研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


「博物館・美術館等保存担当学芸員研修」の開催

殺虫処置実習の様子

 表題の研修は、資料保存を担う方々が、そのための基本知識や技術を学ぶことを趣旨として、昭和59年以来毎年、東京文化財研究所で行っているものです。今年度は、7月14日より2週間の日程で行い、全国から31名の資料保存を担う学芸員や文化財行政担当者が参加しました。
 2週間の間に、温湿度や空気環境、生物被害防止といった資料保存環境の重要事項、また、資料の種類ごとの劣化原因と対策、さらに今回は、災害対応として、水損や放射性物質汚染に関する内容を研究所内外の専門家がそれぞれ担当し、講義や実習を行いました。博物館の環境調査を現場で体験する「ケーススタディ」は清瀬市郷土博物館のご厚意により、同館で行いました。参加者が8つのグループに分かれて、それぞれが設定したテーマに沿って調査し、後日その結果を発表しました。
 参加者のほとんどは、現場での長い実務経験があり、それぞれに資料保存において解決すべき施設や設備上の問題意識を持っています。本研修は、学術的観点からの資料保存に重きを置いているため、その理想と現実とのギャップに戸惑う参加者も多く、そのために講義ごとに非常に多くの質問や相談が寄せられます。まさに、そのギャップを認識し、博物館の第1の使命である資料保存のために、現状をスタート地点として何をすべきかを考えて頂くことが本意であり、研修後も参加者とのつながりをしっかりと維持して、相談や助言に応じていきたいと考えています。
 例年、本研修の受講者募集と応募は、都道府県教育委員会の担当部署を通じて行っており、次回の開催通知は平成27年2月頃より、配布予定です。

日光東照宮陽明門の外壁側板絵画の保存に関する調査

陽明門壁板絵画の現地調査
X線透過写真撮影装置の設置

 保存修復科学センターでは、「文化財における伝統技術及び材料に関する調査研究」プロジェクトの一環として、現在、東照宮陽明門の塗装彩色修理に伴う調査を行っています。陽明門の東西側壁板には、現在、寛政8年(1796)に作成された「大羽目板牡丹浮彫」が取り付けられていますが、文献史料によると、元禄元年(1688)や宝暦3年(1753)など、それより古い年代に「唐油蒔絵」と呼ばれる技法で描かれた絵画が存在していました。昭和46年の塗装彩色修理では、このうちの東側壁が取り外され、宝暦3年(1753)作成と思われる「岩笹梅の立木 錦花鳥三羽」の絵画が見つかり、当時の保存科学部が調査を行いました。また西側壁板の下にも「大和松岩笹 巣籠鶴」の絵画が描かれていたことが当時のX線透過写真撮影でわかりましたが、上の壁板を取り外さなかったため、実物を見ることはできませんでした。今回、上の西側壁板を塗装修理するために取り外したところ、218年ぶりにこの絵画の存在が確認されました。しかし、変色や剥落などの劣化が著しいため、当センターでは日光東照宮と日光社寺文化財保存会に協力して、これを防止するための材質や劣化の調査、さらには絵画史研究者も参加してこの絵の下にあるとされる古い年代の絵画痕跡を確認するためのX線透過写真撮影などを実施しています(写真1,2)。この成果を、寛永13年(1636)の造営以来、日光東照宮陽明門を荘厳してきた塗装彩色の実態の解明や、今後、これらを少しでも良い状態で保守管理するために役立てたいと考えています。

「博物館・美術館等保存担当学芸員研修」の開催

害虫の脱酸素処理実習の様子

 表題の研修を7月8日より2週間の日程で開催し、全国から30名の学芸員や行政担当者が参加しました。本研修は、講義と実習を通して資料保存に必要な基本知識と方法論を学ぶことを主眼とし、(1)自然科学的基礎に立脚した資料管理と保存環境に関する項目、(2)文化財の種類ごとの劣化要因とその防止対策に関する項目の2つの柱から成るカリキュラム構成で実施しました。
 保存環境実習を実地で応用する「ケーススタディ」は新宿区立新宿歴史博物館のご厚意により、同館で行いました。参加者が8つのグループに分かれて、それぞれが設定した展示室、収蔵庫の温湿度分布、外光の影響、また生物被害管理などの実地調査と評価を行い、後日その結果を発表しました。
 また今回は、東京国立博物館保存修復課の協力を得て、文化財施設における省エネ問題をテーマにしたグループディスカッションを行いました。
 昭和59年度に開始した本研修は今回で30回目となり、通算の受講者は700名を超えました。初期に受講され、資料保存の第一線で尽力された方々からの世代交代が進みつつあります。これから次世代に保存の任務が継承されていく中で、東文研が負うべき役割とはということを意識しながら、これからの研修のあり方も見定めていきたいと考えています。

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