研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


中国・河南省文物管理局来訪

パネル展示を見学する中国・河南省文物管理局一行

 10月23日に中国・河南省文物管理局文物処処長以下5名が、奈良文化財研究所の招聘に伴い、東京文化財研究所の施設見学、意見交換のため来所しました。一行は、文化遺産国際協力センターにてセンター長から研究所の概要及びセンターの国際協力事業についての説明を受けた後、保存修復科学センターの分析科学室、修復アトリエ、X線室及び1階ホールの企画展示の見学をし、保存修復科学センター長及び各施設の担当者が説明及び質疑応答を行いました


墨田区安田学園中学校・高等学校施設見学

修復アトリエで担当者から説明を受ける墨田区安田学園中学校・高等学校の生徒たち

 10月19日に墨田区安田学園中学校・高等学校生徒10名が、「日本の伝統を探る」をテーマとして東京文化財研究所の施設見学に来訪し、保存修復科学センター分析科学研究室・修復アトリエ・1階ホール企画展示にて見学、各担当者から説明、質疑応答の後、黒田記念館にて見学、担当者からの説明、質疑応答が行なわれました。


「彦根屏風」光学的調査のパネル展示

「よみがえった国宝・彦根屏風と湖東焼の精華」展会場
光学的調査の結果の一部を紹介した大型の画像パネル

 昨年度より当所では、国宝「彦根屏風」の調査研究を彦根城博物館と共同で行っています。この作品は100年以上もの間、一扇ずつ分かれた状態であったことと、経年による汚れや絵具の剥落の危険性があったため、この2ヵ年をかけて国の文化財保存補助事業として文化庁の指導のもと、本格的な修理が行われ、額装から屏風の形に改装されました。このたび無事修理が完了し、彦根城築城400年祭の記念事業の一環として、「よみがえった国宝・彦根屏風と湖東焼の精華」展において修理完成披露が行われました。この展覧会は9月28日から10月26日まで開催され、展示会場では、これまで行ってきた光学的調査の結果の一部を大型の画像パネルでご紹介致しました。精緻な画像によって作品の超絶技巧の細密表現や、赤外線画像によって肉眼では見えない色の指示書きや下描き線の存在などを掲示し、多くの観覧者の方々にご好評を頂きました。現在、その成果をまとめた報告書を編集中で、今年度末に刊行する予定です。


“オリジナル”研究通信(1)―部内研究会、本格的にスタート

敦煌文書を調査するフランス人東洋学者ポール・ぺリオ(1908年)。 ぺリオのように文書が発見された窟内で調査を行った研究者はまれでした。

 企画情報部では来年度に開催する「文化財の保存および修復に関する国際研究集会」にむけて、目下準備を進行中です。そのテーマについて部員のあいだで討議を重ねた結果、“オリジナル”をキーワードに、文化財をあらためて見つめなおそうということになりました。たとえば復元という行為にみられるように、文化財の現場にあって“オリジナル”は常に憧れの対象なのですが、そのとらえ方は時代や地域によってさまざまに変化します。そうした中で、わたしたちはいかに文化財を伝えていくのか、とくに当部がになう文化財アーカイブの視点からこの課題に取り組んでみたいと思っています。
 テーマ設定についての五度にわたる討議を経て、さらに“オリジナル”に関する部内研究会がスタート、その第一回目として9月26日には、敦煌文書の真贋をめぐり中野照男(企画情報部)によるケース・スタディが行われました。1900年に敦煌莫高窟より山積みの状態で発見された敦煌文書ですが、その後海外の探検家や研究者によって幾度となく国外へ持ち出されたこともあり、文書をめぐる来歴は真贋の問題もふくめ錯綜しています。そうした中で進展する“敦煌学” のあり方について、保存修復科学センターの加藤雅人をコメンテーターに立てて学びました。また10月3日には無形文化遺産部の飯島満を交えた研究会で、文楽等の古典芸能を話題としながら“オリジナル”をめぐる無形文化財と有形文化財との考え方の違いについて討議しました。無形文化財のばあい、有形文化財のように過去にさかのぼった初演時の上演形態が“オリジナル”なのか、それとも上演のたびごとに新たな“オリジナル”が生み出されるのか――文化財を伝える立場として、避けることのできない問題であることを再認識しました。今後もこうした“オリジナル”をめぐる研究会を随時開いて、来年度の国際研究集会へと発展させていきたいと思っています。

/

研究報告書『「湖畔」物語』研究協議会

黒田清輝筆「湖畔」

 今年度、企画情報部の研究プロジェクト「東アジアの美術に関する資料学的研究」として、黒田清輝「湖畔」(国指定重要文化財、1897年、キャンバス・油彩)をとりあげ、多角的に検証して研究成果報告書としてまとめる予定です。そのため10月12日には、当部において所外の専門家6名の参加をあおぎ、中間報告として研究協議会を開催しました。今日、広く親しまれているこの作品の誕生の背景から、評価の歴史、作品そのものの創作の経緯と「もの」として現状等について発表がおこなわれ、活発な討議が重ねられました。一点の作品について、これまでになく深く多面的な研究がなされ、そのユニークな研究成果が期待されます。

/

第49回近畿・東海・北陸ブロック民俗芸能大会調査

「伊勢太神楽」(三重県桑名市)

 去る10月28日に和歌山県上富田町の上富田文化会館に於いて開催された上記大会を調査しました。無形文化遺産部無形民俗文化財研究室では、毎年全国各地で開催される民俗芸能大会の調査を継続的に行っており、今回もその一環として実施しました。今年度から近畿・東海・北陸ブロック民俗芸能大会はその運営方法を大きく見直し、ブロック内各府県が隔年で出演する形となり、6県から8団体が出演しました。新しい方式の初年度とあって、その運営が注目されましたが、会場は終始超満員で盛り上がり、演技時間も昨年までと比べ比較的十分確保されるなど、成功裏に実施されたことが確認できました。


「保存担当学芸員フォローアップ研修」の開催

研修風景

 表題の研修は、毎年7月に2週間行っている「保存担当学芸員研修」の修了者を対象に、最新の保存技術などを伝える目的で毎年1回行っているものです。今年は、10月29日に開催し、過去24回の修了者約540名のうち62名の方が多忙の合間を縫って参加しました。今回のフォローアップ研修では、3名の修了者の方に、それぞれの勤務館に於いて、東京文化財研究所と協力して館内環境改善に取り組んだ成果をお話しして頂き、弊所の担当研究員が解説するという構成で行いました。参加者の方にとっては、他館での実践を直に聞く少ない機会であり、自身の取り組みとも重ね合わせ、皆興味深く聞き入り、そして活発な議論・意見交換が交わされました。我々にとっても、学芸員研修をはじめとする活動が実を結んだことは嬉しい限りで、今後も様々な形で、文化財保存環境に関する情報を発信していきたいと考えています。


日韓共同研究報告会2007の開催

當麻寺(奈良県)石造五輪塔の調査

 東京文化財研究所保存修復科学センターでは、国際共同研究「文化財における環境汚染の影響と修復技術の開発研究」に関して、大韓民国・国立文化財研究所と共同で、石造文化財、特に磨崖仏の保存修復について調査研究を進めています。その中で、両国の研究者がより親密に研究交流できるよう、毎年研究報告会を相互で開催しております。
 今年度は10月18日(木)、東京文化財研究所地下会議室にて研究報告会を開催しました。韓国側からは、李柱玩氏・全昞圭氏(国立文化財研究所)・李讚熙氏(公州大学校)をお招きし、石造文化財の劣化診断や保存環境、汚染物除去の事例報告についての講演を行いました。日本側からは朽津信明・早川典子・森井順之の3名が講演し、石造文化財の保存修復について両者による深い議論が交わされました。  研究報告会の後は、韓国側研究者と共に、関西地方の石造文化財についてその保存状態と周辺環境に関する調査を行ってきました。当日は悪天候にも関わらず限られた時間の中で多くの石造文化財について調査・議論を行いました。今後もこうした共同調査を継続し、日本と韓国の研究交流がより深いものになればと願っています。


イラク人保存修復専門家の研修事業(2)

真空凍結乾燥処理後の遺物のクリーニング作業(静岡県埋蔵文化財調査研究所)

 3ヶ月にわたるイラク人専門家への保存修復の研修は順調に進み、これまでにほぼ半分が終了しました。
 9月末から10月末にかけ、4名の研修生は東京文化財研究所での保存修復に関する基礎講義と乾燥した木製遺物の保存修復の実習に参加しました。つづく10月29日から11月9日には、(財)静岡県埋蔵文化財調査研究所の協力を得て、遺跡から出土した水浸木材の保存修復について研修を行いました。静岡市駿府城内遺跡(15~16世紀)の発掘現場では、実際に液体窒素や発泡ウレタンを使った脆弱な木製遺物の取り上げ作業を経験したほか、静岡県埋蔵文化財調査研究所・清水事務所では、実際の出土遺物に対して、PEGや凍結乾燥による強化処理や、クリーニングや接合、補彩といった一連の保存修復の作業に携わりました。
 今後、奈良文化財研究所において保存修復の作業に用いられるさまざまな機材についての研修を受け、最後に今回の研修の成果についての報告を行ない、研修を修了する予定です。


インドネシア・プランバナン遺跡復興支援第3次調査―文化庁「文化遺産国際協力拠点交流事業」―

ガルーダ祠堂 解体の始まった頂部の調査
東京文化財研究所とジョグジャカルタ特別州考古遺跡管理事務所のメンバー

 文化遺産国際協力センターでは、2006年5月27日のジャワ中部地震で被災した世界遺産プランバナン遺跡の復興支援事業への協力を行なっています。日本の草の根文化無償の支援によるガルーダ祠堂の足場の架設工事の完了を受けて、2007年10月22日から11月4日にかけて第3次ミッションを派遣しました。今回の調査では、部分解体が始まったガルーダ祠堂を中心に、頂部の被害状況と内部構造の確認、過去の修復に関する文献収集調査および聞き取り調査を行ったほか、ガルーダ祠堂とほぼ同じ構造をもつハンサ祠堂を対象に、構造体の振動特性の究明のための地震動計によるモニタリングを開始しました。これらの調査はジョグジャカルタ特別州考古遺跡管理事務所、ガジャマダ大学との協力を得て実施されました。
 現在は、調査に先だって作成された祠堂各面の幾何補正画像を活用し、各石材の破損状態、補修方法と解体範囲を図示し、修理事業費の積算が可能な水準での設計資料を整える準備を進めています。さらに、祠堂の構造特性に関する解析結果に基づき構造補強方法を検討の上、修理設計案を本年度中に提示していく予定です。


シルクロード沿線人材育成プログラム「紙の文化財」研修コース始まる

清水真一センター長による文化財保護概論
岡岩太郎氏(国宝修理装こう師連盟)による日本の紙の紹介

 シルクロード沿線の文化財保護に従事する中国の人材を育成する共同プログラムは、10月8日から12月27日までの日程で、北京の中国文物研究所において、2007年度後期「紙の文化財」研修コースがスタートしました。この研修コースにおいては、中国と日本の「紙の文化財」保存に関わる専門家が講師をつとめます。日本からは12名の専門家が、10週にわたって北京に滞在し、理論講座と実技指導を担当します。伝統的な保存修理技術だけではなく、現代科学によって解明された紙の文化財の材料や技法に関する講義や、新しい欧米的な保存方法などについての講義もあり、シルクロード沿線の各地から集まった12名の研修生が十分な成果をあげられるよう工夫を凝らしています。

/

石造文化財の保存処理技術に関する研究会(西安)

現地(乾陵東門)視察

 2004年度以来、西安文物保護修復センターと共同で推進している「唐代陵墓石彫像保護修復事業」では、毎年一回日中専門家による研究会を開催しています。第4回目となる今回は、10月11日から13日の日程で西安市において開催しました。中国国内からは、同じく私たちが保護のための共同研究を進めている龍門石窟研究院からも担当者が派遣され出席しました。西安・龍門ともに来年度での事業終了を目前に控え、修復作業がいよいよ最終段階に入るにあたり、「石造文化財の保存処理技術に関する研究会―石造文化財の保存修復と展示方法/保存処置に際しての接合部分及び表面の化粧方法」というテーマで、事例報告と討論を行いました。日本からは石造文化財の修復に豊富な経験のある海老澤孝雄氏(ざエトス)に参加して頂きました。

/

to page top