研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


ケルンにおけるワークショップ「漆工品の保存と修復」の開催

クリーニングの実習

 海外の美術館や博物館に所蔵されている日本の漆工品の保存と活用を目的として、令和元(2019)年12月2日から6日にかけて、ケルン市博物館東洋美術館(ドイツ)にてワークショップ「漆工品の保存と修復」を開催しました。東京文化財研究所は、同美術館の協力のもと平成19(2007)年より本ワークショップを毎年実施しています。本年は、作品の保管や取り扱いにおいて必要となる知識や技術を中心とした基礎編を実施し、欧米より6名の保存修復技術者が参加しました。
 講義では、漆の化学的性質、漆工品の構造や主な加飾技法、劣化と損傷、適切な保管環境などについて取り上げました。木地に漆を塗布する実習も行い、参加者が漆の性質をより深く理解できるよう努めました。また、日本における保存修復の事例を紹介し、修復の理念や技術について解説をしました。加えて、損傷部分の養生やクリーニングといった応急的な処置の実習も行いました。最終日の質疑応答では漆塗膜表面の劣化や損傷、その処置方法などについて活発な意見交換がなされました。
 このように、漆工品やその保存修復のための材料と技術に関する基礎知識を海外の保存修復専門家に伝えることによって、国外にある漆工品がより安全に保存され、活用されていくことを期待しています。

国際研修「紙の保存と修復」2019の開催

実習の様子

 令和元年(2019)年9月9日から27日にかけて、国際研修「紙の保存と修復」を開催しました。本研修は東京文化財研究所とICCROM(文化財保存修復研究国際センター)の共催で平成4(1992)年より開催しており、海外からの参加者へ日本の紙本文化財の保存と修復に関する知識や技術を伝えることを通じて、各国における文化財の保護に貢献することを目指しています。本年は33カ国71名の応募の中から選ばれた10か国(アイルランド、アメリカ、イギリス、イタリア、ウクライナ、エストニア、オーストラリア、カタール、カナダ、中国)10名の文化財保存修復専門家が参加しました。
 研修は講義、実習、見学で構成されています。講義では日本の文化財保護制度や和紙の基礎的な知識、伝統的な修復材料や道具について取り上げました。また、国の選定保存技術「装潢修理技術」保持認定団体の技術者を講師に迎え、紙本文化財を巻子に仕立てるまでの修理作業を中心に、和綴じ冊子の作製や屏風と掛軸の取り扱いについても実習しました。さらに、研修中盤には名古屋、美濃、京都を訪問し、歴史的建造物の室内における屏風や襖、国の重要無形文化財である本美濃紙の製造工程、伝統的な修復現場などを見学しました。そして、最終日の討論会では各国における和紙の利用・入手状況や日本の伝統技術の各国への応用などについて活発な議論が交わされました。
本研修を通じて、参加者が日本の修復材料や道具、技術についても理解を深め、それらの知識が諸外国の文化財保存修復に有効に応用されることを期待しています。

台北におけるワークショップ「染織品の保存と修復」の開催

基礎編終了後、参加者を囲んでの集合写真
応用編における作品調査実習

 令和元(2019)年8月14日から23日にかけて、ワークショップ「染織品の保存と修復」を国立台湾師範大学の文物保存維護研究発展センターにて開催しました。東京文化財研究所は同大学と締結した共同研究の一環として、海外に所在する日本の染織品の保存と活用を目的に平成29(2017)年より本ワークショップを毎年共催しています。日本および台湾から保存修復技術者や染織品関連の研究者を講師に迎え、基礎編「日本の染織文化財」を14日から16日に、応用編「日本の染織品の修復」を19日から23日に実施しました。基礎編には10カ国11名、応用編には5カ国6名の保存修復技術者、学芸員、学生らが参加しました。
 基礎編では日本の有形・無形文化財の保護制度、服飾材料学、日本の代表的な染織品に関する講義を行ったほか、着物を畳む、展示するといった取り扱い実習も行いました。また、和紙で着物のモデルを作製し、着物の構造を理解できるよう努めました。応用編では、染織品の劣化や染料の科学分析、清掃・洗浄などに関する講義や実習を行いました。加えて、裂を絹布に縫いとめて補強する処置や保存収納用のたとうの作製なども行い、参加者が日本における染織品の保存修復についての理解を深める機会となりました。両編を通じて、展示や保存修復事例などを共有するとともに、保存修復の考え方や材料、方法などに関する意見交換が活発に行われました。
 このように、日本の染織品とその保存修復に関する知識を海外の保存修復の専門家に伝えることで、在外の日本の染織文化財のよりよい保存と活用に寄与することを大いに期待しています。

ケルンにおけるワークショップ「漆工品の保存と修復」の開催

漆塗りの実習

 海外の美術館や博物館に所蔵されている日本の漆工品の保存と活用を目的として、平成30(2018)年11月26日から30日にかけて、ケルン市博物館東洋美術館(ドイツ)にてワークショップ「漆工品の保存と修復」を開催しました。東京文化財研究所は、同美術館の協力のもと平成19(2007)年より本ワークショップを毎年実施しています。本年は、作品の保管や取り扱いにおいて必要となる知識や技術を中心とした基礎編を実施し、世界各国より6名の保存修復技術者が参加しました。
 講義では、漆の化学的な構造と性質、漆工品の構造や加飾技法、主な損傷や劣化、適切な保管環境などについて取り上げました。また、日本における保存修復の事例も紹介し、修復の理念と工程について解説をしました。実習では、木製スプーンに漆塗りを施すことで漆の性質をより深く理解できるよう努めました。また、損傷部分の養生やクリーニングといった応急的な処置も行い、修復の際に使用する道具の選択や作製方法などについても触れました。最終日にはディスカッションも行われ、西洋・東洋における保存修復の倫理や理念の違い、本ワークショップで得られた知識・技術の活用法など、活発な意見交換が見られました。
 海外の保存修復の専門家に、漆工品に関する基礎知識や保存修復技術を伝えることにより、国外の漆工品がより安全に保存され活用されていくことが期待されます。

国際研修「紙の保存と修復」2018の開催

実習の様子 practical session

 平成30年(2018)年8月27日~9月14日にかけて、国際研修「紙の保存と修復」を開催しました。本研修は平成4(1992)年より東京文化財研究所とICCROM(文化財保存修復研究国際センター)の共催で、海外からの参加者へ日本の紙本文化財の保存と修復に関する知識や技術を伝えることにより、外国の文化財の保護へ貢献することを目指しています。本年は38カ国80名の応募の内、アルゼンチン、イギリス、オーストラリア、カナダ、ザンビア、デンマーク、フィジー、フランス、ブータン、ポーランドの文化財保存修復の専門家10名を招きました。
 研修は講義、実習、視察で構成されます。講義では日本の文化財保護制度や和紙の基礎的な知識、伝統的な修復材料や道具について取り上げました。実習は国の選定保存技術「装潢修理技術」保持認定団体の技術者を講師に迎え、紙本文化財の洗浄から巻子仕立てまでの修理作業を中心に、和綴じ冊子の作製や屏風と掛軸の取り扱いも行いました。研修中盤に行った所外の研修では、名古屋、美濃、京都を訪問し、歴史的建造物の室内における屏風や襖、国の重要無形文化財である本美濃紙の製造工程、伝統的な修復現場などを視察することができました。また、最終日の討論会では紙本文化財の修復材料やその選定などについて活発に議論がなされました。
 本研修を通じて、参加者が日本の修復材料や道具だけでなく、和紙を使用した修復方法や技術についても理解を深め、それらが諸外国の文化財保存修復に応用されることが期待されます。

台北におけるワークショップ「染織品の保存と修復」の開催

基礎編における日本の染織品に関する講義
応用編における染料に関する実習

 海外所在の日本の染織品の保存と活用を目的に、日本の染織品の保存修復に関するワークショップを国立台湾師範大学と共同で開催しました。平成30(2018)年8月8日から10日に基礎編「Cultural Properties of Textile in Japan」を、8月13日から17日に応用編「Conservation of Japanese Textile」を、日本および台湾から保存修復技術者や染織品関連の研究者を講師に迎え、同大学の文物保存維護研究発展センターにおいて実施しました。基礎編には6カ国9名、応用編には5カ国6名の保存修復技術者、研究者、学生らが参加しました。
 基礎編では日本の有形・無形文化財の保護制度をはじめ、服飾材料としての繊維や糸、日本の代表的な染織品に関する講義を行ったほか、着物を畳む、展示するといった実習も行いました。また、反物から着物がどのように作られているかを理解するため、和紙の着物モデルも作製しました。応用編の前半は染料を同定するための分析や、表面の清掃および洗浄を中心としました。後半は日本における保存修復処置方法の紹介として、古裂を絹布に縫い留める補強処置を行い、保存収納用のたとうを作製しました。両編において、様々な日本の染織品の展示事例や保存修復事例を共有し、染織品の素材や技法に加えて保存修復の材料や方法についても理解できるよう努めました。
 在外の日本の染織品文化財の保存修復と活用のみならず、関連する無形文化財の保護にも寄与することを目指し、今後も同様の事業を実施していきたいと考えています。

評価セミナー2017:ワークショップ「漆工芸品の保存と修復」の開催

セミナー終了後、発表者を囲んでの集合写真

 在外の漆工芸品の保存と活用に必要な知識や技術を伝えることを目的として、平成18(2006)年よりワークショップ「漆工芸品の保存と修復」をドイツ、ケルン市のケルン市博物館東洋美術館の協力のもと実施してきました。過去10年間で17カ国延べ179名の学生及び専門家が受講しています。本年はこれまでのワークショップの成果を計るため、平成29(2017)年11月8~9日に東京文化財研究所において評価セミナーを行いました。
 過去の受講生に対して行ったアンケート調査に合わせて発表希望者を募り、4か国(アメリカ、ギリシャ、ドイツ、ベルギー)4名の文化財保存修復技術者や大学教員を招きました。2日間のセミナーのうち、1日目は招待した発表者が本ワークショップ受講後に行った修復プロジェクトや教育活動において、得た知識や技術等を個々の職においてどのように活用しているのか、その実態と課題を共有しました。2日目には当研究所からのアンケート結果に関する発表の後、参加者全員によるディスカッションを行いました。在外の漆工芸品の保存修復に関する問題点やワークショップを提供することでそれらがどのように改善できるのかといったことなど、活発な議論が交わされました。

国際研修「紙の保存と修復」2017の開催

実習の様子

 平成29年(2017)年8月28日~9月15日に国際研修「紙の保存と修復」を開催しました。本研修は1992年より東京文化財研究所とICCROM(文化財保存修復研究国際センター)の共催で、海外からの参加者へ日本の紙本文化財の保存と修復に関する知識や技術を伝えることにより、外国の文化財の保護へ貢献することを目指しています。本年は38カ国79名の応募の中から9カ国(アルゼンチン、オーストラリア、中国、チェコ、ギリシャ、イスラエル、ラトビア、フィリピン、アメリカ)10名の文化財保存修復の専門家を招きました。
 研修は講義、実習、視察で構成されます。講義では日本における有形および無形の文化財保護制度や和紙の基礎的な知識、伝統的な修復材料や道具について取り上げました。実習は国の選定保存技術「装潢修理技術」保持認定団体の技術者を講師に迎え、紙本文化財の洗浄から巻子仕立てまでの修理作業を中心に、和綴じ冊子の作製や屏風と掛軸の取り扱いも行いました。研修中盤には名古屋、美濃、京都を訪問し、歴史的建造物の室内における屏風や襖、国の重要無形文化財である本美濃紙の製造工程、伝統的な修復現場などを視察しました。また、最終日の討論会では紙本文化財の修復材料や保存環境といった各国の現状や課題について活発に議論がなされました。
 参加者が本研修を通じ、日本の修復材料や道具だけでなく、和紙を使用した修復方法や技術についても理解を深め、それらが諸外国の文化財保存修復に応用されることが期待されます。

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