研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


第6回文化遺産東アジアネットワーク会合

 文化庁の依頼により、インドネシアのソロで開催された第6回文化遺産東アジアネットワーク会合に参加しました。会合には、アセアン諸国と東アジア3カ国(日本・中国・韓国)の代表が参加し、アセアンが展開している各プロジェクト報告が行われました。センターからは、文化庁から受託している文化遺産国際協力コンソーシアム事業の枠組みで平成21年度に実施した「被災文化遺産復旧に係る調査」の報告を行いました。報告に対し参加国からは、今後も被災文化遺産に関する調査、ワークショップ、会議などを積極的に行ってほしいとの希望が示されました。
 韓国からは文化財研究所保存科学センター長が参加しており、第7回会合は韓国で開催される予定です。アセアン諸国と東アジア諸国の関係性を深めるうえでも、今後、本会合の重要性はより増していくと考えられます。

文化遺産国際協力コンソーシアム シンポジウム「観光は文化遺産を救えるか―国際協力の新たな展開」開催

会場
総合討議の様子

 文化庁委託事業文化遺産国際協力コンソーシアム事業の一環として、12月14日東京国立博物館平成館大講堂において、シンポジウム「観光は文化遺産を救えるか―国際協力の新たな展開」を開催いたしました。基調講演としてユネスコによる世界遺産保護と観光開発の両立への取り組みについての講演があり、また、2名の専門家から文化遺産と観光を捉えるうえでのリビングヘリテージという視点の重要性を指摘した報告(西山徳明氏)と、地域社会の力で文化遺産の保護と博物館建設が進められたペルーの事例について(関雄二氏)の報告が続きました。国際協力機構からは観光開発への取り組みをヨルダンでの事例を含めて報告があり、さらに、テレビ番組のレポーターとして世界各地を訪れる浜島直子さんからは、文化遺産を楽しむ観光の方法が提案されました。
 専門の方々以外にも多く出席いただき、会場からは質問も寄せられ、文化遺産保護と対立しない観光に注目が集まるなか、国際協力を通してどのように地域社会に貢献するのか、また、観光を活かした文化遺産保護の具体的方法と課題などが議論されました。

文化遺産国際協力コンソーシアム研究会「経済開発協力と文化遺産国際協力」開催

カリン・シビー氏の講演

 文化遺産国際協力コンソーシアム第4回研究会「経済開発協力と文化遺産国際協力」が平成21年3月26日に開催されました。今回は、ドイツ技術協力公社(GTZ)マイノルフ・シュピーケルマン氏、スウェーデン国立遺産庁文化遺産委員会(NHB)カリン・シビー氏、国際協力機構(JICA)森田隆博氏をお招きし、ドイツ、スウェーデン、日本各国による経済開発協力と文化遺産保存協力のあり方についてご講演いただきました。都市開発協力の枠組みで歴史都市保存を活用しながら保健衛生、交通管理等の支援パッケージを提供するGTZに対し、スウェーデンによるタンザニアへの協力では歴史建造物を修復することで住民の衛生状況を改善し貧困撲滅が目指されています。参加者は50名を越え、討議では支援実施のための諸機関連携体制状況や、自国の独自性をどのように協力相手国に適応させるか等について議論が交わされました。今後も、コンソーシアムでは研究会を通して最新情報と議論の場を提供していくつもりです。

イエメン共和国における洪水の被災状況調査

シバーム全景
洪水被害の様子

 イエメン東部のハドラマウト州では、2008年の10月末におきた集中豪雨と洪水によって、多くの家屋が被害を受けました。洪水の被害は、砂漠の摩天楼と呼ばれる世界遺産シバームにも及びました。文化遺産国際協力センターが事務局を受託している文化遺産国際協力コンソーシアムでは、イエメン政府の要請を受け、洪水によって被災した世界遺産シバームとその周辺の被災状況調査を行うために、2月10日から2月21日にかけて専門家を派遣しました。
 ハドラマウト州にはシバームに比肩しうる泥レンガでつくられた高層建築があちこちに残っており、独特な文化的景観を形作っています。しかし、先の集中豪雨と洪水の被害によって、シバームだけでなくこうした周辺の文化遺産や歴史的建造物にも、亀裂の発生や建物の倒壊といった被害が随所でみられました。今後、関係諸機関と協議しながら、この地域においてどのような文化遺産復興の支援ができるのか、検討していく予定です。

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