研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


文化財情報資料部研究会の開催―「滋賀・鶏足寺 七仏薬師如来像の造像をめぐる一考察」

研究会の発表の様子

 文化財情報資料部では所員だけでなく、他機関の研究者を発表者に向かえ、毎月1回、美術工芸品を中心とした文化財を考察対象する研究会を開催しています。5月は31日(火曜日)に開催いたしました。発表は東京国立博物館アソシエイトフェローの西木統政(にしきまさのり)氏を迎え、標記のタイトルでのご発表をいただきました。
 今回取り上げた滋賀・鶏足寺(けいそくじ)伝来の木造七仏薬師如来立像は、現存する七仏薬師如来像の稀有な作例として存在は早くから知られていましたが、これらを考察の対象として本格的に取り上げることはほとんどありませんでした。
 発表では、七尊各像の現地における実査による知見を踏まえ、本七尊像が天台系の七仏薬師如来立像の遺例であるとの認識のもと、漆箔を用いない素木(しらき)像であることに留意して、その規範を比叡山延暦寺一乗止観院根本中堂内に安置されていた木造の七仏薬師如来立像(逸亡)に求めるとともに、その当地での再現であるとの認識のもと考えるところを披瀝していただきました。
 発表後は研究会に参加者との活発な質疑応答・意見交換をあわせて行いました。

企画情報部研究会の開催―「狩野山雪筆「武家相撲絵巻」一巻について」

企画情報部研究会

 企画情報部では所員だけでなく、他機関の研究者を発表者として迎え、毎月1回、美術工芸品を中心とした文化財を考察対象にした研究会を開催しています。3月は29日(火)に東京国立博物館絵画・彫刻室主任研究員・山下善也氏に標記のタイトルでご発表をいただきました。この絵巻は両国・相撲博物館に所蔵される全長12メートルを超えるものです。これまでこの絵巻の存在は周知されるまでには至っていませんでしたが、山下氏が京都国立博物館在職中に企画された特別展覧会「狩野山楽・山雪」(会期は平成25年3月30日~5月12日)において、山雪の作と認めて出陳・公開がなされ、漸くその存在が知られるようになった作品です。
 今回の発表では、まず本作が漢画題の作品で形成されてきた山雪のイメージを変える和の画題であることに注目しつつ、「河津掛け」ほか様々な相撲の決まり手の一瞬とそれを観戦する人々の様子を切り取って描いた諸場面を順次仔細に眺めながら、そこに描かれた人物表現の、ことに面貌描写に山雪の特徴を見出すとともに、山雪の嗣子・永納による奥書に着目し、山雪の支持層の問題に及んでの本作の成立事情について、氏の考えるところを披瀝いただきました。

英国セインズベリー日本藝術研究所におけるプロジエクト協議と田中副所長の講演

セインズベリー日本藝術研究所主催のThird Thursday Lectureで講演する田中副所長

 イギリス・ロンドンの郊外、ノリッジに所在するセインズベリー日本藝術研究所(Sainsbury Institute for the Study of Japanese Arts and Cultures; SISJAC)は東京文化財研究所と2013年7月にプロジェクト「日本芸術研究の基盤形成事業」を立ち上げ、以来、欧米の日本美術の展覧会や日本美術に関する書籍・文献の英語情報の収集を行っています(これらの文献情報については当研究所の「総合検索」において検索が可能です。http://www.tobunken.go.jp/archives/文化財関係文献(統合施行版)/)。
 本事業に関する、今年度の進捗状況の確認と次年度以降の事業の継続について、副所長・田中淳と企画情報部文化財アーカイブズ研究室長の津田徹英は、2月16日から21日の日程で渡英し、SISJAC総括役所長・水鳥真美氏ならびに入力スタッフと協議を行いました。
 あわせて滞在中の18日(木)には、SISJACが毎月第3木曜日に行っているThird Thursday Lectureにおいて、田中が“The Portrait, painted in 1916”のタイトルで岸田劉生の肖像画をめぐっての講演を行いました。講演はSISJACに隣接する中世の大聖堂に付属して新しく建てられた木造のレクチャールームを会場にして行われました。聴講は100人近くに及び、用意された席はほぼ満席の状態でした。聴講者はいずれも熱心に講演に耳を傾け、日本の近代美術への関心の高さが窺がわれました。

9月企画情報部研究会

志村氏、秋本氏と聴講者との間で熱く交わされる画絹・絹糸に関する情報交流

 月例の企画情報部研究会では、9月29日(火)に、研究プロジェクト「美術の表現・技法・材料に関する多角的調査研究」の一環として、絹織制作研究所の志村明氏に「絹生産における在来技術について」の標題のもとご発表をいただきました。あわせて、同研究所の秋本賀子氏にコメンテーターとしてご出席いただきました。志村氏は近代以前の伝統的織絹の復元に日々携わっておられます。研究会のテーマとなった画絹については日本絵画の基底材であり、美術史研究者はもとより日本絵画の修復に日々携わる者にとっても非常に親しい存在です。聴講者は美術史の研究者にとどまらず、日本絵画の修復に携わる者など多岐にわたり、その分野への関心の高さが窺がわれました。
 今回の研究会では、今日まで残るさまざまな時代の画絹類を実際に調査され、それにもとづいて技術復元を行われた過程で知り得た画絹、絹糸に関する様々な知見をお話いただきました。研究会では最初に志村氏から絹糸に関する基本的な情報をご提示いただき、適宜、秋本氏にコメントをしていただきながら、聴講者から質疑を行い、これに志村氏が応答していただくという形式で進めました。そのなかで、絹糸の太さ(径)に関する単位と思われていた「d(デニール)」が絹の容量に関る単位であること、実際に復元した伝統的技術によって生成された画絹を微細に観察しながら、経糸と緯糸によって構成される織目(空隔)の密度と裏彩色の関係など、われわれ研究者が自明のことと思っていた画絹、絹糸に関する知識が非常に誤解・誤認をともなうものであったことに気づかされ、認識を改める機会を得ることができたように思います。
 この質疑・応答をもって進行した研究会は2時間を超えるものでしたが、志村氏よりご提示いただいた画絹・絹糸に関する情報・知識は非常に新鮮でした。また、志村氏、秋本氏によって制作された厚みや織り目の密度の異なる画絹、砧で打ち込んだ練り絹(絹布)の現物を手にとって、それらの感触を実感することができた経験も、今後、絵画研究に携わってゆくうえで有意義なものとなりました。

久野健白鳳会講演録の寄贈

 故・久野健(1920~2007)氏は1944年に当研究所の前身である美術研究所に入所され、1982年に退官されるまでの38年間にわたって仏像彫刻研究に従事されてきました。退官後は自宅に隣接して仏教美術研究所を設立し主宰され、長年にわたって収集された資料を研究者に提供されてきました。久野氏の没後は、ご遺族より、氏が手ずから書き込まれた調査ノート類、写真資料類をご寄贈いただきました。それらは主に国内外に所在する仏像彫刻に関するものです。件数にして7,480 件にものぼり、2015年3月から「久野健寄贈資料」として当研究所の資料閲覧室にて公に供しています。
 久野氏は、仏教美術研究所において仏教美術愛好者を募って白鳳会を結成し、会員向けの現地見学会や講演会を熱心になされていたことが、調査ノートに挿み込まれていた告知案内状の類から知られていました。しかし、どのような講演内容であったかについては不明でした。ところが、このたび白鳳会の運営を手伝われていた高橋寿守氏から、白鳳会で行われた講演録の寄贈の申し入れがあり、その受け入れが9月に完了いたしました。これは久野健氏が白鳳会で講演された度毎に、会員が分担して講演のテープ起こしを行い、久野氏が内容に目を通されたうえで、会員に向けて配布されていた講演録を一括したものです。これによって白鳳会で久野氏が講演された内容を具体的に窺がうことが可能となりました。なお、この講演録は「久野健寄贈資料」の一環として登録し公開をいたします。

『美術研究』掲載論文等のPDF公開

 『美術研究』は昭和7年(1932)1月、当研究所の前身である帝国美術院附属美術研究所において、当時所長であった矢代幸雄の構想・提唱により第1号を刊行しました。以来、今日まで、広くアジアを視野に収めて文化財に関する論文、図版解説、研究資料等を掲載し、文化財研究を国内外で牽引してまいりました。そのバックナンバーのWeb上での公開については、全所的アーカイブの一環として、また、かねてより評価委員会での公開についての意見・要請を承けて、それに応えるべく企画情報部では公開の準備を進めてまいりました。
 このたび、1号から200号までの掲載論文等の著作権者もしくは著作権継承者に連絡をとり、承諾を得たものから順次、「東文研総合検索」において検索、web上での本文閲覧ができるようにいたしました。なお、今回は早期にWeb上で論文・記事等の本文を閲覧できる環境を作ることを優先したため、同誌収載の社寺や美術館・博物館等の所蔵品の口絵・挿図は、個別に所蔵者からの公開許可をとることをせず、マスキング処理をほどこしました。200号までの著作権者不明分については、所定の手続きをおこなうともに、それ以降の号についても順次公開できるように作業を進めているところです。PDFでの公開を機に、広く『美術研究』が活用されること願うものであります。

第48回オープンレクチャーの開催

講演の様子

 企画情報部では毎年秋に行うオープンレクチャーを、今年は10月31日(金曜日)、11月1日(土曜日)の両日にわたって「モノ/イメージとの対話」を総タイトルに掲げ、午後1時30分より地下セミナー室を会場にして開催いたしました。このオープンレクチャーは日々、文化財に向き合って研究を行うなかで得られた知見の一端を多くの人に知っていただくことを目的として開催しています。今年で48回目となりました。
 1日目は、文化形成研究室長・津田徹英が「一流相承系図(絵系図)の構想と機能」と題し、続いて、名古屋大学大学院教授・伊藤大輔氏が「院政期絵画における二つの美の原理―似絵の成立をめぐって―」題して講演を行いました。晴天に恵まれ108人の聴講となりました。
2日目は、近・現代視覚芸術研究室長・塩谷純が「仙台・昭忠碑、被災から復興に向けて」と題し、続いて、千葉工業大学教授・河田明久氏が「表象と本物」と題し、講演を行いました。塩谷の講演では、実際に修復に携われた高橋裕二氏にご登壇いただき報告をしていただきました。当日はあいにくの降雨となり肌寒い一日となったにもかかわらず55人の聴講がありました。
 両日ともに実施したアンケートの集計から、1日目は91.7%、2日目は83.7%の方々より満足を得たとの回答を頂戴いたしました。

7月企画情報部研究会

研究会の様子

 企画情報部では、毎月、研究会を行っています。7月は、29日(火曜日)午後3時より、部内の研究会室において、文化形成研究室長・津田徹英を発表者として、「平安木彫像の内刳りの始源」というタイトルで口頭発表を行いました。今回の発表は、自身が研究代表者となっている科研「近江の古代中世彫像の基礎的調査・研究―基礎データと画像蓄積のために―」(平成24~26年)の成果報告も一部兼ねるものでもあります。当日、研究会には、かつて当研究所の所長であった西川杏太郎氏が参加されました。西川氏は津田の口頭発表の後、ご自身が長年、仏像彫刻の修復の現場に立ち会われて、そこで培われてきた豊富な知見に立脚しながら、発表に対する所見を述べるとともに、あわせて様々なアドバイスをして下さいました。その所見・アドバイスは、専門外の参加者にも非常にわかりやすく魅力的であり、かつ、普段なかなか知り得ない仏像の造像技法に関する専門的な情報を多く含むものであり、それらを惜しみなく披瀝され、発表者はもとより研究会参加者にも非常に貴重な機会となりました。

企画情報部研究会「ウェブ版『みづゑ』の研究と開発―美術史料のデジタル公開と美術アーカイブへの展望―」

Web版『みづゑ』トップページ

 企画情報部では毎月一回、研究情報の共有化のために研究会を行っています。3月は25日(火曜日)2時より、標記のテーマで、文化形成研究室長・津田徹英、アソシエイトフェロー・橘川英規、国立民族学博物館・丸川雄三、国立情報学研究所・中村佳史、同・吉崎真弓が報告を行いました。報告の対象となった『みづゑ』は、1905(明治38)年に創刊され、その後、1992(平成4)年に一時休刊し、2001(平成13)年の復刊を経て、2007(平成19)年に再び休刊した美術雑誌です。約1世紀にわたって刊行され続けた美術雑誌であっただけに、近代日本の美術界に与えた影響は多大であり、資料的価値が高いことはいうまでもありません。しかも明治期刊行分90号までは、入手が困難なうえに、これをまとめて所蔵するところが少なく、東京文化財研究所でも貴重書に準じる扱いとなっています。しかしその一方で公開が強く望まれていた資料でもありました。そこで明治期に刊行された分について、記事等、既に著作権が消滅しているものが多いことをかんがみてWebでの公開を行うことを目指し、企画情報部と国立情報学研究所連想情報学研究開発センターが、それぞれが蓄積するノウハウを持ち寄って2011年から3か年にわたって共同研究・開発を行いました。あわせて、この共同研究・開発は、『みづゑ』をモデルケースとし、文字情報が主となる文化財情報の発信に関して、ひとつの可能性を示すことを念頭に置いて取り組んだものでもあります。もとより、企画情報部研究プロジエクト「文化財の研究情報の公開・活用のための総合的研究」の一環です。そのWeb上での成果公開にあたり、企画情報部内で情報を共有するために開催したのがこの研究会です。なお、共同研究・開発による『みづゑ』のWeb版は、「東京文化財研究所所蔵資料アーカイブズ みづゑ」として公開しております。是非、ご覧ください(http://mizue.bookarchive.jp/

企画情報部第46回オープンレクチャーの開催

講演の様子1
講演の様子2

 今年で46回目を迎えた企画情報部オープンレクチャーは、「モノ/イメージとの対話」をテーマに10月19日(金)、20日(土)の両日午後一時半より、当研究所地下セミナー室を会場に開講致しました。このオープンレクチャーでは、文化財や美術作品は動かぬモノでありながら、人々の心のなかに豊かなイメージを育んでいくことを念頭に置いて、そうした「モノ/イメージ」に日々向き合うなかでの新たな知見を、より多くの方々に知っていただくことを目的に開催いたしました。
 発表は、所外から、国立台湾師範大学准教授・白適銘氏(19日、発表タイトル「上野モダンから近代文化体験へ―陳澄波が出会った近代日本―」)と、国際日本文化研究センター准教授・丸川雄三氏(20日、「連想が結ぶ美術史の点と線―アーカイブスから見えるもの―」)を迎え、所内からは、企画情報部副部長・山梨絵美子(19日、徳川霊廟を描いた画家たち)、同部長・田中淳(20日、「1912年10月20日・上野・美術」)が行いました。両日ともに天候にも恵まれ、19日は96名、20日は80名の聴講者を得ました。

佛光寺所蔵『善信聖人親鸞伝絵』の調査・撮影

絵巻の高精細デジタル撮影

 京都・佛光寺には、親鸞(1173~1262)の出家から没後の廟堂建立までを描いた絵巻『善信聖人親鸞伝絵』(上下二巻)が伝えられています。これは先行して成立した三重・専修寺に伝えられた同題の絵巻を踏まえながら、それには認め難い絵相と詞書を含むことで知られています。また、詞書は後醍醐天皇の晨翰とも伝えられています。本絵巻は、これまで非公開を原則とし、大切に伝えられてきたため、折れ伏せなどの修理の痕跡が全く存在せず、かつ、黒色に変色しやすい銀泥も輝きを失っておらず、制作当初の鮮やかな色使いが今日まで伝えられている点で特筆されます。しかしながら、制作年代に関しては中世(14世紀)に遡るという見方と近世(18世紀以降)に下るとする見方が根強くあります。
 企画情報部の津田徹英、小林達朗、城野誠治は、この佛光寺本『善信聖人親鸞伝絵』について、同寺宗務所のご理解と協力を得て、2012年2月23、24日の両日に及んで同寺大広間において調査・撮影を行いました。目的とするところは、これまで調査の機会が極めて限られていたことをかんがみて、今後、本絵巻が文化財研究のために広く資するべく、絵伝そのものに即した基礎データづくりを目指し、撮影についても一紙ごとに高精細デジタル撮影を行いました。そして、その過程で得られた知見については、2月29日の企画情報部研究会において中間報告を兼ねて研究発表を行うとともに(津田徹英「佛光寺本『親鸞伝絵』をめぐって」)、本作の存在を広く知ってもらうために、最も絵相に独自性が打ち出されている上巻「六角堂夢告」の場面を、企画情報部フロアーの壁面パネルで公開いたしました。なお、本調査・研究は平成23年度メトロポリタン東洋美術研究センターの助成を得て実施したもので、東京文化財研究所企画情報部の研究プロジエクト「文化財デジタル画像形成に関する調査研究」の成果の一部です。

明治期刊行の美術雑誌『みづゑ』のホームページ上での公開をめざして

『みづゑ』第1号(明治38年7月刊)の表紙

 企画情報部のプロジエクト「文化財の研究情報の公開・活用のための総合的研究」では、他機関との連携をはかりつつ、蓄積された文化財に関する研究情報を効果的に公開・活用することを目標に掲げています。その一環として、当研究所の所蔵する美術雑誌のうち、廃刊となり、著作権の切れてしまった明治期の美術雑誌のなかで、国内・外より閲覧要請が多い『みづゑ』のホームページ上での公開を、国立情報学研究所と研究連携をはかりながら進めています。9月13日には、そのための協議会を当研究所で開催し、公開方法として、その総目次とリンクさせながら記事検索により、本文がホームページ上で画像閲覧ができることを目指すとともに、そのための行程確認とホームページ上での公開のための効果的な手法について話し合い、年度内に1~10号までを公開し、以後、順次このプロジエクトの中で明治期に刊行分89号までの公開をすすめることを再確認しました。

群馬県立歴史博物館における木造性信上人坐像の調査・撮影

 企画情報部の研究プロジエクト「美術の表現・技法・材料に関する多角的研究」の一環として、6月21日(火)に、企画情報部の津田徹英、皿井舞は保存修復科学センターの犬塚将英、ならびに武蔵野美術大学非常勤講師の萩原哉氏の協力を得て、群馬県立歴史博物館に出陳中の同県板倉町宝福寺所蔵の木造性信上人像(仏師大進作、鎌倉時代、群馬県指定文化財)の調査・撮影を行いました。ちなみに、本像は当所名誉研究員であった故・久野健氏が本格的な調査を行い銘文が知られて以降、その存在が知られました。その後、幾歳月が流れ、本格的修理がなされましたが、難解・複雑な銘文は未だ全文の解明がなされるまでには至っていません。
 今回の調査の目的は、像の構造・保存状況等を正確に把握するとともに、赤外線撮影等により懸案の銘文に肉薄することを目的とし、あわせて、頭部内に納入されているという像主の焼骨を収めた容器の存在を確認するために、X線透過撮影を試みました。今回の調査・撮影で得られた知見等については、今後十分に検討を重ねたうえ、『美術研究』等によって公表してゆく予定です。

『研究資料 脱活乾漆像の技法』の刊行

『研究資料 脱活乾漆像の技法』

 平成18年度から5か年計画の企画情報部研究プロジェクト「美術の技法・材料に関する広領域的研究」の一環として、天平時代の脱活乾漆造の仏像の技法解明を目的に調査研究を行ってきました。その成果報告として『研究資料 脱活乾漆像の技法』を刊行いたしました。本書では表面観察からだけでは窺うことのできない像内の様子や構造を知るために行ったX線透過画像を含む図版(モノクロ)とともに、各作例の基礎データを収載しています。あわせて、この研究プロジェクトの一環として同時進行でおこなってきた「奈良時代史料にみえる彩色関係語彙データベース」をCD版で作成し添附いたしました。

『大徳寺伝来五百羅漢図 銘文調査報告書』

 企画情報部の研究プロジェクト「高精細デジタル画像の応用に関する調査研究」の一環として、平成22年より奈良国立博物館と「仏教美術等の光学的調査および高精細デジタルコンテンツ作成に関する協定」を結び、奈良国立博物館と共同で行った大徳寺伝来の「五百羅漢図」の調査・研究の成果として、『大徳寺伝来五百羅漢図 銘文調査報告書』を刊行しました。本書では、これまで肉眼では判読が難しかった画中の銘文の可視画像化をすすめたものを収載しています。本書の刊行により銘文のほぼ全貌が明らかとなり、大徳寺伝来の五百羅漢図の制作事情の解明に向けて、大きな成果をあげることができました。

『平等院鳳凰堂 仏後壁 調査資料目録 ―蛍光画像編―』の刊行

 平成16年から17年にかけて平等院と共同で行った鳳凰堂仏後壁の調査成果の報告書として、『平等院鳳凰堂 仏後壁 調査資料目録 ―蛍光画像編―』を刊行いたしました。これは平成20年度に刊行した『同―カラー画像編―』、平成21年度に刊行した『同―近赤外画像編―』に続く、第三冊目にあたります。この三冊の刊行によって今後、鳳凰堂仏後壁の研究を行ううえでの基礎資料となることが期待されます。

『東京文化財研究所蔵書目録8 漢籍編』の刊行

『東京文化財研究所蔵書目録8 漢籍編』

 企画情報部の研究プロジェクト「専門的アーカイブの拡充(資料閲覧室運営)」の一環として2002年3月に『東京文化財研究所蔵書目録1 西洋美術関係 欧文編・和文編』を刊行して以来、順次刊行を進めてきた蔵書目録の第八冊目にあたる『同目録8 漢籍編』を刊行いたしました。これは東京文化財研究所が所蔵する約12,000冊の漢籍を収録した目録で、この目録の刊行により研究所所蔵の漢籍の全容が明らかとなり、広く活用されることが期待されます。

故鈴木敬先生の蔵書の追加寄贈

 中国絵画史の泰斗であり、東京大学名誉教授であった故鈴木敬先生(平成19年10月18日逝去)の蔵書中から、『景印文淵閣四庫全書』、『四部叢刊初編宿本』『大清歴朝実録』が、ご遺族の輝子夫人より、平成21年12月に当研究所へご寄贈いただいたことについては『東文研ニュース』36号において報告いたしましたが、このたび、輝子夫人より、同先生の蔵書のうち、『欽定古今図書集成』、『天一閣明代方志選刊』等の叢書類が10月26日に追加寄贈となりました。追加寄贈となったこれらの叢書類は、研究所の架蔵図書の充実に直結するものであり、今後、順次、整理・登録を行い、多くの方々にご利用・ご活用いただけるようにしたいと考えております。

東京国立博物館における在外日本古美術品保存修復協力事業の成果展示

展示の樣子

 在外日本古美術品保存修復協力事業の成果の公開を兼ねて、5月11日(火)から23日(日)まで、東京国立博物館の平成館1階企画展示室において「特集陳列 海外の日本美術品の修復」と題し、日本へ里帰りさせて、国内の工房において平成21年度末に修復が完了した作品の展示公開を行いました。
 今回、展示を行った作品は、アシュモリアン美術館(イギリス)所蔵の歌舞放下芸観覧図屏風、ケルン東洋美術館(ドイツ)所蔵の和歌浦蒔絵将棋盤、市立ヴェルケ・メディジチ博物館(チェコ)所蔵の近江八景蒔絵香棚の3件です。この展示は毎年この時期に東京国立博物館の平成館において行っています。この展示を続けてゆくことで、少しでも多くの人に当研究所の国際協力事業の一端を知っていただくことができればと考えています。

『平等院鳳凰堂仏後壁調査資料目録―近赤外線画像編』の刊行

 平等院では、平成15年から20年までの間、鳳凰堂の平成大修理が行われ、阿弥陀如来坐像、および、その光背・台座等を境内の特設工房に遷されました。これを機に、平成16・17年に平等院のご理解とご協力のもとに、仏後壁前面画の詳細な光学調査を実施し、高精細デジタル撮影技術を駆使して詳細に壁画の現状を記録することができました。その成果報告として2月26日に『平等院鳳凰堂仏後壁調査資料目録―近赤外線画像編』を刊行いたしました。本書は昨年度刊行の『平等院鳳凰堂仏後壁調査資料目録―カラー画像編』に続くものです。周知の通り、平等院鳳凰堂の仏後壁前面に描かれた板絵は、普段、本尊・阿弥陀如来像の背後に位置するため、画面の全貌を詳細に把握することは容易なことではありません。本書はこれからの平等院鳳凰堂仏後壁前面画の研究のとどまらず、広く平安仏画の研究に大いに活用されることになるものと思われます。なお、来年度は『平等院鳳凰堂仏後壁調査資料目録―蛍光線画像編』の刊行を予定しています。

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