研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


中国で開催された壁画の保護に関する二つの国際会議

敦煌検討会参加者集合写真
敦煌検討会で総括スピーチを行う山内室長
陝西省検討会参加者集合写真

 東京文化財研究所は、西アジアから日本までの広範な地域で、壁画文化財の保護のための調査研究を行っています。本年10月、その活動内容と私たちの目標をアピールする機会となる二つの国際会議が中国で開催されました。
 開催されたのは、当研究所とすでに四半世紀の共同関係がある敦煌研究院(甘粛省敦煌市)の設立70周年を記念する国際シンポジウム「2014年シルクロード古代遺跡保護国際学術検討会」(10月8、9日)と、墓室壁画の保存修復・展示公開で長年の経験を持つ陝西歴史博物館(陝西省西安市)の国際シンポジウム「全地球的視野のもとでの中国古代壁画の予防的保護研究に関する国際学術検討会」(10月16、17日)です。
 敦煌研究院からは、岡田と山内和也文化遺産国際協力センター地域環境研究室長が招待されました。岡田は「壁画の“保存”とは、何を意味するのか―莫高窟第285窟壁画調査を通して」という基調講演を行いました。山内は「アフガニスタン・バーミヤーン壁画の保護」という報告を行ったほか、最後に外国専門家を代表して会議の総括を担当し、各国の専門家が共同してユーラシア全域の壁画の保護に関する研究を行うことへの期待を述べました。
 陝西歴史博物館からは岡田が招待され、東京文化財研究所がすでに40年にわたってその保護に取り組んでいる高松塚古墳壁画の調査研究の成果をもとに、「ユーラシア大陸壁画の研究と保護―国際協力の意義」と題する報告を行い、広範な視点をもって壁画研究を行うことにより、その文化的価値についての理解を深めるべきである、という提言を行いました。

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アジア文化遺産国際会議「西アジアの文化遺産―その保護の現状と課題」

 3月3日から5日までの3日間の日程で、イラク、シリア、レバノン、ヨルダン、バハレーンのアラブ5カ国の専門家を東京文化財研究所へ招き、日本の専門家と共に各国の文化遺産、その保護の現状について情報を交換し、今後の日本を含む各国間の連携による国際協力による保護活動の可能性について討論する会議を開催しました。文化遺産国際協力センターは、アジアの各地域について、文化遺産保護のための地域内ネットワークの構築と、日本の貢献を促進することを目ざし、中央アジア(2007年度)、東南アジア(2008年度)、東アジア(2009年度)の各地域の国々による国際会議を開催してきました。今回の会議は、これまで主に考古学や歴史研究での交流が盛んだった西アジア地域について、今後文化遺産保護という視点から新たなネットワークを構築していくための貴重な一歩となりました。

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2010年度シルクロード人材育成プログラム開講

清水真一文化遺産国際協力センター長による日本の文化財保護制度についての授業

 2006年から東京文化財研究所と中国文化遺産研究院が共同で実施しているシルクロード沿線文化財保存修復技術者育成プログラムは、今年が最終年度となり、8月16日、北京市の中国文化遺産研究院において、最後の壁画保存修復コースと染織品保存修復コースがスタートしました。シルクロード沿線に位置する新疆・甘粛・青海・寧夏・陝西・河南の各省自治区から、壁画コース14名、染織品コース12名の研修生が参加して、12月17日までの4カ月間、理論講座と修復実習講座を学ぶことになります。日本からは両コース合わせて12名の講師が参加するほか、最終年度は両コースに韓国からの講師を招くことになっています。これまで4年間に実施した6つのコース同様に大きな成果があがるものと期待されます。

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シルクロード人材育成プログラム博物館技術研修コース

紙製収納容器制作実習を終えて
(木部徹講師、島田要講師とともに)
展示照明についての授業(木下史青講師)

 平成18年度から5カ年の計画で進められているシルクロード人材育成プログラムは、第4年目となり、春から夏に実施した古建築保存修復研修コースに引き続き、今年度の二つめのプログラムとして、9月14日から12月11日までの3カ月間の日程で博物館技術研修コースを実施しました。中国のシルクロード沿線に位置する新疆、甘粛、寧夏、陝西、河南の各省・自治区から集まった計14名の研修生は、2カ月間北京での理論コースに参加した後、11月中旬から1カ月間、寧夏回族自治区銀川の寧夏博物館で、実践コースに参加しました。期間中、日本からは当研究所、東京、九州の両国立博物館、大学、さらには文化財保護材料制作の工房から合計15名の講師が参加し、中国側講師とともに授業を行いました。
 寧夏博物館での実習授業は、収蔵・展示環境の測定と分析、実際の博物館の収蔵品と展示室の情況をもとにしたテーマ展示設計案作成を行いました。研修生たちは、それまで日中双方の講師による長時間の授業を通して膨大な量の理念や技術論を学んできましたが、この実習を通してそれを確実な知識として身につけることができたはずです。今回のような体系的で理論と実践の両方を具えた博物館学研修コースは、中国において初めて実現したものです。また、2007年に完成し現在の中国において設備面では最先端の内容をもつ寧夏博物館ですが、実際の日常の作業をどのように行うかということが未だ十分な状態になっていないというのが課題であり、今回の研修コースを受け入れたことにより、館員にとっても強い刺激になったとして、感謝をしていただくことができました。12月11日の修了式は、館員の皆さんが50名以上も参加するという盛大なものとなりました。
 シルクロード人材育成プログラムは来年度に染織品と壁画の保護修復研修コースを実施して終了となります。

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シルクロード人材育成プログラム古建築保護修復研修コース終了

修了証書授与

 昨年秋の北京での3カ月間の研修に引き続き、中国青海省のチベット仏教寺院、塔爾(タール)寺で4月初旬から4カ月間の日程で実施してきたシルクロード人材育成プログラム古建築保護修復研修コースが無事に終了し、7月31日、中国国家文物局、中国文化遺産研究院、東京文化財研究所、青海省文物局、塔爾寺、そして本事業の資金提供者である中国サムスン社からそれぞれ代表が出席し、修了式を開催しました。新疆、甘粛、寧夏、青海、陝西、河南の各省・自治区から集まった計12名の研修生は、必ずしも全てが同じ建築保護の経験を持っているわけではなく、研修カリキュラムが求めている内容の理解や、成果の達成に苦労しました。しかし各自が持つ能力を活かし、互いに助け合いながら合計7カ月に及ぶ長期研修を乗り切ることができました。日本側講師、中国側講師も研修生が直面している様々な問題について一緒に考え、解決の道を探しました。文化遺産保護が、いかに多くの人々の智恵と技術を結集したものであるかを実感させる7カ月間であったと言えます。その結果、研修生たちは、昨年の北京・故宮紫禁城での調査報告書、今年の塔爾寺での調査報告書、そして個人テーマによる研究論文12本をまとめた実習報告書を完成しました。彼らはすでにそれぞれの所属機関に戻り、日常の作業に従事しています。今回の研修が、彼らがこれから歩む道の足下を照らす、心強い灯りとなってくれることを願っています。

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陝西省唐代陵墓石彫像保護修復事業終了

評価会議
記念品を贈呈される黒田哲也氏(中央)

 2004年に日中共同事業として開始した陝西省唐代陵墓石彫像保護修復事業が、このたび無事に終了し、3月16日から18日の日程で、西安市において最終の現場視察、専門委員・外部評価委員による事業の評価が行われました。この事業は、日本の篤志家黒田哲也氏が財団法人文化財保護・芸術研究助成財団に対して提供した総額1億円の資金を使い、唐時代の皇帝陵である乾陵と橋陵、それに則天武后の母親が葬られた順陵という三つの陵墓についてその東西南北の門に配置された石彫像の修復、周辺環境の整備を実施したものです。東京文化財研究所は西安文物保護修復センターとともに事業を担当し、各種調査、修復作業、研究会の実施、中国側メンバーの招へい研究などを実施してきました。今回の視察と会議には黒田哲也氏ご夫妻も参加され、最後に陝西省文物局から今回の支援に対する感謝の言葉と記念品が贈呈されました。

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龍門石窟画像データベース作成

 文化遺産国際協力センターは、2001年以来、中国・河南省洛陽市所在の世界遺産・龍門石窟保護のため、様々な内容での支援活動と共同研究を展開してきました。2002年から2007年には、企画情報部写真室と共同で近年発達が著しいディジタルカメラを駆使し、龍門石窟皇甫公窟(6世紀前半)、蓮華洞(同)、敬善寺洞(7世紀後半)の3つの洞窟について、実験的な画像データの収集とその管理システム構築のための研究を進めました。その成果は2008年3月に作成した報告書『世界遺産龍門石窟 日中共同写真撮影プロジェクト報告書(画像目録)』に集大成されましたが、報告書の作成部数に限りがあって必ずしも多くの方にご覧いただくことができず、また印刷物ではディジタル画像の効果を十分に見ていただくことができません。調査研究によって収集した各種のデータについて、その公開性をどのように高めるかは、文化財保護活動の根本的な課題です。そのため、管理システムの構築というテーマを設けていたのですが、撮影と同時に進めた調査に関する情報を盛り込み、なおかつディジタル画像を活用する方法について、スタッフが試行錯誤を繰り返した結果、今回ようやく日本語版のデータベースが完成し、当研究所閲覧室において公開を開始しました。これを利用することによって上記3洞窟についての研究がさらに進むことが期待されます。また、ここで構築された方法は、他の文化財に関するデータベースにも応用ができるものとして、大いに期待されます。なお、共同研究のパートナーである龍門石窟研究院には、中国語版の完成品を提供する予定です。

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ユネスコ/日本信託基金龍門石窟保護修復事業の終了

日本政府、中国政府、ユネスコ三者による会議
龍門石窟保護修復事業のメンバー記念撮影

 2001年11月、日本がシルクロード沿線の文化遺産保護のためにユネスコに提供した信託基金100万ドルによって中国・河南省洛陽市の龍門石窟の保護修復事業がスタートしました。東文研はユネスコの委託を受け、同事業のコンサルタントを務めるとともに、日本側専門家のまとめ役として、活動してきました。また、同資金では不足する経費を財団法人文化財保護・芸術研究助成財団(平山郁夫理事長)やJICAの支援を得るほか、自前の予算も捻出し、観測機材の購入・設置・メンテナンス、龍門石窟研究院保護修復センター研究員の長期短期の教育、さらに同研究院における画像データベース構築のための写真撮影など、多彩な内容で同事業をサポートしてきました。これら東文研がユネスコの資金とは別途に捻出した金額は合計で約6,000万円になります。その龍門石窟保護修復事業が2008年度で終了するにあたり、2月20日には北京の中国文化遺産研究院において最終の総括のための会議が開かれました。この会議は、同時に終了する新疆省のクムトラ千仏洞の保護修復事業と合同のもので、洛陽市文物管理局と新疆省文物局からそれぞれ事業の報告があり、専門家による討議を経て、中国政府、日本政府、ユネスコ北京事務所の代表が講評を行いました。会議の翌日には同研究院において両プロジェクトの終了を記念するシンポジウムが開催され、プロジェクトの成果についてそれぞれのメンバーによる発表が行われました。

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陝西唐代陵墓石彫像保存修復に関する研究会(西安)

研究会
順陵の視察

 2004年度以来、西安文物保護修復センターと共同で推進してきた「唐代陵墓石彫像保護修復事業」は、いよいよ本年度をもって終了します。この共同事業においては、毎年一回日中専門家による研究会を開催してきました。第5回目となる今回は、その最終回として、事業の成果を中国各機関・大学等の専門家に披露するとともに、これを機会に石造文化財の保存に関する各種の問題について意見交換と交流を図ることを目的として、11月17日、18日間の日程で、今までより規模の大きな研究会を西安市において開催しました。約40名の専門家が参加し、17日の現地視察に続いて、18日には活発な発表と討論が行われました。研究会の主な内容は以下の通りです。
森井順之(東文研)
 九州臼杵摩崖石仏覆い屋建造後の環境観測
友田正彦(東文研)
 石造遺跡の保存管理―アンコール遺跡群の場合―
津田豊((株)ジオレスト
 :UNESCO龍門プロジェクト専門家)
 龍門石窟の結露現象
方雲(中国地質大学・武漢)
 順陵石刻の亀裂変形観測
甄広全(西安文物保護修復センター)
 石質保護材料研究
朱一清(中衛康隆ナノ科技発展公司)
 石質文物保護材料とその評価体系
万俐(南京博物院)
 江蘇句容貌山華陽洞摩崖題刻の保護
馬濤(西安文物保護修復センター)
 乾陵石刻の表面保護処理

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敦煌派遣研修終了

紙本の裏打ち実習(倉橋さん)
壁画の修復実習(佐藤さん)

 6月1日から敦煌研究院へ派遣した佐藤香子さん(東京学芸大学大学院修士課程修了/保存科学専攻)と倉橋恵美さん(筑波大学大学院修士課程修了/日本画専攻)の研修が終了し、10月19日に無事帰国しました。この間、2人は莫高窟の宿舎に泊まりながら、敦煌研究院の全面的な協力を得て、壁画の現場調査、分析研究、保存処理作業の実習、壁画構造の再現制作と模写、世界遺産莫高窟の管理運営に関する講義など、壁画のみならず、文化遺産の保護に関する全面的な内容についての研修を受けました。また個人研究のテーマとして、佐藤さんは壁画に使われた赤色の色料についての分析・比較研究を行い、倉橋さんは科学的研究を根拠としながらの復元模写に挑戦し、その結果は最後の発表会において敦煌研究院の研究者からも高い評価を得ることができました。現場での貴重な体験とともに、同世代の敦煌研究院の仲間たちとの出会いと交流は、今後2人がそれぞれの道を歩む上できっと大きな意味を持つことでしょう。この研修は、あと2年間の実施を予定しています。

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シルクロード人材育成プログラム土遺跡保護修復班終了

甘粛省瓜州踏実墓修復現場
日干しレンガの補強作業

 中国文物研究所と共同で実施する「シルクロード沿線文化財保存修復人材育成プログラム」土遺跡保護修復班の第3年目の研修が9月1日から2カ月間、甘粛省瓜州市で実施され、10月31日には3年間合計7カ月の研修を締めくくる修了式が同市においてとりおこなわれました。土遺跡とは日干しのレンガを積んで構築した地上の建造物、考古発掘作業によって地下から出現した土構造の遺跡を指します。日本には考古遺跡の保存例は多数ありますが、地上のものとしては、完全に土を材料として作りそれが乾いただけのものという意味ではほとんど例がなく、自ずから修復保護の経験も乏しいジャンルです。しかし、西アジアから中国に至るシルクロードの各地に残るこれらの遺跡は、まさにその東の果てに位置する日本へ西方の文化が伝えられた、いわば道しるべのような存在ですから、その保護のための人材育成に協力することは、とても重要な意味があります。これまでイランや中央アジアの各国でも日本の専門家による修復協力活動が行われてきました。今回の研修では、瓜州のゴビ灘(砂利の沙漠)に築かれた2,000年前の墓の土製の門柱を対象として修復の実習作業を行いました。12名の研修生は、これまで2年間5カ月の研修によって身につけた概念と理論を駆使し、現場での調査や観察をもとにした検討を通して、この遺跡に最も相応しい修復と保護の状態を考え、実際の修復作業も行い、工事を完成させました。さらに、3年間の研修を集大成する報告書を作成しました。彼らはそれぞれの地域に戻り、地域のリーダーとして土遺跡の保護に従事していくものと期待されています。

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四川大地震文化財復興支援に関する現地調査

28mの塔の大半が崩壊(安県文星塔)

 5月12日、中国四川省でぶん川県を震源とするマグニチュード8の地震が発生し、震源地を中心に建物の倒壊、山岳の崩落等によって多数の死傷者が出る大災害となりました。長い歴史があり、多くの文化財を有する四川省では、文化財にも重大な被害が出ました。日本政府は、地震発生直後の人命救助隊の派遣に引き続いて、各省庁から実施可能な項目をリストアップした「支援パッケージ」を中国政府に対して提出しましたが、6月末までにその回答が戻り、文化庁が提出した「文化財復興支援のための日中専門家交流」を実施することになりました。今回東京文化財研究所は、文化庁の委託を受け、9月25日から30日の日程で、今後の日本による文化財復興支援実施のため現状を把握し、現地文化財保護部門の担当者との意見交換を行って、本年度に実施する具体的な支援活動計画作成のための情報収集を行うことを目的とした調査を実施しました。地震発生からすでに4カ月が経過しているものの、被災地にはいまだに被害の生々しい痕跡が見られます。寺院の保存管理事務所では避難した簡易テントをそのままに使用していて、これから冬を迎えようとしているところもありました。今回の視察と専門家同士の話し合いを通じて、以下の方向性が確認されました。
1) 日本の専門家約10名が四川省を訪れ、文化財の地震対策をテーマとした研究会を行い、専門家同士の交流を図る。
2) 内容としては建造物、博物館収蔵品を考える。
3) 時期は来年の春節明けが相応しい。(春節は1月26日)
 文化庁では今回の調査の報告を承け、現在、具体的な実施計画を検討しているところです。

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シルクロード沿線人材育成プログラム

故宮慶寿堂での現場実習

 新疆・甘粛・青海・寧夏・陝西・河南の各省から合計12名の研修生が参加し、4月3日から北京で実施していた「シルクロード沿線文化財保存修復人材育成プログラム」の古建築保護修復班(2年計画の第1年目)は、7月11日に15週間の日程を無事に終了しました。後半の第8週からは故宮紫禁城の中にある慶寿堂第三院を実習場所として、状態調査、技術調査、測量調査等を行いました。この建物は、乾隆皇帝が引退後に居住した頤和軒に近接し、皇帝に見せる芝居の役者たちが起居していた場所であったといいます。その後建物には何カ所もの改変が加えられて、いまは故宮内部の建具を修理する場所として使われています。この現場実習には、財団法人文化財建造物保存技術協会の専門家5名が講師として参加しました。その調査結果をもとに修復計画案を作成して第1年目の研修が終わりました。来年の現場修復実習では、5月12日に発生した四川大地震で被害のあった建物での修復作業に研修生を参加させるという案が出ています。

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敦煌莫高窟での壁画調査と研修生派遣

第285窟での共同調査
調査チーム(オレンジユニフォーム)と研修生(赤ユニフォーム)

 第5期「敦煌壁画の保護に関する共同研究」は3年目を迎え、6月1日から4週間の日程で敦煌莫高窟にメンバーを派遣して、今年度前半の日中合同調査を実施しました。調査は、昨年に引き続き、西魏時代の紀年銘(西暦538年、539年)を持つ第285窟について、これまで実施してきた光学的調査とともに壁画全体に対する状態調査を行いました。壁画に使われた材料は、色の種類や技法、描かれた位置など、様々な条件によって劣化の仕方、保存状態が異なります。この状態を把握することで、光学調査の結果はさらに多くの情報をもたらすことになりますし、そこから新たな調査や分析についてのアイディアも生まれるのです。また、特定の制作材料や技法によって劣化の仕方が異なるのであるとすれば、それは今後の保護修復作業にも重要な手がかりを与えるものとなります。
 いっぽう、この調査チームとともに2名の大学院修士課程修了者が莫高窟に行きました。彼らは、昨年度から実施している「敦煌派遣研修員」として、公募により選抜されました。保存科学、絵画制作とそれぞれに異なる専門領域からの参加で、10月中旬までの5ヶ月間、敦煌研究院保護研究所の専門家の指導を受けて、壁画保護のための多岐にわたる内容の研修を受けます。

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陝西唐代陵墓石彫像保護修復事業専門家会議

日中専門家会議
橋陵の現場で掛けられた「熱烈歓迎」の横断幕

 2004年度以来、西安文物保護修復センターと共同で推進している「唐代陵墓石彫像保護修復事業」は、今年で最終年度を迎えます。6月23日と24日の2日間、西安市で最終年度の日中専門家会議が開催され、昨年度の作業内容についての検証と評価が行われました。日本からは、西浦忠輝氏(国士舘大学教授、文化財保存)と根立研介氏(京都大学教授、美術史)が専門家として出席されました。昨年度は、事業の対象となっている3つの陵墓のうち、特に唐睿宗の陵墓である橋陵の東西北門での考古学調査と整備作業が進められました。今回は地元民が多数見物に出る中、日中専門家が現地視察を行いました。また、去る5月12日に発生した四川大地震では陝西省も被災しましたが、対象陵墓である順陵では南門の獅子像の亀裂に顕著な拡大が見られ、そのため急きょ設置された観測装置についての視察も行いました。本事業は11月に石造文化財の保護に関する日中学術研究会を開催し、来年3月に最終の審査会を経て終了する予定です。

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シルクロード沿線人材育成プログラム

岡田文男講師(京都造形芸術大学)による授業
中内康雄講師(文化財建造物保存技術協会)による授業

 中国文化遺産研究院(2008年2月に中国文物研究所を改組して名称変更)と共同で実施する「シルクロード沿線文化財保存修復人材育成プログラム」は3年目を迎えました。今年は、春から3ヶ月間半、古建築保護修復班(2年改革の第1年目)を実施し、秋から2ヶ月間、土遺跡保存修復班(3年計画の第3年目)を実施する予定です。折しも今年は8月8日からの北京オリンピックを控え、その日程を避けるため、例年よりも早めの4月3日に春のコースがスタートしました。古建築コースは、新疆・甘粛・青海・寧夏・陝西・河南の各省から合計12名の研修生が参加し、1年目に理論講座と各種調査の実習、保護修復計画の作成を研修し、2年目に参加する修復実習作業のための基礎を身につけることを目的にしています。その1年目の現場実習の場所には、故宮博物院の支援を得て、故宮内部の頤和軒東側の一角が提供されています。3カ月半の期間中、日本側講師10名が参加し、中国側講師とともに指導にあたります。

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シルクロード沿線人材育成プログラム「紙の文化財」研修コース終了

侯菊坤人事労働司長が研修生の成果物を視察
修了式記念撮影

 中国文物研究所(北京)での人材育成プログラム「紙の文化財」研修コースは、3カ月間の日程を無事に終了しました。この間、日本からは計12名の専門家が196時間にわたって講師を担当しましたが、とくに最後の4週間は国宝修理装こう師連盟の技術者2人が中国側の専門家とともに授業を行い、研修生たちは短期間ながら冊子、軸装物の修復技術を習得しました。12月27日には中国国家文物局の侯菊坤人事労働司長が出席して修了式が行われ、シルクロード沿線6省から参加した12名の研修生に東京文化財研究所と中国文物研究所連名の修了証が授与されました。同プログラムは、来年度5年計画の3年目を迎え、春に古建築コース、秋には土遺跡コースを実施する予定です。

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石造文化財の保護に関する中国人専門家の来日研修

樹脂処理の実験

 東京文化財研究所が参加している陝西唐代陵墓石刻保護修復事業とユネスコ/日本信託基金龍門石窟保護修復事業は、いずれも2008年に最終年を迎えようとしています。ともに石灰岩という共通した材料の文化財を対象とするものであるため、これまでも研究会の開催や現地調査、日本での研修に両事業のメンバーを積極的に合流させてきました。今回は11月19日から12月16日の日程で、西安文物保護修復センターと龍門石窟研究院の保存修復部門の専門家各2名を日本に招へいし、石質文化財の修理技術、撥水材料を塗布した後の効果の評価方法、修理作業終了後の環境のモニタリングなどについて研修を行いました。最終年度の修復作業実施に向けて、研修の成果が期待されます。

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「韓国中央アジア学会」に参加して

韓国中央アジア学会主要メンバーとの記念撮影

 11月10日にソウルの国立中央博物館で「韓国中央アジア学会」に開催されました。今回の学会は、「敦煌」をテーマとするもので、フランス・ギメ東洋美術館のジャック=ジエス氏、イギリス・大英図書館のスーザン=ウィットフィールド氏、ロシア・エルミタージュ美術館のサモスュク=キラ氏が敦煌壁画、敦煌文書の研究、アーカイブをテーマに報告を行い、敦煌研究院の李最雄氏が敦煌壁画の保存と科学研究について、東文研文化遺産国際協力センターの岡田健が日中共同による敦煌壁画の保護活動について報告を行うという、敦煌学の全体とそれに関わる世界中の専門家の活動にまで視野を広げた、極めて意欲的な学会でした。韓国の中央アジア学会は創立14年という若い組織ですが、日本や中国、アメリカで学位を取った研究者も多く、自らの研究対象へ積極的にアプローチする姿勢はすばらしいものです。11月2日に同じ国立中央博物館で設立された「東アジア文化財保存学会」、あるいは毎年着実に実績をあげつつある「日中韓・紙の文化財保護学会」など、韓国との連携は文化遺産研究と保護のあらゆる面で、今後重要さを増していくことでしょう。

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シルクロード沿線人材育成プログラム「紙の文化財」研修コース・実技実習

坂田雅之氏(国宝修理装こう師連盟)による実技指導

 中国文物研究所(北京)での人材育成プログラムは、11月になり日中の専門家の指導による実習授業に入りました。近年開発された中性紙等の材料による書籍の保存・保管方法についての授業は、修理に重点を置いた研修を想定し参加した研修生にとって新鮮な内容であったようです。いっぽう、伝統的な修復技術に関しては日中の方法に違いがあり、「中国の紙の文化財」保存に貢献するため、日本側の専門家がどのように日本の技術を伝えていくか、現場での試行錯誤が続いています。しかしこれによって、研修生への指導にとどまらず、日中の専門家による技術交流も促進できるものと期待されています。

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