研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


国際シンポジウム「紛争と文化遺産-紛争下・紛争後の文化遺産保護と復興-」の開催

最近のイラクでの遺跡破壊状況について講演するイラク考古遺産庁H. O.アルマモリ部長

 文化遺産国際協力センターでは、アフガニスタン、バーミヤーン遺跡での保護活動をはじめとした紛争状況下・状況後において危機に瀕する文化遺産を保護する取り組みを行っています。近年、シリアやイラクなど内戦状況下にある国々での文化遺産の破壊も大きく報じられています。こうした状況を踏まえて、2013年10月の「シリア復興と文化遺産」、2014年6月の「シリア文化遺産の保護へ向けて」に引き続き、国際シンポジウム「紛争と文化遺産-紛争下・紛争後の文化遺産保護と復興-」を2016年1月24日に東京文化財研究所において開催しました。
 今回のシンポジウムでは、アフガニスタンおよびイラク現地において文化遺産保護に取り組んでいる専門家を両国からお招きし、これまでの両国における文化遺産保護活動、現在まさに直面している危機、そして今後求められる国際的な支援についてお話しいただきました。また、アフガニスタン、レバノン、シリア、イラク等における日本人専門家によるこれまでの文化遺産保護活動についても紹介されました。
 当日は100名を超える方々にご参加いただいたほか、各種マスコミにて本シンポジウムでの講演内容が取り上げられ、紛争下における文化遺産保護への関心の高さをうかがわせました。文化遺産国際協力センターでは今後も文化遺産を通じた国際貢献を継続していく予定です。

シルクロード世界遺産登録に向けた支援事業:キルギス共和国における専門家育成のためのワークショップ

小型UAVを操縦する研修生

 文化遺産国際協力センターはユネスコ・日本文化遺産保存信託基金による「シルクロード世界遺産登録に向けた支援事業」に2011年より参画しています。この事業は中央アジア5か国が目指すシルクロード関連遺産の世界遺産一括登録への支援を目的とし、日本及び英国の複数の研究機関が共同で実施しています。2014年、カザフスタン及びキルギスが中国と共同申請した「長安・天山回廊」はシルクロードとして世界遺産に登録されましたが、ウズベキスタンとタジキスタンによる共同申請、トルクメニスタンによる単独申請が今後も予定されています。また、5か国間の緊密な協力による持続的な文化遺産マネジメント体制の構築が今後の課題として残されています。このため、ユネスコは2014年から2017年にかけて同事業の第2期を実施することとし、継続して支援を行うことを決定しています。
 キルギスを対象とした支援を担当することとなった文化遺産国際協力センターでは、10月2日から10日にかけて考古・建築遺産を対象とした文化遺産ドキュメンテーション技術の向上と遺産のマネジメントプラン作成に向けたワークショップをキルギス南部のウズゲン市で開催しました。まず、GNSS(衛星測位システム)受信機とGIS(地理情報システム)ソフトウェアを用いた遺跡分布図の作成手法及び小型UAV(無人航空機)による航空写真と3次元モデル生成ソフトウェアを用いた考古遺跡の地形測量や建築遺産の高精細3次元モデル作成に関する講義とフィールド実習を実施しました。その後、文化遺産マネジメントプラン作成の模擬演習をグループワーク形式で行いました。
 文化遺産国際協力センターの本事業への参画は今年度で終了となりますが、今回のワークショップで利用したGNSS受信機や小型UAV等の機材はユネスコからキルギス側に供与されています。これらの最新機材を活用した文化遺産ドキュメンテーションが、今後キルギスで進展することが期待されます。

キルギス共和国及び中央アジア諸国における文化遺産保護に関する拠点交流事業

アク・ベシム遺跡出土土器の実測実習

 文化遺産国際協力センターは、文化庁の文化遺産国際協力拠点交流事業の枠組みに基づき、2011年度より、キルギス共和国及び中央アジア諸国における文化遺産保護への協力を実施しています。これまで、キルギス共和国において、「ドキュメンテーション」、「発掘」、「保存修復」、「史跡整備」をテーマに文化遺産保護に関連する分野の人材育成ワークショップを行ってきました。
 本事業の最終年度にあたり、本年は、7月に日本国内での史跡整備と展示に関する視察及びワークショップを実施し、それに引き続き、10月27日から11月1日までの6日間、第8回ワークショップ「展示と調査報告書作成に関する人材育成ワークショップ」をキルギス共和国のビシュケクで実施しました。このワークショップには、キルギスから12名の研修生が参加しました。
 キルギス国内の博物館は未だ十分な設備と人材が整えられているとは言い難いのが現状です。このため、ワークショップでは博物館における展示技法、照明や温湿度管理及び展示室の管理手法に関する講義を行いました。また、それに続いて、遺物実測や観察表作成等を含む報告書作成の技術についての講義・実習を行いました。あわせて、近年、考古学調査手法の多様化により、調査報告書に掲載される内容も多種の自然科学分析が含まれるようになってきたことから、2012~2013年度にかけて発掘研修を行ったアク・ベシム遺跡でサンプリングした動植物遺存体の分析手法に関する講義・実習も行いました。
 本枠組みでのワークショップ開催は今回で終了となります。しかしながら、キルギス及び中央アジア諸国の博物館や保存修復施設、史跡整備の現状を鑑みると、今なお文化遺産保護全般に関する国際支援が必要です。文化遺産国際協力センターは、今後もひき続き、中央アジアの文化遺産の保護を目的とした様々な文化遺産国際協力事業に取り組んでいく予定です。

第12回バーミヤーン遺跡保存専門家会議

岡崎甚幸教授(武庫川女子大学)による新博物館構想の模型展示

 東京文化財研究所と奈良文化財研究所は、UNESCO及び国内外の研究機関と連携して、アフガニスタン、バーミヤーン遺跡の保護に貢献するため、2003年より同遺跡の保存事業を積極的に展開してきました。現地アフガニスタン人専門家と各国専門家が一堂に会して、この保存事業の各年度の成果公表と次年度方針を協議するための会議が例年開催されています。本年はUNESCOとイタリア環境保護調査研究所(Italian Institute for Environmental Protection and Research)の共催でイタリア、オルビエト市で12月10日~11日にかけて開催されました。
 会議にはアフガニスタン、イタリア、ドイツ、フランス、ベルギーの各国専門家のほか、UNESCO、ICOMOS、UNOPS、世界銀行等の国際機関からも専門家が参加しました。日本からは東京文化財研究所、奈良文化財研究所、和光大学、筑波大学、武庫川女子大学から専門家が参加しました。継続的に行われてきたバーミヤーン壁画や大仏片の保護の現状が議論の中心となりましたが、中でも2013年にドイツ隊が東大仏に設置した見学者の安全確保のための「足」状の構築物は大仏再建につながるものとして各国専門家から様々な意見が提出されました。その他、昨年から日本も積極的に計画案を提示している博物館/文化センター施設構想、2013年より開始されたシャフリ・ゾハークやシャフリ・ゴルゴラ等バーミヤーン周辺遺跡の保存活動の現状、開発と文化遺産保護の調和に向けた課題、ヘラートのミナレット等アフガニスタンの他の文化遺産の保護の現状についても詳細な討論が行われました。

ユネスコ/日本信託基金プロジェクト「シルクロード世界遺産登録に向けた支援事業」―タジキスタン共和国における人材育成―

文化遺産(フルブック遺跡)での測量実習の様子
CADを使ったドキュメンテーション講習の様子

 文化遺産国際協力センターは中央アジアのシルクロード沿い世界遺産登録に向けた支援を目的にUNESCOの受託を受け、2012年度より中央アジア・タジキスタン共和国において、文化遺産のドキュメンテーションをテーマに一連の人材育成ワークショップを実施しています。
 2012年度に引き続き、今年度も11月7日から11月14日までの8日間、タジキスタン共和国文化情報省と共同で第2回目の人材育成ワークショップを実施しました。今回の研修では世界遺産にノミネートしている中世の都城址「フルブック遺跡」を対象に実習を行いました。実習の内容として、講師として日本から専門家を招聘し、機材(トータルステーション)を使用した測量、CADを使ったドキュメンテーション、GPSとGISを用いた分析に関する研修を行っています。
 今回のワークショップには国立古代博物館から2名、歴史・考古・民族学研究所から2名、歴史文化遺産保護活用局から1名、現地フルブック博物館から3名、クローブ博物館から1名、計9名の若手専門家が研修生として参加しました。参加者は約1週間にわたる集中講義・実習を経て、ドキュメンテーションのための測量計画と実施、その分析に関わる専門的プロセスを学習し、また、本事業に伴って寄贈された測量機材やGPS機材などの使い方を習得することが出来ました。研修修了者はこの経験と提供機材を当該国における文化財の調査や保護、そのドキュメンテーションに役立てることになります。文化遺産国際協力センターは今後も引き続き、中央アジアの文化遺産の保護を目的とした様々な人材育成ワークショップを実施していく予定です。

バーミヤーン遺跡保存事業-第11次ミッション-

フォラディ谷で新たに発見された石窟

 文化遺産国際協力センターは、2003年よりアフガニスタン情報文化省及び奈良文化財研究所等と共同でバーミヤーン遺跡保存事業を行っています。アフガニスタン現地の治安情勢を鑑み、2010年に実施した第10次ミッション以来現地調査を中断せざるを得ない状態が続いていましたが、9月28日から10月6日にかけて約3年振りとなる第11次ミッションを派遣しました。
 3年間の空白を埋めるべく実施された今回の予備的調査では、まずバーミヤーン谷やフォラディ谷での仏教壁画や石窟の保存状態を確認しました。併せて、気象観測データや石窟内の温湿度等の環境計測データの回収も行いました。これらの基礎情報に基づいて、来年度以降のミッションでの保存修復活動をより具体的に計画・立案する予定です。また、過去3年間進んだ開発に伴う考古遺跡の遺存状態を確認するために考古遺跡の踏査も行いました。特にフォラディ谷の踏査ではこれまでの調査で記載されていなかった新たな石窟寺院が発見されました。この石窟はフォラディ谷では最古級の6世紀後半に年代づけられる可能性があります。そのほか、武庫川女子大学の協力を得て進められている新博物館構想に向け、博物館建設予定地の景観に関する基礎情報も収集しています。現地バーミヤーン大学の学生を対象としたバーミヤーン遺跡の歴史や文化、これまでの保存活動に関するレクチャーも実施し、多くの参加者が集まりました。アフガニスタン現地で文化遺産保護を担う新たな世代の登場が大いに期待されます。

シルクロード世界遺産登録に向けた支援事業:タジキスタン共和国における専門家育成のためのワークショップ

測量実習風景

 文化遺産国際協力センターは、2012年9月に実施したカザフスタン共和国とキルギス共和国での人材育成ワークショップ(ユネスコ・日本文化遺産保存信託基金による「シルクロード世界遺産登録に向けた支援事業」、2012年9月活動報告を参照)に引き続き、タジキスタン共和国において考古遺跡測量に関するワークショップを11月2日から7日にかけて実施しました。世界遺産登録を目指す中世都城址フルブック遺跡(9~12世紀)を対象にタジキスタン文化省及びフルブック博物館と共同で実施した今回のワークショップには、タジキスタン側から若手専門家を中心に10名が研修生として参加しました。測量に関する基礎的な講義を実施した後、ユネスコからタジキスタン側に供与されたトータル・ステーションを用いて、発掘区設定や地形図の測量に関する実習を行いました。今回の短期間の研修では、参加した研修生が測量を完璧にマスターするまでには至っていません。しかし、自前の機材に習熟しようとする研修生の意欲には並々ならぬものがありました。現地若手専門家の測量技術向上のため、文化遺産国際協力センターは来年度もタジキスタンでの支援事業を継続する予定です。

シルクロード世界遺産登録に向けた支援事業:カザフスタン共和国とキルギス共和国における専門家育成のためのワークショップ

地下探査実習
トータル・ステーションを用いた測量実習

 現在、中央アジア5カ国および中国は、2014年度のシルクロード関連遺跡の世界遺産登録を目指し様々な活動を行なっています。この活動を支援するために、文化遺産国際協力センターは、昨年度よりユネスコ・日本文化遺産保存信託基金による「シルクロード世界遺産登録に向けた支援事業」に参加し、中央アジア各国で各種の事業を実施しています。その一環として、9月にカザフスタン共和国とキルギス共和国において、人材育成ワークショップを実施しました。
 カザフスタン共和国では、昨年度に引き続き、考古遺跡の地下探査に関するワークショップを奈良文化財研究所およびカザフスタン考古学専門調査研究機関と共同で、9月19日から24日にかけて実施しました。カザフスタン共和国から8名の専門家のほか、キルギス共和国から2名、タジキスタン共和国から1名、ウズベキスタン共和国1名、計12名が研修生として参加しました。今回も、昨年度同様、ボロルダイ古墳群(前8世紀~前3世紀)にて、地中レーダー探査の実習を行いました。昨年度のワークショップ後に、カザフスタン共和国が地下探査の機材を導入するなど、ワークショップの成果が確実に現地に根付こうとしています。今後も、今回の研修がきっかけとなって、中央アジア各国に考古遺跡の地下探査の技術が導入されることが期待されます。
 キルギス共和国でも、昨年度と同様、考古遺跡測量に関するワークショップを9月19日から25日にかけて実施しました。キルギス共和国科学アカデミー歴史文化遺産研究所と共同で実施したこのワークショップには、キルギス共和国の若手考古学者8名が参加しました。測量に関する基礎的な講義を科学アカデミーで実施した後、中世の都城址アク・ベシム遺跡に場所を移し、セクション図の作成やトータル・ステーションを用いた発掘区設定や地形図作成、遺構平面図作成、水準測量、写真測量などの実習を行ないました。昨年度、今年度と二年間に渡り、ほぼ同じ内容のワークショップを実施したため、研修生の測量技術はかなり上達しました。
 文化遺産国際協力センターは、来年度も中央アジア各国でシルクロード世界遺産登録に向けた支援事業を継続する予定です。

to page top