研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


11月施設見学

概要説明(11月29日)

 沖縄県立芸術大学美術工芸学部芸術学専攻学生ほか6名
 11月29日に、学外研究の一環で来訪。中野副所長による概要説明後、3階保存修復科学センター修復アトリエ、2階資料閲覧室及び地階保存修復科学センターX線撮影室を見学し、それぞれの担当者が説明及び質疑応答を行いました。

第5回無形民俗文化財研究協議会

 無形文化遺産部では毎年、無形の民俗文化財の保護と継承に関わる諸問題について話し合う研究協議会を開催しております。その第5回を、「無形の民俗の保護における博物館・資料館の役割」をテーマとして、2010年11月18日に当研究所セミナー室において開催しました。近年、博物館や資料館の活動が多様化するなかで、地域の文化を代表するものとして、無形の民俗文化財の保護や継承に積極的に取り組む例が増えています。協議会では、全国から4件の博物館・資料館の事例について現状や課題を報告をしていただき、それをもとに活発な討議が行われました。この協議会の内容は、2011年3月に報告書として刊行する予定です。

キトラ古墳の壁面取り外し作業終了

すべての漆喰壁が取り外された石室内

 保存修復科学センターでは文化庁からの受託事業「特別史跡キトラ古墳保存対策等調査業務」の一環としてキトラ古墳壁画の取外しを行ってきました。昨年度より春と秋に集中的な取り外し作業を行っており、来年度の春期取り外しでの終了を目標にしてきましたが、予定より早く今期(2010年度秋)に石室内のすべての漆喰を取り外すことができました。東文研における機械・道具・材料の開発や改良と技術者の方達の作業への熟練により、迅速な作業を行うことができました。2004年の青龍の取り外しから始まった一連のキトラ古墳壁画保存事業は、これにて石室内の作業は終了し、以降、保存施設における壁画の修復処置に移行します。

「臼杵磨崖仏保存環境調査報告会」の開催

国宝及び特別史跡・臼杵磨崖仏(ホキ石仏第二群阿弥陀如来坐像)

 東京文化財研究所は2000年より、国宝及び特別史跡・臼杵磨崖仏の次期保存修理計画策定のための調査研究を臼杵市と共同で進めてきました。11月6日に臼杵市中央公民館にて開催された「臼杵磨崖仏保存環境調査報告会」では、この10年間の研究成果の報告を行いました。
 まずは奥健夫氏(文化庁)より次期保存修理計画の意義について、下山正一氏(九州大学)からは臼杵磨崖仏が彫刻された阿蘇熔結凝灰岩に関する御講演を頂きました。また、Lee, Chan-hee氏(公州大学校)、Kim, Sa-dug氏(国立文化財研究所(大韓民国))からは、大韓民国における石造文化財の劣化状態調査、保存修復に関して御講演頂きました。その後、東京文化財研究所からは、臼杵磨崖仏で行われた調査研究の概要、磨崖仏表面の劣化状態と水環境、大気環境に関する調査結果を報告しました。また、劣化原因調査の結果に基づき、寒冷時の凍結防止策や着生生物制御などの劣化対策、劣化モニタリング手法に関する提案を行いました。最後は臼杵市教育委員会より「臼杵磨崖仏の長期保存計画ビジョン」と題して、次期保存修理事業およびその後のモニタリング・メンテナンスに関して計画案を発表し、聴衆に理解を求めました。
 一つの文化財としては異例の10年にわたる調査研究でしたが、ここで得られた成果も多く、臼杵磨崖仏のみならず多くの石造文化財でこの成果が活用されることを願っています。

アジャンター壁画の保存修復に関する調査研究事業~第5次ミッション報告

壁画の状態調査(アジャンター第2窟右祠堂)
黒色物質の試験的なクリーニング
(アジャンター第2窟右祠堂右壁)

 東京文化財研究所とインド考古局は、文化庁委託「文化遺産国際協力拠点交流事業」および運営費交付金「西アジア諸国等文化遺産保存修復協力事業」の枠組みのもと、アジャンター壁画の保存修復に関する共同研究を行い、これに必要な知識の共有と技術交流を目指しています。
 アジャンター壁画は、基岩の亀裂からの浸水や、生物被害、人為的損傷に加え、過去の修復に起因する色調変化や彩色層の劣化といった多くの問題を抱えています。なかでも顕著なものとして、コウモリの糞尿による黒色化・白色化、そして壁面に塗布されたニス(シェラック、PVAC)の黄色化・暗色化が挙げられますが、効果的な保存修復手法が確立されていないのが現状です。このような課題に対処するために、今回の第5次ミッション(平成22年11月14日~12月4日)では、第2窟壁画を対象とした試験的なクリーニングを実施しました。昨年度までの科学分析およびドキュメンテーションの蓄積をもとに、インド人保存修復専門家と共同で、適切な保存修復方法の検討作業を行いました。

タジキスタンにおける壁画断片の保存修復と人材育成(第9次ミッション) ワークショップ「中央アジア出土壁画の保存修復2010」の開催

ワークショップの様子
博物館に展示された壁画断片

 10月3日から11月2日まで、文化庁委託「文化遺産国際協力拠点交流事業」の一環として「タジキスタン国立古代博物館が所蔵する壁画断片の保存修復」の第9次ミッションを実施しました。前回までのミッションで、壁画断片を支持体に設置(マウント)する方法を検討し、基本方針を確定しました。今回のミッションでは、支持体のさらなる軽量化と作業時間の短縮をめざし、作業工程の一部を見直しました。
 また、10月21日から27日まで、同博物館において、ワークショップ「中央アジア出土壁画の保存修復2010」を開催しました。3回目となる今回のワークショップでは、壁画の保存修復作業における最終工程であるマウントをテーマに、中央アジアのカザフスタン、トルクメニスタンから各1名、ロシア国立エルミタージュ博物館壁画修復室から2名、中国敦煌研究院から1名の保存修復専門家が参加しました。また、タジキスタン国立古代博物館の研修生3名も参加しました。 今回のミッションで改良した最新のマウント方法を用い、参加者は、壁画断片を新しい支持体に設置する全工程を体験しました。
 第9次ミッション中に、カライ・カフカハI遺跡から出土した壁画断片のうち6点の保存修復処置を完了し、博物館に展示することができました。タジキスタン国立古代博物館の研修生3名は、今回のミッションで、壁画のマウント、壁画表面の欠損部の充填方法を習得し、保存修復処置の全工程を主体的に行うことができるようになりました。本事業の完了後も、研修生たちが保存修復を継続して実施し、タジキスタンの貴重な文化遺産の保存に貢献していくことを願っています。

10月施設見学

展示パネルでの説明(10月28日)

 文化庁主催 文化財(美術工芸品)修理技術者講習会受講者ほか30名
 10月28日に、標記講習会の一環で来訪。3階保存修復科学センター、1階展示パネル及び地階無形文化遺産部実演記録室を見学し、それぞれの担当者が説明及び質疑応答を行いました。

横山大観《山路》の調査

横山大観《山路》、蛍光X線分析の様子

 近代日本画の巨匠、横山大観が43歳のときに描いた《山路》(明治44年作、永青文庫所蔵・熊本県立美術館寄託)は、発表当時、西洋の印象派と南画の融合と評されたタッチを多用することで、明治30年代に大観らが試みた朦朧体を脱し、大正期に流行した“新南画”の先駆けとなった重要な作品です。くわえて近年、荒井経氏(東京藝術大学)により、同作品において当時新出の岩絵具が使用された可能性が指摘され、近代日本画の材質を考える上でも注目すべき作といえます。
 このたび《山路》が修理されるにあたり、同作品を所蔵する永青文庫と当研究所で共同研究を立ち上げ、同文庫の三宅秀和氏と多角的に調査研究を行うことにしました。その手始めとして10月10日に《山路》寄託先の熊本県立美術館で、同館の林田龍太氏のご協力のもと、上記の荒井氏と平諭一郎氏(東京藝術大学)・小川絢子氏(同)により、近赤外線反射撮影、および蛍光X線分析による定性分析を実施しました。調査の結果、それまで伝統的に使用されてきた在来顔料とは異なる、近代的な顔料が豊富に用いられていることがわかりました。これから一年ほどかけて修理が行なわれますが、今回の調査結果や修理の経過、さらに発表当時の批評など《山路》にまつわる諸情報を集成して、基礎資料として公にできればと思っています。

第44回オープンレクチャー「人とモノの力学」の開催

1日目の須賀みほ氏の発表風景
2日目の髙橋利郎氏の発表での質疑応答

 当研究所企画情報部では、美術史研究の成果を広く知っていただくため、毎年秋に公開学術講座「オープンレクチャー」を開催しています。昭和41年(1966)の第1回目から数えて、今年で44回目を迎えます。平成18年(2006)より、「人とモノの力学」という共通テーマを設定しており、今年は10月15日、16日の日程で所内外の研究者4名が発表を行いました。
 10月15日は、津田徹英(企画情報部文化財アーカイブズ研究室長)が「中世における真宗祖師先徳彫像の制作をめぐって」と題して、等身であらわされた中世真宗祖師彫像の制作背景と造像の意義についての発表を行いました。須賀みほ氏(岡山大学准教授)は「草花の美─都久夫須麻神社社殿の空間─」と題した発表で、同社殿の詳細な調査に基づいて、その造形表現と空間構成について豊富な画像とともに明らかにしました。 翌16日は、髙橋利郎氏(成田山書道美術館学芸員)が「御歌所の歌人と書」と題した発表で、明治21年(1888)宮内省に開設された御歌所に集まった歌人たちの活動について、近代天皇制の整備と拡張という背景に位置づけながら、その文化的役割を解明しました。塩谷純(企画情報部文化形成研究室長)は、「秋元洒汀と明治の日本画」と題した発表で、明治期の日本画をリードした菱田春草のパトロンとして重要な役割を果たした流山の醸造家・秋元洒汀の活動に焦点をあて、明治期の作品受容のありかたを明らかにしました。
 各日114名、86名の聴講者を得て、初日には須賀氏の発表に関連して竹生島神社宮司の生嶋嚴雄様ご夫妻に、また二日目には塩谷の発表に関連して洒汀のお孫様にあたる水彩画家の秋元由美子様にご臨席いただきました。お二方には会場からの質問にもお答えいただくなど、盛会のうちに終了しました。閉会後に実施したアンケート結果においても、多くの方々から大変満足いただけたとの回答を得ることができました。今後とも、当研究所の研究成果を発信するこのような企画を積極的に行っていきたいと思います。

東京都台東区立上野中学校学芸発表会における研究所のパネル展示

台東区立上野中学校学芸発表会でのパネル展示
タッチパネルを使って、東京文化財研究所の説明を見ている中学生

 10月30日、東京都台東区立上野中学校の学芸発表会において、東京文化財研究所はパネル展示を行いました。その内容は「X線透過撮影による能管・龍笛の構造解明」と「X線透過撮影による仏像の調査・研究」の二つです。
 これらの展示はいずれも以前、研究所のエントランスで展示されていたパネルを二次活用したものですが、どちらもX線透過撮影を通して調査を行い、成果を得たという点が共通していました。
 中学生のみなさんも健康診断の際にX線透過撮影によって胸部の状態を知ることはよく知っています。したがって今回のパネル展示を通じて、この方法がどのような材質の文化財に対して有効なのか、またその結果何がわかるのかなどを理解してもらえたかと思います。
 東京都台東区立上野中学校学芸発表会で研究所のパネルが展示されたのも2回目となりました。たった1日の展示ではありましたが、上野中学校生徒、教職員、そして保護者など約300名の方々に対し、文化財を守り、未来に伝えようとしている研究機関が上野中学校のすぐ近くにあることを知っていただくよい機会になったと思います。
 今後もこの活動が学校教育との連携、あるいは地域社会との連携を表す一つの形として続いていくことを願ってやみません。

故鈴木敬先生の蔵書の追加寄贈

 中国絵画史の泰斗であり、東京大学名誉教授であった故鈴木敬先生(平成19年10月18日逝去)の蔵書中から、『景印文淵閣四庫全書』、『四部叢刊初編宿本』『大清歴朝実録』が、ご遺族の輝子夫人より、平成21年12月に当研究所へご寄贈いただいたことについては『東文研ニュース』36号において報告いたしましたが、このたび、輝子夫人より、同先生の蔵書のうち、『欽定古今図書集成』、『天一閣明代方志選刊』等の叢書類が10月26日に追加寄贈となりました。追加寄贈となったこれらの叢書類は、研究所の架蔵図書の充実に直結するものであり、今後、順次、整理・登録を行い、多くの方々にご利用・ご活用いただけるようにしたいと考えております。

在外日本古美術品保存修復協力事業におけるベルリンの紙の修復に関するワークショップ開催

ベルリン技術博物館内紙の修復工房内部

 保存修復科学センターでは、10月5日(火)から13日(水)にかけて、ベルリンの国立ベルリンアジア美術館の講義室において、在外日本古美術品保存修復協力事業の一環として、紙の修復に関するワークショップを実施しました。今年度実施したワークショップは巻物(掛け軸)について、基礎編(20名)、初級(12名)、中級(7名)と3つのコースに分けて、美術館、博物館の保存担当者,紙関係の修復家を対象に行いました。基礎編では材料としての「紙」「接着剤」、「装こう」についての講義を、初級では掛け軸のモデルを使った構造説明、掛け軸の取り扱い等に加え、実技として絹本の作成を、中級では上、下軸の取り外し、取り付け、紐付け等の実技を実施しました。参加者からは充実したワークショップであったと好評頂きました。

文化財の保存と活用に関する研究会「ガス燻蒸剤の現状と今後」

研究会の様子

 平成22年10月19日(火)、東京文化財研究所主催、九州国立博物館共催で、九州・中四国地方の博物館・美術館等保存担当者および地方行政団体の文化財保護担当者向けに標記の研究会を開催しました。この研究会は、文化財燻蒸に用いてはいけないリン化アルミニウムを有効成分とする製剤を用いた倉庫内テント燻蒸で日本画5点が変色した事故を受けて、文化財燻蒸に対する理解を促進することが早急に必要と判断し、保存修復科学センター連携併任研究者と協力して行ったものです。発表内容は以下のとおりです。「展覧会に伴う借用品の管理について」朝賀浩氏(文化庁美術学芸課文化財管理指導官)、「文化財虫害研究所の認定薬剤の詳細について」三浦定俊氏(公益財団法人文化財虫害研究所理事長)、「ガス燻蒸剤の特性と文化財影響について」佐野千絵(東京文化財研究所保存修復科学センター保存科学研究室長)、「博物館等における使用の実際-IPM(総合的有害生物管理)の一環として-」本田光子氏(九州国立博物館学芸部博物館科学課長、保存修復科学センター連携併任)。文化財の安全が第一であることを再確認し、現実的な殺虫殺カビ処置としてガス燻蒸を行う場合には安全に実施できるよう、研修などに参加して情報収集および技術向上に努めて欲しいと訴えました(於:九州国立博物館、参加者126名)。

被災文化遺産復旧に係る支援国調査

ワールド・モニュメント・ファンド(米国)でのインタビュー
オランダ文化庁でのインタビュー
ブルーシールドフランス国内委員会でのインタビュー

 近年、自然災害で被災した文化遺産に関する協力要請や緊急支援が増加しており、被災文化遺産復旧に向けた国際協力の効果的実施がますます重要になってきています。このため、文化遺産国際協力コンソーシアムでは目下、緊急対応のあり方や関係諸機関の連携体制などについて、支援国を対象とした調査を行っています。これまでに、米国(8月17日~26日)およびオランダ・フランス(9月26日~10月8日)において、文化遺産国際協力に携わる行政組織、民間団体、国際機関を中心に計27機関へのインタビューを行いました。
 米国では、ハイチ地震の際に、以前から国内で機能してきた被災文化遺産への人材派遣制度や情報連携ネットワークを活用して柔軟に対応したこと等が明らかになりました。また、オランダでは、各機関の役割分担が明確で、支援の内容は被災直後の小規模資金援助に特化していること等がわかりました。一方、フランスでは、外務省を中心とした従来の国際協力体制網をさらに強化するため、NGOの協力のもと、緊急支援専門家(urgentiste)の養成にも力を入れていること等が分かりました。
 次々に起こる災害に対する対応力の向上などはわが国にも共通する課題で、一連の調査を通じて、今後の日本の国際協力体制を考える上で有益な情報を得ることができました。

インドネシア・パダンの歴史的町並み復興への協力

歴史地区の登録建造物の現状。健全なもの、修理されているもの、放置されているもの、撤去されフェンスが設置されたもの(左から右へ)。
パダンの地方行政関係機関での協議の様子

 文化庁委託による「インドネシア西スマトラ州パダンにおける歴史的地区文化遺産復興支援(専門家交流)事業」では、2009年9月30日の地震で大被害を受けたパダンを対象に、文化遺産の保護と保存を都市の復興プロセスに組み入れるための支援を行います。2011年2月までの数次にわたって実施する調査・助言活動の第一弾として、10月16日から25日まで、文化遺産建造物を含む町並みの復興状況に関する現地調査を行いました。
 今回の調査では、震災直後の2009年11月に実施した被災状況調査結果をベースに、震災1年後の現況を記録しました。瓦礫の片付けが進み、街の活気は戻ってきていますが、歴史的町並みを構成する建物の復興程度はさまざまです。登録文化財建造物で修理が進んでいるものは依然少なく、未だに震災直後と変わらぬ状況のものや、既に更地と化してしまっているケースもありました。
 現況調査をふまえて行った、州知事をはじめとする現地関係機関との協議では、文化遺産の保護が都市の復興に寄与することや、専門家・行政・住民の連携の重要性について、認識が一致しました。今後も中央政府、州、市の各レベルと協調しながら、現地の専門家との協働を継続していきます。11月には現地で文字文化財保存ワークショップの開催が企画されており、12月および1月には歴史的建造物と町並みについても現地ワークショップを行う予定です。
 調査チームの帰国直後、西スマトラを再び地震と津波が襲いました。パダンでは大きな被害はなかったようですが、文化遺産の保護を通じて都市の復興と安全な住環境の整備に貢献したいという思いを一層強くしたところです。

イラク人保存修復専門家の人材育成事業

金属の表面クリーニング実習

 文化遺産国際協力センターは、運営費交付金「西アジア諸国等文化遺産保存修復協力事業」およびユネスコ文化遺産保存日本信託基金により、2004年度より毎年、イラク人保存修復専門家を日本に招聘し、保存修復の研修を行っています。
 本年度も、イラク国立博物館より、アリ・ガーニム氏、ナフラ・ナビール氏、ハディール・アブドゥルハーディ氏の3名を招聘し、9月22日から12月9日にかけて、およそ3カ月に渡る研修を実施しています。文化財保存修復に必要な分析機器の研修、木製品や金属製品の保存修復に関する講義と実習を行う予定になっています。また、奈良文化財研究所や東京大学総合研究博物館、国士舘大学イラク古代文化研究所、株式会社日立ハイテクノロジーなどの見学も行なう予定です。

9月施設見学(1)

実演記録室での説明(9月6日)

 小田急エンジニアリングほか9名
 9月6日に、文化財施設の見学のために来訪。4階保存修復科学センター化学実験室、3階保存修復科学センター修復アトリエ及び地階無形文化遺産部実演記録室を見学し、それぞれの担当者が説明及び質疑応答を行いました。

9月施設見学(2)

文化遺産国際協力センターでの説明(9月17日)

 台東区立御徒町台東中学校生徒5名
 9月17日に、職場訪問学習の一環で来訪。4階文化遺産国際協力センター、2階企画情報部資料閲覧室及び地階無形文化遺産部実演記録室を見学し、それぞれの担当者が説明及び質疑応答を行いました。

徳川美術館との共同研究調査パネル展示

「本多平八郎姿絵屏風」パネル展示風景
「歌舞伎図巻」パネル展示風景

 企画情報部では、徳川美術館との共同研究として、「本多平八郎姿絵屏風」などの近世風俗画の調査を行っています。今年2010年は、同館の開館75周年にあたり、特別展「尾張徳川家の名宝」(10月2日~11月7日)が開催されています。この機会に合わせて、9月28日から調査研究成果の一環として「本多平八郎姿絵屏風」と「歌舞伎図巻」(ともに重要文化財)の拡大画像パネルを展示しています。「本多平八郎姿絵屏風」は、縦72.2cmの比較的小振りの二曲屏風ですが、本多平八郎を江戸期の将軍・大名家クラスの男性の遺骨から推定した平均身長157cm程度に合わせて、約3.5倍で出力しました。右隻も同倍率にしてみると、中心的人物である葵紋小袖の女性が、同様に将軍・大名家の正室・側室の女性の平均身長146cm程度に合致し、実際の男女の体格差が身体描写において正確に反映されていることがわかります。「歌舞伎図巻」は上下2巻、絵6段からなる、縦36.7cmの絵巻物ですが、こちらは実際の大きさの2.5倍程度で出力しました。繊細なグラデーションが施された彩色表現、緻密に描き分けられた質感描写を手に取るように確認することができ、これまで見過ごされてきたような細部の描写にも着目することができます。線描や彩色状態を詳細に観察すると、その表現技法の意図や理由が浮かび上がってきます。このようにして得られた情報を作品研究に応用し、広く作品に対する理解を深めることにつなげていきたいと考えています。

宝生流:今井泰男師の謡曲録音 100曲達成

 無形文化遺産部では、2005年度より宝生流の最長老今井泰男師の番謡の記録作成をおこなっていますが、この9月でそれが100曲に達成しました。宝生流のレパートリーは210番ありますが、そのうちの主要な曲目の記録を作成したことになります。能としては上演されず謡だけ伝承されている最奥の秘曲「檜垣」が記念すべき100曲目でしたが、年老いて零落したかつての美しい白拍子(舞人)が過去の罪業を僧の前で懺悔する内容を、今年90歳になられる今井氏は静かに淡々と謡われました。昭和後半の宝生流を代表するおひとりの記録を、まとめて残した意味は大きいと言えるでしょう。この録音は、このあとももう少し続く予定です。
(無形文化遺産部・高桑いづみ)

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