研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


第8回国際美術図書館会議での発表

発表の様子
アムステルダム国立美術館の美術図書館

 日本および世界中に数多くの図書館がありますが、欧米諸国には、美術に関する図書や資料を専門とする美術図書館があり、2年に一度、国際美術図書館会議が開催されています。平成30(2018)年10月4,5日にオランダのアムステルダム国立美術館で開催された第8回国際美術図書館会議において、「東京文化財研究所の情報発信: OCLCセントラル・インデックスへの日本美術文献の情報提供」The Contribution of the Tokyo National Research Institute for Cultural Properties: Art Bibliography in Japan for OCLC Central Indexと題した口頭発表を行いました。当研究所では、日本国内で行われた美術展覧会の情報や展覧会図録の文献情報を収集しています。昭和5年(1930)以降、平成25(2013)年までの展覧会図録所載文献、約5万件についてOCLCセントラル・インデックスに情報提供を行いました。日本の美術展覧会カタログは、専門性が高いものの、一般的な雑誌論文などに較べてその情報発見の機会が限られていましたが、今回の取り組みにより、世界中のOCLC利用者に、新たな資料発見の機会を提供することができました。この会議は欧米諸国が主体となっていますが、発表後にはアジア地域からのこうした取り組みは、美術図書館の国際連携を強化するために重要であるとの反響が寄せられました。この情報提供は継続的に進めており、最近平成26(2014)年の文献情報、約2800件を追加提供し、さらに今年中に平成27(2015)年の文献についても情報提供を行う予定です。

ゲッティ・リサーチ・ポータルへの東京文化財研究所刊行物の情報提供

ゲッティ・リサーチ・ポータルの検索結果表示画面

 東京文化財研究所ではアメリカのゲッティ研究所と共同研究事業を推進しています。平成29(2017)年5月に、当研究所所蔵の明治期の展覧会目録や美術雑誌のデジタル版をゲッティ・リサーチ・ポータル(GRP)から検索・閲覧できるようになり、アジア諸国からは初めての情報提供元となりました。そしてこのたび当研究所刊行の『美術年鑑』昭和11 (1936) 年版〜平成25(2013)年版の 70冊、『美術研究』1〜419号、『保存科学』1〜57号のデジタル版についても、GRPから検索・閲覧できるようになり、当研究所からの提供タイトル件数は636件を超えました。これらの刊行物は、これまでも当研究所のウェブ・サイト(東文研総合検索 http://www.tobunken.go.jp/archives/、PDF版『保存科学』 http://www.tobunken.go.jp/~ccr/pub/cosery_s/consery_s.html)や機関リポジトリ(https://tobunken.repo.nii.ac.jp/)で公開して参りましたが、バーチャル美術図書館として世界中に多くのユーザーを有するGRPから検索・閲覧が可能になったことで、当研究所による文化財研究の成果への海外からのアクセスの可能性を飛躍的に増やしました。さらにこの共同事業の一環として、現在、当研究所所蔵の貴重書である、明治・大正・昭和期の博覧会・展覧会資料のデジタル化を進めており、これらについても2019年6月末までに、GRPに情報を追加する予定です。

展覧会「記録された日本美術史―相見香雨、田中一松、土居次義の調査ノート展―」の開催

展覧会のパンフレット表紙
実践女子大学香雪記念資料館での展示風景

 東京文化財研究所ではかつて当研究所に在籍していた研究職員の資料の収集し、研究アーカイブとして活用しています。このたび実践女子大学香雪記念資料館と京都工芸繊維大学美術工芸資料館の共同主催による展覧会「記録された日本美術史―相見香雨、田中一松、土居次義の調査ノート展―」において、当研究所所蔵の田中一松(1895〜1983)のノート、調書、写真など約70点の資料を初公開致しました。この展覧会では、相見香雨(1874〜1970)・田中一松・土居次義(1906〜91)という、明治から昭和にかけて日本美術史研究をリードした3人の研究者の調査ノート類を一堂に出陳しています。展示を通じて、先人の研究者がどのように作品を見て、記録していくかを追体験するという企画です。田中は幼少期から絵が巧みで、生涯にわたる作品のスケッチの見事さは筆舌に尽くし難く、現在のデジタル全盛の時代でも、手で記録を取ることの重要さを教えてくれます。東京の実践女子大学での展示は平成30(2018)年5月12日から6月16日の32日間に計953人の来場者にご高覧頂き、好評のうちに閉幕致しました。京都工芸繊維大学での展示は平成30年(2018)年6月25日から8月11日の日程で開催されます。

虚空蔵菩薩像・千手観音像(東京国立博物館)の共同研究調査

蛍光X線分析による彩色材料分析

 東京文化財研究所は東京国立博物館と共同で、同館所蔵の仏教絵画作品に関する光学的調査研究を行っています。この共同研究の一環として、平成30(2018)年5月22、23日に、虚空蔵菩薩像及び千手観音像を対象に、高精細カラー画像の分割撮影と蛍光X線分析による彩色材料調査を行いました。平安時代後期の代表的な仏画作品は、特に洗練された美意識と高度に発達した表現技法によって描かれており、その繊細優美な描写は重要な特徴と言えます。これまでの調査研究で、平安仏画の高精細カラー画像、近赤外線画像、蛍光画像などを取得しましたが、さらに今回の蛍光X線分析では、尊像の顔、身体、着衣、装飾品、持物、光背、天蓋、背景など主要な部分の彩色材料を網羅的に調査しました。今回得られた分析結果は、それぞれの作品を理解するために有益であるばかりか、日本美術史研究全体においても重要な指標となります。今後、さらなる調査の実施とその結果の検討を行い、平安仏画の研究資料として公開する準備を進める予定です。

日本絵画作品のデジタルコンテンツ所内公開

デジタルコンテンツ閲覧

 東京文化財研究所では、さまざまな手法で文化財の調査研究を行い、研究成果の公開を行っています。このたび徳川美術館所蔵「源氏物語絵巻」、サントリー美術館所蔵「四季花鳥図屏風」および「泰西王侯騎馬図屏風」のデジタルコンテンツを作成し、資料閲覧室にて公開を開始致しました。専用端末にて、高精細カラー画像、X線画像、近赤外線画像などの各種画像や、蛍光X線分析による彩色材料調査の結果などをご覧いただけます。ご利用は学術・研究目的の閲覧に限り、コピーや印刷はできませんが、デジタル画像の特性を活かした豊富な作品情報を随意に参照することができます。現在、上記の3作品のほか、「十一面観音像」(奈良国立博物館)、「彦根屏風」(彦根城博物館)、「本多平八郎姿絵屏風」「歌舞伎図巻」「相応寺屏風」(徳川美術館)、尾形光琳筆「紅白梅図屏風」(MOA美術館)の全8作品のデジタルコンテンツを公開しています。今後もこうしたデジタルコンテンツを増やし、専門性の高い研究資料を提供していく予定です。この画像閲覧端末は、資料閲覧室開室時間にご利用いただけます。閲覧室については、利用案内をご参照下さい。
http://www.tobunken.go.jp/~joho/japanese/library/library.html

「東京文化財研究所美術文献目録」のOCLCへの提供

WorldCatで検索された展覧会カタログ所載文献の表示画面の例

 東京文化財研究所では美術に関する文献・資料の収集と活用に努めています。世界最大の図書館サービスであるOCLCを通じて国際的に情報発信を行うため、日本での代理店を務める株式会社紀伊國屋書店OCLCセンターと協議を重ねながら事業を推進し、このたび平成30(2018)年1月に世界最大の共同書誌目録データベースであるOCLCのセントラル・インデックスに「東京文化財研究所美術文献目録 (Tokyo National Research Institute for Cultural Properties, Art Bibliography in Japan)」として、展覧会カタログに掲載されている記事・論文等のデータ約5万件を提供しました。これによって、WorldCat.org(https://www.worldcat.org/)やArt Discovery Group Catalogue (https://artdiscovery.net/)などの検索サービスなどにおいて、美術に関する作家・作品など各種キーワードを入力すると、「東京文化財研究所美術文献目録」も検索対象となり、展覧会カタログ掲載論文に関する書誌データが検索結果として表示されるようになりました。
 書籍や雑誌として刊行されているものは、一般的な検索エンジンや図書館等のデータベースでも検索することができますが、展覧会カタログに収録されている記事・論文は、専門性が極めて高いものの、その存在が広く知られる機会は限られていました。今回提供した情報は、当研究所がその草創期から継続してきた『日本美術年鑑』編さん事業を通して、全国の美術館・博物館から寄贈された展覧会カタログ所載記事・論文のデータを再利用したものです。検索結果からそのままオンラインで全文にアクセスできるような機能はなく、今後の課題はありますが、世界中のインターネット・ユーザーに対して、資料発見の可能性を新たに提供した意義は大きいと考えられます。今回提供した情報は昭和5(1930)年から平成25(2013)年までのものですが、今後も継続的に新たな情報を追加するなど、さらなる情報発信強化を行ってまいりたいと思います。
なお、この成果は、平成28(2016)年より国立西洋美術館と実施している共同事業「美術工芸品を中心とする文化財情報の国内外への発信にかかる基盤形成事業」によるものです。

研究会「キャスリーン・サロモン氏(ゲッティ研究所副所長)講演―日本美術資料の国際情報発信に向けて」の開催

講演風景

 東京文化財研究所は、2016年2月にゲッティ研究所と日本美術の共同研究推進に関する協定書を締結し、両機関における研究者の交流、日本美術に関するデジタル情報のゲッティ・リサーチ・ポータルへの公開などを協働して行なっています。文化財情報資料部では文化庁の受託研究「著名外国人招へいによる日本美術の発信をテーマとした調査研究事業」によってゲッティ研究所副所長のキャスリーン・サロモン氏を招へいし、ご講演頂いたほか、東京文化財研究所、東京国立博物館、東京国立近代美術館、国立西洋美術館、国立新美術館、京都の国際日本文化研究センターなどの美術アーカイブを視察し、協議を行いました。
 12月6日に東京国立博物館黒田記念館で開催した研究会では、サロモン氏にゲッティ研究所と同図書館のこれまでの歩みと現在の世界的な取り組みについてご紹介頂き、美術研究資料の情報発信における最新の国際動向についてご講演頂きました。そして川口雅子氏(国立西洋美術館)に講演についてのコメントを頂き、当研究所副所長の山梨絵美子の司会によって、日本における美術資料の国際情報発信に向けての課題と展望を考える場としてディスカッションを行いました。当日は美術館・博物館のアーカイブ担当者、大学や研究機関の図書館関係者、美術史研究者など、41名の方々にご参加頂きました。この研究会の報告書は、いずれ当研究所ホームページで公開する予定です。

IFLAヴロツワフ大会への参加

IFLA世界大会メイン会場となった百周年ホール
キャスリーン・サロモン氏による発表

 国際図書館連盟(IFLA:The International Federation of Library Associations and Institutions)第83回世界大会がポーランド西部の都市・ヴロツワフにおいて、8月19日~25日の日程で開催されました。IFLAは1927年にスコットランドのエディンバラで設立された図書館の国際組織で、ブルーシールド国際委員会の一部でもあります。本部はオランダのデン・ハーグに置かれ、約140か国・1400団体が加盟しており、毎年1回世界大会が開催されています。国立図書館、大学図書館、公共図書館など様々な種類の図書館やテーマによって、248件のセッション(会合・会議・研究会)が行われました。今回は初めて文化財情報資料部から江村知子が参加し、美術図書館など当所のアーカイブに関連の深い研究会や会議などに出席して、各国の参加者との情報交換、研究交流を行いました。
 8月22日にヴロツワフ建築博物館で開催された美術図書館分科会「美術・建築の探索:美術史研究のオープン・アクセス・ツール」では、オランダ、イタリア、アメリカ、ハンガリーから4人の発表が行われ、美術に関する文献・研究資料をより広く情報共有し、発展的な研究に広げていくための様々な取り組みが報告されました。ゲッティ研究所のキャスリーン・サロモン氏の「美術史のバーチャル図書館:ゲッティ・リサーチ・ポータル」では、今年5月から当研究所がゲッティ・リサーチ・ポータルの情報提供元となり、当研究所所蔵の明治期の雑誌や展覧会目録が搭載されたこと、英語以外の稀観書も広く利用できる仕組みとなっていることが紹介されました。今回の美術図書館分科会や常任委員会には日本やアジアからの参加者は他におられず、美術資料の国際的活動は欧米の関係者によって推進されている印象を受けましたが、世界各国で日本の美術作品や図書資料なども多く所蔵されている現状も知ることができました。あわせて当研究所のアーカイブ機能と国際的な情報発信を強化することによって、より広く研究支援や日本文化の理解促進に貢献できる可能性を認識致しました。専門性を十分に確保しながら、国際的な連携を推進することを今後の課題としたいと思います。

ライプツィヒ民族学博物館(ドイツ)での日本絵画作品調査

ライプツィヒ民族学博物館での調査風景

 日本の古美術品は欧米を中心に海外でも数多く所有されていますが、これらの保存修復の専門家は海外には少なく、適切な処置が行えないため公開に支障を来している作品も多くあります。そこで当研究所では作品の適切な保存・活用を目的として、在外日本古美術品保存修復協力事業を行っています。2017年2月28日から3日の日程で、文化遺産国際協力センターの加藤雅人、江村知子、元喜載の3名がライプツィヒ民族学博物館を訪問し、日本絵画作品9件11点の調査を行いました。
 同館にはヨーロッパ以外の世界中の美術工芸品、民俗資料葯20万点が所蔵されており、その中には日本の絵画作品も含まれていました。明治のお雇い外国人として来日していた医師・ショイベの旧蔵品や、1878年の第3回パリ万博に日本から出陳されたという履歴のある絵画作品など、歴史的価値の高い日本絵画作品と言えます。同館の日本絵画作品はその存在があまり知られていませんでしたが、美術史観点から重要な作品も含まれていました。今回の調査で得られた情報を同館の担当者に提供して、作品の保存管理に活用して頂く予定です。そしてこの調査結果をもとに作品の美術史的評価や修復の緊急性などを考慮し、修復の候補作品を選定、協議し、事業を進めていきます。

ロビー展示「選定保存技術-漆の文化財を守り伝えるために」

ロビー展示風景
漆鉋の製作工程

 当研究所1階エントランスロビーでは、定期的に研究成果や事業紹介を行っています。文化遺産国際協力センターでは平成26年度(2014)より選定保存技術に関する調査研究を進め、それぞれの技術や製作の工程、現状の課題などについて情報収集と写真撮影を行い、その成果公開の一環として、カレンダーや報告書を作成し、広く国内外に向けて情報発信を行ってきました。今回の展示では、漆に関する選定保存技術について取り上げました。かつて漆は日本全国で栽培・採取されていましたが、比較的安価な外国産の漆が増え、現在日本国内に流通している漆のうち、国産漆は数パーセントしかありません。また生活習慣の変化などにより漆の産業全体が低迷し、こうした状況は、漆の文化財の保存修復においても深刻な影響を与えつつあります。しかしながら漆の加飾技法である蒔絵は日本を代表する工芸品であり、国内はもちろん、諸外国の美術館等でも数多くの漆工品が現存しています。漆に関わる保存修復技術を継承していくことは、我が国の責務と言えます。現在、漆掻き用具を製作する技術、漆を採取する技術、漆を精製する技術、漆の使用の際に用いる漆濾紙を製作する技術、漆塗りに使う漆刷毛を製作する技術、そして蒔絵などの加飾や細部に漆を塗るために使われる蒔絵筆を製作する技術などが選定保存技術に選定され、それぞれ選定保存技術保存団体・選定保存技術保持者が認定されています。いずれの技術も高度に専門化された特殊技術で、適切な調査と記録を行って情報発信を行うとともに、技術の伝承など現状の課題についての認識を広める必要があります。この展示を通じて漆工品製作や修復に用いられる技術・材料・道具についての理解を深めて頂けたら幸いです。

インディアナポリス美術館での日本絵画作品調査

インディアナポリス美術館での調査風景

 日本の古美術品は欧米を中心に海外でも数多く所有されていますが、これらの保存修復の専門家は海外には少なく、適切な処置が行えないため公開に支障を来している作品も多くあります。そこで当研究所では作品の適切な保存・活用を目的として、在外日本古美術品保存修復協力事業を行っています。2016年2月8日から10日の日程で、文化遺産国際協力センターの江村知子、小田桃子がインディアナポリス美術館を訪問し、日本絵画作品の調査を行いました。この調査には国宝修理装こう師連盟専務理事の山本記子氏にもご同行頂きました。インディアナポリス美術館は、1883年に設立されたアメリカ合衆国でも有数の美術館で、世界の美術作品約54000点を所蔵しています。今回の調査では、同館東洋美術学芸員のJohn Tadao Teramoto氏、主任修復師のClaire L. Hoevel氏とともに、保存状態に問題があるとみられる絵画作品7件11点について調査を行いました。調査で得られた情報を同館の担当者に提供して、作品の保存管理に活用して頂く予定です。そしてこの調査結果をもとに作品の美術史的評価や修復の緊急性などを考慮し、本事業で扱う修復候補作品を選定していきます。

カレンダー2016「文化財を守る日本の伝統技術」の作成

2016年 卓上版カレンダー表紙
2016年 壁掛け版カレンダー1月「錺金具」

 文化遺産国際協力センターでは、文化財の保存のために必要不可欠な選定保存技術に関する調査を進めています。選定保存技術保持者および選定保存技術保持団体の方々から作業工程や作業を取り巻く状況や社会的環境などについて聞き取り調査を行い、作業風景や作業に用いる道具などについて撮影記録を行っています。この調査の成果公開・情報発信の一環として、2016年の海外向けのカレンダーを2種類(卓上型・壁掛け型)作成しました。このカレンダーは「文化財を守る日本の伝統技術」と題し、2014、15年度に実施した調査の中から、錺金具・たたら製鉄・日本刀・鬼瓦・檜皮葺・苧麻糸手績み・邦楽器原糸・昭和村からむし・粗苧・漆掻き・漆掻き用具・琉球藍・杼の製作技術を取り上げました。全ての写真は当所企画情報部専門職員・城野誠治の撮影によるもので、それぞれの材料や技術の持つ特性を明確に示す一瞬をとらえる視覚的効果の高い画像で構成し、各図の解説は英語と日本語で掲載しています。このカレンダーは諸外国の文化財関係の省庁・組織などに配付し、広く海外の人々に日本の文化財を守り伝える技術や日本文化に対する理解の促進につなげていきたいと思います。

選定保存技術の調査—漆搔き・漆掻き用具製作

漆掻き
漆鉋(うるしかんな)製作

 文化遺産国際協力センターでは、選定保存技術に関する調査を行い、日本の文化財を守り支える伝統的技術として海外に情報発信する取り組みを行っています。2015年9月には漆掻きと漆掻き用具製作の調査を行いました。
 かつて漆は日本全国で栽培・採取されていましたが、比較的安価な外国産の漆が増え、現在日本国内に流通している漆のうち、国産漆は数パーセントしかありません。国産漆の主要な産地は岩手県二戸市浄法寺町およびその周辺地域で、毎年入梅頃から秋まで、約20人の漆掻き職人によって、漆が採取されています。日本うるし搔き技術保存会が中心となって、技術の保存・継承・活用が推進されています。
 漆掻きには、独特の形状をした鎌・鉋(かんな)・篦(へら)などが使われ、その道具の主要部は金属製で、専用に作られています。漆掻き用具製作の選定保存技術保持者である中畑文利氏は、漆掻き職人1人1人の技術の特徴に応じて、1本ずつ微調整して作られます。日本産漆の生産、利用を行うためには、漆掻き用具製作技術の継承が必要不可欠となっています。
この調査で得られた成果は、報告書にまとめるほか、海外向けのカレンダーを制作する予定です。

選定保存技術の調査-邦楽器原糸・檜皮葺・昭和村からむし

邦楽器原糸製造
檜皮葺
からむしの収穫

 文化遺産国際協力センターでは、選定保存技術に関する調査を行い、日本の文化財を守り支える伝統的技術として海外に情報発信する取り組みを行っています。2015年7月には邦楽器原糸・檜皮葺・昭和村からむしの調査を行いました。
 三味線、箏などは伝統的な邦楽器であるとともに、文楽や歌舞伎の上演に必要不可欠な楽器です。これらの楽器の絃は、現在ではナイロンなどの合成繊維なども用いられていますが、絹糸製のものが最良とされ、その演奏と音色を支えていると言っても過言ではありません。滋賀県木之本町邦楽器原糸製造保存会にご協力頂き、座繰り(繭から糸を取る作業)の工程について聞き取り調査と写真撮影を行いました。近年では国内の養蚕業の衰退が進行しており、伝統的な技術の継承が課題となっています。
 檜の立木から採取した樹皮を整えて屋根の材料として葺いていく檜皮葺は、伝統的な寺社建築などに用いられており、定期的に造替する必要があるため、良質な材料の確保と技術の伝承が重要です。昨年10月の檜皮採取の調査に引き続き、今回は公益社団法人・全国社寺等屋根工事技術保存会所属の株式会社友井社寺にご協力を頂き、奈良県生駒市の寳山寺聖天堂において屋根葺替工事の調査撮影をさせて頂きました。
 重要無形文化財に指定されている越後上布・小千谷縮は、福島県大沼郡昭和村で栽培・加工される苧麻(からむし)を原料として作られます。昭和村からむし生産技術保存協会および会員の方々のご協力のもと、2メートル以上に成長したからむしの収穫、皮剝、苧引きの各工程について調査させて頂きた。他の伝統工芸産業と同様に、従事者の高齢化が進んでおり、後継者育成と技術の伝承が喫緊の課題となっています。この調査で得られた成果は、報告書にまとめるほか、海外向けのカレンダーを制作する予定です。

選定保存技術の調査—鬼瓦・宮古苧麻績み・琉球藍・宇陀紙

鬼瓦製作
宮古苧麻績み(繊維取り)
琉球藍製造
宇陀紙の原料となる楮の芽かき

 文化遺産国際協力センターでは、選定保存技術に関する調査を行い、日本の文化財を守り支える伝統的技術として海外に情報発信する取り組みを行っています。2015年6月には鬼瓦・宮古苧麻績み・琉球藍・吉野宇陀紙の調査を行いました。
 寺院建築などの本瓦葺きの屋根には数十種類の瓦が用いられており、伝統的かつ用途に応じた高度な技術・技法の継承が必要不可欠です。奈良県生駒郡の山本瓦工業株式会社にご協力頂き、鬼瓦などの製作工程を調査しました。
 宮古苧麻績みは、苧麻の茎の表皮から繊維を取り、手績みして糸を製作する技術です。重要無形文化財・宮古上布等の沖縄の染織技術の保存・伝承に重要なものですが、技術者の高齢化、後継者の育成が急務の課題となっています。
 宮古上布にも用いられる琉球藍は、本州の藍とは別種の藍による染料で、現在その主要な生産地は沖縄本島の本部町伊豆味に限られており、貴重な存在となっています。
 また奈良県吉野郡の福西和紙本舗にて、自家栽培の楮を用いた伝統的な手漉き和紙の製作工程についての聞き取り調査・撮影を行いました。この吉野宇陀紙は、主に掛軸の裏打紙として用いられ、書画などの文化財の保存修復で世界的に評価され、使用されています。この調査で得られた成果は、報告書にまとめるほか、海外向けのカレンダーを制作する予定です。

選定保存技術の調査—錺金具・金襴・杼

錺金具の製作
金襴の製作
杼の製作

 文化遺産国際協力センターでは、選定保存技術に関する調査を行っています。選定保存技術保持者の方々から実際の作業工程やお仕事を取り巻く状況や社会的環境などについてお話を伺い、作業風景や作業に用いる道具などについて、企画情報部専門職員・城野誠治による撮影を行っています。2015年4月には京都で錺(かざり)金具、金襴、杼(ひ)製作の調査を行いました。
 森本錺金具製作所では四代目森本安之助氏より社寺建造物の錺金具や荘厳具などの製作についてのお話を伺い、銅板を型取りし、文様を彫り、鍍金(金メッキ)し、仕上げていくという錺金具の一連の製作工程を調査させて頂きました。
 表具用古代裂(金欄等)を製作している廣信織物では、廣瀬賢治氏より西陣織の現状についてお話を伺い、金糸を緯糸に織り込んでいく金襴の製作を取材させて頂きました。またこうした製織に必要不可欠な杼(織物の経糸の間に緯糸を通す木製の道具)を製作されている長谷川淳一氏より、さまざまな種類・用途の杼についてご説明頂き、実際の作業工程について調査させて頂きました。
 文化財はそのものを守るだけではなく、文化財を形作っている材料や技術も保存していく必要があります。この調査で得られた成果は、報告書にまとめるほか、海外向けのカレンダーを制作し、日本の文化財のありかた、文化財をつくり、守る材料、技術として発信していく予定です。

「カレンダー:文化財を守る日本の伝統技術」の作成

2015年度カレンダー:文化財を守る日本の伝統技術

 文化遺産国際協力センターでは、文化財の保存のために必要不可欠な選定保存技術にかんする調査を進めています。選定保存技術保持者および選定保存技術保持団体の方々から作業工程や作業を取り巻く状況や社会的環境などについて聞き取り調査を行い、作業風景や作業に用いる道具などについて撮影記録を行っています。この調査の成果公開・情報発信の一環として、2015年度版の海外向けのカレンダーを2種類(壁掛け型・卓上型)作成しました。このカレンダーは「文化財を守る日本の伝統技術」と題し、2014年度の調査のなかから、和紙製造・漉き簀編み・左官・本藍染め・檜皮採取・たたら製鉄・蒔絵筆を取り上げました。全ての写真は当所企画情報部専門職員・城野誠治の撮影によるもので、それぞれの材料や技術の持つ特性を明確に示す一瞬をとらえる視覚的効果の高い画像で構成し、各図の解説は英語と日本語で掲載しています。このカレンダーは諸外国の文化財関係の省庁・組織などに配付し、広く海外の人々に日本の文化財を守り伝える技術や日本文化に対する理解の促進につなげていきたいと思います。

選定保存技術の調査2-琉球藍・和紙漉簀制作・左官

琉球藍(泥藍)
漉簀制作
ちりまわり(壁塗りの一工程)

 先月に引き続き、文化遺産国際協力センターでは、選定保存技術についての調査を進め、選定保存技術保持者、選定保存技術保存団体の方々から実際の作業工程やお仕事を取り巻く状況や社会的環境などについてお話を伺い、作業風景や作業に用いる道具などについても撮影記録を行っています。2014年11月には、沖縄で琉球藍製造、愛媛で和紙漉簀(すきす)制作、東京で左官の調査・取材を行いました。
 琉球藍は本土の藍とは植物の種類が違い、栽培や製造の工程も蓼(タデ)藍による藍染めとは大きく異なります。選定保存技術保持者である伊野波盛正氏と同氏の技術を継承されている仲西利夫氏より、最近の台風や天候不順が藍の生育に影響を及ぼしている状況や、藍の製造工程などについてお話を伺いました。
 愛媛では全国手漉和紙用具製作技術保存会会員で愛媛県伝統工芸士にも認定されている井原圭子氏より、漉簀制作の現状、材料である竹ひごや絹糸の調達、後継者育成の難しさなどについてお話を伺いました。
 また東京の伝統建築物復元工事現場において、中島左官株式会社による壁塗りの工程の一部を取材させて頂きました。伝統的左官技術は、全国文化財壁技術保存会が選定保存技術保存団体として認定されています。
 文化財はそのものを守るだけではなく、文化財を形作っている材料や技術も保存していく必要があります。この調査で得られた成果は、文化財の研究資料として蓄積していくと同時に、その一部は海外向けに視覚的効果の高い画像を使用したカレンダーという媒体を通じて、日本の文化財のありかた、文化財をつくり、守る材料、技術として発信していく予定です。

選定保存技術の調査―蒔絵筆・本藍染・檜皮採取

蒔絵筆制作
本藍染
檜皮採取

 文化財は人類共通の財産として後世に守り伝えていく必要があります。そして文化財を作る材料、道具、修復する技術も継承、活用されていかなければ、文化財を良好な状態で保存していくことはできません。日本の文化財の保存修復技術はその有用性が海外でも認識され、応用されています。文化財の保存のために欠くことのできない伝統的な技術で保存の措置を講ずる必要があるものを、文部科学大臣は選定保存技術として選定し、その保持者および保存団体を認定しています。現在、選定保存技術の選定件数は71件、保持者数は57名、保持団体は31団体あります。
 文化遺産国際協力センターでは、選定保存技術にかんする調査を進め、広く国内外に情報発信を行っています。選定保存技術保持者の方々から作業工程や作業を取り巻く状況や社会的環境などについて聞き取り調査を行い、作業風景や作業に用いる道具などについて撮影記録を行っています。2014年10月には、京都・村田九郎兵衛商店にて村田重行氏による蒔絵筆の制作、滋賀・紺九にて森義男氏による本藍染、兵庫・粟賀神社にて大野浩二氏による檜皮採取の調査・取材を行いました。今回調査させて頂いた3件は漆芸、染織、建築といったそれぞれ異なるジャンルの伝統的、専門的技術ですが、天然の材料と真摯に向き合い、さまざまな環境の変化に対応しながら人の叡智と技術によって伝統を守り続けていることは共通すると言えます。この調査で得られた成果は、文化財の研究資料として蓄積・活用して行くと同時に、海外向けには視覚的効果の高い画像を使用したカレンダーという頒布媒体を通じて、日本文化のありかたや、文化財をつくり、守る材料・技術として国際的に発信していく予定です。

ロビー展示「海外の文化財を守る日本の伝統技術」

ロビー展示風景
展示部分画像「絵を描く」群青が絵絹にのる様子

 当研究所1階エントランスロビーでは、定期的に研究成果や事業紹介を行っています。今回の展示では書画を作り、鑑賞し、修復し、保存していくために必要不可欠な材料と技術についてご紹介します。企画は文化遺産国際協力センターが担当し、全ての画像を企画情報部画像情報室の城野誠治が撮影しました。そして文化財が様々な材料と技術が複合的に用いられて形作られていることを実感して頂くため、表紙と軸木も取り付けた、縦1.15m、横14mの長大な絵巻仕立てで構成しました。紙の繊維が重なって一枚の紙ができていくところ、岩が砕かれて鮮やかな絵具として精製されるところ、糊が入念に練られてしなやかにのびていくところなど、それぞれの材料や技術の特性が表れる一瞬を、大きな画像で示しています。併せて和紙・絵絹・絵具・唐紙・装潢の道具などの実物も展示ケースにて展示しています。今日では、この展示で紹介する材料や道具を作る技術、文化財を修復する技術自体も守っていく必要があり、国の重要無形文化財、選定保存技術に指定、認定されています。一方で、これらの日本で培われてきた技術や材料は広く海外でその有効性が認知され、海外の文化財修復に応用されてきています。当研究所では日本の修復技術や材料に関する正しい知識の普及のため、海外向けの研修事業も行っております。日本の優れた伝統技術によって、世界の文化財が守られ、後世に伝えられていくことにご理解いただければ幸いです。

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