研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


第5回無形民俗文化財研究協議会

 無形文化遺産部では毎年、無形の民俗文化財の保護と継承に関わる諸問題について話し合う研究協議会を開催しております。その第5回を、「無形の民俗の保護における博物館・資料館の役割」をテーマとして、2010年11月18日に当研究所セミナー室において開催しました。近年、博物館や資料館の活動が多様化するなかで、地域の文化を代表するものとして、無形の民俗文化財の保護や継承に積極的に取り組む例が増えています。協議会では、全国から4件の博物館・資料館の事例について現状や課題を報告をしていただき、それをもとに活発な討議が行われました。この協議会の内容は、2011年3月に報告書として刊行する予定です。

第4回無形民俗文化財研究協議会

第4回無形民俗文化財研究協議会の様子

 無形文化遺産部では毎年、無形の民俗文化財の保護と継承に関わる諸問題について話し合う研究協議会を開催しております。その第4回を、「無形の民俗の伝承と子どもの関わり」をテーマとして、2009年11月19日に当研究所セミナー室において開催しました。少子高齢化の影響は民俗の伝承にも大きな影響を与えています。しかしそんな状況の中でも、学校や博物館をはじめとする様々な組織との連携によって、子どもたちが地域の伝統的な行事や祭りに親しみ、参加できるようにするための様々な支援の取り組みがなされています。協議会では、そうした先進的な事例について報告をしていただき、それをもとに活発な討議が行われました。この協議会の内容は、2010年3月に報告書として刊行される予定です。

無形文化遺産部

大里七夕踊の稽古(ウチナラシ)の様子

 無形文化遺産部の研究プロジェクト「無形民俗文化財の保存・活用に関する調査研究」の一環として、鹿児島県いちき串木野市に伝承される大里の七夕踊の現地調査を行いました。七夕踊は、大里地区の14の集落が参加し、集落の代表の踊り手が演じる太鼓踊と、各集落が分担して出す造り物、行列物から成っています。とくに今回の調査では、「ナラシ」と呼ばれる一週間にわたる踊りの稽古の様子に注目しました。ナラシは各集落の青年組織が中心となって行われますが、そこに地域の人々が協力することで、地域内の社会関係が維持・再編される様子がよくわかります。一方で、近年の青年人口の減少によって、このような伝承のあり方が困難に直面していることも、文化財の保護という観点からは大きな課題として考えなければなりません。

韓国国立文化財研究所での研修

韓国国立国楽院、伝統芸術アーカイブについての聞き取り

 昨年6月に韓国国立文化財研究所無形文化財研究室との間で合意に達した「無形文化遺産の保護に関する日韓研究交流」にもとづき、無形文化遺産部の俵木が、5月25日から6月8日まで、韓国において二週間の研修を行いました。昨年度の研修では、主に韓国文化財研究所が製作する重要無形文化財記録のアーカイブ化と活用について調査しましたが、今回は、韓国のその他の機関における無形文化遺産関連の記録のアーカイブ化について調査を行いました。とくに国立国楽院の伝統芸術アーカイブと、国立民俗博物館の民俗アーカイブの現状について詳しく聞き取りを行いましたが、両機関とも、記録資料の整理のための分類やメタデータを、将来の各アーカイブの連携も見越して綿密に構築しており、日本の同種の事業にも参考になる点が多いと思われました。また、研修期間中には、江陵の端午祭と、ソウル近郊での霊山斎という、二つの無形文化遺産を見学する機会にも恵まれました。

第3回無形民俗文化財研究協議会報告書『無形民俗文化財に関わるモノの保護』

第3回無形民俗文化財研究協議会報告書
『無形民俗文化財に関わるモノの保護』

 無形文化遺産部では、毎年テーマを定め、保存会関係者・行政担当者・研究者などが一堂に会して無形の民俗文化財の保護と継承について研究協議する会を開催しています。昨年度は11月20日(木)に、「無形民俗文化財に関わるモノの保護」をテーマとして、当研究所セミナー室にて開催いたしましが、この協議会の内容をまとめた報告書を、平成21年3月に刊行し、関係者・機関に配布いたしました。なおこの報告書は、無形文化遺産部のウェブサイトからPDFファイルでダウンロードすることも可能です。
http://www.tobunken.go.jp/ich/public/kyogikai/mukeikyogikai_03

第2回アジア無形文化遺産保護研究会

第2回アジア無形文化遺産保護研究会の様子

 無形文化遺産部では、アジア地域における無形文化遺産保護の政策的な取り組みについて学ぶ研究会を昨年度より開催しています。今年度は、2009年2月19日に、韓国文化財庁無形文化財課長の金三基氏を迎え、「韓国の無形文化財制度」と題した講演をしていただき、外部からの関係者も交えて討議しました。とくに無形文化財の指定・保有者の認定のプロセスや、韓国の無形文化財保護制度の特徴といえる、無形文化財保有者に義務づけられた専授教育制度について詳細に紹介され、参加者からも活発な質問や意見が出されました。日本と韓国は、ともに世界に先駆けて無形の文化の保護を制度化してきましたが、今回の研究会ではその共通点と相違点が浮き彫りになり、それぞれが抱える問題点について双方の取り組みを参照することの有効性があらためて感じられました。

第3回無形民俗文化財研究協議会

第3回無形民俗文化財研究協議会

 無形文化遺産部では、2008年11月20日に、第3回無形民俗文化財研究協議会を開催いたしました。今年度のテーマは「無形民俗文化財に関わるモノの保護」でした。無形の民俗文化財である風俗慣習、民俗芸能、民俗技術などを保護するためには、そのわざを伝えることはもちろんですが、材料や道具、造り物、山車や屋台など、多くのモノを適切に確保し、維持していかなければなりません。このような観点から、実際の伝承や保護に携わる関係団体4件の事例報告を聞き、フロアも含めて討論を行いました。「使いながら守ること」の難しさや、新たな創造も視野に入れた保護の活動の組織、有形と無形を一体で保護していくための制度づくりなどについて、積極的な議論が行われました。この協議会の内容は報告書にまとめ、2009年3月に刊行予定です。

韓国国立文化財研究所での研修

 本年6月に韓国国立文化財研究所無形文化財研究室との間で合意に達した「無形文化遺産の保護に関する日韓研究交流」にもとづき、無形文化遺産部の俵木が、本年10月、韓国において二週間の研修を行いました。今回の研修の目的は、韓国における無形文化遺産の映像記録のアーカイブの現状を調査し、それを日本の無形文化遺産の記録の管理と活用に役立てることです。韓国では国立文化財研究所が積極的に無形文化遺産の映像記録作成を行っており、それらは国家記録院や韓国映像資料院といった機関と連携して管理されています。その組織的な管理体制には学ぶべき点が多いと感じました。また、研究所が作成した記録映像がテレビ放送の素材になるなど、積極的な活用の実態も印象的でした。無形文化遺産部では現在、日本の無形文化遺産の記録の所在情報のデータベース化の作業を行っており、今後はこうした方面での両国の情報共有などについても検討していきたいと思っています。

第2回無形民俗文化財研究協議会

会議の様子

 東京文化財研究所芸能部では昨年度より、無形の民俗文化財の保護と継承に関わる諸問題について話し合う研究協議会を開催しております。その第2回を、「市町村合併と無形民俗文化財の保護」をテーマとして、2007年12月7日に当研究所セミナー室において開催しました。様々な文化財の中でも、地域のなかで伝承され、保護が図られる民俗文化財は、合併の影響をとくに大きく受ける分野です。当日は、近年合併を経験した市町村、およびこれまでに合併を経験しながらそれを無形民俗文化財の保護に活かしてきた市町村から、保存会活動の組織化や学校教育との連携などについて報告があり、それをもとに総合討議がなされました。この協議会の内容は、2008年3月に報告書として刊行される予定です。

International Seminar for Traditional and Ritual Theatre(テヘラン)での講演

Iranian Artist's Forum-Beethoven Hollでの講演[22日]
City Theatre Cafe(City Theatre of Tehran BF1)での演奏会[25日]

 Dramatic Arts Center of Iranからの依頼を受け、Iranian Artist’s Forum(8月20日~22日テヘラン)におけるInternational Seminar for Traditional and Ritual Theatreで、“Bunraku: Traditional Japanese Puppet Theatre”(飯島満)、“Folk Performing Arts and Traditional Festivals in Japan”(俵木悟)と題する講演を行いました。あわせてIranian Academy of the Artsでの懇談会に出席し、今後の研究協力等について意見を交換しました。
 今回のセミナーは、13th Tehran International Ritual-Traditional Theatre Festival(8月23日~28日)に先立って開催されたものです。フェスティバルの会期中は、イラン国内および近隣諸国を中心に、各地から招かれた様々の芸能がテヘラン各所で公演されていました。日本ではまず実見できないような中東の諸芸が数多く参加しており、その意味においても得るところの大きい極めて有意義な調査となりました。

芸北神楽の調査

神楽ドームでの定期公演の一場面

 無形文化遺産部では、我が国における無形民俗文化財の保存・活用に関する調査研究をすすめています。この一環である民俗芸能の伝承の実態や公開のあり方に関する調査の一例として、広島県安芸高田市美土里町の神楽門前湯治村の活動の実地調査を行いました。安芸高田市美土里町(旧広島県高田郡美土里町)は、広島県北西部に伝承され、芸北神楽と総称される神楽が盛んな土地で、現在も13の神楽団が町内で活動しており、いくつかの演目や団体は、広島県の無形民俗文化財に指定されています。しかし現在この神楽がよく知られているのは、新舞と呼ばれる、戦後に創作され新たな趣向を取り入れた演目が定着し、地域の人々にひろく娯楽として親しまれるようになっているからです。そして、この新しい神楽現象のシンボル的な存在が、平成10年に美土里町にオープンした療養娯楽施設「神楽門前湯治村」と、その中にある3,000人収容の神楽専用常設舞台である「神楽ドーム」です。
 神楽ドームでは、毎週末の日曜日および国民の祝日に、美土里町の神楽団出演による定期公演を行っているほか、土曜日には付属施設の屋内舞台であるかむくら座劇場での公開練習、さらに「神楽の甲子園」とも呼ばれる「ひろしま神楽グランプリ」をはじめとする各種競演大会などが催されます。こうした公演は県内外から多くの観客を集めています。また、定期的な練習の場として開放されており、上演機会が通年的に確保されることから、美土里町の神楽団の伝承拠点としての役割も果たしています。実際に、定期公演の観客も多くは近隣の住民であるとのことであり、地域に根ざした施設であると言えます。
 こうした観賞のための上演を目的とした神楽は、きわめて新しいあり方であると思われるかもしれませんが、実際には広島県を中心とした地域では、戦前から神楽や盆踊りの競演大会が行われていたという報告もあります。現在も開催されている競演大会の最古のものでも昭和22年より続けられており、すでに50年以上の歴史を持っています。また、多くの競演大会では人気のある新舞と同時に、伝統的な演目である旧舞のわざを競う部門も設けられており、このようなイベントが伝統的な演目の伝承を支え、活性化してきたという面を見逃すこともできません。現在このような「見せる神楽」の隆盛は、島根県や岡山県にも広がってきています。
 経営面の安定や、神楽の変質への危惧、主な出演団体を美土里町の神楽団に限るべきか否かなどの問題も指摘されていますが、このように文化の伝承や地域のアイデンティティの形成に一定の効果を挙げていることが認められています。民俗芸能の現代における伝承実態の興味深い例であると言えるでしょう。

to page top