研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


研究会「東南アジアの遺跡保存をめぐる技術的課題と展望」の開催

総合討議の様子

 東南アジア5カ国より考古・建築遺産の保存修復に携わる専門家をお招きして、11月13日に東文研セミナー室にて標記研究会を開催しました。各国における遺跡保存をめぐる様々な技術的課題について発表いただくとともに、新たな協力の可能性をめぐって意見交換を行いました。これまでに遺跡整備の実践例を多数有するインドネシアとタイ、また特に近年、新技術の導入が目覚ましいカンボジア、ベトナム、ミャンマーからの具体的事例紹介をもとに、考古遺跡や歴史的建造物、博物館等における文化遺産保護状況を広く俯瞰する機会となりました。
 インドネシアからはHubertus Sadirin 氏(ジャカルタ首都特別州文化財諮問専門委員会技術指導官)、タイからはVasu Poshyanandana 氏(文化省芸術局建造物課主任建築家・ICOMOSタイ事務局長)、カンボジアからはAn Sopheap氏(APSARA機構アンコール公園内遺跡保存予防考古学局・考古室長)、ベトナムからはLe Thi Lien女史 (ベトナム社会科学院考古学研究所・上席研究員)、ミャンマーからはThein Lwin氏(文化省考古・国立博物館局・副局長)にお越しいただきました。
 総合討議においては、出土遺構の保存方法、修復における新旧材の整合性、建造物の耐震対策、有形的価値と無形的価値との保存のバランス、管理体制・人材育成の問題等について活発な議論が行われました。これらの国々は、いずれも熱帯あるいは亜熱帯地域に属するという気候環境的な類似性にとどまらず、材料の劣化要因や対策面でも共通する課題を抱えています。域内外でのさらなる連携を視野に入れて情報共有、協力を継続していくことを確認しあう機会となりました。今後も各国との対話を深めながら支援のニーズを見定め、より有効な協力のあり方を考えていきたいと思います。

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歴史的木造建造物保存に関するミャンマー文化省職員招聘研修

大工道具の違いについての意見交換(竹中大工道具館)
檜皮葺体験の様子(京都市建造物保存技術研修センター)

 文化庁委託「ミャンマーの文化遺産保護に関する拠点交流事業」の一環として、7月29日から8月6日までの日程で、ミャンマー文化省考古・国立博物館局より4名の専門家を本邦に招聘し、歴史的木造建造物保存に関する研修を実施しました。このプログラムは、一昨年度よりミャンマー国内において継続中の現地研修と一連をなすもので、わが国における文化財建造物保存修理の実践を具に理解してもらうことを目的としています。保存修理制度の歴史や調査記録の手法、虫害対策、耐震対策、大工道具といったテーマの座学に加え、修理工事現場における見学や痕跡調査等の実習、修理技術者との意見交換等を通じて、木造建造物保存修理に関する知見を広めてもらうとともに、ミャンマーでも応用可能な手法等についても共に検討する機会となりました。
 短い滞在期間中に、幾つもの修理工事現場に加えて、博物館や史跡公園、伝建地区といった文化遺産を訪問し、最終日には一人ひとりに成果発表を行ってもらうというハードなスケジュールでしたが、研修生たちは熱心に学び、多くのことを吸収していました。両国の気候風土や建築文化の違いを感じつつも、通底する文化の共通性を意識させられる場面も多かったようです。自国の文化遺産保護の今後に活かすべく、それぞれの現場で様々な疑問・質問を熱心に投げかけていたことは、日本側の技術者・専門家にも強い印象を与えたようでした。最後に、今回の研修にご協力いただいた、(公財)文化財建造物保存技術協会、京都府教育庁文化財保護課、竹中大工道具館ほか、各機関・関係者の皆様に、この場を借りて心からお礼申し上げます。

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カンボジア、タネイ遺跡における三次元写真測量

デジタルカメラのWifi機能とiPadを使用した遠隔シャッター操作による高所撮影
オープンソースのソフトウェアを用いたデータ処理

 国際的な支援により様々な手法での修復活動が進むアンコール遺跡群の中で、タネイ遺跡は、過去に一度も本格的な修復の手を加えられることなく、鬱蒼とした森の中で静かに往時の姿をとどめています。東京文化財研究所は、この遺跡の価値を損なわず、かつ観光を含む活用面にも配慮した適切な保護を図るため、アプサラ機構による保存整備事業計画策定への技術的支援を継続しています。
 昨年より着手した同遺跡でのSfMを用いた三次元写真測量は、できるだけ安価かつ簡便に現地スタッフが実行可能な遺跡の現状記録手法の確立を目指して試行してきたものです。5月27日から6月2日までの日程で実施した今次ミッションでは、同機構スタッフとともに、内回廊内の全ての遺構の写真撮影と標定点のトータルステーション測量を行い、これらをオープンソースのソフトウェア(Visual_SfMSfM georefMeshlab)を用いて処理することで、内回廊内をカバーする遺跡の三次元モデルを作成しました。現在、モデルの精度を検証中ですが、この手法が確立されれば、特別の機材や予算を必要としない記録方法として、アンコール遺跡群だけでなく、他の途上国においても応用可能なものとなることが期待されます。
 なお、同作業の概要と進捗状況については、6月4、5両日にアプサラ機構本部にて開催されたアンコール遺跡救済国際調整委員会(ICC)第24回技術会合において報告を行いました。遺跡全域のモデル作成を含む基礎データ収集は、本年度中に完了する予定です。

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ブータン王国の伝統的建造物保存に関する拠点交流事業

ブータン内務文化省文化局リンジン局長(左)と東文研亀井所長(右)
ワークショップ参加者(国立図書館前庭にて)

 2012年度より文化庁委託事業として継続してきた標題の拠点交流事業の締め括りとして、12月20日から24日まで最終のミッションを現地に派遣し、同国内務文化省文化局と共同で事業総括のためのワークショップを開催しました。民家等の伝統的版築造建造物の適切な保存と耐震性能向上を目指し、3年間にわたり実施してきた工法調査・構造調査の成果を両国メンバーより発表するとともに、今後ブータン側が取り組むべき作業の展望等をめぐって、関係者間で意見交換を行いました。同局局長と東文研所長とが共同議長を務めたこのワークショップには、本事業の直接のカウンターパートである同局遺産保存課のほか、同省災害管理局、建設省技術サービス課、ブータン基準局、国立図書館等から、関係者が出席しました。
 工法調査班は、これまでに約60件の民家や寺院、それらの廃墟、廃村、新築現場等で行ってきた実地調査や職人への聞き取りをもとに、伝統的な工法(補強を意図したと思われる技法を含む)を整理しながら、調査項目の標準化と、建築形式の類型と編年に関する試案について報告しました。他方、構造調査班は、破損状況から窺える構造的弱点の克服を目的とした、材料試験、常時微動計測、及び引き倒し実験の結果に基づいて、構造強度の基本的評価手法と、構造解析の試験的シミュレーションを提示しました。さらにこうした調査を今後どのような手順で継続・発展させ、構造的安定性判定のためのガイドライン策定に結びつけていくか、という中長期的なロードマップを提案するとともに、その間にも急速に失われていく既存建物の保存方法についても議論を行いました。
 3年間の共同調査は、同国の伝統的建築技術を理解するための序章に過ぎず、その歴史的価値評価と適切な保存策の確立のためには、いまだ長い道のりを残しています。しかしその一方で、地震や豪雨等の自然災害や、急激な都市化の波によって、有形無形の文化遺産が失われていく様子も目の当たりにしてきました。私たちに出来ることは、国際的視点からブータンの文化遺産保護を支援することであり、今後も同国の人々と協力しながら努力していきたいと思います。

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歴史的木造建造物保存に関するミャンマー文化省職員招聘研修

瓦を寄進する研修生(東大寺大仏殿)
修理工事の現場説明(姫路城)
乾拓の実習(天野山金剛寺)

 文化庁委託による「ミャンマーの文化遺産保護に関する拠点交流事業」で昨年度より継続中の歴史的木造建造物保存研修プログラムの一環として、日本国内での第1回招聘研修を実施しました。今回は、既にミャンマー国内での研修に参加しているメンバーの中から、ミャンマー文化省考古・国立博物館局の職員3名が、8月21日から30日までの日程で来日しました。わが国における文化財建造物保存の考え方と修理事業の実情等への理解を深めてもらうことを主な目的とする本研修では、基本的テーマに関する座学の他、関西方面をはじめとする文化財建造物修理工事現場を訪問し、設計監理を担当する修理技術者の方々からお話を伺いながら作業の手順や調査・計画の具体的手法等を学んでもらいました。
 初めて目にする大規模な修理工事の現場や、整然と並べられた解体部材の状況などは、研修生たちに強い印象を与えた様子で、現場での熱心な質疑や実習等を通じて、多くの知見を得られたようです。とりわけ、修理の過程に伴って綿密に行われる建物の調査や記録の方法、大工職人の丁寧な仕事ぶり等には大いに関心が示されていました。無論、わが国で行われている方法の全てが直ちにミャンマーに移植できるものではありませんが、今後ミャンマーでの歴史的木造建造物保存修復を担っていくべき彼らが、自らの文化遺産をいかにして将来に護り伝えていくかを考える上で、貴重な経験になったことと思います。引き続き協力事業を実施することで、同国の文化遺産保護に貢献していきたく思います。

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カンボジア・タネイ遺跡における三次元写真計測

データ処理に取り組むアプサラ機構のスタッフたち
SfMによるタネイ遺跡内回廊西辺西側の三次元モデル

 アンコール遺跡群の保存管理を担当するアプサラ機構との共同研究・協力事業の一環として、7月21日から30日までの日程で、タネイ遺跡において同機構のスタッフとともに三次元写真計測を行いました。アプサラ機構が近年中に着手を予定しているタネイ遺跡の保存整備事業に向けた計画検討のための基礎資料作成に対する技術支援として、写真測量による三次元計測をもとに、立面図と散乱石材の記録のための一連の手順の確立を目指したものです。
 三次元計測の技術は日進月歩ですが、今回、私たちが試行したのはSfM(Structure from Motion)という手法で、高価な機材やソフトウェアを必要としない比較的簡便な方法であることが特筆されます。現場ではスマートフォン等の簡易なカメラで遺跡の現状写真を網羅的に撮影し、それらのデータをオープンソースのソフトウェアを用いて処理することにより、対象物の三次元モデルを得ることができます。一連の作業を通して得られたモデルの精度については、更に詳細な検証を要しますが、基礎資料として利用可能な水準にあるものと考えています。
 今後、カンボジア側がこのような手法を用いて寺院全域を記録していく過程で、実用面ではなお乗り越えるべき課題が残されているものと思いますが、特別な予算や機材を準備することが難しい同国のような発展途上国の遺跡保存の現場において、現地のスタッフ自らが日常業務の範囲内で遺跡の現状を記録できる手法として発展していくことが期待されます。

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飛鳥&天平衣装ファッションショー『平城宮ことはじめ』への参加

ファッションショーの様子
集合写真

 2014年4月22日から5月18日まで東京国立博物館で開催された特別展「キトラ古墳壁画展」の関連イベントとして、5月8日に同館講堂にて「飛鳥&天平衣装ファッションショー『平城宮ことはじめ』」が開催されました(主催:明日香村、文化庁、東京国立博物館、東京文化財研究所、奈良文化財研究所、朝日新聞社、協力:早稲田大学創造理工学部中川研究室)。東京文化財研究所からも13名のスタッフがモデルとして参加し、手作りの古代衣装に身を包むという、初めての貴重な体験をさせていただきました。これらの衣装はすべて古代衣装研究家、山口千代子先生(天平衣装企画)の手になるもので、和銅3年(710年)の平城宮内裏を舞台とした歴史の一幕が、奈良文化財研究所の杉山洋企画調整部長の企画演出により、きらびやかに再現されました。
 私自身もモデルの一人として参加させていただき、関係者一同が一丸となって一つの舞台を創り上げるという、楽しい緊張感と高揚感を味わいながら、古代世界に想いを馳せました。美しい衣装を身に付け、髪を結い上げ、沢山の装飾品をまといながら、往時の宮中の人々がどのように振る舞っていたのかと想像しようとしましたが、自分の想像力では全く追いつくことができず、歴史を学ぶことの難しさを改めて、身を以て実感するに至ったという体験でした。関係者の方々のご尽力に心から敬意を表するとともに、これからも更に興味を持って、歴史と向き合っていきたいと思っています。

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ミャンマー文化省職員の日本招聘及び研究会開催

研究会「ミャンマーの文化遺産保護に関する現状と課題」
今城塚古墳公園

 2月17日から22日までの日程で、ミャンマー文化省考古・国立博物館局職員3名を日本に招聘しました。18日には東京文化財研究所において、「ミャンマーにおける文化遺産保護の現状と課題」と題した研究会を昨年度に引き続き開催したほか、関東及び関西地域に所在する様々なカテゴリーの文化遺産(建造物、美術工芸品、史跡、重要伝統的建造物群保存地区等)を見学するとともに、各地の保存管理担当者よりお話をうかがい、意見交換を行いました。
 研究会では、ミャンマー側の3氏から、ご自身が携わる文化遺産保護に関する取り組みを中心にご発表いただきました。ピュー古代都市での発掘調査や遺跡保存の状況、ベイタノーでの保存管理計画や住民啓発活動、またインワのバガヤ僧院での修理・補修工事について、多数の写真を交えながらご報告いただきました。日本側からは、東京及び奈良の文化財研究所から3名の専門家が、ミャンマーとの間で実施している協力事業の進捗と今後の展望について報告し、会場との間でも活発な質疑応答が行われました。
 国内の文化遺産関連施設見学では、東京国立博物館、大塚・歳勝土遺跡公園、横浜市歴史博物館、仁和寺、法隆寺、奈良文化財研究所・平城宮跡、京都府南丹市美山町重要伝統的建造物群保存地区、今城塚古墳・古代歴史館・新池埴輪製作遺跡等を訪問し、わが国の文化遺産保護の現状について理解を深めていただきました。

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ミャンマーにおける第1回木造建造物保存研修

文化財保護に関する基礎講義
インワ・バガヤ僧院での実測調査

 文化庁委託文化遺産国際協力拠点交流事業の一環として、2月4日から12日までの日程で、第1回の木造建造物保存研修をマンダレー及びインワにて実施しました。本研修は、ミャンマーの伝統的建造物の中でも未だ十分な保護の対象となっていないコンバウン王朝時代の木造僧院建築に焦点をあて、その適切な保存に向けた基礎調査、記録・図面作成、保存管理・修理計画策定等をテーマに実施するもので、主に同国文化省考古・国立博物館局の若手から中堅のスタッフを対象として、3年間で全5回の現地研修を予定しています。第1回研修には11名の研修生が参加し、建築史・修復史や文化財保護制度等に関する基礎講義の後、インワのバガヤ僧院において、建造物調査のもっとも基本となるスケッチと平面実測を行いました。
 歴史的な木造建造物の保存及び修理に関して我が国は豊富な専門知識と経験を蓄積していますが、ミャンマーの伝統的な建築技法や様式等に関しては調査研究が十分ではなく、未解明の点が多く残されています。往時の建造物がどのような寸法体系で、どのように設計され、建築されたのか、といった視点をもって、研修生とともに調査に臨むことを通じて、ミャンマーにおける木造建造物の史的再評価も目指しています。研修生たちは非常に意欲的に参加しており、今後の一連の研修の中で必要な技術と視点を身に付けていくことが期待されます。

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カンボジア・タネイ遺跡での第4回建築測量研修

写真測量標定点のTS計測
ソフトウェアを用いた3Dモデルの作成

 1月17日から24日までのおよそ1週間にわたり、カンボジア・アンコール遺跡群内のタネイ遺跡を対象とした第4回の建築測量研修を実施しました。昨年度から始めた本研修は、今回で最終回となり、アプサラ機構、プレア・ヴィヒア機構、及びJASA(日本国政府アンコール遺跡救済チームJSAとアプサラ機構との合同チーム)から、建築学・考古学を専門とする若手スタッフが計9名、研修生として参加しました。
 今回のテーマは、境内の主要樹木の計測、及び写真測量であり、第1回からの研修を通して作成してきた遺跡平面図の完成と同時に、今後のリスクマップ作成や保存管理計画策定に向けた準備として、遺跡を構成する様々な要素の記録と管理のための新たな手法を学びました。トータルステーションと写真測量専用のソフトウェアを用いて、彫刻を伴う壁面や散乱石材の3次元記録を行うとともに、これらを今後、どのように遺跡管理に応用していくかという課題を全員で議論しました。最終日には各人がそれぞれの成果を発表し、2年間にわたる研修の修了証が手渡され、研修生たちに笑顔が溢れました。
 数あるアンコールの遺跡群内の中で、タネイ遺跡は、これまでほぼ手つかずの状態で残されてきた貴重な場所であると同時に、その保存管理のためには、多くの課題が未だ残されています。本研修は、カンボジア人遺跡管理スタッフに基本的な測量技術を移転すると同時に、彼ら自身の手で、遺跡を後世に護り伝えていくことを支援するための、最初のステップと位置付けています。建築測量研修はこれで終了となりますが、さらに今後も技術的支援・研究交流を継続していく予定です。

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カンボジア・タネイ遺跡での第3回建築測量研修

遺跡内地形測量の様子
等高線図と建築遺構実測図とを統合

 7月22日から8月2日までの2週間にわたり、カンボジア・アンコール遺跡群内のタネイ遺跡において第3回の建築測量研修を実施しました。本研修は、カンボジア国内で遺跡管理を担うアプサラ機構、プレア・ヴィヒア機構、及びJASA(日本国政府アンコール遺跡救済チームJSAとアプサラ機構との合同チーム)の建築・考古を専門とする若手スタッフを対象として、昨年度より全4回のコースで実施しているものであり、今回は新規1名を含む9名の研修生が参加しました。
 前回までの研修で第1及び第2周壁内の伽藍配置を計測し終えており、今回は第3周壁内の遺構及び地形を実測するためのトラバース測量から始めて、これらの基準点を用いて第3楼門及び周壁と第2周壁を囲む環濠を含む地形測量を行いました。研修生たちは2班に分かれて実測作業を行い、最終的に全員がこのデータを用いて第3周壁内の等高線図及び3次元モデル図を作成できるようになりました。第1回から参加している研修生たちは既に遺構実測と図化作業の基本的な手順をほぼ習得しており、分からないことがあっても研修生たちの間で互いに教え合い、学び合いながら、意欲的に取り組む姿が印象的でした。また最終日には、遺構測量と図面作成の技術をテーマに、全員が自らの遺跡保存業務と今後の展望等について発表し、意見交換を行いました。
 本研修を通して、遺跡測量に関する日本からカンボジアへの技術移転だけでなく、カンボジア人研修生同士の人的交流も着実に前進しているように思います。同国の遺跡の将来を担う若い人材がこのような活動によって育成されることを願い、さらに協力事業を続けていく所存です。

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ブータン王国の伝統的建造物保存に関する拠点交流事業

版築試験体からのコア抜き作業
ユタ・ゴンパ寺院での職人への聞き取り調査

 文化庁の委託による本事業では、ブータンの伝統的建造物、なかでも版築造の民家及び寺院を対象に、伝統的な工法の理解と耐震性・安全性の評価、向上という課題について、同国の内務文化省文化局遺産保存課をカウンターパートとして昨年度より取り組んでいます。建築技術や構造、材料に関する調査、実験を現地側スタッフと共同で行うことにより、研究交流と人材育成に寄与しようとするものです。
 本年度第1回目の現地調査を6月21日から7月3日までの日程で実施し、合計9名の専門家を派遣しました。ティンプー、ウォンデュ・ポダン、パロの各県において、伝統的工法による版築試験体の作製とそれを用いた材料強度試験、寺院・民家及びその廃墟を対象とした実測調査や工法調査、常時微動計測等を行ったほか、一昨年の地震で被災した版築造寺院の修復現場や、版築造住宅の新築現場を訪れ、職人への聞き取りと併せて、文化財保存修復や建築技術の現状に関する情報を収集しました。
 近年、特に首都ティンプーでは、このような伝統的建造物が急速に失われつつありますが、その一方で、祖先から受け継いできた技術を何とか後世に残し伝えたいと願う人々の思いも、今回の調査を通して感じられました。それらを文化遺産として位置付け、適切に保存継承していくために、これからも技術的支援と人的交流を継続していきたいと思います。

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カンボジアにおける石造建造物の生物劣化に関する研究会開催および遺跡測量研修

アンコールにおける石造遺跡の保存に関する研究会
タネイ遺跡における第2回測量研修

 東京文化財研究所は、2001年よりカンボジアのアンコール遺跡群・タネイ遺跡を主なフィールドとして、石造文化財の保存に関する調査研究をアンコール地域保存整備機構(APSARA機構)と共同で実施してきました。その成果を総括・共有するため、1月14日、APSARA機構本部において「アンコールにおける石造遺跡の保存に関する研究会」を開催しました。これまで調査に参加してきた日本・カンボジア・イタリア・韓国の専門家が参加した本研究会では、石材表面に繁茂する生物種の影響観察とその制御を目的としてこれまで継続してきた調査研究のまとめとして、地衣類の分類学的研究、石材の物性変化に関する定量的・定性的研究、環境と生物種との関連に関する研究等についての発表と、今後のより良い遺跡保存に向けた意見交換が行われました。
 一方、1月10日から18日までの間、第2回建築測量研修をタネイ遺跡にて行いました。APSARA機構からの新規参加者2名を含む計11名を研修生として、昨年7月の第1回研修で作成した図面のチェックとトータルステーションを用いた測量作業の続きを3班に分かれて行い、伽藍中核部の平面実測をほぼ終えたところです。
 今後は、これらの成果を遺跡保存にどのように活かしていくかをさらに検討しながら、研究協力と技術移転・人材育成を継続していく予定です。

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ブータン王国の伝統的建造物保存に関する拠点交流事業

土色帳を用いた版築壁体の観察記録作業
ティンプー市内の版築造寺院における常時微動計測調査の様子

 文化庁より委託された文化遺産国際協力拠点交流事業の枠組みによるブータン王国における版築造建造物の保存に関する現地調査のため、今年度第二回目の専門家派遣を11月21日から12月2日まで行いました。事業のカウンターパートである同国内務文化省文化局遺産保存課と共同で、二班に分かれ、首都ティンプーとその近郊において、主に以下のような活動を行いました。
 工法調査班:版築工法による伝統的建築技術の実態を明らかにするため、複数の職人への聞き取り調査を行うとともに、版築造による民家や寺院およびその廃墟を対象に、補強技法等の目視観察および実測による調査を実施しました。
 構造調査班:版築造壁体の構造体としての性能を定量的に把握するため、ブータン側が事前に作製した供試体に対する圧縮強度試験を行いました。また、版築造の小規模な寺院建築2棟を対象に常時微動計測を実施し、その構造特性を分析するための基礎的データを取得しました。
これらの調査実施に加えて、過去の日本からの協力事業も含むこれまでの調査成果をブータン側と共有するとともに、日本における民家等保存の取り組みについて紹介することを目的に、ワークショップを開催しました。
 このような活動を通じて、伝統的建造物およびその建築技術の適切な保存継承と、地震時における安全性向上という課題の両立に向けた方向性を探るとともに、文化遺産保存を担当する現地人材への技術移転にも貢献することが本事業の目指すところです。ブータン側スタッフの意欲は高く、建築調査と構造解析に関する基礎的な手法のひとつひとつを伝えながら、引き続き協力関係を深めていきたいと思います。

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カンボジア・タネイ遺跡における建築測量研修

トータルステーション操作方法の実習
遺構実測の様子

 カンボジア政府アンコール地域遺跡整備機構(アプサラ機構)との協力協定に基づく新規の人材育成プロジェクトとして、アンコール遺跡群内のタネイ遺跡における建築測量研修を開始しました。本研修は、GPSとトータルステーションを用いた遺構実測と、取得したデータをCADに移行して行う図化作業までの一連の基本的手順をカンボジア人スタッフに習得してもらうことを目的とするもので、現場および室内での実習と講義を組み合わせたトレーニングコースを準備しています。来年度にかけて全四回を実施予定の研修の初回となる今回は、7月30日から8月3日までの5日間にわたり行われ、アプサラ機構のほか、プレアヴィヒア機構、JASAチーム等から建築及び考古を専門とする若手・中堅スタッフが計12名参加しました。研修生たちは技術を習得しようと皆熱心に取り組んでおり、当面は遺跡全体の現状平面図を完成することを目標にしています。

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インドネシア・パダン歴史地区文化遺産復興支援

被災したパダン旧市街の町並み
現地ワークショップ風景
宮城県気仙沼・被災地現場見学

 2009年9月に発生した西スマトラ沖地震により被災した西スマトラ州パダン市歴史地区における文化遺産復興に向け、東京文化財研究所は同年11月以来、支援活動を継続してきました。本年度は文化庁委託による緊急支援事業として、昨年3月11日の東日本大震災の経験も踏まえて、建造物耐震及び防災対策、危機管理に重点を置いた現地ワークショップ開催を含む調査を2012年1月4日から13日にかけて行い、またこれに引き続き、インドネシア人専門家招へいを1月19日から25日にかけて実施しました。
 ワークショップでは被災文化遺産復興に関する日本の取り組みを紹介するとともに、市内歴史地区の複数の現場において、耐震対策や町並み保存に向けた意見交換を行いました。また、現地調査では、歴史的町並み及び建造物の復興状況調査に加え、基礎的な構造調査による耐震補強の提案、町家の形式調査等を行いました。他方、日本への招へいにおいては、東北をはじめとした被災地域での復興過程と防災対策の実情について、現地で活動する方々から様々なお話を伺うことができました。こうした一連のプログラムを通じて、震災から2年が経過したパダンにおける文化遺産復興に向けた課題も、より明確になってきたところです。震災が引き金となって貴重な歴史的遺産が失われてしまうことのないよう、今後の具体的行動計画策定に向け、引き続き協力を続けていく必要があります。

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