研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


博物館・美術館等保存担当学芸員研修の開催

実習の様子

 本研修は、文化財保存施設において資料保存を担う学芸員に、そのための基本知識や技術を伝える目的で昭和59年以来行っているものです。今年度は、7月10日より2週間の日程で行い、全国から31名が参加しました。
 本研修のカリキュラムは、温湿度や空気環境、生物被害防止などの施設環境管理、および資料の種類ごとの劣化要因と様態、その防止の2本の大きな柱より成り立っており、研究所内外の専門家が講義や実習を担当しました。博物館の環境調査を現場で体験する「ケーススタディ」は埼玉県立歴史と民俗の博物館をお借りして行い、参加者が8つのグループに分かれて、それぞれが設定したテーマに沿って調査し、後日その結果を発表しました。
 大規模改修を控えた施設も多く、またLED照明への転換など、資料保存に係る大きな動きが起こる中で、適切な管理について的確に伝えられるよう、今後もカリキュラムを精査していきたいと考えております。

「文化財の保存環境に関する研究会」の開催

講演風景
成果紹介ビデオの上映

 平成23~27年度中長期プロジェクト「文化財の保存環境の研究」では、主要テーマの一つとして、汚染ガスが高濃度となり、文化財への影響が大きい展示ケース内の空気清浄化に関する研究を進めてまいりました。その締めくくりともいえる標記の研究会を、「実験用実大展示ケースを用いた濃度予測と清浄化技術の評価」を副題として、28年2月15日に当研究所内において開催しました。
 これまでに行ってきた、適切な内装材料選択のための放散ガス試験法の試案作成、内装材料の放散ガスデータの収集、解析などの結果を踏まえ、本研究会では、実験用に制作した実大展示ケースを用いた展示ケース内濃度の測定、気流の可視化、そして清浄化機能に関する試験について、さらに保存環境現場での汚染ガスの対策事例について報告しました。
 特に気密性の高いエアタイトケース内部におけるガスの発生と滞留については、問題が広く認識されつつあることから、全国から学芸員など135名の参加者が集まりました。質疑応答では、実際の展示ケースでの対策等に関する質問が多く寄せられました。次期中長期プロジェクトのテーマは変わりますが、次年度中に文化財施設向けの汚染ガス対策マニュアルを作成し、公開する予定です。

保存担当学芸員フォローアップ研修-水俣条約による水銀規制と展示照明等への影響-の開催

会場の様子

 博物館・美術館等保存担当学芸員研修の修了者を対象とし、資料保存に関わる最新の知見等を伝える目的とした表題の研修を3年ぶりに開催しました(平成27年7月6日、参加者107名)。
 2020年以降の水銀および水銀を使用する製品の規制を定める、いわゆる「水俣条約」により、今後の蛍光灯の生産中止への流れ、また以前からの白熱電球生産縮小により、展示照明用光源についても白色LEDへの転換が“選択”から“必然”になりつつあります。今回は副題が示す通り、同条約について概説を行った(佐野千絵・保存修復科学センター副センター長)のち、白色LED開発の現状について吉田が解説しました。さらに、久保恭子氏(日本美術刀剣保存協会)、川瀬佑介(国立西洋美術館)、山口孝子氏(東京都写真美術館)をお招きし、日本刀、油彩画や彫刻、写真資料の展示照明として白色LEDを使用した際の効果や現状での問題点等についてお話しいただきました。さらに山口氏には、水銀を利用した写真技法であるダゲレオタイプへの影響についても取り上げていただきました。
 非常に高い演色性が求められる展示照明用の蛍光灯やハロゲンランプの今後の生産については、まだ先行きについて確実なことは言えず、今後も情報収集と提供に努めてまいりたいと考えています。また、数字上の演色性に関しては十分な性能を持つに至っているLEDですが、従来照明との見え方の違いも顕在化しており、自然科学的見地からその原因を解明する必要性も実感しています。

博物館・美術館等保存担当学芸員研修の開催

文化財害虫同定実習の様子

 表題の研修は、資料保存を担う学芸員に、そのための基本知識や技術を伝える目的で昭和59年以来毎年行っているものです。今年度は、7月13日より2週間の日程で行い、全国から32名の参加者を得ました。
 本研修のカリキュラムは、温湿度や空気環境、生物被害防止などの施設環境管理、および資料の種類ごとの劣化要因と様態、その防止の2本の大きな柱より成り立っており、研究所内外の専門家が講義や実習を担当しました。博物館の環境調査を現場で体験する「ケーススタディ」は埼玉県立さきたま史跡の博物館をお借りして行い、参加者が8つのグループに分かれて、それぞれが設定したテーマに沿って調査し、後日その結果を発表しました。
 今回の研修は32回目となり、初期の方々との代替わりも進んでいます。また、特に公立博物館の多くが改修や設備更新の時期を迎えている現在において、資料保存の理念や方法が適切に継承されるよう、本研修を今後も充実させていきたいと考えています。

徳島大学附属図書館所蔵「伊能図」の彩色材料調査

伊能図の彩色材料調査風景

 徳島大学附属図書館が所蔵する、伊能忠敬(1745-1811)による実測地図(以下「伊能図」)の本格的な学術調査を目的とする「徳島大学附属図書館伊能図検証プロジェクト」(統括:福井義浩・同館長)の一環として、彩色材料の科学調査を平成26年11月25日より4日間、同館にて行いました。伊能図は、国内では初の精密な科学的測量に基づいた地図であるとともに、地形や山河、建物等が絵画的に描写、彩色されており、近世絵図としての特徴も有しています。調査では、非接触分析手法である蛍光X線法と可視反射分光スペクトル法によって、使用されている顔料や染料の同定に関わるデータを取得しました。現在、データの解析を進めています。
 今回、調査対象とした「沿海地図」(3枚)、「豊後国沿海地図」(3枚)、「大日本沿海図稿」(4枚)はいずれも1800年から1816年の間に行われた測量に基いて作成された地図であり、それ自体の資料価値とともに、伊能図の最終版である「大日本沿海輿地全図」に至る過程を知る上でも非常に貴重です。プロジェクトでは彩色材料調査と併せて、使われた紙質や、測量図としての技術調査なども行われています。今後、これらの成果によって、伊能図の成立に関する重要な知見が得られると期待しています。

「博物館・美術館等保存担当学芸員研修」の開催

殺虫処置実習の様子

 表題の研修は、資料保存を担う方々が、そのための基本知識や技術を学ぶことを趣旨として、昭和59年以来毎年、東京文化財研究所で行っているものです。今年度は、7月14日より2週間の日程で行い、全国から31名の資料保存を担う学芸員や文化財行政担当者が参加しました。
 2週間の間に、温湿度や空気環境、生物被害防止といった資料保存環境の重要事項、また、資料の種類ごとの劣化原因と対策、さらに今回は、災害対応として、水損や放射性物質汚染に関する内容を研究所内外の専門家がそれぞれ担当し、講義や実習を行いました。博物館の環境調査を現場で体験する「ケーススタディ」は清瀬市郷土博物館のご厚意により、同館で行いました。参加者が8つのグループに分かれて、それぞれが設定したテーマに沿って調査し、後日その結果を発表しました。
 参加者のほとんどは、現場での長い実務経験があり、それぞれに資料保存において解決すべき施設や設備上の問題意識を持っています。本研修は、学術的観点からの資料保存に重きを置いているため、その理想と現実とのギャップに戸惑う参加者も多く、そのために講義ごとに非常に多くの質問や相談が寄せられます。まさに、そのギャップを認識し、博物館の第1の使命である資料保存のために、現状をスタート地点として何をすべきかを考えて頂くことが本意であり、研修後も参加者とのつながりをしっかりと維持して、相談や助言に応じていきたいと考えています。
 例年、本研修の受講者募集と応募は、都道府県教育委員会の担当部署を通じて行っており、次回の開催通知は平成27年2月頃より、配布予定です。

第18回資料保存地域研修の実施

研修風景1
研修風景2
山梨県立博物館の保存環境管理体制に関する館内見学

 山梨県内の博物館・資料館等において資料保存に携わる方々を対象に、保存の基礎的な知識を伝えることを目的として、山梨県立博物館を会場に研修を実施しました。今回は、12月11、12日の2日間、「ミュージアム甲斐・ネットワーク」との共催による研修会であり、同県内から41名の参加を得ました。
 まず総論として “保存環境概論・佐野千絵・保存科学研究室長”が資料保存の基本理念、最近の動向などを取り上げました。引き続き、各論として “温湿度”、“光と照明”(吉田直人・主任研究員)、“空気環境”(佐野室長)、“生物被害管理”(佐藤嘉則・生物科学研究室研究員)を、さらに “民俗、考古資料の取り扱いに関する実践的な対応方法”(北野信彦・伝統技術研究室長)と題する講義を行いました。これは、今回の研修では、民俗や考古資料を主に所蔵し、決して管理のための設備や体制が十分とは言えない小規模施設からの参加者が多いことを勘案してのものでした。
 すべての講義が終了した後、山梨県立博物館のご厚意により、展示室やバックヤードの見学を行い、同博物館での管理体制等について、沓名貴彦学芸員より詳しく説明頂きました。沓名氏には、本研修の実現にも多大な尽力を頂きました。
 研修後のアンケートでは、有意義だったという回答とともに、施設の実情に沿った対応方法を知りたいというコメントが多く寄せられました。このような声に応えるために、私達は研修後の参加者とのコミュニケーションを大事にしたいと考えております。

「博物館・美術館等保存担当学芸員研修」の開催

害虫の脱酸素処理実習の様子

 表題の研修を7月8日より2週間の日程で開催し、全国から30名の学芸員や行政担当者が参加しました。本研修は、講義と実習を通して資料保存に必要な基本知識と方法論を学ぶことを主眼とし、(1)自然科学的基礎に立脚した資料管理と保存環境に関する項目、(2)文化財の種類ごとの劣化要因とその防止対策に関する項目の2つの柱から成るカリキュラム構成で実施しました。
 保存環境実習を実地で応用する「ケーススタディ」は新宿区立新宿歴史博物館のご厚意により、同館で行いました。参加者が8つのグループに分かれて、それぞれが設定した展示室、収蔵庫の温湿度分布、外光の影響、また生物被害管理などの実地調査と評価を行い、後日その結果を発表しました。
 また今回は、東京国立博物館保存修復課の協力を得て、文化財施設における省エネ問題をテーマにしたグループディスカッションを行いました。
 昭和59年度に開始した本研修は今回で30回目となり、通算の受講者は700名を超えました。初期に受講され、資料保存の第一線で尽力された方々からの世代交代が進みつつあります。これから次世代に保存の任務が継承されていく中で、東文研が負うべき役割とはということを意識しながら、これからの研修のあり方も見定めていきたいと考えています。

刊行物のインターネット公開

 保存修復科学センターと文化遺産国際協力センターが発行している研究紀要「保存科学」は第1号からのすべての記事をPDF化し、ホームページ上で公開しています
 (http://www.tobunken.go.jp/~ccr/pub/cosery_s/consery_s.html)今回、最新号である第52号掲載の4件の報文22件の報告のアップロードを完了しました。また、生物被害対策に関する1つのパンフレットと3つのポスターも公開しましたので、是非ご活用ください。(http://www.tobunken.go.jp/~ccr/pub/publication.html#002)。
 刊行物の多くは、関係機関などへ配布していますが、文化財保存に関わるより多くの方に役立つ情報を提供するため、今後も積極的にインターネットを通じた公開を進めていく考えです。

“「文化財の保存環境を考慮した博物館の省エネ化」に関する研究会-LED照明導入と省エネ-”の開催

研究会の様子(藤原工氏のご講演)

 近年、白色LED照明技術の発展は目覚ましく、高演色化や色温度のバリエーション化は、色の再現性と様々な演出効果の実現を求める展示照明への導入を検討できるレベルにまで達していると言えます。一方で、文化財施設からは資料への影響や、従来の照明との見え方の違い、導入コストに見合った電力消費削減の実現などに対する不安の声も少なくなく、白色LED開発と展示照明としての現状に関して情報共有を図る必要があると考え、表題の研究会を平成25年2月18日に開催しました。
 本研究会では、技術開発に携わる専門家と、展示照明としての導入を行った美術館の担当者、それぞれ二人ずつをお招きして、それぞれの立場からの報告をして頂きました。技術開発に関しては、株式会社灯工社の藤原工氏から白色LEDの基本原理と最新の技術動向について、また、シーシーエス株式会社の宮下猛氏には、従来の青色励起型に比べて、より自然光に近い発光特性を持つ紫色励起白色LEDの開発と博物館施設への導入についてお話頂きました。また、展示照明として早い時期に白色LEDを導入した山口県立美術館の河野通孝氏からは、色温度のコントロールといったLED光源の特性を最大限に活かした展示演出などの実践に関して、また、国立西洋美術館の高梨光正氏からは、実測に基づく省エネ効果に加えて、特に油彩画の従来照明と比較した見え方の違いといった、常に作品と接しているからこそ感じる白色LEDの特徴について取り上げて頂きました。
 近年、地球温暖化対策として、エネルギー効率の低い白熱電球の生産が段階的に縮小・廃止されています。また、今年10月に国際条約として採択される見込みの「水銀に関する水俣条約」では、水銀を含む製品の2020年以降の生産縮小が決まる見込みで、蛍光灯の使用継続に困難が生じると予想されます。代替光源の導入が文化財施設にとって否応無しの問題となっている現状を反映して、今回は全国から130名の参加者を得ました。質疑応答では紫外線の除去や温度変化といった資料保存、また色温度などや演出に関わる問題まで幅広い質問が出されました。今回の研究会でも明らかになった課題や関係者の期待に応えるためにも、私たちはこれからも白色LEDとさらに次世代光源である有機ELに関する最新の情報収集と保存の観点からの研究・評価を行い、また現場のニーズを開発側に伝える役割を果たしながら、これらの光源が真に展示照明となりうるための一役を担っていきたいと考えています。

「第17回資料保存地域研修」の開催

佐藤嘉則研究員による「生物被害」講義の様子

 保存修復科学センターでは、様々な研究会や研修会を通じて、博物館・美術館・資料館において資料保存に従事している方々に、そのための知識や技術に関する情報をお伝えしています。「資料保存地域研修」は、私たちが毎年一回、特定の地域にうかがい、その地域の保存担当者の方々を対象に1日の日程で開催する研修会です。今年は岡山県博物館協議会との共催で、10月16日岡山県立美術館を会場にして実施しました。参加者は56名を数えました。当センターからは佐野千絵(保存科学研究室長)、佐藤嘉則(生物科学研究室研究員)、吉田直人(主任研究員)が講師を担当し、「保存環境総論」「温湿度」「空気環境」「光・照明」「生物被害」という内容をお話ししました。この研修は、私たちが毎年東京で実施している2週間の「博物館・美術館等保存担当学芸員研修」に参加することのできない方々からも、大変に好評を頂いています。ただ、私たちの話はともすれば推奨される保存環境や設備といった内容となりますので、しばしば「そのような設備が無いところではどうするのか?」という質問が出されます。もちろん、それぞれの博物館や美術館には個別の事情がありますので、一つの答えを呈示することは困難です。このような現実を認識し、今後も日常の研究を充実させ、様々なケースにお答えできるようにしていきたいと考えています。

「博物館・美術館等保存担当学芸員研修」の開催

文化財害虫同定実習の様子

 表題の研修は、文化財保存に必要な知識と技術をその任にあたる学芸員に伝えることを目的としています。7月9日より2週間開催した今年度の研修には、全国より30名の学芸員や行政担当者が参加しました。本研修は主に、(1)自然科学に立脚した保存環境に関する項目、(2)文化財の種類ごとの劣化要因とその防止対策に関する項目の2つの柱から講義や実習カリキュラムが構成されています。
 保存環境実習を実地で応用する「ケーススタディ」は国立歴史民俗博物館のご厚意により、同館で行いました。参加者が8つのグループに分かれて、それぞれが設定した温湿度や照度などの実地調査と評価を行い、翌日にその結果を発表しました。
 本研修参加者には、勤務館のみならず、地域の文化財保存における中核的存在となることを期待しております。募集要項は毎年2月頃、各都道府県教育委員会を通じて各施設に配布しておりますので、ぜひとも参加をご検討下さい。

保存担当学芸員フォローアップ研修

研修の様子

 表題の研修は、今年度で29回目となる「博物館・美術館等保存担当学芸員研修」の修了者を対象に、保存に関する最新の知見等を伝える目的で毎年行なっており、今年は6月25日に開催し、80名の参加者を得ました。今回は下記のように、前半に東北地方太平洋沖地震被災文化財等救援委員会(文化財レスキュー事業)のこれまでの活動に関して、後半に我々が携わっている保存環境に関わる取り組みについて取り上げました。

  • 文化財レスキューのこれまで(保存修復科学センター長 岡田健)
  • 大規模災害に強い文化財施設と設備(主任研究員 森井順之)
  • フィルム収蔵庫の保存環境 (保存科学研究室長 佐野千絵)
  • 東文研が関わる保存環境調査、相談と助言に関して(吉田直人 主任研究員)

 毎年、本研修には保存担当学芸員修了者総数の1割を超える方に参加して頂いており、これは東文研の保存環境への取り組みに対する期待の表れと考えています。今後も、その期待に応えるべく、ニーズを的確に捉えた活動を続けていく所存です。

『保存科学』第51号の発行

 東京文化財研究所保存修復科学センター・文化遺産国際協力センターの研究紀要『保存科学』の最新号である第51号が、平成21年3月31日付けで発行されました。我々が行った、様々な文化財を対象とした調査研究や修理などに関する報文7報、および報告20報を掲載しています。製本版は関係機関などへの配布に限られていますが、近日中にPDF版を当研究所WEBページ(http://www.tobunken.go.jp/~hozon/pdf/51/MOKUZI51.html)にアップロードしますので、ぜひご利用ください。

熊本における第16回資料保存地域研修の開催

研修の一場面

 表題の研修会を11月16日、17日の2日間、熊本市現代美術館において開催し(主催:東京文化財研究所・財団法人熊本市美術文化振興財団、後援:熊本県博物館連絡協議会・熊本県市町村文化財担当者連絡協議会)、68名が参加しました。
 本研修は、我々が地方に出向き、学芸員や文化財行政担当者を対象に資料保存に関する基礎知識を学んで頂くことを目的としており、総論、温湿度、照明、空気環境、および生物被害管理などに関する講義を行いました。当研究所では毎年夏、「保存担当学芸員研修」を2週間にわたって行っていますが、長期におよぶ参加が叶わない方にとって、この地域研修は保存を学ぶための貴重な場となっています。
 また、今回ははじめて“現代美術館”における資料保存に関しての講義も行いました。現代美術館では、近代以前の作品を対象とした施設とは異なるコンセプトのもとで設計されていることが少なくなくありません。しかし一方、現代美術館でも国指定品を含む古典作品を扱う場合もあるため、その安全な保存と展示のためには、担当者が施設の特徴を認識したうえで、適切な対処と取扱いを行う必要があるためです。また、将来歴史的・美術的に価値付けられる可能性がある現代美術作品の保存についても、真剣に考えなくてはならない時期が来たとの認識がありました。現代美術については、我々も作品と施設の両方に対して、経験や研究の蓄積が十分とは言い難いことは否めません。だからこそ、現場で扱う方からのニーズを積極的に頂きたいとの思いもあり、これを取り上げるに至ったものです。
 この研修は、各都道府県からの要望に応じて実施していますので、ご希望がありましたらご遠慮なくお知らせください。

博物館・美術館等保存担当学芸員研修

ケーススタディでの一場面

 今回で28回目となる表題の研修を、7月11日から22日まで開催しました(参加者27名)。本研修は主に自然科学的視点から、保存環境や資料の劣化防止に関する基礎的な知識や技術を学んでいただくことを目的としており、研究所内外の専門家が講義や実習を担当しています。また、保存環境調査を実地で行う「ケーススタディ」を毎回行っており、今回は、八千代市立郷土博物館のご厚意により、会場としてお借りしました。参加者がグループ毎にテーマを設定したうえで環境調査を行い、その結果を発表し、質疑応答などを行いました。
 また今回は、カリキュラムに激甚災害への備えに関する講義、また水損被害を受けた写真や紙資料の応急処置に関する実習や実演などを取り入れました。今回は残念ながら、先の東日本大震災で特に甚大な被害を受けた東北地方などからのご応募はありませんでしたが、参加された全国からの方々にとっても決して他人事ではなく、被災した地域を思いながら、また将来起こるかもしれない大災害に備えるためにも真剣に学んでおられました。

保存担当学芸員フォローアップ研修の開催

講義の様子

 保存担当学芸員研修修了者を対象に、保存環境に関する最新の知見等を伝えるこ とを目的とした表題の研修会を6月27日に行いました。今回は副題を「今後の生物被害対策のあり方」とし、下記の3つについて講義を行いました。

  • 生物被害発生時の対応(佐野千絵・保存科学研究室長)
  • 文化財虫害研究所における薬剤認定について(三浦定俊・客員研究員、公益財団法人文化財虫害研究所理事長)
  • 巡回展などでの生物被害対応の流れについて(木川りか・生物科学研究室長)

 さらに今回は、東日本大震災にともなう文化財資料の津波等による甚大な被害が発生している現状に鑑み、木川が「被災文化財レスキューにおける初期対応について」という題目で講義を行ったのち、水損被害を受けた紙資料の初期対応のひとつである「スクゥエルチ法」のデモンストレーションを行い、参加者にご覧いただきました。
 今回の参加者は88名でした。これは30年近く行っている保存担当学芸員研修修了者の15%近くがお越しくださったことになります。これだけの方に参加していただいていることを嬉しく思うとともに、今後も充実した内容を提供すべく、我々も研鑽を積まなければと実感した次第です。

『保存科学』50号のインターネット公開

第50号のダウンロードページ

 『保存科学』は主に自然科学的見地に立脚した、文化財保存に関わる当研究所の調査や研究成果を公表する目的で発行されている紀要です。当誌は昭和39年の発刊以来、着実に発行を重ね、本年3月末に第50号を公表するに至りました。当誌の歴史は、まさに国内における“保存科学”の歴史そのものであると自負しております。なにしろ、発刊当時は文化財保存に自然科学の手法を導入するという考え方そのものが定着しておらず、従って“保存科学”という言葉も全くと言っていいほど世間に認知されておりませんでした。現在、この言葉が広く知られるようになったのは、先輩方の絶え間ない努力と苦労によるものであり、我々はそれを引き継いで、これからも“保存科学”が社会にとって有益な学問であるために尽力しなければと思っている次第です。『保存科学』は印刷部数が限られているため、冊子体では関係機関などへの配布のみとなっていますが、幅広く接していただくために、第1号からの全ての掲載記事をPDF版としてインターネット上で公開しております。第50号についても先日より公開を始めました。ご関心のある方は是非アクセスし(http://www.tobunken.go.jp/~hozon/hozon_pdf.html)、我々の活動の一端に触れていただくことを切望いたします。

「博物館資料保存論対策講座」の開催

講義の様子

 平成24年度より、大学の学芸員養成課程において「博物館資料保存論」が2単位の必修科目になります。これは、学芸員を目指す学生に、自然科学的基礎をベースとした資料保存に関する知識を求めることを意味します。しかし、同課程を持つ大学や短大は、現在300を超える一方、この科目に即応出来るだけの専門性を有する人材は限られているのが現状です。そのため、専門外の教員が担当することになり、講義の構成や内容づくりに戸惑うケースが続出するのではと我々は考えました。そこで、開講に向けた準備に役立てていただくことを目的とし、3月8日から3日間、表題の講座を開催し、同科目の担当ことが決定した方を対象に、特に保存環境に関連する15コマの講義を行い、必須となる内容についての情報を提供しました。講座には、大学教員や非常勤での担当を行う学芸員など、全国から81名が参加しました。今回はじめて、このような講座を開いたことで、参加者からは好評をいただいた一方、多くの方が持っている戸惑いを我々は強く感じました。これまで、このような方々との関係は決して密なものではありませんでしたが、これからは保存環境を研究する部門として、積極的に関わっていかなくてはならないと実感しました。

「資料保存地域研修」開催

研修会の様子

 表題の研修会は、我々が地方に出向き、文化財保存担当者を対象にその基礎知識を習得していただくことを目的に講義を行うものです。15回目となる今回は12月13日、高知県立歴史民俗資料館において実施しました(主催:高知県教育委員会および東文研)。この研修では例年、温湿度や空気環境などを各論的に取り上げるのですが、今回は主に生物対策に焦点を絞って講義を行いました。これは、高知では気候的な要因などから、虫やカビの問題と対策が文化財保存担当者にとって懸案になっていることが大きな理由です。朝賀浩・文化庁美術学芸課文化財管理指導官、岡本桂典・高知県立歴史民俗資料館学芸課長、三浦定俊氏・文化財虫害研究所理事長(東文研名誉研究員)、佐野千絵・東文研保存修復科学センター保存科学研究室長の4名が講義を行い、それぞれの専門、立場から話をしていただきました。
 研修会には、広い高知県内から非常に多くの方にご参加いただき、質疑応答でも、活発な質問や議論が交わされ、関心の高さを実感しました。この研修は、地域の方の要望にお応えして実施しておりますので、ご希望がありましたら遠慮なくお知らせください。

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