書をご寄贈くださるとのお話があり、11月7日に当所への輸送を行いました。久野氏は日本彫刻史を研究され、精力的に現地調査に赴かれ、その成果は京阪神のみならず東北や関東など各地域の仏像を編集した『仏像集成』(学生社)、『日本仏像彫刻史の研究』(吉川弘文館)など多数の著書によって公になっています。その背景となった写真はB4、4段ファイル6本分、調書は300冊を超えます。これらのリストを整え、公開すべく、整理を進めていく予定です。


特集陳列 黒田記念館―黒田清輝の作品Ⅱ

黒田記念館-黒田清輝の作品Ⅱ
特集陳列の様子

 今年4月に独立行政法人国立文化財機構に組織が改まったことを記念して、黒田記念館所蔵の作品を東京国立博物館平成館で展観する第二回目の特集陳列が、11月6日(火)から12月2日(日)まで行われました。今回は、黒田が留学中に好んで訪れたパリ近郊の農村グレー=シュル=ロアン(Grez=sur=Loing)滞在中の作品と、1891年10月号の「フィガロ・イリュストレ」(Figaro Illustre)に掲載されたピエール・ロティ(Pierre Loti 1850-1923)によるエッセイ「日本婦人」のための挿図原画「日本風俗絵」(Japanese Genre Scenes)4点を中心に、22点の作品を展示しました。「フィガロ・イリュストレ」1891年10月号と「日本風俗絵」を同時に展示されたのは初めてで、黒田がフランスにもたらした日本イメージを具体的に知る機会となりました。


第41回オープンレクチャー

11月2日、江村が「光琳の目と手」と題する発表を行いました。
11月3日、山梨が「矢代幸雄と美術研究所」と題する発表を行いました。
山梨は近代日本洋画の父と仰がれた黒田清輝とその作品についても語りました。
近代日本洋画の父黒田清輝は美術研究所設立の立役者でもありました。
11月3日、荒屋鋪透氏は「黒田清輝の+体験 -芸術家村グレーから黒田記念館へ」と題する発表を行いました。

 当所では、美術史の研究成果を広く知って頂くための活動の一環として、毎年秋に1回2日間にわたってオープンレクチャーを開催しております。昨年までは美術部の主催でしたが、機構改革に伴い本年より企画情報部が受け継ぎ、今年で41回を数えることとなりました。
 本年は、11月2日(金)には、江村知子「光琳の目と手」、中部義隆(大和文華館)「矢代幸雄の琳派観」と題し、近世絵画、とりわけ国際的にも評価の高い琳派を中心に研究発表が行われました。江村は、江戸時代における尾形光琳の芸術性を、主に「四季草花図」(津軽家旧蔵・個人蔵)という彼の作品を通して同時代の視点で探究しました。また中部氏は、近代に至って琳派作品がどのように見出され、評価されていったのかを、矢代幸雄という日本における美術史学草創期の研究者の目を通して跡づけられました。
 11月3日(土)は、山梨絵美子「矢代幸雄と美術研究所」、荒屋鋪透(ポーラ美術館)「黒田清輝の+体験 -芸術家村グレーから黒田記念館へ」という2名の講師による近代美術史に関わる研究発表が行われました。山梨は、当研究所の前身、昭和5年に設立された美術研究所の初代所長でもあった矢代幸雄が構想した美術研究所の具体像を考察しました。また荒屋鋪氏は、日本の美術制度の形成に大きな役割を果たし、美術研究所設立の立役者でもあった黒田清輝が、フランス留学、とりわけパリ近郊のグレー村における芸術体験から得たものを具体的に示されました。
 いわゆる文化財に対する関心は、年々高まっているようです。今後も、よりいっそう美術研究を進展させ、作品の持つ豊かさを多くの人に伝えていきたいと思います。

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特集陳列「写された黒田清輝」

「黒田清輝ポートレート」
撮影年不詳 20.5×15.3cm

 11月15日より、黒田記念館の二階展示室において「写された黒田清輝」と題する特集陳列が開かれました。これは平成18年度に、黒田清輝夫人照子のご遺族にあたられる金子光雄氏より、東京文化財研究所に寄贈された写真等208件の資料の一部を公開するものです。資料の大半は、黒田清輝の暮らしぶりを知るポートレートなどですが、これまで未公開の写真もあり、黒田清輝という画家をより深く理解するための貴重な資料です。そのうちから、今回は比較的大判の写真23点を選び公開します。寄贈写真はすでに原板が失われており、いずれもオリジナルな焼付写真であるため、公開にあたりましては、オリジナル写真の風合いを保ちつつ、原寸大に再現した画像を展示いたします。これは、写真資料の保存公開という目的のもとにすすめられたデジタル画像形成技術の開発研究の成果の一部でもあります。(会期:07年11月15日-08年5月17日)

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“オリジナル”研究通信(2)―オーセンティシティー(Authenticity)の在り処

奈良、新薬師寺本堂(奈良時代に建立)の明治修理以前の姿と現在の様子。
明治30(1897)年の修復により、鎌倉時代に付加された下屋状の礼堂が取り払われ、復原をめぐる論議を呼びました。

 企画情報部では来年度の「文化財の保存に関する国際研究集会」への準備として、“オリジナル”をテーマに部内研究会を開いています。11月はとくに建築学を視野に、文化遺産国際協力センターの稲葉信子(14日)、清水真一(21日)を交えて討議を行いました。屋内で大事に保存される絵画や彫刻と異なり、建築物は風雨にさらされ、また住居や施設として日々使用される必要上、度重なる修理や改築を余儀なくされるものです。しかもそうした建築の可変的な性格にくわえて、木造や石造といった材質の違いによって維持のしかたも異なるため、各材質に根ざした文化圏のあいだで自ずと保存修復の理念に差が生じることになります。建築物のどの時代の姿を、どのような部材を用いて文化財として後世へ伝えていくのか、オーセンティシティー(Authenticity 真実性)の在り処をめぐる議論は尽きることがないようです。

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在外日本古美術品保存修復協力事業に関する絵画作品の中間視察

 在外日本古美術品保存修復事業における絵画部門は、海外の美術館・博物館で所蔵されている日本美術品を日本に一旦持ち帰って修復を行っています。例年、10月から11月にかけて各所蔵館の担当者の来日のもと、修復の進捗状況の確認と新調の表装裂選定等をこの時期に行っています。今年度の修復作品5件のうち、キンベル美術館(アメリカ)蔵『多武峯維摩会本尊図』について同館学芸員ジェニファー・プライス氏が10月16日に、オーストラリア国立美術館蔵『釈迦十六善神像』について同館主任修復師アンドレア・ワイズ氏が10月26日に、ヒューストン美術館(アメリカ)蔵『日吉山王祭礼図屏風』について同館保存修復部長ウィン・ペラン氏と修復助手ティナ・タン氏が11月13日に、それぞれを修復している工房に企画情報部のそれぞれの担当者とともに訪れ、修復の進捗状況を確認するとともに、表装裂の選定等を行いました。これらの作品はいずれも明年3月下旬に修復が完了し、運営委員会でのお披露目を経て、5月には東京国立博物館で公開を行う予定です。


「彦根屏風」修復後の調査撮影

 「国宝紙本金地着色風俗図(彦根屏風)」(彦根城博物館蔵)は、二ヵ年をかけた本格的な修理が完了し、「よみがえった国宝・彦根屏風と湖東焼の精華」展(9月28日~10月26日)においてお披露目の展示が行われました。当所では昨年度の修理前から、彦根城博物館と共同で「彦根屏風」の調査研究を実施しています。そしてこの展覧会終了後に、屏風装に改められた状態を撮影し、修理を経て安定した表面の状態を高精細画像および近赤外線画像によって調査・記録しました。現在、その成果をまとめた報告書が編集作業の最終段階を迎えています。今回の調査研究で得られた新知見は、近世風俗画の優品として高く評価されてきた「彦根屏風」の研究のみならず、日本絵画史研究全体においても、有効な資料となることが期待されます。この報告書は今年度末刊行予定です。


人形浄瑠璃文楽の囃子に関する聞取り調査

 無形文化遺産部では、プロジェクト研究「無形文化財の保存・活用に関する調査研究」の一環として、11月12日に国立文楽劇場(大阪)楽屋で、昭和38年以降、文楽の囃子を引受けてきた望月太明藏(もちづきたぬぞう)社中の、藤舎秀左久(とうしゃしゅうさく)師と望月太明吉(もちづきたぬきち)師の聞取り調査をおこないました。秀左久師は主として笛を、太明吉氏は笛以外の鳴物を担当される社中のベテランで、文楽を陰で支える重要な役割を担いながら、これまであまり注目されていなかった囃子について、その移り変わり、修業のありさまなど興味深いお話を、公演中のお忙しい中にも関わらず、丁寧にしていただきました。


研究会「木質文化財の劣化診断」

 保存修復科学センターでは、文化財の生物劣化対策の研究の一環として、平成19年11月19日、研究所セミナー室において表記の研究会を行いました。今回は「文化財建造物の劣化診断と維持管理 –診断例とその対策、今後期待される技術-」と題して、京都大学の藤井義久氏から、広い範囲の最新の診断技術と実例についてわかりやすくお話をいただきました。また、九州国立博物館の鳥越俊行氏からは、「木彫像内部の生物被害を見る -文化財用X線CTによる非破壊劣化診断-」として、CTが木彫像などの虫による被害の検出を含むさまざまな情報を得る強力な手段であることを、カナダ保存研究所のTom Strang氏より、「温度処理による殺虫処理のポリシーと、木質文化財に与える影響の科学的評価」についてお話いただきました。(参加者60名)


韓国南東部における共同調査―日韓共同研究

感恩寺三層石塔の保存修復工事現場

 東京文化財研究所では、石造文化財を対象とした環境汚染の影響と修復技術の開発研究について、大韓民国・国立文化財研究所と共同研究を進めています。今回は、森井順之・張大石(東北芸術工科大学)の2名が、11月20日から24日までの5日間、韓国南東部(慶州・大邱)の石塔や石仏などを対象に、石造文化財保存修復の現状を調査しました。
 慶州では感恩寺三層石塔(国宝)などの石塔の調査を実施しました。感恩寺三層石塔は韓国では珍しく凝灰岩製の石塔ですが、風化による損傷が多く見られ、国立文化財研究所の直轄で解体修理が行われております。今回は修復現場を訪問し、韓国側研究者と修復材料や技法に関する議論を行いました。また、翌日は大邱に移動し第二石窟庵(国宝)などを訪問しました。崖地に仏龕を掘り花崗岩製の仏像彫刻を安置していますが、仏龕内部における漏水や仏像彫刻表面の層状剥離など劣化機構の解明や、将来の保存修復方案について今後議論を行うこととなりました。
 また、23日には国立公州大学校で開催された「石造文化財の保存に関する国際研究集会」に参加し、東京文化財研究所が国宝及び特別史跡・臼杵磨崖仏において実施している調査について講演を行いました。講演後は、多くの研究者から質問や助言を頂戴し、今後の参考となりました。


バーミヤーン出土仏典の保存修復協力

バーミヤーン出土仏典の保存修復協力(1)
バーミヤーン出土仏典の保存修復協力(2)

 文化遺産国際協力センターは、運営費交付金およびユネスコ文化遺産保存日本信託基金によって平成15年度(2003年)から「バーミヤーン遺跡の保存修復事業」を実施しています。平成15年度のバーミヤーン石窟の調査では、石窟から数百点を超える仏典断片が発見されました。仏典断片は、仏教時代の記録として重要な資料ですが、折れ曲がり収縮して文字の判別が難しい状態でした。今回、住友財団による助成を受け、アフガニスタン人専門家を招へいし、これらの仏典断片の保存修復を日本で実施しました。保存修復作業をアフタニスタン人専門家と共同で行うことにより、アフガニスタンへ文化財復興協力のための人材育成にも寄与することができました。


大エジプト博物館保存修復センター設立への協力

建設中の「大エジプト博物館保存修復センター」

 文化遺産国際協力センターは、エジプトのカイロで建設が進められている「大エジプト博物館(Grand Egyptian Museum)」の付属機関である「保存修復センター」の設立に向け、国際協力機構(JICA)の要請を受け、技術的な支援を行なっています。保存修復センターに必要な機材リストの作成、同センターで活動する専門家の人材育成、技術移転等、エジプト側が求めているさまざまな要請に対して、助言を行なっています。これに関し、11月12日から20日にかけて、清水センター長、山内地域環境研究室長、谷口特別研究員がエジプトに出張し、エジプト側の担当者と今後の協力について協議を行ないました。現時点では開設の準備段階で必要な支援を行なっていますが、同センターの開設(2008年4月予定)以後は、ワークショップ等を通じて、具体的な人材育成・技術移転の面で協力していく予定です。


「シルクロードの世界遺産登録のための国際シンポジウム」への参加

シルクロードの世界遺産登録のための国際シンポジウム

 10月30日及び31日に中国の西安で、2010年に予定されている「道としてのシルクロードの世界遺産への登録」のためのシンポジウムが開催されました。日本側からは、同シンポジウムには山内地域環境研究室長と前田耕作客員研究員が参加しました。日本にとっては、このシルクロードの登録はいくつかの問題を孕んでいます。特に問題となるのは、登録が予定されているシルクロードの地理的な範囲です。現時点では、シルクロードの東側の起点とされているのが中国の西安(長安)であり、日本、特に奈良の存在が考慮されていません。登録の申請書でどのような地理的な概念規定がなされていくかについて、今後とも強い関心を持ち続ける必要があると思われます。


アンコール遺跡の救済と発展に関する国際調整委員会総会

 表題の会議が2007年11月28日、カンボジアのシエムリアップで開催されました。年2回の委員会のうち技術委員会では、遺跡の保存修復や調査研究などに携わる組織の活動報告が行われますが、総会はより総合的な討議を行う場とされています。今回、口頭での活動報告は一部の大規模事業だけで、ほとんどの組織は事前に文章で活動報告を提出、会場で報告書集が配られました。
 本委員会の対象はアンコール遺跡ですが、実は今回、しばしば話題になったのはプレア・ヴィヒア遺跡でした。この遺跡はタイとの国境に位置し、来年には世界遺産リスト登録が確実とみられている重要な遺跡です。このほど、この遺跡の保存・整備にタイが協力することとなり、また両国のほかいくつかの国による国際調整委員会の組織が検討されている状況で、当該遺跡への関与についての意思表明が関係各国からなされました。日本に期待される役割はまだ具体的には示されないものの、大きいことは確かで、今後、何ができるのかを検討していく必要があるでしょう。


「韓国中央アジア学会」に参加して

韓国中央アジア学会主要メンバーとの記念撮影

 11月10日にソウルの国立中央博物館で「韓国中央アジア学会」に開催されました。今回の学会は、「敦煌」をテーマとするもので、フランス・ギメ東洋美術館のジャック=ジエス氏、イギリス・大英図書館のスーザン=ウィットフィールド氏、ロシア・エルミタージュ美術館のサモスュク=キラ氏が敦煌壁画、敦煌文書の研究、アーカイブをテーマに報告を行い、敦煌研究院の李最雄氏が敦煌壁画の保存と科学研究について、東文研文化遺産国際協力センターの岡田健が日中共同による敦煌壁画の保護活動について報告を行うという、敦煌学の全体とそれに関わる世界中の専門家の活動にまで視野を広げた、極めて意欲的な学会でした。韓国の中央アジア学会は創立14年という若い組織ですが、日本や中国、アメリカで学位を取った研究者も多く、自らの研究対象へ積極的にアプローチする姿勢はすばらしいものです。11月2日に同じ国立中央博物館で設立された「東アジア文化財保存学会」、あるいは毎年着実に実績をあげつつある「日中韓・紙の文化財保護学会」など、韓国との連携は文化遺産研究と保護のあらゆる面で、今後重要さを増していくことでしょう。

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シルクロード沿線人材育成プログラム「紙の文化財」研修コース・実技実習

坂田雅之氏(国宝修理装こう師連盟)による実技指導

 中国文物研究所(北京)での人材育成プログラムは、11月になり日中の専門家の指導による実習授業に入りました。近年開発された中性紙等の材料による書籍の保存・保管方法についての授業は、修理に重点を置いた研修を想定し参加した研修生にとって新鮮な内容であったようです。いっぽう、伝統的な修復技術に関しては日中の方法に違いがあり、「中国の紙の文化財」保存に貢献するため、日本側の専門家がどのように日本の技術を伝えていくか、現場での試行錯誤が続いています。しかしこれによって、研修生への指導にとどまらず、日中の専門家による技術交流も促進できるものと期待されています。

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