研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


シルクロード世界遺産登録に向けた支援事業:カザフスタンとキルギスにおける専門家育成のためのワークショップ

ボロルダイ古墳群におけるレーダー探査の研修
データ解析の講義
ケン・ブルン遺跡における測量研修

 シルクロード関連遺跡の世界遺産一括登録を目指して、中央アジア5カ国に中国を加えた各国が国境の枠を超え、様々な活動を目下展開中です(活動報告2010年1月、2月、2011年5月参照)。この活動を支援するため、文化遺産国際協力センターも今年度より、ユネスコ・日本文化遺産保存信託基金による「シルクロード世界遺産登録に向けた支援事業」に参加し、中央アジア各国で各種の事業を開始しています。その一環として、カザフスタン共和国とキルギス共和国において、技術移転と人材育成を目的としたワークショップを開催しました。
 カザフスタンでは、9月27日から10月19日まで、考古遺跡の地下探査に関するワークショップを、奈良文化財研究所およびカザフスタン考古学専門調査研究機関と共同で実施しました。ワークショップには、カザフスタン人専門家の他、他の中央アジア諸国からも考古学専門家が参加しました。実習では、アルマトイ近郊のボロルダイ古墳群(写真1)とトルケスタン北西部のサウラン都城址を調査対象に、レーダー探査(GPR)と電気探査を行いました。研修生達は非常に熱心で(写真2)、限られた時間の中でも多くのことを学ぶことができたと思います。
 地下探査の成果という点でも、カザフスタンの考古遺跡での適用はほぼ初の試みでしたが、埋没している地下の構造物を捉えるのに十分な結果が得られました。今後は、各種の遺跡での試行や発掘調査による検証も行い、その有効性を検討していく必要がありますが、多くの遺跡を限られた人材で調査しなければならない中央アジアの実情から、地下探査への期待が極めて大きいことは間違いありません。
 キルギスでは、10月18日から24日まで、遺跡の測量に関するワークショップを開催しました。文化遺産保護関連分野の人材育成を目的に、キルギス共和国科学アカデミー歴史文化遺産研究所および同志社大学と共同で実施したこのワークショップには、キルギスの若手研究者8名が参加しました。
 測量の原理や方法論に関する座学の後、中世の都城址であるケン・ブルン遺跡を対象に測量実習を行いました(写真3)。一週間と短い研修でしたが、研修生は測量の原理をよく理解し、遺跡の測量技術を着実に身に付けていきました。
 文化遺産国際協力センターでは、今後も、中央アジア諸国において文化遺産保護関連の技術移転や人材育成を目的としたワークショップを開催する予定です。

アルメニア共和国における文化遺産国際協力コンソーシアム協力相手国調査

写真1 アルメニア共和国文化省での関係者との面談
写真2 古文書研究所・博物館での聞き取り調査

 文化遺産国際協力コンソーシアムは、2011年2月7日から13日まで、アルメニア共和国において協力相手国調査を実施し、東文研からは専門家として2名が参加しました。この調査の目的は、日本による同国における文化遺産保護分野での将来的な協力可能性を探ることにありました。
 今回の調査では、文化遺産保護を管轄している文化省(写真1)をはじめ、歴史博物館、国立美術館、マテナダラン古文書研究所・博物館(写真2)、歴史・文化財科学研究センターといった保護や調査・研究に関わる諸機関を訪れ、担当者と面談を行うとともに、情報収集や意見交換を行いました。その結果、アルメニアがこの分野において今日抱える主要な問題として、ソ連邦からの独立後に生じた資金の不足やロシアを中心とした教育システムの終焉による人材育成面の困難などがあることが明らかとなりました。機器供与や博物館建設といったハード面の充実も必要ですが、同国にとっては文化遺産保護に関わる人材を育成することが急務であると感じられました。
 今後の日本からの協力のあり方としては、アルメニアの研究機関と連携しながら、アルメニア人専門家の人材育成を主眼とした共同研究や研修などを実施していくことが考えられます。

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ユネスコ文化遺産保存日本信託基金による「中央アジア諸国の文化遺産のドキュメンテーション」プロジェクト~トルクメニスタン~

歴史研究所 遺物・アーカイブ保管室
アナウ遺跡、モスク跡(15世紀)
メルブ遺跡出土仏像(5世紀、国立博物館展示)

 文化遺産国際協力センターでは、ドキュメンテーション・プロジェクト(1月活動報告参照)の実施に先立って、1月の中央アジア諸国(カザフスタン、ウズベキスタン、キルギスタン、タジキスタン)での関係者協議に続き、同じくユネスコの要請による準備ミッションを2 月14 日~18 日にかけてトルクメニスタンへ派遣しました。その主な目的は、本プロジェクトでの同国における活動内容の検討、トルクメニスタン側の研究体制やアーカイブ保管状況の確認などでした。
 同国側の関係者と今後の事業の方向性や具体的な実施内容について協議を行ったほか、「シルクロード」世界遺産登録の候補遺跡の1 つであるアナウや、古代トルクメニスタンの至宝を数多く所蔵する国立博物館なども訪問しました。トルクメニスタンにはゾロアスター教の遺跡や現在確認されている中では最も西方に位置する仏教遺跡などがあり、多種多様な文化の足跡を辿ることができます。この地は、まさにシルクロードを代表するような文化遺産の宝庫といえます。
 今後も、トルクメニスタンを含む中央アジアの文化遺産に関する研究や人材育成・技術移転などに積極的に取り組んでいく予定です。

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ユネスコ文化遺産保存日本信託基金による「中央アジア諸国の文化遺産のドキュメンテーション」プロジェクト

調査地候補のボロルダイ古墳(カザフスタン)にて打合せ
タジキスタン、文化省の一室に保管されている文化遺産のアーカイブ

 中国と中央アジア5カ国(カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、キルギスタン、タジキスタン)は目下、シルクロード沿いの文化遺産群を「シルクロード」として世界遺産に一括登録(国境を越えたシリアル・ノミネーション)することを目指し、準備を進めています。本プロジェクトは、この登録に向けた申請を支援するもので、中央アジア5カ国において、人材育成、技術移転、アーカイブ資料管理のシステム化、体制作りへの協力等を通じて、各国が独自に文化遺産のドキュメンテーションを実施していくための基礎を築くことを目的としています。このプロジェクトの実施に先立ち、その方向性や具体的内容を決めるために、中央アジア5カ国の関係者を交えた協議が行われました。文化遺産国際協力センターは、ユネスコからの要請を受けて、1月8日から19日まで、これら中央アジア諸国(トルクメニスタンを除く)をまわる準備ミッションに参加しました。
 今回のミッションを通じて、同じ中央アジアといっても、資金・人材・技術面には国ごとに大きな違いがあり、今後プロジェクトを実施するにあたっては、各国の実情に合わせた支援・協力活動が必要となることを痛感させられました。また、ソビエト連邦時代に行われた文化遺産調査に関する写真、図面、報告書などが各国に数多く保管されていることが確認されました。こうした貴重な記録資料も、データベース化やデジタル化を通じて中央アジアの共有財産として活用されることが望まれます。
 今後、文化遺産国際協力センターは、最新機器を用いた遺跡の調査や記録資料のデータベース化、ワークショップ・シンポジウム開催等への支援・協力などの形で同プロジェクトに参加し、中央アジアの文化遺産に関わる人材育成や技術移転に取り組んでいく予定です。

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アフガニスタン人考古学専門家の人材育成事業

流山市教育委員会の発掘現場に参加
奈良文化財研究所の平城宮の発掘に参加

 「バーミヤーン遺跡保存事業」の一環として7月半ばから始まったアフガニスタン人専門家の考古学研修は、12月半ばに全日程を終了しました。ケターブ・ハーン・ファイズィー氏とロフッラー・アフマドザイ氏の研修生2名は、5ヶ月に及ぶ研修を終え、12月22日に帰国の途に着きました。今回の研修では、東京文化財研究所だけでなく、東京都埋蔵文化財センター、流山市教育委員会、奈良文化財研究所など、さまざまな機関の協力の下、実習が行われました。研修生たちは、各機関が実施している発掘や研究の現場に参加することで、発掘方法や遺構・遺物の実測の仕方について実地に学びました(写真1、2)。アフガニスタン人研修生にとって、慣れない日本での長期にわたる研修は、なにかと苦労も多かったようですが、多くの方々のおかげで、考古学の専門知識や技術の習得だけでなく、日本の生活や文化に親しむことができ、充実した研修期間を過ごせたようです。12月17日には、研修のまとめとして、研究所内で研修成果発表会が開かれ、研修で学んだことやアフガニスタンの最新考古学情報について、研修生から報告がありました。
 文化遺産国際協力センターでは、今後もこうした研修を通じて、アフガニスタンの文化財保護に関わる人材の育成に協力していく予定です。

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タジキスタン、アジナ・テパ仏教遺跡保護プロジェクト

坐像の印影のついた土器片

 文化遺産国際協力センターは、2006年よりユネスコ文化遺産保存日本信託基金による「タジキスタン、アジナ・テパ仏教遺跡保存プロジェクト」に参加してきました。本年は同プロジェクトの最終年にあたることから、今後の報告書の刊行を目指して、これまでの調査によって出土した遺物の整理や得られたデータの分析を実施しました。作業は10月2日から23日にかけて、タジキスタン共和国古物博物館において行いました。出土遺物の多くは、アジナ・テパ遺跡が居住されていた7世紀から8世紀の土器や日干しレンガの破片です。今回、こうした遺物の中に、印章が押された大甕の口縁部の破片を発見しました。押された印面は大小2つ見られます。大きな丸い印面の中央には坐像が描かれ、像から見て右側に水瓶、左側に錫杖と思われるものが配置されています。大甕の破片はアジナ・テパ遺跡から数多く出土していますが、こうした印章が押されたものは他に見られません。何か特別な用途をもった大甕に印章が押されていたのでしょうか。興味深い発見でした。

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タジキスタン、アジナ・テパ仏教遺跡保存プロジェクト

調査によって明らかになったストゥーパのある中庭に面した南東の壁
タジク人専門家との共同作業の様子

 文化遺産国際協力センターは、4月16日から5月9日にかけて、ユネスコ文化遺産保存日本信託基金による「タジキスタン、アジナ・テパ仏教遺跡保存プロジェクト」の第3次ミッションを派遣しました。本プロジェクトの目的は、日干しレンガや練り土といった土構造物で構築された仏教寺院を保存することであり、文化遺産国際協力センターでは、過去の発掘調査以後に堆積した土砂や雑草を除去し、あわせて寺院本来の壁の位置や構造を明らかにする考古学的清掃や試掘調査を2006年より実施してきました。
 今回の調査では、ストゥーパ(仏塔)のある中庭に面した南東の壁を精査し、涅槃仏のあった部屋へとつづく入口を確認しました。また、遺跡の縁辺部2カ所で試掘調査をおこなったところ、それぞれで仏教寺院の外壁を検出することができ、仏教寺院本来の範囲を確認することができました。こうした成果は、遺跡を保存する際に重要な情報になります。なお、現地で実施されたすべての考古学調査は、タジク人の若手考古学者と共同で行われ、私たちが調査を実施する上で大きな助けとなりました。同時に、現地専門家の育成という点においても、意義のあるものになったと思われます。

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タジキスタン、アジナ・テパ仏教寺院保存事業

タジキスタンでのユネスコ国際執行委員会の様子

 ユネスコ文化遺産保存日本信託基金による「タジキスタンの仏教遺跡保護プロジェクト」の第3回国際執行委員会が、8月23日から30日までタジキスタンの首都ドシャンベで開催されました。本プロジェクトは、練り土やレンガで構築された土構造物であるアジナ・テパ遺跡の保護を目的としています。文化遺産国際協力センターは、2005年より事業に参加し、遺跡範囲の確認や清掃作業などの考古学調査を実施してきました。
 今回の数回にわたる会議と28日に開かれた国際執行委員会では、2007年春までに実施された活動と遺跡の現状にもとづき、今後の事業方針が討議されました。土壁の保存処置をめぐっていくつかの改善点が指摘され、また、ストゥーパ保護のための覆い屋の建設計画は見直され、代案として練り土で覆う方法が検討されました。そして、タジキスタン側から、これまでの日本人専門家による活動を評価し、引き続き事業への協力が要請されました。これを受けて文化遺産国際協力センターは、保護活動に必要となる考古学的清掃などで協力していく予定です。

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バーミヤーン遺跡保存事業-第8次ミッション-の概要

I 窟における保存修復活動
仏教時代に遡る可能性のある壁

 文化遺産国際協力センターは、2003年よりアフガニスタン情報文化省と共同で、バーミヤーン遺跡保存事業を行っています。今年は6月9日から7月15日にかけて、第8次ミッションを派遣しました。本ミッションでは、壁画の保存修復と考古学調査に加え、他機関との共同研究も実施しました。
 壁画の保存修復では、これまでの作業を継続し、I窟とN(a)窟の2石窟で作業を行いました。I窟では、剥落するおそれのある壁画をグラウティングとエッジングによって補強し、今ミッションをもってこの石窟における壁画の保存修復作業をすべて成功裏に終了することができました。また、N(a)窟では、次ミッションに予定している壁画表面のスス状黒色物質を除去する準備として、壁画の補強を行いました。
 考古学調査では、保護すべき遺跡の範囲を確定するために、試掘調査と分布調査を実施しました。試掘調査はバーミヤーン渓谷の数箇所で行われ、その内の一箇所からは、おそらく仏教時代にまで遡る壁が出土しました。また、遺跡の分布調査を周辺に位置する渓谷において実施し、これまで知られていなかった墓地や城砦などの遺跡を発見しました。こうした考古学調査は、とかく仏教時代のみが注目されがちなバーミヤーンを、現代まで続く歴史の中に位置づけて理解するために重要なものです。
 共同研究として、金沢大学、株式会社応用地質、株式会社パスコの3つの機関と、それぞれ、イスラーム陶器の研究、地質調査、石窟の測量調査を行いました。これらの調査・研究は、今後も継続する予定で、バーミヤーン遺跡を保存するうえで必要不可欠なさまざまな情報や視点を提供してくれるものと期待されます。

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