研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


「国際研修におけるIT技術導入のための実証実験」の実施

実習の様子
サテライト会場の様子

 東京文化財研究所では、日本の紙本文化財の保存と修復に関する知識や技術を伝えることを通じて各国における文化財の保護に貢献することを目的として、平成4(1992)年よりICCROM(文化財保存修復研究国際センター)との共催で国際研修「紙の保存と修復」(JPC)を実施してきました。この研修では例年、海外より10名の文化財保存修復専門家を招聘してきましたが、新型コロナウイルス感染症の世界的感染拡大の影響により昨年度に続いて本年度も開催中止を余儀なくされました。このような状況を受け、大半が実技実習で構成されるJPCのような研修について、オンライン開催の可能性を探るとともにその実現に向けての課題を明らかにするため、令和3(2021)年9月8日から15日にかけて、「国際研修におけるIT技術導入のための実証実験」を実施しました。
 実験に先立ち9月1日に、紙本文化財の主要な修復材料である「糊」と「紙」の基礎的な知識についての講義を、ライブ配信とオンデマンド配信を併用してオンラインで行いました。実習は、当研究所職員5名を模擬研修生として、対面会場とサテライト会場の2会場で行いました。対面会場に国の選定保存技術「装潢修理技術」保持認定団体の技術者を講師として迎え、サテライト会場とライブ中継しながら紙本文化財を巻子に仕立てるまでの修理作業を実習しました。最終日の意見交換会では、ICT機器を活用する利点が認識された一方、受講生が事前に一定の基礎知識や経験を得ていることの必要性、画面越しでの技術指導の限界、ネットワーク環境や機材に起因するトラブルへの対応の難しさ等、オンラインでの実技実習をめぐる様々な課題点も浮き彫りとなりました。

国際研修「ラテンアメリカにおける紙の保存と修復」の開催

刷毛の使い方の実習
研修参加者との集合写真

 令和元(2019)年10月30日から11月13日にかけて、ICCROM(文化財保存修復研究国際センター)のLATAMプログラム(ラテンアメリカ・カリブ海地域における文化遺産の保存)の一環として、INAH(国立人類学歴史機構、メキシコ)、ICCROM、当研究所の三者で国際研修「Paper Conservation in Latin America: Meeting with the East」を共催しました。本研修は、INAHに属するCNCPC(国立文化遺産保存修復調整機関、メキシコシティ)を会場に平成24(2012)年より開催しており、日本の伝統的な紙、接着剤、道具についての基本的な知識と技術を教授し、それらを応用して各国の文化財の保存修復に役立ててもらうことを目的としています。今回はアルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、メキシコ、ペルー、スペイン、ベネズエラの8カ国から9名の文化財修復専門家が参加しました。
 研修前半(10月30日-11月6日)は、日本人専門家が講師を担当し、日本の文化財保護制度、修復に関連する和紙や接着剤等の材料、我が国の選定保存技術のひとつである装潢修理技術に関する講義のほか、これらの材料や伝統的道具を使用した裏打ちの実習を当研究所で数ヶ月間装潢修理技術を学んだCNCPCの職員とともに行いました。
 後半(7日-13日)は、当研究所で「国際研修 紙の保存と修復」を修了したCNCPCとスペインの講師が担当し、材料の選定方法や洋紙修復分野への応用について講義と実習を行いました。
 このような技術交流を通じて、研修参加者が日本の修復材料や道具、技術についての理解を深め、それらの知識が各国の文化財保存修復に有効に活用されることを期待しています。

国際研修「紙の保存と修復」2019の開催

実習の様子

 令和元年(2019)年9月9日から27日にかけて、国際研修「紙の保存と修復」を開催しました。本研修は東京文化財研究所とICCROM(文化財保存修復研究国際センター)の共催で平成4(1992)年より開催しており、海外からの参加者へ日本の紙本文化財の保存と修復に関する知識や技術を伝えることを通じて、各国における文化財の保護に貢献することを目指しています。本年は33カ国71名の応募の中から選ばれた10か国(アイルランド、アメリカ、イギリス、イタリア、ウクライナ、エストニア、オーストラリア、カタール、カナダ、中国)10名の文化財保存修復専門家が参加しました。
 研修は講義、実習、見学で構成されています。講義では日本の文化財保護制度や和紙の基礎的な知識、伝統的な修復材料や道具について取り上げました。また、国の選定保存技術「装潢修理技術」保持認定団体の技術者を講師に迎え、紙本文化財を巻子に仕立てるまでの修理作業を中心に、和綴じ冊子の作製や屏風と掛軸の取り扱いについても実習しました。さらに、研修中盤には名古屋、美濃、京都を訪問し、歴史的建造物の室内における屏風や襖、国の重要無形文化財である本美濃紙の製造工程、伝統的な修復現場などを見学しました。そして、最終日の討論会では各国における和紙の利用・入手状況や日本の伝統技術の各国への応用などについて活発な議論が交わされました。
本研修を通じて、参加者が日本の修復材料や道具、技術についても理解を深め、それらの知識が諸外国の文化財保存修復に有効に応用されることを期待しています。

クラクフにおける国際集会「日本絵画の修復」の開催

講演
紙漉き体験

 令和元(2019)年7月29、30日にポーランド・クラクフ所在の日本美術技術博物館Mangghaにおいて、日本国文化庁および同館と共同で、ポーランド国立クラクフ博物館・一般社団法人国宝修理装潢師連盟・一般社団法人伝統技術伝承者協会の協力のもと、国際集会「日本絵画の修復」を開催しました。本集会は「日本ポーランド国交樹立100周年」記念事業の1つとして認定されました。
 東京文化財研究所では、平成3(1991)年より「在外日本古美術品保存修復協力事業」として、海外で所蔵されている日本美術作品の保存修復を行っており、このたびポーランド国立クラクフ博物館所蔵の掛軸3幅を修復しました。本集会は、今回修復した掛軸およびその修復過程を展示するとともに、講演・実演・体験など様々な方法を通して日本絵画の修復に関する理解を促進することを目的に開催したものです。国の選定保存技術である「装潢修理技術」のほか、これを支える選定保存技術「装潢修理・材料用具製作」として、手漉き和紙(宇陀紙)製作、刷毛製作、金物製作などについても展示・解説しました。
 修復技術者などを対象とした専門家会議として実施した1日目には、ポーランドを中心に欧米9か国より31名の修復技術者および学生が参加し、伝統技術を体験すると共に日本の技術者との意見交換も行われました。2日目は一般来場者への公開講座とし、展示解説や紙漉き体験に15か国219名もの人々が参加するなど高い関心を呼ぶことができました。諸外国の保存修復専門家との交流促進の場にとどまらず、伝統的な日本絵画の修復技術や材料について広く一般の理解を得る貴重な機会となりました。

国際研修「紙の保存と修復」2018の開催

実習の様子 practical session

 平成30年(2018)年8月27日~9月14日にかけて、国際研修「紙の保存と修復」を開催しました。本研修は平成4(1992)年より東京文化財研究所とICCROM(文化財保存修復研究国際センター)の共催で、海外からの参加者へ日本の紙本文化財の保存と修復に関する知識や技術を伝えることにより、外国の文化財の保護へ貢献することを目指しています。本年は38カ国80名の応募の内、アルゼンチン、イギリス、オーストラリア、カナダ、ザンビア、デンマーク、フィジー、フランス、ブータン、ポーランドの文化財保存修復の専門家10名を招きました。
 研修は講義、実習、視察で構成されます。講義では日本の文化財保護制度や和紙の基礎的な知識、伝統的な修復材料や道具について取り上げました。実習は国の選定保存技術「装潢修理技術」保持認定団体の技術者を講師に迎え、紙本文化財の洗浄から巻子仕立てまでの修理作業を中心に、和綴じ冊子の作製や屏風と掛軸の取り扱いも行いました。研修中盤に行った所外の研修では、名古屋、美濃、京都を訪問し、歴史的建造物の室内における屏風や襖、国の重要無形文化財である本美濃紙の製造工程、伝統的な修復現場などを視察することができました。また、最終日の討論会では紙本文化財の修復材料やその選定などについて活発に議論がなされました。
 本研修を通じて、参加者が日本の修復材料や道具だけでなく、和紙を使用した修復方法や技術についても理解を深め、それらが諸外国の文化財保存修復に応用されることが期待されます。

ベルリンにおけるワークショップ「日本の紙本・絹本文化財の保存と修復」の開催

基礎編における取り扱いの講義
応用編における掛軸の保存と修復の実習

 海外に所在する書画等の日本の文化財の保存活用と理解の促進を目的として、本ワークショップを毎年開催しています。本年度はベルリン博物館群アジア美術館において、平成30(2018)年7月4~6日に基礎編「Japanese Paper and Silk Cultural Properties」、9~13日に応用編「Restoration of Japanese Hanging Scrolls」をベルリン博物館群アジア美術館及びドイツ技術博物館の協力のもと実施しました。
 基礎編には欧州10カ国より13名の修復技術者及び学生が参加しました。作品の制作、表具、展示、鑑賞という実際に文化財が私たちの目に触れるまでの過程に倣い、接着剤、岩絵具、和紙等の材料についての基礎講義、絹本絵画や墨画の実技、及び掛軸の取り扱い実習等を行いました。
 応用編は掛軸の保存と修復をテーマとし、選定保存技術「装潢修理技術」保持認定団体の技術者を講師に迎え6カ国10名の修復技術者が参加しました。掛軸の構造や掛軸修復に関する知識とそれに裏付けられた技術を理解するため、講師による裏打ちや軸首交換等の実演、掛軸の下軸や紐の取り外しと取り付け等の実習を行いました。両編では活発な質疑応答やディスカッションが行われ、日本の修復技術や材料の応用例等の技術的な意見交換も見られました。
 海外の保存修復の専門家に日本の修復材料と技術を伝えることにより、海外所在の日本の紙本・絹本文化財の保存と活用に貢献することを目指し、今後も同様の事業を実施していきたいと考えています。

国際研修「ラテンアメリカにおける紙の保存と修復」の開催

装潢修理で用いる道具の説明
接着剤の講義と実習

 平成30(2018)年5月28日から6月13日にかけて、ICCROM(文化財保存修復研究国際センター)のLATAMプログラム(ラテンアメリカ・カリブ海地域における文化遺産の保存)の一環として、INAH(国立人類学歴史機構、メキシコ)、ICCROM、当研究所の三者で国際研修『Paper Conservation in Latin America: Meeting with the East』を共催しました。本研修は、INAHに属するCNCPC(国立文化遺産保存修復調整機関、メキシコシティ)を会場として2012年より開催しており、本年はアルゼンチン、ブラジル、コロンビア、キューバ、メキシコ、パラグアイ、ペルー、スペインの8カ国から11名の文化財修復の専門家が参加しました。
 当研究所は研修前半(5月29日-6月5日)を担当し、当研究所の研究員と国の選定保存技術「装潢修理技術」保持認定団体の技術者を講師とし、講義と実習を行いました。日本の修復技術を海外の文化財へ応用することを目標に、装潢修理技術に用いる材料、道具、技術をテーマに講義、実習を行いました。実習は当研究所で数ヶ月間装潢修理技術を学んだCNCPCの職員と共に遂行しました。
 研修後半(6日-13日)は西洋の保存修復への和紙の応用を主題に、メキシコとスペイン、アルゼンチンの文化財修復の専門家が講師を担当し、材料の選定方法や洋紙修復分野への応用について講義と実習を行いました。これらの講師は過去の当研究所の国際研修へ参加しており、国際研修を通じた技術交流が海外の文化財保護に貢献していることを改めて確認することができました。

評価セミナー2017:ワークショップ「漆工芸品の保存と修復」の開催

セミナー終了後、発表者を囲んでの集合写真

 在外の漆工芸品の保存と活用に必要な知識や技術を伝えることを目的として、平成18(2006)年よりワークショップ「漆工芸品の保存と修復」をドイツ、ケルン市のケルン市博物館東洋美術館の協力のもと実施してきました。過去10年間で17カ国延べ179名の学生及び専門家が受講しています。本年はこれまでのワークショップの成果を計るため、平成29(2017)年11月8~9日に東京文化財研究所において評価セミナーを行いました。
 過去の受講生に対して行ったアンケート調査に合わせて発表希望者を募り、4か国(アメリカ、ギリシャ、ドイツ、ベルギー)4名の文化財保存修復技術者や大学教員を招きました。2日間のセミナーのうち、1日目は招待した発表者が本ワークショップ受講後に行った修復プロジェクトや教育活動において、得た知識や技術等を個々の職においてどのように活用しているのか、その実態と課題を共有しました。2日目には当研究所からのアンケート結果に関する発表の後、参加者全員によるディスカッションを行いました。在外の漆工芸品の保存修復に関する問題点やワークショップを提供することでそれらがどのように改善できるのかといったことなど、活発な議論が交わされました。

ベルリンにおけるワークショップ「日本の紙本・絹本文化財の保存と修復」の開催

基礎編における紙の講義
応用編における屏風作製実習

 海外に所在する書画等の日本の文化財の保存活用と理解の促進を目的として、本ワークショップを毎年開催しています。本年度はベルリン博物館群アジア美術館において、平成29(2017)年7月5~7日に基礎編「Japanese Paper and Silk Cultural Properties」、10~14日に応用編「Restoration of Japanese Folding Screens」をベルリン博物館群アジア美術館及びドイツ技術博物館の協力のもと実施しました。
 基礎編には欧州7カ国より11名の修復技術者及び学生が参加しました。参加者は、接着剤、岩絵具、和紙等の紙本・絹本文化財に使用される材料についての基礎講義を受け、絹本絵画や墨画の実技及び掛軸の取り扱い実習等を行いました。
 応用編では選定保存技術「装潢修理技術」保持認定団体の技術者を講師に迎え、6カ国9名の修復技術者に対し屏風の保存と修復についての実習と講義を行いました。実習では、装潢修理技術に基づく屏風の修復のためにはその構造や機能を理解することが必須であるという視点のもと、受講生が下張りから本紙の貼り付けまで各自で行って屏風を作製しました。両編では活発な質疑応答やディスカッションが行われ、日本の修復技術や材料の応用例等の技術的な意見交換も見られました。
 海外の保存修復の専門家に日本の修復材料と技術を伝えることにより、海外所在の日本の紙本・絹本文化財の保存と活用に貢献することを目指し、今後も同様の事業を実施していきたいと考えています。

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