研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


研究会「セインズベリー日本藝術研究所と英国の文化財アーカイブ」の開催

ディスカッションの様子

 セインズベリー日本藝術研究所は1999年に英国東部のノリッジに設立され、日本の芸術文化の研究拠点として積極的な活動を展開しています。また同研究所のリサ・セインズベリー図書館は日本の芸術文化に関する図書や資料を収蔵し、その中には陶芸家バーナード・リーチや美術史研究者柳澤孝の旧蔵書も含まれ、とくに柳澤の蔵書については彼女の勤務先であった東京文化財研究所も深い縁があります。2月25日に東京文化財研究所企画情報部、アート・ドキュメンテーション学会の共催で、同図書館司書の平野明氏をお招きし、研究会「セインズベリー日本藝術研究所と英国の文化財アーカイブ」を東京文化財研究所セミナー室にて行いました。平野氏の報告はセインズベリー日本藝術研究所の紹介から英国、さらにはヨーロッパにおける日本研究のネットワークに及ぶものでした。またディスカッションでは、同研究所を拠点に研究をされた経験をもつ森下正昭氏(東京文化財研究所企画情報部客員研究員)と出光佐千子氏(出光美術館学芸員)がパネラーとして加わり、海外での日本美術研究の実体験やヨーロッパでの現代美術をめぐるアーカイブの現状について話題を拡げていただきました。フロアも交えたディスカッションの中で、日本の大学や美術館・博物館の紀要論文や展覧会カタログの閲覧が海外では難しいことが挙げられ、その電子化や国際的な連携協力といった現実的な問題をあらためて認識する機会ともなりました。

アジア太平洋諸国における無形文化遺産保護状況調査

ブータン染織博物館での染織技術伝承活動の様子
トンガ教育大学での伝承活動(カバの儀式)
トンガ教育大学での伝承活動(タパ・クロスの製作)

 無形文化遺産部では、ユネスコの無形文化遺産条約の枠組みにおける無形文化遺産の保護状況についてアジア太平洋諸国において調査を行っています。2月には、タイ、ブータン、太平洋諸国(サモア、トンガ、ニュージーランド、フィジー、パラオ)にミッションを派遣し、無形文化遺産関連の政府担当者や関係機関担当者等とヒアリングと意見交換を行いました。タイは条約批准に向けて無形文化遺産保護における国内体制を強化しており、ブータンでは条約批准後に無形文化遺産の記録やデータベース作成にとりかかり、国内法のドラフト準備に入っています。太平洋諸国は無形文化遺産条約の締結に熱心になっていますが、条約実施のための国内体制の整備に大きな課題を残しています。条約下の無形文化遺産保護に関する調査研究分野において、アジア太平洋諸国ではどんな課題があり交流や協力ができるか、引き続き調査を続けていく予定です。

東大寺法華堂の常時微動調査

東大寺法華堂建物の常時微動調査(強制加振)

 東京文化財研究所では、文化財の防災計画に関する調査研究の一環として「塑造・乾漆造仏像群の地震対策に関する研究」を進めています。現在調査を実施している東大寺法華堂においては、須弥壇及び建物の揺れ方が把握できることで、万が一強い揺れが観測されたときに、仏像群がどのように揺れるかを推測するこ とができます。
 そこで私たちは三重大学などの協力を得て、法華堂建物および須弥壇の常時微動の計測を実施しました。これから計測結果を解析することで、法華堂建物およ び須弥壇の振動特性や耐震性を評価するとともに、仏像群の地震対策に役立てていきたいと考えています。

ユネスコ文化遺産保存日本信託基金による「中央アジア諸国の文化遺産のドキュメンテーション」プロジェクト~トルクメニスタン~

歴史研究所 遺物・アーカイブ保管室
アナウ遺跡、モスク跡(15世紀)
メルブ遺跡出土仏像(5世紀、国立博物館展示)

 文化遺産国際協力センターでは、ドキュメンテーション・プロジェクト(1月活動報告参照)の実施に先立って、1月の中央アジア諸国(カザフスタン、ウズベキスタン、キルギスタン、タジキスタン)での関係者協議に続き、同じくユネスコの要請による準備ミッションを2 月14 日~18 日にかけてトルクメニスタンへ派遣しました。その主な目的は、本プロジェクトでの同国における活動内容の検討、トルクメニスタン側の研究体制やアーカイブ保管状況の確認などでした。
 同国側の関係者と今後の事業の方向性や具体的な実施内容について協議を行ったほか、「シルクロード」世界遺産登録の候補遺跡の1 つであるアナウや、古代トルクメニスタンの至宝を数多く所蔵する国立博物館なども訪問しました。トルクメニスタンにはゾロアスター教の遺跡や現在確認されている中では最も西方に位置する仏教遺跡などがあり、多種多様な文化の足跡を辿ることができます。この地は、まさにシルクロードを代表するような文化遺産の宝庫といえます。
 今後も、トルクメニスタンを含む中央アジアの文化遺産に関する研究や人材育成・技術移転などに積極的に取り組んでいく予定です。

文化遺産国際協力コンソーシアム協力相手国調査:ブータン

寺院風景
国立図書館における経典修復作業
ジグメ・ティンレイ首相表敬

 文化遺産国際協力コンソーシアムでは、2月14日から23日までブータンでの協力相手国調査を実施しました。
 本調査では、同国に対する文化遺産保護分野での協力の可能性を探ることを目的に、ブータン人にとっての文化遺産の概念から、法制度や技術面における保護の現状、国際協力の状況、協力ニーズに至る多方面の情報収集および関係機関との意見交換等を行いました。
 敬虔な仏教国ブータンでは、文化遺産はまさに人々の日常生活とともに息づいています。伝統文化の継承発展を国是とし、国情にふさわしい文化遺産保護のあり方を模索している彼等の真摯な努力を目の当たりにするほどに、日本として今後どのような協力が望まれるか、慎重にそして着実に検討する必要性を強く感じています。

研究所で総合消防訓練実施

消防本部(右から本部長:鈴木所長、副本部長:北出管理部長、中野副所長、手前は消防隊長:高栁管理室長)
救護者の搬送
消火器による放水体験と訓練参加者の様子
AEDの操作訓練の模様と、説明を真剣に聞き入る参加者

 1月25日午前10時30分から当研究所で総合消防訓練が実施された。 この日は研究所3階の給湯室からの出火を想定。初期消火、通報、避難誘導、救護などを研究所の職員で構成する自衛消防隊を中心に訓練を行い、当日研究所に勤務する職員が多数参加した。
 午前10時30分、所内に設置された火災警報機が鳴り、「火災が発生したので避難してください」の放送。自衛消防隊及び火災発見者が消火器による初期消火(模擬)を行い、119番通報(模擬)。職員を誘導し屋外に避難させた。
 その間、消防本部、救護所を設置するとともに、自衛消防隊が、煙を吸って具合が悪くなり、逃げ遅れた職員1人を担架で避難させ、文化財(模擬)を搬出した。
 鈴木所長からは、訓練における対応等への謝辞及び感想の後、明日の文化財防火デーは、文化財保護法の契機となった、法隆寺金堂壁画の焼失は原因不明のままであり、いつ、どこから出火するかわからないので、常日頃から気を引き締めてほしいとの講評があり、参加者は防災意識を高めていた。
 避難訓練終了後、消火器の種類、取扱い方法の説明を受けた後、訓練用消火器を使用した訓練も行われ、「火事だ!」との発声とともに放水訓練を行った。
 その後、研究所に設置されているAED(自動体外式除細動器)の取扱説明があり、AEDの取扱訓練を行った。参加者は真剣な表情でAEDを操作し、救命措置の重要性に対する関心の高さが感じられた。
 研究所では、1月26日の「文化財防火デー」に合わせ、関連行事として毎年、消防訓練を行っている。

/ 高栁明)

『東京文化財研究所七十五年史 本文編』刊行

『東京文化財研究所七十五年史 本文編』

 当研究所は、2006(平成18)年に創設から75周年を迎えたことを記念して、『東京文化財研究所七十五年史』を刊行すべく、編集をすすめて参りました。
 このほど、当研究所の沿革と各部、センターの調査・研究、現況、関連資料等を記録した『本文編』を刊行することができました。(B5版、607ページ、2009年12月25日発行)一昨年3月には、創設以来の事業の記録と蓄積されてきた資料の一覧を掲載した『資料編』を刊行いたしました。つきましては、『資料編』と『本文編』をあわせて、当研究所の七十五年史とします。
 編集にあたっては、各部、センターの編集委員が中心になりましたが、それだけではなく所内外の多くの機関、及び関係者に協力していただきました。ここに感謝の意を表したいとおもいます。
 本書が、75年にわたる当研究所の歴史を振り返ることにとどまらず、その歴史を誇りとして共有し、同時に未来にわたる当研究所の活動のひとつの指針として、新たなる展望を開く契機になることを願っています。なお、本書は一部、中央公論美術出版社より市販されます。

日韓シンポジウム「人とモノの『力学』―美術史における『評価』」開催にむけた協議会

協議会の様子

 2010年に当研究所企画情報部の機関誌『美術研究』は、400号の刊行となります。また、星岡文化財団韓国美術研究所が発行する『美術史論壇』が、今年、30号を刊行することになっています。同研究所長の洪善杓梨花女子大学教授には、『美術研究』の海外編集委員を委嘱していることから、昨年来日の折に、両誌刊行の記念として共同でシンポジウムを開催しようと合意していました。
 1月28日には、洪教授をはじめ、鄭干澤(東国大学校教授)、文貞姫(同研究所学術主任)、張辰城(ソウル大学助教授)、徐潤慶(同研究所専任研究員)の5名を迎えて、当部研究員とともにシンポジウムにむけた協議会を開催しました。
 協議の結果、美術史における「評価」をテーマに揚げて、2011年2月下旬に東京(会場:当研究所)で、3月上旬にはソウル(会場:梨花女子大学)で開催することになりました。シンポジウムでは、基調報告(東京では洪教授、ソウルでは田中が報告します)にはじまり、当部研究員2名、韓国側2名の計4名による研究発表を両会場でおこない、総合討議をします。同じテーマのもと、そして同じ発表をするのですが、両国の研究者等の間での問題意識や考え方の違いが予想されることから、これによって今後、さらに相互理解が深まり、同時に両誌のさらなる協力関係を築いていくことを期待しています。

携帯サイトの新設

携帯サイトの画面

 今年1月、当研究所は携帯サイト(モバイルサイト)を新設しました。
 現在、携帯サイトは「新着情報」「挨拶」「募集/催し物/入札公告」「活動報告」「コラム/昔語り」「研究資料検索システム」「東文研キッズ!」「更新履歴」「お問い合わせ」「待ち受け画像プレゼント」などから構成されています。
 今後もユーザーの方々にとって速報性、利便性の高い情報をお伝えするとともに、コラムのように読み応えのあるテキストも提供していく予定です。通勤・通学の途中、勉強や研究の合間などに当研究所の携帯サイトをご利用いただければ幸いです。

無形文化遺産国際研究会『アジア太平洋諸国における保護措置の現状と課題』開催

 無形文化遺産部は、1月14日に東京文化財研究所セミナー室で、ユネスコ無形文化遺産条約の枠組みでの無形文化遺産保護に関する国際研究会を開催しました。本研究会には、アジア太平洋地域の9 カ国(インドネシア、韓国、中国、フィジー、フィリピン、ブータン、ベトナム、モンゴル、インド)から行政官や専門家が、国内からはアイヌ古式舞踊連合保存会と無形文化遺産部の宮田も加わり、無形文化遺産保護の現状と課題について発表しました。総合討議では無形文化遺産保護におけるコミュニティの役割を話合いました。15日には昨年ユネスコ無形文化遺産に登録された(神奈川県三浦市)を見学しました。

第3回伝統的修復材料および合成樹脂に関する研究会「建築文化財における漆塗料の調査と修理-その現状と課題-」

研究会における講演の様子
会場からの質疑応答の様子

 保存修復科学センター伝統技術研究室では、1月21日(木)に当研究所セミナー室において「建築文化財における漆塗料の調査と修理-その現状と課題-」を開催しました。現在、浄法寺漆などの日本産漆塗料のうち、実に80%以上は日光東照宮などの建築文化財の塗装修理に使用されています。確かに日本では建築文化財の塗装材料として古くから漆を用いてきた歴史と伝統がありますが、その一方で漆自体は紫外線や風雨などに弱いという弱点もあり、その現状と課題には数々の問題点があります。今回の研究会ではこの問題を取り上げるため、まず明治大学の本多貴之先生に分析化学の立場から漆の劣化メカニズムについてわかりやすい解説をいただきました。次に伝統技術研究室の北野が塗装技術史の立場から実際の建築文化財で用いられていた漆塗装材料の実例について通史的に述べました。以上の内容を踏まえて日光社寺文化財保存会の佐藤則武先生からは、実際に塗装修理をされている技術者の立場から現在日光東照宮などで行なわれているさまざまな伝統的な塗装修理の状況について詳細なお話をしていただきました。そして最後に文化庁文化財部参事官(建造物担当)の西和彦先生から行政指導を行なっている立場から、漆にとどまらず塗装修理一般に対する文化庁の取り組み方やご自身のお考えなどをご講演いただきました。講師の先生方のお話は、科学、歴史、修復技術、行政指導それぞれのお立場での実践を踏まえての建築文化財の漆塗装に関する話題提供であっただけに、説得力もあり、会場からはさまざまな質問も出て大変盛会でした。

文化財施設内の温湿度解析および建築部材内の熱・水分移動解析に関する研究会の開催

講演するアンドレアス、ニコライ研究員

 1月26日(火)に、標記の研究会を東京文化財研究所で開催いたしました。ドレスデン工科大学のグルネワルド教授、東文研の吉川氏からは、図書館内の環境評価とカビ発生リスクに関するシミュレーション解析、同大学のニコライ研究員からは、不飽和多孔質建築部材内の塩分移動と相変化に関するモデル化と数値解析、同大学のプラーゲ研究員からは、建築部材の水分特性の測定法というテーマで講演頂きました。本研究会では、環境解析を行うための解析手法、解析に必要となる建築部材の水分特性の測定法、および実際の建造物に適用した場合の解析事例などが総合的に紹介され、活発な意見交換がなされました。

南スラウェシの洞窟壁画に関するインドネシアとの共同調査

アノアと手をモチーフとした壁画(スンパン・ビタ洞窟)

 遺跡モニタリングに関する共同研究の一環として、1月24日~30日にボロブドゥール遺跡研究所とともに、南スラウェシの洞窟壁画に関する現地調査を行いました。南スラウェシには100を超える数の鍾乳洞が存在し、そのいくつかには3000年~1000年前に描かれたといわれる壁画が存在します。壁画のモチーフは、人の手を壁につけた上から赤い色料を吹き付けたものが多いですが、バビルサ(イノシシの一種)やアノア(牛の一種)など地域固有の動物、魚や鳥、舟などもみられます。画面には、水の浸出による岩石成分の溶解および表面での再結晶、岩石表面の剥落といった現象がみられ、周辺樹木の伐採などによる環境変化がこのような壁画劣化の一因として考えられます。現地では8箇所の洞窟を視察し、その劣化原因と今後の保存対策についてインドネシア側専門家との議論を行いました。今後も、ボロブドゥール遺跡研究所や地元のマカッサル文化遺産保存センターと共同で、適切な保存計画の策定に向けたモニタリングの手法について検討していく予定です。

ユネスコ文化遺産保存日本信託基金による「中央アジア諸国の文化遺産のドキュメンテーション」プロジェクト

調査地候補のボロルダイ古墳(カザフスタン)にて打合せ
タジキスタン、文化省の一室に保管されている文化遺産のアーカイブ

 中国と中央アジア5カ国(カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、キルギスタン、タジキスタン)は目下、シルクロード沿いの文化遺産群を「シルクロード」として世界遺産に一括登録(国境を越えたシリアル・ノミネーション)することを目指し、準備を進めています。本プロジェクトは、この登録に向けた申請を支援するもので、中央アジア5カ国において、人材育成、技術移転、アーカイブ資料管理のシステム化、体制作りへの協力等を通じて、各国が独自に文化遺産のドキュメンテーションを実施していくための基礎を築くことを目的としています。このプロジェクトの実施に先立ち、その方向性や具体的内容を決めるために、中央アジア5カ国の関係者を交えた協議が行われました。文化遺産国際協力センターは、ユネスコからの要請を受けて、1月8日から19日まで、これら中央アジア諸国(トルクメニスタンを除く)をまわる準備ミッションに参加しました。
 今回のミッションを通じて、同じ中央アジアといっても、資金・人材・技術面には国ごとに大きな違いがあり、今後プロジェクトを実施するにあたっては、各国の実情に合わせた支援・協力活動が必要となることを痛感させられました。また、ソビエト連邦時代に行われた文化遺産調査に関する写真、図面、報告書などが各国に数多く保管されていることが確認されました。こうした貴重な記録資料も、データベース化やデジタル化を通じて中央アジアの共有財産として活用されることが望まれます。
 今後、文化遺産国際協力センターは、最新機器を用いた遺跡の調査や記録資料のデータベース化、ワークショップ・シンポジウム開催等への支援・協力などの形で同プロジェクトに参加し、中央アジアの文化遺産に関わる人材育成や技術移転に取り組んでいく予定です。

12月施設訪問

 モンゴル人研修生ほか6名 12月1日に、ACCU((財)ユネスコ・アジア文化センター)文化遺産保護協力事務所の主催する「文化遺産保護に資する研修2009(個人研修・モンゴル)(文化庁・東京文化財研究所・奈良文化財研究所との共催)」により招へいされたモンゴル人研修生3名が、研修の一環として、研究所の事業および施設を見学に来訪、4階文化遺産国際協力センター、保存修復科学センター化学実験室、3階保存修復科学センター金属アトリエ、2階企画情報部資料閲覧室、地階無形文化遺産部実演記録室を見学し、それぞれの担当者が説明及び質疑応答を行いました。

アート・ドキュンメンテーション研究フォーラムでの発表

発表する田中淳
ポスターセッション

 12月4、5日、アート・ドキュメンテーション学会の創立20周年を記念した研究フォーラムが、開催されました(会場:発表は東京国立博物館平成館大講堂、展示等によるプレゼンテーションは同館小講堂)。同フォーラムの副題は、「M(useum)、L(ibrary)、A(rchives)連携の現状、課題、そして将来」とされ、美術だけではなく、ひろく文化財にかかわる9つの関係諸機関からの発表と展示が行われました。当研究所からは、企画情報部が参加し、田中が「『日本美術年鑑』デジタルアーカイブを中心に」と題して発表しました。1936年創刊から現在まで継続刊行されている『日本美術年鑑』の意義と、膨大な情報化の時代にあって同年鑑の編集にかかわる諸問題について述べ、さらにこれまでに蓄積されてきた情報の活用とさらなる積極的な公開について提言しました。同時に展示では、当研究所所蔵の資料である焼失以前の「名古屋城」内観写真の画像データベースと、国立情報学研究所との共同研究の成果のひとつとして、連想検索「想 Imagine」における旧所員であった尾高鮮之助撮影(1932年)のアジア各地の貴重な写真のデータベース(試作版)を紹介しました。発表と展示によって、当企画情報部が情報発信として取り組んでいる現状と、将来像の一端を紹介することができました。

キッズページ(英語版)の新設

 2009年12月、東京文化財研究所のキッズページ(英語版)を新設しました。
 英語版の構成も日本語版と同様に、「東文研しごとぜんぶ」「世界での活躍」「なぜなに東文研」「文化財のリンク」からなっています。
 近年、研究所の活動は、海外における文化財の保存修復を目的とした国際協力を行ったり、海外の研究者と研究交流を進めたりするなど、海外とのつながりが強くなってきました。それらはキッズページ「東文研しごとぜんぶ」「世界での活躍」(日本語版)からもうかがわれます。
 そこで海外の子どもたちにも研究所の活動を知ってほしいという想いからキッズページ(英語版)をつくりました。英語を母国語としない国のホームページの中で、英語のキッズページはたいへん珍しい存在ですが、また文化財をテーマとしたホームページとしても初めての試みです。
 ぜひキッズページ(英語版)
http://www.tobunken.go.jp/english/kids/index.html
にアクセスしてみてください。

無形文化遺産部公開学術講座

坂本清恵日本女子大学教授による講演

 無形文化遺産部としては第4回目となる公開学術講座を、12月16日(水)に江戸東京博物館ホールで開催しました。
 ここ数年来、公開学術講座では、文化財保護委員会(現在の文化庁)が無形文化財の保護事業の一環として作成してきた音声記録をテーマとしてきました。そこで、今年度は「義太夫節の伝承」と題して、昭和24年(1949)3月に収録された『平家女護島』二段目「鬼界が島の段」を取り上げました。
 演奏者の豊竹山城少掾(1878-1967)と四世鶴沢清六(1889-1960)は、昭和30年に重要無形文化財保持者の制度が開始されたとき、人形浄瑠璃文楽太夫と人形浄瑠璃文楽三味線で、それぞれが各個認定を受けています。いわゆる「人間国宝」です。二人が残した数多くの録音は、今日でも優れて規範的な演奏と認められています。「鬼界が島の段(俊寛)」もそうした録音の一つです。
 講座の前半では、録音の意義や現在の伝承との関わりについて考察し、後半では、録音全体の半分程ですが、この二人の至芸を鑑賞していただきました。

博物館の省エネ化

ラトゲン保存研究所ステファン・シモン氏の講演

 2009年12月8日に、東京文化財研究所セミナー室で昨年に引き続き、「文化財の保存環境を考慮した博物館の省エネ化」というテーマで研究会を開催しました。今年は、ドイツ、ラトゲン保存研究所のステファン・シモン氏に「欧州での博物館の省エネ化と展示、収蔵施設内の保存環境」、京都大学の鉾井修一教授に「温熱環境からみた博物館の省エネ化」の講演を頂き、さらに国土交通省の足永晴信氏からは「低炭素社会での持続可能な都市空間実現に向けた取り組み」という題で講演を頂きました。最後に、東京国立博物館の神庭信幸氏から「低炭素社会と共存する文化遺産の保存」という題で、東京国立博物館での取り組みについて紹介頂きました。参加者は、全部で75名であり、活発な意見交換が行われました。

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