研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


国宝銅造阿弥陀如来坐像(鎌倉大仏)の保存修理

国宝銅造阿弥陀如来坐像(鎌倉大仏)の保存修理

 東京文化財研究所では国宝銅造阿弥陀如来坐像保存修理を宗教法人高徳院より受託しました。本事業では、昭和34年の大修理以来55年ぶりにご尊像を足場で囲い、損傷記録およびクリーニング、金属分析調査、気象環境調査、常時微動測定、免震装置調査、高精細写真撮影を行います。東京文化財研究所と鎌倉大仏の関わりは、昭和の大修理において実施したガンマ線透過撮影、平成7年に表面の銅腐食物のサンプリング分析と環境調査を実施して以来となります。本事業では、表面の錆をはじめて非破壊分析手法を用いて分析するとともに、より詳細な損傷記録をとるなど、現在の保存状態について明らかにする予定です。また、昭和の大修理で地震対策として施工されたすべり免震装置の現状について確認する予定です。

日韓共同研究―文化財における環境汚染の影響と修復技術の開発研究―2015年度研究報告会

石塔の構造補強に関する共同調査(明導寺七重石塔)

 保存修復科学センターは大韓民国・国立文化財研究所保存科学研究室と覚書を交わし、「日韓共同研究-文化財における環境汚染の影響と修復技術の開発研究」を共同で進めています。詳細には、屋外にある石造文化財を対象にお互いの国のフィールドで共同調査を行うとともに、年1回の研究報告会を相互に開催し、それぞれの成果の共有に努めています。
 今年度の研究報告会は7月8日、東京文化財研究所地階会議室にて日本側の主催で行われました。研究報告会は石造文化財の構造的な問題をテーマに、日韓双方の研究者がそれぞれの研究成果を報告し、議論を行いました。また本研究報告会に伴う韓国側研究者の来日にあわせて、日本での共同調査として熊本県湯前町にある明導寺九重石塔および七重石塔などを視察し、構造補強の方法の変遷について情報共有を行いました。

日韓共同研究―文化財における環境汚染の影響と修復技術の開発研究―2014年度研究報告会

2014年度研究報告会(大韓民国・国立文化財研究所)

 保存修復科学センターは大韓民国・国立文化財研究所保存科学研究室と覚書を交わし、「日韓共同研究―文化財における環境汚染の影響と修復技術の開発研究」を共同で進めています。詳細には、屋外にある石造文化財を対象にお互いの国のフィールドで共同調査を行うとともに、年1回の研究報告会を相互に開催し、それぞれの成果の共有に努めています。
 今年度は韓国側が担当であったため、5月27日に保存科学センター講堂にて研究報告会が開催され、保存修復科学センターからは岡田、朽津、森井が参加しました。会場が満席になるほど関心を集めたなか、研究報告会では日韓共同研究の担当者および協力関係にある大学教授から石造文化財に関する発表をそれぞれ行い、会場から多くの質問およびコメントをいただくなど、活発な議論が行われました。なお、今年度は横穴墓を対象に、今後共同調査を行う予定です。

日韓共同研究報告会2013の開催

フゴッペ洞窟における共同調査

 保存修復科学センターでは、大韓民国・国立文化財研究所との国際共同研究「文化財における環境汚染の影響と修復技術の開発研究」として、屋外にある文化財の保存修復について調査研究を進めています。その中で、両国の研究者がより親密に研究交流できるよう、毎年研究報告会を相互で開催しています。 今年度は5月21日(火)、東京文化財研究所地下会議室において研究報告会を開催しました。韓国国立文化財研究所からは金思悳・李鮮明・李泰鐘・全有根の四氏が、東京文化財研究所からは朽津信明・中山俊介・森井順之が発表を行い、屋外にある文化財の保存修復について議論を行いました。また、翌日からは北海道で共同調査を行い、フゴッペ洞窟(余市町)や手宮洞窟(小樽市)で岩刻画の展示・保存に関する現状調査を行いました。現在韓国では、蔚山にある盤亀台岩刻画の保存についての検討が課題となっていますが、韓国側研究者から展示照明や施設管理などに関して多く質問がなされ、我が国における岩刻画の保存事例が参考になったものと思われます。

伝統的塗装部位の生物劣化に関する調査研究

胡粉塗装部位に増殖したカビ
現地での防カビ剤を用いた曝露試験の様子

 保存修復科学センターでは、受託研究『霧島神宮における彩色剥落止めの手法開発及び施工管理』の一環として、霧島神宮での伝統的塗装部位の生物劣化に関する調査研究を実施しています。膠などの有機物が用いられる伝統的な塗装方法は、一般的にカビなどの生物劣化を受けやすくカビが発生した場合、著しく美観が損なわれます。そればかりでなく、カビが接着材として機能している膠の蛋白質を分解することで塗装面から顔料が剥離したり、代謝産物によって顔料が着色したり溶解したりと、塗装部の物理的な劣化も促進します。
 霧島神宮では、渡廊下、登廊下、拝殿の壁面に胡粉塗や黄土塗といった伝統的な塗装が施された場所でカビが広範囲に渡り増殖するといった被害が起きました。今年度は、その原因となったカビとそのカビが塗装部位に与える影響を明らかにするため、微生物学的な調査研究と、最適な防除策を提案するため現地での温湿度環境のモニタリング・防カビ剤の曝露試験を行っています。
 環境計測の結果から、気温は平地より低く、相対湿度は年平均で約70%と比較的高いことが把握でき、常在菌であれば容易に増殖しやすい環境であることが明らかとなりました。防カビ剤を塗布した現地曝露試験では、いくつかの薬剤で防カビ効果が認められましたが、防カビ剤の中には胡粉と化学反応を起こし劣化要因となるものも存在しました。また、カビの解析では、これまでに133株のカビを被害部位から分離して、菌集落の形態からグループ分け行い、分類学・生理学的解析を行ないました。その結果、分離菌株数の出現頻度が高い3つのグループがあり、霧島神宮の伝統的な塗装部位の微生物劣化に関して特に重要であると考えられました。今後、分離菌株のより詳細な解析を行い、曝露試験の結果と併せながら伝統的な胡粉および黄土塗装における微生物劣化の予防や防除対策の検討を進める予定です。

「臼杵磨崖仏保存環境調査報告会」の開催

国宝及び特別史跡・臼杵磨崖仏(ホキ石仏第二群阿弥陀如来坐像)

 東京文化財研究所は2000年より、国宝及び特別史跡・臼杵磨崖仏の次期保存修理計画策定のための調査研究を臼杵市と共同で進めてきました。11月6日に臼杵市中央公民館にて開催された「臼杵磨崖仏保存環境調査報告会」では、この10年間の研究成果の報告を行いました。
 まずは奥健夫氏(文化庁)より次期保存修理計画の意義について、下山正一氏(九州大学)からは臼杵磨崖仏が彫刻された阿蘇熔結凝灰岩に関する御講演を頂きました。また、Lee, Chan-hee氏(公州大学校)、Kim, Sa-dug氏(国立文化財研究所(大韓民国))からは、大韓民国における石造文化財の劣化状態調査、保存修復に関して御講演頂きました。その後、東京文化財研究所からは、臼杵磨崖仏で行われた調査研究の概要、磨崖仏表面の劣化状態と水環境、大気環境に関する調査結果を報告しました。また、劣化原因調査の結果に基づき、寒冷時の凍結防止策や着生生物制御などの劣化対策、劣化モニタリング手法に関する提案を行いました。最後は臼杵市教育委員会より「臼杵磨崖仏の長期保存計画ビジョン」と題して、次期保存修理事業およびその後のモニタリング・メンテナンスに関して計画案を発表し、聴衆に理解を求めました。
 一つの文化財としては異例の10年にわたる調査研究でしたが、ここで得られた成果も多く、臼杵磨崖仏のみならず多くの石造文化財でこの成果が活用されることを願っています。

2009年度日韓共同研究報告会の開催

臼杵磨崖仏周辺岩盤の樹脂耐候性試験

 保存修復科学センターは、大韓民国・国立文化財研究所保存科学研究室と「文化財における環境汚染の影響と修復技術の開発研究」を進めております。共同研究では、相互の研究サイトで共同調査を行うとともに、年1回の研究会を持ち回りで開催し、意見交換を行っております。
 今年度の研究会は、平成22年3月18日、東京文化財研究所地階会議室で開催しました。韓国から国立文化財研究所および公州大学校の研究者にご参加頂き、日本および韓国の研究者による発表および議論を行いました。研究発表は主に石造文化財の保存修復に関するものでしたが、今回は日韓の研究者による共同発表の成果が目立つようになり、より緊密な関係が築けるようになってまいりました。
 今後もこのような形での研究交流を進めてゆき、両国の文化財保存修復の発展に尽くしてゆきたいと考えております。

東大寺法華堂の常時微動調査

東大寺法華堂建物の常時微動調査(強制加振)

 東京文化財研究所では、文化財の防災計画に関する調査研究の一環として「塑造・乾漆造仏像群の地震対策に関する研究」を進めています。現在調査を実施している東大寺法華堂においては、須弥壇及び建物の揺れ方が把握できることで、万が一強い揺れが観測されたときに、仏像群がどのように揺れるかを推測するこ とができます。
 そこで私たちは三重大学などの協力を得て、法華堂建物および須弥壇の常時微動の計測を実施しました。これから計測結果を解析することで、法華堂建物およ び須弥壇の振動特性や耐震性を評価するとともに、仏像群の地震対策に役立てていきたいと考えています。

「東アジア文化遺産フォーラム」への出席

ソウル宣言の共同発表・署名

 平成21年10月27日、韓国ソウルにて「東アジア文化遺産フォーラム(East Asian Cultural Heritage Forum)」が開催され、東京文化財研究所(東文研)からは鈴木規夫所長、岡田健・文化遺産国際協力センター国際情報研究室長、森井順之・保存修復科学センター研究員が出席しました。このフォーラムは韓国・国立文化財研究所(韓文研)の設立40周年記念行事の一環であり、韓文研と共同研究を実施している日本・中国・モンゴル・ロシア極東地域の各研究機関長が一堂に会し、文化遺産保護に関する国際共同研究の将来について議論が交わされました。議論の結果、参加各国の文化遺産が持つ特色を相互に理解したうえで、各研究機関のネットワークづくり、共同での人材育成にむけて努力することで合意し、「(東アジア文化遺産の保護に関する)ソウル宣言」を共同で発表、署名を行いました。

東大寺法華堂安置仏像群の耐震に関する調査

法華堂安置仏像群の三次元計測

 東大寺法華堂には、国宝・乾漆不空羂索観音立像をはじめ多くの乾漆像や塑像が須弥壇上に安置されております。奈良盆地では高い確率で大地震が発生することが予測されており、法華堂安置仏像群について早急な耐震診断および対策立案が求められています。そこで保存修復科学センターでは、耐震診断に必要な情報を得るため、安置仏像群の三次元計測および法華堂建物および須弥壇の目視調査を実施しました。
 三次元計測では、前回の東大寺戒壇堂の国宝・塑造四天王立像でも使用した「ステレオカメラの移動撮影に基づいた簡易形状計測システム」(凸版印刷株式会社にて開発中)について、法華堂須弥壇内にて安全に計測できるようにケーブルレス化したものを用いました。その結果、調査期間内に6体躯の計測が終了しました。
 また、法華堂建物および須弥壇の目視調査は、木質構造の専門家を招へいのうえで実施しました。今後はその結果をもとに、須弥壇および建物の常時微動調査を進めていきたいと考えています。

国立文化財研究所(大韓民国)金奉建所長ほか2名来訪

東京文化財研究所・所長室にて
質疑応答
奈良文化財研究所都城発掘調査部
(飛鳥・藤原地区)にて

 国立文化財研究所(大韓民国)金奉建所長ほか2名
 平成21年5月13日(水)から20日(水)までの一週間、国立文化財研究所(大韓民国、韓文研)の金奉建所長、李奎植保存科学研究室長、研究企画課・李鍾勳学芸研究官の三名が東京文化財研究所の招へいにより来日、当研究所の事業などを視察されました。
 13日は4階文化遺産国際協力センター、3階保存修復科学センター修復アトリエ、2階企画情報部資料閲覧室、地階無形文化遺産部実演記録室について見学し、当研究所と同様に文化財保護研究を幅広く実施している韓文研の事例を交えながら、それぞれの担当者から説明および質疑応答を行いました。14日は奈良へ移動し、文化庁・奈良文化財研究所で行われている平城宮跡大極殿復元事業の視察、翌日は特別史跡・高松塚古墳の発掘現場や世界遺産・法隆寺の視察を行いました。
 翌週18日には大分県へ移動し、当研究所と韓文研の国際共同研究「文化財における環境汚染の影響と修復技術の開発研究」の日本側サイトである国宝・臼杵磨崖仏を訪問し、共同で実施している現地観測や実験について踏み込んだ議論を行いました。その後、19日は九州国立博物館のバックヤード等の視察を行い、20日午前、福岡空港発の大韓航空機にて無事帰国の途につかれました。
 短期間で数多くの視察地を訪れる非常にハードなスケジュールとなりましたが、金奉建所長は全ての視察地で強い興味を持ち、満足してお帰りになられました。
 また、国際共同研究についてもより緊密に行い、もっと発展させるべきだとの強いメッセージも頂きました。今後、両研究所の研究者による交流をさらに活発にし、良い研究成果を報告できるよう努力してまいりたいと考えています。

東大寺戒壇堂安置の国宝・塑造四天王立像に関する調査

X線撮影調査風景
三次元計測調査風景

 保存修復科学センターでは、「文化財の防災計画荷関する調査研究」の一環として、塑像の耐震対策に関する研究を行っております。今回、国宝・塑造四天王立像(東大寺戒壇堂安置)を対象に、現状把握および耐震対策の立案を進めました。
 この国宝・塑造四天王立像は、奈良国立博物館により、平成14(2002)年に開催された特別展「東大寺のすべて」に出品する際に調査が行われました。今回は三次元計測および、以前の調査で撮影不可能な部分を補完するためのX線透過撮影を実施し、今後行う予定の耐震診断に必要な情報収集を行いました。
 三次元計測に関しては、凸版印刷株式会社と共同で調査を行いました。複雑に配置された塑像に対して移動させることなく計測可能なシステムとして、凸版印刷株式会社で開発中のステレオカメラの移動撮影に基づいた簡易形状計測システムを採用した結果、レーザー三次元計測では撮影が難しいとされる入り組んだ部分についても情報を得ることができました。今後はこれらの計測結果をまとめたうえで、塑像の耐震診断を行う予定です。

文化財の環境影響に関する日韓共同研究報告会の開催

佛国寺多宝塔における病害調査
日韓共同研究報告会参加者

 保存修復科学センターでは大韓民国・国立文化財研究所(韓文研)保存科学研究室と共同で、文化財における環境汚染の影響と修復技術の開発研究を実施しています。現在は、磨崖仏など屋外環境下にある石造文化財を対象に、劣化原因調査および修復材料・技術の開発評価を行うとともに、年1回、日韓交互で研究報告会を開催しています。
 今年度の研究報告会は、平成20(2008)年11月6日に韓文研講堂にて開催しました。東文研からは、鈴木規夫所長をはじめ6名が参加し、朽津信明・森井順之・山路康弘(別府大学)より石造文化財の保存修復に関する研究成果を発表しました。研究会の前には、慶州・佛国寺多宝塔や感恩寺址三層石塔の修復現場を視察し、修復材料や技法に関して韓国側研究者と議論を行いました。また、大邱・慶北大学博物館を訪問し、大伽耶池山洞古墳群出土品の調査も実施しました。
 今後もこうした共同調査を継続し、日本と韓国の研究交流がより深いものになればと願っています。

文化遺産の保存科学に関する国際シンポジウムinソウルへの参加

石崎武志保存修復科学センター長による基調講演

 2008(平成20)年9月29日から10月1日まで、ソウル教育文化会館において開催された「2008年文化遺産の保存科学に関する国際シンポジウム」に、保存修復科学センターから石崎武志・早川泰弘・森井順之の3名が参加し発表を行いました。
 主催者である大韓民国・国立文化財研究所では、2006年より保存科学分野において多額の研究開発予算を韓国政府より獲得しており、本シンポジウムは成果公表の一環で開催されました。シンポジウムでの発表者は2日間で53名(海外:24名(7ヶ国)、韓国内:29名)と多く、様々な分野で活発な討論が行われました。

地理情報システムを用いた文化財防災情報システムの開発および平成20年岩手・宮城内陸地震による被災文化財調査

文化財防災情報システムによる被災文化財予測(水色枠内:強震領域(震度5弱以上)、水色●印:領域内の文化財建造物、青色■印:実際に被災した文化財建造物)
史跡・仙台藩花山村寒湯番所跡の石垣被害

 東京文化財研究所では、2003年より中期計画プロジェクト「文化財の防災計画に関する研究」を行っており、地理情報システム(GIS)を用いて、国指定文化財を対象とした文化財防災情報システムを開発するなどの研究を行っています。
 昨年より大きな被害を伴った地震が複数発生しておりますが、今年も6月14日(土)午前8時43分頃に、岩手県内陸南部を震源とするM7.2の地震が発生(平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震)し、おもに山間部の土砂崩れにより多数の犠牲者を出すとともに建物・ライフライン等にも大きな被害が生じました。その中で国指定文化財の被害は、岩手県・宮城県・秋田県で計30か所(文化庁調べ、2008年6月20日)と報告されています。
 当研究所では、地震発生後すぐに文化財防災情報システムを活用し、強震領域とそこに位置する国指定文化財(建造物)の抽出を行いました(図中水色枠内が震度5弱以上の強震域、水色丸印が領域内の文化財)。実際には、建造物被害の数は少ない(30件中9件)うえに軽微なものが多かったのですが、予測領域から離れた部分でも被害が確認されており、予測手法を含めた今後の改良が必要だと考えております。
 また、地震発生後1か月以上経過した7月31日、8月1日に、宮城県を中心に被災文化財の調査を実施しました。特に被害が甚大だったものとして、史跡・仙台藩花山村寒湯番所跡の石垣被害が挙げられます。数年前の大雨により被害を受け修復を行った後だけに、被害状況および原因を詳細に調査し、今後の修復に生かすことが望まれます。

特別史跡・キトラ古墳壁画の保存修復

キトラ古墳壁画(天井天文図) 北半分を取り外した後

 東京文化財研究所では文化庁からの受託事業で、「特別史跡キトラ古墳保存対策等調査業務」を行っており、その中で、石室内の定期点検や壁画の取り外しなどを進めています。
 特に天井天文図では、平成19年7月に一部のはく落が確認されて以来、順次取り外し作業を進めてきました。最初は、落下の危険性が極めて高い部分を、小さな範囲で取り外しておりましたが、取り外しに使う道具類の改良などにより、現在では一辺10㎝程度の壁画片を取り外すことが可能となりました。その結果、平成20年6月末には、奎宿(けいしゅく)および外規北側を取り外し、南側半分を残すのみとなっています。今後、定期的に取り外し作業を継続し、天井天文図については今年度中に全て取り外すことを目指しています。

韓国南東部における共同調査―日韓共同研究

感恩寺三層石塔の保存修復工事現場

 東京文化財研究所では、石造文化財を対象とした環境汚染の影響と修復技術の開発研究について、大韓民国・国立文化財研究所と共同研究を進めています。今回は、森井順之・張大石(東北芸術工科大学)の2名が、11月20日から24日までの5日間、韓国南東部(慶州・大邱)の石塔や石仏などを対象に、石造文化財保存修復の現状を調査しました。
 慶州では感恩寺三層石塔(国宝)などの石塔の調査を実施しました。感恩寺三層石塔は韓国では珍しく凝灰岩製の石塔ですが、風化による損傷が多く見られ、国立文化財研究所の直轄で解体修理が行われております。今回は修復現場を訪問し、韓国側研究者と修復材料や技法に関する議論を行いました。また、翌日は大邱に移動し第二石窟庵(国宝)などを訪問しました。崖地に仏龕を掘り花崗岩製の仏像彫刻を安置していますが、仏龕内部における漏水や仏像彫刻表面の層状剥離など劣化機構の解明や、将来の保存修復方案について今後議論を行うこととなりました。
 また、23日には国立公州大学校で開催された「石造文化財の保存に関する国際研究集会」に参加し、東京文化財研究所が国宝及び特別史跡・臼杵磨崖仏において実施している調査について講演を行いました。講演後は、多くの研究者から質問や助言を頂戴し、今後の参考となりました。

日韓共同研究報告会2007の開催

當麻寺(奈良県)石造五輪塔の調査

 東京文化財研究所保存修復科学センターでは、国際共同研究「文化財における環境汚染の影響と修復技術の開発研究」に関して、大韓民国・国立文化財研究所と共同で、石造文化財、特に磨崖仏の保存修復について調査研究を進めています。その中で、両国の研究者がより親密に研究交流できるよう、毎年研究報告会を相互で開催しております。
 今年度は10月18日(木)、東京文化財研究所地下会議室にて研究報告会を開催しました。韓国側からは、李柱玩氏・全昞圭氏(国立文化財研究所)・李讚熙氏(公州大学校)をお招きし、石造文化財の劣化診断や保存環境、汚染物除去の事例報告についての講演を行いました。日本側からは朽津信明・早川典子・森井順之の3名が講演し、石造文化財の保存修復について両者による深い議論が交わされました。  研究報告会の後は、韓国側研究者と共に、関西地方の石造文化財についてその保存状態と周辺環境に関する調査を行ってきました。当日は悪天候にも関わらず限られた時間の中で多くの石造文化財について調査・議論を行いました。今後もこうした共同調査を継続し、日本と韓国の研究交流がより深いものになればと願っています。

2007年新潟県中越沖地震における被災文化財調査

地震により倒壊被害を受けた大泉寺本堂

 2007年7月16日午前10時13分、マグニチュード6.8、最大震度6強の地震が新潟県中越地方を襲いました(平成19年(2007年)新潟県中越沖地震)。震源近くである柏崎市などでは、家屋の全半壊、ライフラインの寸断など大規模な被害をもたらすと共に、多くの文化財も被害を受けました。保存修復科学センターでは、新潟県中越沖地震における文化財被害について、被害状況や被害要因を早急に把握し、応急措置や将来の修復計画に関する助言を行うことを目的に現地調査を行いました。調査期間は、2007年9月4日から5日まで、長岡・柏崎市内の文化財展示施設、文化財建造物を対象に行いました。
 はじめに、長岡市内の文化財展示施設を調査しましたが、火焔型土器をはじめとする展示・収蔵品に大きな被害は見られませんでした。2004年の地震を教訓とし展示・収蔵方法の見直しが行われたことが、関係者のヒアリングにより明らかとなりましたが、地震では長岡市内でも大きな揺れが観測されていたため、見直しの効果が出たものと考えられます。
 翌日は、震源地に最も近い柏崎市内で調査を行いました。被害状況は長岡市内とは比べものにならないほど悲惨な状況でしたが、寺の本堂などが全壊被害を受けるなど、文化財でも同様であることを確認する結果となりました。
 2007年は、能登半島地震にはじまり、大地震が頻繁に起こっています。東京文化財研究所ではこれからも、文化財の防災に関する研究を推し進めてゆくとともに、積極的な情報公開により、文化財防災についてより多くの方に知って頂くよう努力してゆく所存です。

特別史跡・キトラ古墳壁画の保存修復

天井作業風景

 東京文化財研究所では文化庁からの受託事業で、「特別史跡キトラ古墳壁画保存修復事業」を行っており、その中で、石室内の定期点検や壁画の取り外しなどを進めています。
 キトラ古墳では、側壁の四神および十二支神をすでに取り外し、天井・星宿図のみが現地に残っています。その天文図で、7月に一部のはく落が確認されました。その後の調査で、はく落の危険性が高い箇所が数十か所にのぼることが明らかとなるなど、著しく悪い状態です。そこで、東京文化財研究所では、落下の危険性が極めて高い部分から順次取り外し作業を進めています。

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