研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


9月施設訪問(1)

 台東区立御徒町台東中学校6名
 9月21日に、「総合的な学習の時間」の一環として実施されている職場訪問により来訪し、1階企画展示、資料閲覧室、保存修復科学センターアトリエ・分析科学研究室、文化遺産国際協力センターを見学し、それぞれの担当者が説明及び質疑応答を行いました。


9月施設訪問(2)

 (社)日本原子力産業協会「先端技術情報交流会」会員12名
 9月26日に、各企業・大学・機関等により構成された「先端技術情報交流会」会員が、東文研で行なわれている調査・研究のなかで、「ハンディ蛍光X線分析装置」及び「キトラ古墳の石質壁画・玄武の保存・修復技術」について見学、意見交換のため来訪し、分析科学研究室、1階企画展示を見学し、それぞれの担当者から説明を受け、質疑応答を行いました。


在外日本古美術品保存修復協力事業 絵画班現地調査

イェール大学美術館における調査
ブルックリン美術館における調査

 企画情報部は、保存修復科学センターの表題事業のうち、とくに絵画作品の修復について美術史的見地からの協力を行っています。今春のヨーロッパ調査に引き続き、企画情報部と保存修復科学センターならびに研究所外の方の協力も得て美術史と保存修復の専門家からなる調査チームを組織し、アメリカ東海岸の美術館にて修復候補作品を選定するための現地調査を行いました。9月11日にニューヘヴンのイェール大学美術館Yale University Art Galleryで、9月16日にニューヨークのブルックリン美術館Brooklyn Museumを訪問しましたが、両館ともに質の高い日本美術コレクションが形成されていることに驚かされました。今回はそのごく一部しか調査することはできませんでしたが、それでも南北朝時代から室町時代後期にかけての優秀な作例数件が、早急かつ本格的な修復を必要としている状況にあることがわかりました。今後は所蔵館と研究所との間で検討と協議を重ね、このうち数件を2009年度の本事業で修復する予定です。なお本調査の後、修復チームはカナダに立ち寄り、ビクトリア美術館Art Gallery of Greater Victoriaおよびバンクーバー博物館Vancouver Museumにて2008年度の修復候補作品についての追加調査を行いました。

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共催展「黒田清輝展」の閉会

平塚市美術館におけるアンケート調査風景
(平成19年7月28日)

 今年度の上記の展覧会が、神奈川県の平塚市美術館において7月21日から開催され、9月2日に無事終了しました。会期中、入館者は12,746人にのぼったことを報告します。黒田清輝にとって、湘南地域はフランス留学の帰国直後から親しんでいた地であり、海岸風景など数多くの作品を描いています。そうした縁のある地での開催であったため、例年になく好評を博しました。会期中の7月28日には、開催館の協力のもと、会場において来館された方々へのアンケート調査を実施しました。当日入場者数279人に対して調査対象数161人(内訳男性57人、女性95人、小人9人、回収率57.7%)の方々から回答をいただき、「作品が豊富で良い」、「平塚でこの内容が見られてとても良い」などといった個別のご意見に加え、展覧会の内容については、「満足」、あるいは「おおむね満足」であったという「満足度」が、ほぼ100%になりました。9月6日からは黒田記念館における公開を再開しましたが、つづいて来年度は兵庫県の神戸市立小磯記念美術館にて開催を予定しており、今年度にもまして充実した共催展になるように努めていきたいと思います。

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伝統楽器情報検索のデータを大幅更新

 今年5月に、ホームページ上で伝統楽器情報検索を開始しましたが、データを2倍にふやしてリニューアルしました。元になったデータベースは、平成13年より行った伝統楽器のアンケート調査ですが、都道府県市町村の教育委員会からの回答に加えて、今回アップしたのは全国の博物館から寄せられた回答分です。従来は文化財に指定された楽器を中心としていましたが、博物館のデータが加わったことで、各地の博物館が所蔵する名器や珍しい楽器が検索できるようになりました。検索項目や方法は以前と同じですが、三味線、箏、鼓など、いわゆる楽器らしい楽器のデータがぐっとふえて、検索の楽しみがいっそう増しました。


無形文化遺産保護条約第2回政府間委員会

無形文化遺産保護条約第2回政府間委員会

 去る9月3日から7日まで、東京国際交流館プラザ平成において、無形文化遺産保護条約第2回政府間委員会が開催されました。今回の会合は、5月に中国の成都で行われた臨時政府間委員会に続いて、無形文化遺産保護条約の実施に関わる作業指針が討議され、2009年の代表リスト・危機リストの第1回登録に至る具体的スケジュールの決定など、多くの事項で具体的な成果を挙げました。東京文化財研究所は、今回の会合において、組織として正式なオブザーバー資格を獲得し、文化遺産国際協力センターの稲葉と無形文化遺産部の宮田が全日程に出席しました。


文化財公開施設の環境調査

 国宝や重要文化財といった国指定品を、所有者以外のものが、その所在地の都道府県を越えて移動させ、展示するには、文化庁との協議が必要となります。美術館や博物館が特別展などの目的で、このような移動を伴う資料借用を初めて行うにあたっては、文化庁文化財部美術学芸課の依頼を受けた東京文化財研究所が、温湿度や空気環境などの保存環境調査を行って、報告書を作成します。例年20から30件程度、この環境調査を実施していますが、特別展の多い秋期にはその件数が集中しています。今年度も、主に9月から11月の間に始まる特別展のために、すでに14件の環境調査を全国の美術館、博物館を対象に実施し、報告書を作成しました。調べた保存環境と、借用する資料の材質、借用・展示期間などを総合的に検討して、施設内環境の適否を判断しています。また、必要に応じて、環境改善に向けた相談も随時受け付けておりますので、文化財保存施設の保存担当者の方は、どうぞお気軽にご連絡下さい。


第5回国際研修「漆の保存と修復」の開催

参加者の発表
漆掻きや漆に関する民俗資料の調査

 9月10日より1週間にわたり第5回国際研修「漆の保存と修復」を開催しました。この国際研修はローマに本部のあるICCROMと共同事業であり、隔年で漆と紙を取り上げています。今年度は漆の第5回目にあたるため、例年の研修とは異なり、過去の参加者による評価セミナーとして開催しました。最初の2日間で11名の参加者全員に本研修で学んだことを現在どのように活用しているかについて発表してもらい、後半の3日間で漆への理解をさらに深めるためのスタディーツアーを行いました。過去の研修で3週間にわたり学んだ実技や講習を各国での漆文化財の保存修復に様々な形で活かしている事例が発表され、多様な情報の交換が行われたことは、参加者だけでなく今後の研修を行っていく上でも非常に有意義であったと考えられます。


2007年新潟県中越沖地震における被災文化財調査

地震により倒壊被害を受けた大泉寺本堂

 2007年7月16日午前10時13分、マグニチュード6.8、最大震度6強の地震が新潟県中越地方を襲いました(平成19年(2007年)新潟県中越沖地震)。震源近くである柏崎市などでは、家屋の全半壊、ライフラインの寸断など大規模な被害をもたらすと共に、多くの文化財も被害を受けました。保存修復科学センターでは、新潟県中越沖地震における文化財被害について、被害状況や被害要因を早急に把握し、応急措置や将来の修復計画に関する助言を行うことを目的に現地調査を行いました。調査期間は、2007年9月4日から5日まで、長岡・柏崎市内の文化財展示施設、文化財建造物を対象に行いました。
 はじめに、長岡市内の文化財展示施設を調査しましたが、火焔型土器をはじめとする展示・収蔵品に大きな被害は見られませんでした。2004年の地震を教訓とし展示・収蔵方法の見直しが行われたことが、関係者のヒアリングにより明らかとなりましたが、地震では長岡市内でも大きな揺れが観測されていたため、見直しの効果が出たものと考えられます。
 翌日は、震源地に最も近い柏崎市内で調査を行いました。被害状況は長岡市内とは比べものにならないほど悲惨な状況でしたが、寺の本堂などが全壊被害を受けるなど、文化財でも同様であることを確認する結果となりました。
 2007年は、能登半島地震にはじまり、大地震が頻繁に起こっています。東京文化財研究所ではこれからも、文化財の防災に関する研究を推し進めてゆくとともに、積極的な情報公開により、文化財防災についてより多くの方に知って頂くよう努力してゆく所存です。


在外日本古美術品保存修復協力事業に関する工芸関係の調査

アシュモリアン博物館にて調査風景

 2007年9月24日から29日にかけて、イギリス(2館、ヴィクトリア&アルバート博物館及びアシュモリアン博物館)及びドイツ(1館、ケルン東洋美術館)において、7月に実施した調査の結果、来年度の修復候補としてノミネートされた作品を中心に日本古美術品の調査を実施しました。ヴィクトリア&アルバート博物館では1作品、アシュモリアン博物館では3作品が来年度の修復候補としてノミネートされており、現状の詳細な調査及び日本へ移送する際に問題となりそうな事項につき博物館側と協議をしました。現状でも塗膜や螺鈿の剥離が顕著で移送の時点でさらに状態が悪化する可能性のあるものなどについて、移送する際に十分な注意を払って梱包していただくようにお願いしました。ケルンでは現地で修復する作品を受取り、派遣した技術者の方々に引き継ぎました。今年度はケルンではケルン東洋美術館所蔵の洋櫃とウイーンからの月琴を修復する予定です。


日印共同によるアジャンター壁画の技法材料、製作技法と保存に関する調査研究―文化庁「文化遺産国際協力拠点交流事業」―

壁画に塗布されたシェラックの暗色化によって図像が見えにくくなっている壁画について、インド考古局の専門家から説明をうける
今回共同調査を行った、東京文化財研究所とインド考古局(アジャンター現地オフィス)のメンバー

 東京文化財研究所は、インドと共同でアジャンター遺跡の壁画の技法材料、製作技法に関する情報や知識を交換・共有し、また保存修復に関する人材育成・技術移転することを目的とした事業を予定しています。そのために、9月25日から10月3日まで、インド・アジャンター遺跡での予備調査とカウンターパートであるインド考古局との意見交換を実施しました。
 アジャンター遺跡には、玄武岩からなる馬蹄形の渓谷に、30におよぶ仏教石窟が開鑿され、壮麗な仏伝を中心とする仏教壁画と数多くの彫刻が残されています。現在私たちが目にすることができる壁画の多くは、もともとの鮮やかな色調とは異なり、かなり黄色がかったものとなってしまっています。これは、かつて、イタリア人やインド人保存修復家たちにより、表面の保護や色彩をはっきりさせる目的でシェラック樹脂を何度も塗布されてしまった結果によるものです。また、コウモリの尿害や生物被害などにより、絵画が見えにくくなってしまっている場所も数多くみられます。この拠点交流事業のなかで、アジャンター仏教壁画の製作技法、材料について共同で分析を進めていくとともに、アジャンターに特有な保存に関する問題について取り組み、よりよい保存修復のための材料や手法が見出せるように共同研究を開始する予定です。


イラク人保存修復専門家の研修事業

本年度招へいされたイラク人研修生たち

 文化遺産国際協力センターでは、東京文化財研究所の運営交付金およびユネスコ/日本信託基金をもとに、2004年度からイラク国立博物館中央修復研究室の復興のために、イラクの保存修復専門家への研修を継続しています。2007年度は、イラク国立博物館中央修復研究室からファーエザ・M・ジュマー氏、タグリード・H・ヘーゼル氏、ニネヴェ古物遺産局からスィナーン・A・ユーニス氏、イラク・ナーシリーヤ博物館からジャマール・A・A・イスマイール氏の4名の保存修復専門家を招へいし、2007年9月19日から12月12日までの3カ月間にわたり、木製品の保存修復研修を実施する予定です。本事業は、奈良文化財研究所および静岡県埋蔵文化財調査研究所の協力を得て実施されます。


中央アジアにおける文化財保護施策に関する国際会議にむけた現状調査

タシケントでの文化財保護制度に関する聞きとり調査

 文化遺産国際協力センターでは、文化財保護施策に関する国際研究の一環として、本年度は中央アジアを対象とした研究を行っています。9月9日から16日には、中央アジアにおける文化財保護に関する現状調査と、3月に中央アジアで実施を予定しているアジア文化遺産国際会議の準備のため、タシケント(ウズベキスタン)とアルマティ(カザフスタン)を訪れ、現地政府やユネスコの関係者と面会し、情報収集およびニーズアセスメントのための協議を行いました。1991年のソビエト崩壊による独立以降、中央アジアの各国では、制度から保存の現場まで幅広い問題に直面しています。今回の調査では、考古遺跡の保存と管理活用、遺物の保存環境、人材育成など、現地で問題視される具体的な課題が示されるとともに、日本および中央アジア諸国の文化財関連分野の専門家による国際会議を実施し、今後の情報交換や技術移転のため、協力していくことで合意が得られました。


タイ・カンボジア現地調査

レンガ造構造物の保存処理の効果に関する評価
(タイ・アユタヤ遺跡)

 文化遺産国際協力センターは、タイおよびカンボジアにおいて、それぞれタイ文化省芸術総局、アンコール地区保存整備機構(APSARA)と共同で現地調査を行いました。タイでは、スコータイ遺跡およびアユタヤ遺跡において調査研究を実施し、スコータイ遺跡では、スリ・チュム寺院の大仏に繁茂するコケ類や藻類等の植物の対策についての調査や実験、アユタヤ遺跡では、3年前に実施したレンガ造遺構の保存処理について、評価のための調査を行いました。
 カンボジアでは、石造文化財の表面に繁茂する植物について、タ・ネイ遺跡での現地調査のほか、アンコール遺跡で使われている石材の石切場となっていたクーレン山周辺での砂岩石材の調査も実施しました。


敦煌派遣研修、4カ月間の日程を終了

敦煌研究院における研修報告会

 敦煌研究院と東京文化財研究所による第5期共同研究・共同事業において、今回初めて日本の人材を敦煌に派遣し研修を受けさせるということが実現しました。これは、敦煌莫高窟を研修場所として、今後ますます需要が高まる国際協力による外国壁画の保存活動に日本が積極的に参加していくための人材を育てることを目的とするものです。正式にスタートした今年度は、5月13日から4カ月間の日程で実施されました。東京芸術大学大学院博士後期課程・佐藤由季さん(絵画修復)、同・藤澤明さん(保存科学)、筑波大学大学院博士後期課程・末森薫さん(文化遺産管理、美術史)の3人が、異なる専門性を活かし、それぞれの不足を補い合いながら、4カ月の長期間、莫高窟の宿舎に泊まりながら、分析研究、劣化状況の調査、保存処理作業の実習、壁画構造の再現制作と模写など、壁画保存に関する全面的な研修を受けました。現場での貴重な体験は、研修の事業としての成功ですが、同時に3人ひとり一人にとっても、将来の研究や仕事に大きな影響をもたらすものであってほしいと願っています。3人はまた、敦煌研究院の数多くの同世代の研究者・専門家と篤い友情を育みました。この研修はさらに3年間を予定しています。

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