研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


第11回東京文化財研究所無形文化遺産部公開学術講座「麻のきもの・絹のきもの」の開催

公開学術講座の様子

 平成29(2017)年1月18日(水)に文化学園服飾博物館との共催で第11回東京文化財研究所無形文化遺産部公開学術講座「麻のきもの・絹のきもの」を開催しました。本講座では、我が国の染織を語る上では欠くことのできない「麻」と「絹」に焦点を当て、現在における麻と絹を取り巻く社会的環境の変化や技術伝承の試み、そして、受け継ぐ意義について、各産地で活動をされている方などから報告いただきました。
 麻については、昭和村からむし生産技術保存協会の舟木由貴子氏より「からむしの技術伝承―昭和村での取り組み―」、そして東吾妻町教育委員会の吉田智哉より「大麻の技術伝承 ―岩島での取り組み―」を報告いただき、植物としての麻を栽培する技術や植物から繊維を取り出す技術の重要性と伝承の難しさについて産地からの声を届けました。一方、絹に関しては岡谷蚕糸博物館の林久美子氏より近代化を支えた絹の技術革新と、その活動を残す意義についてご報告いただきました。
 その後、無形文化遺産部の客員研究員である菊池健策氏による講演「民俗における 麻のきもの・絹のきもの」、文化学園服飾博物館の吉村紅花学芸員による展覧会解説「展覧会 『麻のきもの・絹のきもの』の企画を通じてみた麻と絹の現状」の後、文化学園服飾博物館で開催されている「麻のきもの・絹のきもの」の見学会を行いました。
 麻のきものや絹のきものを取り巻く文化の継承には、その原材料である麻や絹そのものの技術が欠かせません。本講座を通じて、現在、麻も絹も伝承に多くの課題を持っていることを知っていただき、着物を作る技術だけでなく、その原材料である糸を作る技術の保護の重要性についての関心が高まればと思います。
 今後も無形文化遺産部では伝統技術を取り巻くさまざまな問題について議論できる場を設けていきます。

無形文化遺産(伝統技術)の伝承に関する研究会III「現在に伝わる明治の超絶技巧」の開催

泉屋博古館分館での見学会の様子

 平成28(2016)年10月17・18日にかけて公益財団法人泉屋博古館との共催で無形文化遺産(伝統技術)の伝承に関する研究会Ⅲ「現在に伝わる明治の超絶技巧」を開催しました。本研究会では、明治時代の工芸の中でも、特に陶芸分野の有田焼に焦点をあて、1日目は東京文化財研究所での講演とセッション、2日目は東京藝術大学大学美術館の「驚きの明治工芸」展及び泉屋博古館分館の「有田焼創業400年記念 明治有田 超絶の美 -万国博覧会の時代-」展の見学会を行いました。
 1日目は、「有田焼創業400年記念 明治有田 超絶の美 -万国博覧会の時代-」展に携わる先生方をお招きし、明治時代の有田焼が現在へどのように継承されてきたのかを再検証しました。その後、「明治工芸を現在に活かす」というテーマを掲げ、他の工芸分野の専門家も交えてセッションを行いました。
 近年、明治工芸の精緻な技術が注目され、多くの展覧会が開催されています。我々は現在に受け継がれてきた明治時代の工芸品を通じて、明治時代の「工芸技術」=「無形文化遺産」にアプローチすることができます。今後、有形と無形を分断せず、相互に補完しあいながら研究することが求められるのではないでしょうか。無形文化遺産部では、今後も今日の無形文化遺産保護への関心が高まるような議論の場を設けていきます。

青花紙の製作に関する調査研究-滋賀県草津市との共同調査の開始-

「アオバナの花弁を摘んでいるところ(草津市提供)」
「アオバナの汁を和紙に塗っているところ(草津市提供)」

 無形文化遺産部では本年度より滋賀県草津市と共同で青花紙製作技術の共同調査を開始しました。青花紙とはアオバナの花の汁を絞り、和紙に染み込ませたものです。
 青花紙は『毛吹草』(寛永15〈1638〉年序)にも取り上げられた東山道近江国の特産物で、現在でも友禅染・絞染などに利用されています。特に友禅染では、アオバナの青色色素が水で落ちるという性質を利用してきました。友禅染は青花紙を水に浸した液によって細密な模様を描き、その上に防波堤となる糸目糊を置いて周りに染料が入り込まないように工夫してから彩色します。生地を多彩に染め分けるには青花紙が欠かせない材料といえます。
 このような青花紙ですが、現在では生産農家も減少し、3件の農家によって製作されています。本共同研究では、農家の方々にご協力を得て、地域の、ひいては我が国の文化財・文化遺産としての価値を整理し、今後の保護への基礎データとしていきたいと考えています。
 人から人へと受け継いできた青花紙の製作技術を、これからの時代へどのように受け継いでいくことができるのか、他の地域の事例なども比較しながら検証していきます。

無形文化遺産(伝統技術)の伝承に関する研究会Ⅱ「染織技術の伝承と地域の関わり」の開催

熊谷伝統産業伝承室(くまぴあ)での見学の様子

 無形文化遺産部では平成27年11月11日、12日にかけて熊谷市と共催で無形文化遺産(伝統技術)の伝承に関する研究会Ⅱ「染織技術の伝承と地域の関わり」を開催しました。本研究会では第1回目の同研究会(平成27年2月3日開催)のテーマ「染織技術をささえる人と道具」を引き継ぎ、染織技術に必要な「道具」の保存と活用について積極的な支援を行っている埼玉県熊谷市と京都府京都市の担当者を招き、染織技術に欠かせない要素である「道具」の保存と活用に関して行政がどのように関わっていく事ができるのかについて考えました。
 11日は当研究所保存修復科学センターの中山俊介近代文化遺産研究室長より文化財という視点から「道具保護と活用」について報告があった後、熊谷市立熊谷図書館の大井教寛氏に「熊谷染関連道具の保護と行政の関わり」、京都市伝統産業課の小谷直子氏に「京都市における染織技術を支える事業について」を報告いただきました。その後の総合討議では、行政でできることや、様々な立場の人々の連携の重要性等について活発に議論が交わされました。フロアからは、技術を伝承するためにはその技術の根ざす「地域」を大切にしながら他の「地域」と連携していくことも視野に入れていくことが必要との意見もでました。
 12日は遠山記念館の水上嘉代子氏による講演「埼玉県の染織の近代化小史―熊谷染を中心に―」の後、熊谷伝統産業伝承室(熊谷スポーツ・文化村「くまぴあ」内)の見学を実施しました。同室内に展示されている長板回転台や水洗機、蒸し箱はポーラ伝統文化振興財団の助成により移設されたものです。
 今回の研究会は、染織技術やそれをささえる道具との関わりについて具体的な事例をもとに議論を展開し、染織技術の伝承を考えていく上で、道具を保存していく大切さを改めて認識することができる機会となりました。
 今後も無形文化遺産部では伝統技術を取り巻くさまざまな問題について議論できる場を設けていきます。

染織文化財の技法・材料に関する研究会「ワークショップ 友禅染 ―材料・道具・技術―」の開催

染色に関する講義

 無形文化遺産部では平成27年10月16日、17日と文化学園服飾博物館と共催で友禅染に関するワークショップを開催しました。今回のワークショップでは桜美林大学の瀬藤貴史先生をお招きし、近世以降の代表的な染色技法である「友禅染」を取り上げ、近世より受け継がれた材料(青花紙〈あおばながみ〉や友禅糊、天然染料など)と近代以降の合成材料(合成青花、ゴム糊、合成染料)、それぞれの材料に合わせた道具について比較しました。
 1日目は、友禅染の材料や道具の生産をとりまく現状を映像も併せて説明し、その上で、青花紙と合成青花の比較しながらの下絵描き、真糊〈まのり〉に蘇芳と消石灰を併せた赤糸目〈あかいとめ〉による糸目糊置き、地入れを行いました。2日目は天然染料と合成染料について学んだ後、合成染料による彩色、蒸し、水元〈みずもと〉の作業を行いました。蒸しの待ち時間にはゴム糸目による糸目糊置きを体験しながら、真糊とゴム糊の工程の違いについても学びました。ワークショップの終盤には、それぞれの考える受け継ぐべき「伝統」についてディスカッションを行いました。
 今回のワークショップを通じて、材料の変化と道具、技術の関わりについて、実際の作業を通じて理解し、さらに、後世へ受け継ぐべき技術とその保護について参加者の皆さんと討議し問題を共有することもできました。
 今後も無形文化遺産部ではさまざまな技法に焦点をあてる研究会を企画していきます。

『無形文化遺産(伝統技術)の伝承に関する研究報告書』の刊行

無形文化遺産(伝統技術)の伝承に関する研究報告書

 無形文化遺産部では平成26(2014)年度より無形文化遺産(伝統技術)の伝承に関する研究プロジェクトを開始しました。本プロジェクトでは染色技術関連道具について先駆的な事業を行っていた埼玉県熊谷市と協定を結び、埼玉県熊谷市の染色工房へ共同調査を行いました。本報告書はその成果をまとめたものです。
 本報告書は、現地調査にご協力いただいた方々それぞれの立場から、染織技術を伝承する上での課題や提案についての報告が掲載されています。また、その内容を補完する資料として、共同調査での聞取調査、工房の平面図や立面図、そして調査時に撮影をさせていただいた映像資料も含まれる内容となっています。加えて、平成27(2015)年2月3日に開催した無形文化遺産(伝統技術)の伝承に関する研究会「染織技術をささえる人と道具」での座談会「染織技術をささえる人と道具の現状」も掲載しています。
 今回の報告書は、東京文化財研究所における初の試みである付属映像資料にも無形文化遺産である「わざ」の情報が詰まっています。無形文化遺産部では、今後も文字・写真による記録保存だけでなく、映像等も含めた総合的な記録作成を推進していきます。『無形文化遺産(伝統技術)の伝承に関する研究報告書』は、後日、当研究所ウェブサイトの無形文化遺産部のページで公開予定です。

無形文化遺産(伝統技術)の伝承に関する研究会「染織技術をささえる人と道具」の開催

会場風景

 無形文化遺産部では平成27年2月3日、文化学園服飾博物館と共催で無形文化遺産(伝統技術)の伝承に関する研究会「染織技術をささえる人と道具」を開催しました。本研究会では、染織技術を伝承するうえで欠かすことのできない道具について、技術と道具の関わり、その現状についてパネルディスカッションを行いました。コメンテーターに京都市繊維試験場で勤務されていた藤井健三先生をお迎えし、パネラーには「時代と生きる」展の担当である文化学園服飾博物館の吉村紅花学芸員、展覧会映像撮影調査にご協力いただいた染織技術者の方々、当研究所保存修復科学センターの中山俊介近代文化遺産研究室長、そして無形文化遺産部からは菊池が登壇しました。
 技術者からは、作業効率を上げるために機械を導入するか、受け継いだ道具を使い続けるか等、常にいかなる道具を使うかの選択に迫られてきたことが報告されました。そして、近年では道具を作る技術そのものが失われつつあり、今まで簡単に入手できたものが手に入らないという報告もありました。受け継ぎたくても道具が入手できないというのが現状です。
 一方、残すべき技術は消費が伴うものでなければ残らないという意見もでました。現在、着物は特別な時に着用するものです。その生産量は着物が日常着であった時代とはくらべものにならないほど少ないものです。染織技術は無形文化遺産ですが、産業という枠組みの中にあります。作り手が生活をしていくためには生産したものが売買されなければなりません。つまり、消費者がどのような着物を求めるか。それにより、残されていく技術が変わるということができます。
 染織技術をささえる人は作り手だけではありません。それを購入し着る人、残したいと願う一人一人がささえる当事者です。本研究会では、そのことを多くの参加者に認識してもらえる有意義な研究会となりました。時間に限りがあり突き詰めた議論が行えなかったこと、テーマが広範囲であったこと等、多くの課題が残ります。参加者からの意見を反映させながら、今後も無形文化遺産部では様々な立場の方たちと染織技術の伝承について議論する場を設けていきます。

韓国国立無形遺産院との研究交流

膠の原材料(ニベの浮袋)

 無形文化遺産部では韓国国立無形遺産院と研究交流を行っています。本年度は菊池が8月18日より2週間、韓国の染織技術について伝承の現状を調査しました。
 染織技術の伝承には「材料や道具」の情報が不可欠です。出来上がりの見た目が似たものであっても、材料や道具が異なることで、やり方(技法)が変わり、技術にも影響があります。
 現在、日本では文化財保護法の重要無形文化財の各個認定(人間国宝)には指定要件が設けられていません。それは、どのような材料を選び、道具を用い制作していくのかの選択をできることが保持者にとって欠かせぬ要素であるとも考えられているためでしょう。一方、保持団体認定には指定要件の中で材料や道具を制限しているものもみられます。各個認定と団体認定の大きな違いがここにあると考えられます。材料や道具を制限することは制作活動において様々に作用します。生活環境の変化により、手に入りにくい材料や道具もあるからです。このような日本の現状を踏まえて、韓国では材料と道具に焦点をあてて聞き取りを行いました。
 今回調査したのは韓国で重要無形文化財として指定されている金箔、組紐、裁縫、木綿織、藍染の技術です。これらの技術は日本にも根付いていますが、材料や道具が異なります。たとえば金箔を比べてみると、日本では和紙に柿渋を塗り作られた型にフノリ、姫糊、もち糊等が使われてきたと考えられています。一方、韓国では木型とニベという魚の浮袋で作った膠を使用し接着する技術が伝承されています。現在では、ニベ膠を取り巻く環境は変化し、手に入りにくい材料となっているということでした。
 今回の調査を通じて、韓国でも日本同様、どのような材料を選び、道具を用い制作していくのか選択できることが保有者に欠かせぬ要素であると考えられていると感じました。両国とも材料や道具の供給の状況は日に日に変わっています。今まで用いていた材料や道具が選択肢として失われぬよう、技術を支える技術も伝承していくことは両国共通の課題であることが分かりました。

染織技術に関わる道具の保存活用に関する調査 -熊谷染めを例として-

 無形文化遺産部では本年度より無形文化遺産を取り巻く道具の保護や活用についての調査研究を行っています。無形文化遺産である工芸技術や民俗技術には、それに関わる道具や工具が不可欠です。しかし、それらの保護体制は未だ整っているとはいえず、現在各地で、技術者の高齢化や後継者不足が原因となり廃業する工房・工場が相次いでいます。それに伴い、道具や工具も失われてしまう危機に瀕しています。いま、無形文化遺産の伝承に欠かせない道具や工具の保護と活用について、その現況を把握し、議論する必要があるのではないでしょうか。
 本年度は埼玉県熊谷市立熊谷図書館の協力を得て埼玉県伝統的手工芸品指定熊谷染(友禅・小紋)に関わる道具や工具についての調査を行っています。熊谷染関連工房には伝統的な工法だけでなく、スクリーン捺染(なっせん)等の近代以降の工法を取り入れているものも見られます。技術伝承を考える上では、伝統的な染織技術を発展させた近代的な染織技術についても情報を整理する必要があります。各工房に保管され、使われてきた道具は技(わざ)を理解するために欠かせぬ情報です。調査を進めていくと、工房により道具の種類、使用方法やメンテナンスが異なることがわかってきました。今後も道具をキーワードとして情報を整理しながら、無形文化遺産の新たな伝承方法について考えていきたいと思います。

月ヶ瀬奈良晒保存会における調査

経糸を機にかけるところ
緯糸となるへそ糸を巻く道具

 無形文化遺産部では伝統的工芸技術について情報収集及び調査研究を行っています。今回、月ヶ瀬奈良晒保存会の活動について無形文化遺産部の菊池が調査を行いました。
 晒とは本来「漂白する」ことを表し、漂白した麻布や綿布も「晒」と呼ばれています。。
 奈良晒は麻を原材料とした織物で『和漢三才図会』(正徳2(1712)年)や『萬金産業袋』(享保17(1732)年)にも記された奈良の「名物」です。これらの記述には「麻の最上というは南都なり」と記され、当代全国的名声を博していた様子が窺えます。それと同時に他地域より原材料である麻を仕入れていると判断できる記述も見られ、当時の分業体制の一端を垣間見ることができます。
 その時代より脈々と受け継がれてきた技術は現在でも月ヶ瀬奈良晒保存会の会員により伝承されています。現在、奈良晒の原材料は群馬県岩島地域の大麻を使用して製作されています。他地域に原材料を求める構造は同じ麻織物である越後上布にも見られるものです。染織技術が一部の地域の技術で完結するのでなく、多くの人々に支えられていることは技術伝承と引き離して考えることはできません。技の伝承に不可欠な材料や道具の背景にも我々はもっと眼をむけるべきでしょう。
 本調査を通じて、伝統的な技術を存続していくためのコミュニティの重要性について改めて考えるきっかけとなりました。

粗苧製造技術の調査

剥いだ表皮を干しているところ(大分県日田市)

 無形文化遺産部では伝統的工芸技術を支える選定保存技術について情報収集及び調査研究を行っています。今回、重要無形文化財久留米絣を支える粗苧製造技術について無形文化遺産部の菊池が調査を行いました。
 久留米絣は大麻の茎の表皮である「粗苧(あらそう)」を用いて糸に防染を行います。現在、粗苧の材料である大麻は大分県日田市矢幡家で栽培されています。7月は粗苧製造の要である身丈より高くなった大麻を刈り取り、蒸す作業、皮を剥き干す作業行います。人手の必要なこれらの作業を一家族で担うのは簡単なことではありません。そのような中、一昨年度より久留米絣技術保持者会のメンバーも刈り取り等の作業を手伝う体制をとっているそうです。大麻取締法により入手が難しくなった粗苧は以前のように容易に手に入る材料ではなくなってしまいました。今後、このようなケースをどのように保護していくかを様々な立場から考えていく必要があるでしょう。

福島県昭和村における選定保存技術の調査―韓国国立文化財研究所との第二次研究交流―

「からむし焼」の様子

 4月に引き続き韓国文化財研究所の李釵源氏が「無形文化遺産の保護及び伝承に関する日韓研究交流」で来日し、文化財保存技術である「選定保存技術」について研究・調査を行いました。福島県昭和村では重要無形文化財小千谷縮・越後上布の原材料である「からむし(苧麻)」を栽培し、苧引きしています。今回の調査では小満に行う「からむし焼」とも日程が重なり、重要な栽培工程を直接見学することができました。また、「からむし」に関わる行政担当者や技術者、その他の様々な立場の方との聞き取り調査を通じて、昭和村における「からむし」栽培の意義や選定保存技術の保護体制について考察を深めました。2週間に及ぶ研究交流の成果報告会では韓国には無い枠組みである「選定保存技術」について両国間における認識の相違点、文化財保護の在り方についても改めて認識を深めることができました。

結城紬の調査―韓国国立文化財研究所との第二次研究交流―

思川桜工房

 無形文化遺産部が行っている韓国文化財研究所との「無形文化遺産の保護及び伝承に関する日韓研究交流」も2年目に入りました。4月には韓国文化財研究所から黃慶順研究員が来日し、茨城県と栃木県で結城紬について調査を行いました。結城紬は2010年ユネスコ「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表(代表一覧表)」に記載以降、文化面だけでなく産業、観光等の側面からも保護事業が行われています。今回の調査では技術者や行政担当者などに聞取調査を行い、結城紬の伝承基盤について考察を深めました。2週間に及ぶ研究交流の成果報告会では韓国と日本の無形文化遺産に対する政策や考え方の相違点についても改めて認識を深めることができました。

国際研究集会「染織技術の伝統と継承―研究と保存修復の現状―」の開催

会場の様子

 第35回文化財の保存および修復に関する国際研究集会「染織技術の伝統と継承―研究と保存修復の現状―」を東京国立博物館平成館において、9月3日から5日の3日間開催しました。このシンポジウムでは、国内外から染織品制作の技術者、染織品修復技術者、学芸員、研究者など様々な立場の各専門家を招き、有形である染織品を「つくる」「まもる」「つたえる」といった無形の側面よりアプローチすることで、今後の「染織技術」研究の道筋を示すことを目的としました。そして、主催者としては、今日における染織品の制作や修復の際に直面する原材料・道具の問題、技術を次世代へと伝えていくための後継者養成をめぐるシステム、多角的な染織技術研究のあり方などについて、この機会に情報の共有化を図り、議論を深めることも意図しました。
 冒頭に行われた2本の基調講演では染織技術が時代により変化して然るべきものであることや、それぞれに時代により失われた技術が多くあるという染織技術に関する根本のテーマについて参加者との共有を図ることができました。これに続いて、「染織技術をまもる」「染織品保存修復の現状」「染織技術へのまなざし」「染織技術をつたえる」の計4セッションを設け、最後に総合討議が行われました。各セッションでは、技術者の立場からの染織技術継承に向けての提言や、修復技術に関する国外・国内の歴史や現状、染織技術研究に向けての国内外の染織品や関連資料の検討方法や、後継者育成についてなどいずれも興味深い報告が続きました。討議の中では、変化しながら受け継がれてきた染織技術を、現在どのように保護していくことができるかという問題や染織品修復技術の技術者側の抱える問題、そして、国内外の近代染織品収蔵の考え方の相違など、さらに議論が必要である項目が取り上げられました。このような多様な論点に対して具体的な解決策を議論する時間が不足したことなどの反省点もありますが、参加者からは、現在、染織技術保護が抱えている課題を共有する機会として、また、新たなネットワーク構築に向けて大いに有益であったとの好意的評価をいただくことができました。
 本研究集会の詳細な記録は、来年度、報告書として刊行する予定です。

久留米絣の工芸技術調査

二代目 森山虎雄(もりやまとらお)氏の工房にて

 6月27~28日にかけて重要無形文化財保持団体「重要無形文化財久留米絣技術保持者会」のメンバーを中心に工芸技術調査を行いました。絣とは装飾的な意図を持って糸の一部を染め分け、これを経(たて)、緯(よこ)に織り上げて模様を表現したものです。写真は緯糸を経糸の模様に合わせながら織っているところです。久留米絣は大麻の樹皮である「粗苧(あらそう)」を用いて糸に防染を行います。粗苧製造も国の選定保存技術として保護されている技術です。今後も、現地に足を運びながら各技術とその保護について調査を行っていきます。

日立市十王「ウミウの捕獲技術」の調査

断崖に作られた小屋で、飛来する若いウミウを捕獲する
捕獲に適した若い鵜(右)

 6月7日~8日、茨城県日立市十王町にて「ウミウの捕獲技術」(日立市の無形民俗文化財)の調査を行ないました。鵜飼は現在でも関東から西日本の十数ヶ所で行なわれていますが、その際に用いるウミウはそのほとんどがこの十王町で捕獲されます。調査では、鵜捕りの技術や伝承の状況についてお話を伺ったほか、断崖絶壁にある鵜の捕獲場なども見せていただきました。この捕獲場は、3月の大地震により崩落の被害を受けましたが、伝承者自身の手によって修復され、4月下旬から5月中旬にかけて行なわれる春の鵜捕りでは、11羽が全国各地に送られました。秋の鵜捕りシーズンにはもう一度現地を訪ね、技術の実地調査を行なう予定です。

女子美アートミュージアムにおける調査

女子美アートミュージアムにおける調査風景

 服飾文化共同研究拠点における共同研究の一環で、平成22年7月12日に女子美アートミュージアムにおいて染織品調査を行いました。この共同研究は平成20年11月より開始され、文化服飾博物館に所蔵される三井家伝来小袖服飾類とそれに付随する円山派衣装下絵との関係を服飾文化史的視点から明らかにすることを目的としています。今回の調査は、女子美アートミュージアムに所蔵されている旧鐘紡株式会社所蔵の小袖の中から本研究テーマである三井家伝来小袖と類似するものを中心として、技法・意匠構成、仕立てを含めた詳細な調査を行いました。これらの調査で得られた知見は来年度の報告書刊行に向けて更なる精査を進めていきます。

第23回国際服飾学術会議への参加

第23回国際服飾学術会議の様子

 8月20・21日、飛騨・世界生活文化センター(高山市)において、第23回国際服飾学術会議が開催されました。日本をはじめ、韓国、台湾、モンゴルの研究者、染織家、デザイナーら約200人が参加し、意見交換を行ないました。無形文化遺産部からは菊池が参加し、研究発表を行いました。
 今回の学術会議では、「服飾文化の東西交流」を共通テーマとして、講演、研究発表、ポスターセッション、創作衣装展などが行われました。
 各国からの参加者は染織技術についての研究に触れ、国による技術保存の考え方の違いや、復元という試みに対しての認識を深めていました。
 また、この出張に際して、美濃和紙の里会館(美濃市)と春慶会館(高山市)を視察し、伝統工芸技術に関する情報収集を行いました。無形文化遺産部においては、工芸技術に関する情報収集がはじまったばかりです。今後も、地域や対象を拡大させつつ、積極的に情報収集を行なってまいります。

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