研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


『平等院鳳凰堂 仏後壁 調査資料目録 ―蛍光画像編―』の刊行

 平成16年から17年にかけて平等院と共同で行った鳳凰堂仏後壁の調査成果の報告書として、『平等院鳳凰堂 仏後壁 調査資料目録 ―蛍光画像編―』を刊行いたしました。これは平成20年度に刊行した『同―カラー画像編―』、平成21年度に刊行した『同―近赤外画像編―』に続く、第三冊目にあたります。この三冊の刊行によって今後、鳳凰堂仏後壁の研究を行ううえでの基礎資料となることが期待されます。

『東京文化財研究所蔵書目録8 漢籍編』の刊行

『東京文化財研究所蔵書目録8 漢籍編』

 企画情報部の研究プロジェクト「専門的アーカイブの拡充(資料閲覧室運営)」の一環として2002年3月に『東京文化財研究所蔵書目録1 西洋美術関係 欧文編・和文編』を刊行して以来、順次刊行を進めてきた蔵書目録の第八冊目にあたる『同目録8 漢籍編』を刊行いたしました。これは東京文化財研究所が所蔵する約12,000冊の漢籍を収録した目録で、この目録の刊行により研究所所蔵の漢籍の全容が明らかとなり、広く活用されることが期待されます。

NEACHセミナー“DOCUMENTATION AND SAFEGUARDING OF INTANGIBLE CULTURAL HERITAGE” マレーシア クアラルンプール

会議の樣子

 この国際セミナーは、ASEAN10カ国+日・中・韓3カ国で構成される、”NETWORKING OF EAST ASIAN CULTURAL HERITAGE(NEACH)”の枠組みで定期的に行われているもので、今回はマレーシアがホスト国となり、2011年3月5日から8日にかけてクアラルンプールで開催されました。今回は無形文化遺産がテーマであり、日本からは無形文化遺産部の宮田が招聘され、“Documentation and Archiving of Japanese Intangible Cultural Heritage”というテーマで発表を行いました。参加した各国は、無形文化遺産保護条約に関しては締約国・非締約国の別はあったものの、総じて無形文化遺産保護の必要性に関する意識は高く、活発な意見交換がなされました。無形文化遺産部では、今後もこうした機会には積極的に参加し、日本の経験を広く発信したいと考えています。

無形文化遺産部プロジェクト報告書『無形文化財の伝承に関する資料集』の刊行

図版頁(『横笛細工試律便覧』)より

 平成18年度から始まったプロジェクト「無形文化財の保存・継承に関する調査研究」の成果報告書を刊行しました。
 本書では、江戸時代の笛製作に関する技法書『横笛細工試律便覧』、文楽義太夫節の曲節を分類整理した実演集『義太夫節の種類と曲節』、江戸小紋の歴史と製作工程を記した『江戸小紋技術記録』、以上3点の無形文化財の保存・継承に関する資料を紹介しています(ホームページ上でも全頁のPDFを公開する予定)。

「博物館資料保存論対策講座」の開催

講義の様子

 平成24年度より、大学の学芸員養成課程において「博物館資料保存論」が2単位の必修科目になります。これは、学芸員を目指す学生に、自然科学的基礎をベースとした資料保存に関する知識を求めることを意味します。しかし、同課程を持つ大学や短大は、現在300を超える一方、この科目に即応出来るだけの専門性を有する人材は限られているのが現状です。そのため、専門外の教員が担当することになり、講義の構成や内容づくりに戸惑うケースが続出するのではと我々は考えました。そこで、開講に向けた準備に役立てていただくことを目的とし、3月8日から3日間、表題の講座を開催し、同科目の担当ことが決定した方を対象に、特に保存環境に関連する15コマの講義を行い、必須となる内容についての情報を提供しました。講座には、大学教員や非常勤での担当を行う学芸員など、全国から81名が参加しました。今回はじめて、このような講座を開いたことで、参加者からは好評をいただいた一方、多くの方が持っている戸惑いを我々は強く感じました。これまで、このような方々との関係は決して密なものではありませんでしたが、これからは保存環境を研究する部門として、積極的に関わっていかなくてはならないと実感しました。

フランス、スイス及びドイツの近代文化遺産の保存状態に関する現地調査について

大戦中、レジスタンスの破壊工作により脱線したという状態を再現した展示(フランス・ミュールーズ国立鉄道博物館)
修復作業中の観光潜水船(スイス・ルツェルン交通博物館)
整然と並んだ自動車(フランス・ミュールーズ国立自動車博物館)
道路標識を外壁のアクセサリーとしている(スイス・ルツェルン交通博物館)

 保存修復科学センターでは、3月8日(火)から14日(月)まで、フランス及びスイスにおいて鉄道、自動車、及び航空機等の保存、修復に関する現地調査を、またドイツにおいて、溶鉱炉の保存現場の調査を実施しました。フランスにおいては、ミュールーズにて国立鉄道博物館及び国立自動車博物館の調査を実施しました。ともに収蔵している鉄道車両及び自動車の数は相当数に及びその多さは目を見張るものが有ります。鉄道車両に関しては、展示環境も余裕を持った配置になっており、鉄道関連博物館によく見られる狭苦しさが感じられませんでした。各鉄道車両に関しては、屋内に保存されている事もあり、保存状態は良好でした。塗装については、やはり来館者の目を意識してかきれいに塗り直されており、その点は多少残念では有りました。しかしながら展示の仕方にも種々の工夫が見受けられ、リピーターを呼べる施設だと感じました。自動車博物館については、元々個人所蔵の自動車がベースになっているせいか、どれもきれいで自動車好きの人にはたまらない博物館という感じです。もちろん保存状態もかなり良いのですが一点だけ、タイヤの保存状態に関して、かなりの車が直接タイヤで支持している状態が見受けられタイヤの傷みが気になりました。スイスでは、ルツェルン湖のほとりに立地する交通博物館の調査を実施しました。2000平米を超える敷地の中央に子供達が遊べる広場を配し、周りに展示館を廻らせた博物館で、交通に関する事物を収蔵しており、かなり見応えのある博物館です。ただ、全体としては、やや雑多な感じは否めませんが、一カ所でこれだけのものを見る事が出来るのは幸せな事だと思います。展示物に関しては、やはり鉄製のものが多く、来館者が触る部分の防錆に苦労しているようです。最後にドイツにおいて製鉄所を調査しました。ヨーロッパでよく見るスタイルですが、ほとんど操業を終えたそのままの状態なので、ある意味非常に興味深い施設ではあります。唯一手を入れているのは観覧者の安全の為の施設(手すり、エレベーター、歩廊)であり、その他は手つかずの状態で見る事が出来るのは非常に興味深いし、面白いものだと感じます。日本ではやはり、火災等の避難経路等、法律上の制約が多く難しい部分が多々有ります。その辺、保存の仕方や法制度などなお、検討の余地が多いと感じました。

厳島神社における修理材料の選定試験

平舞台下に曝露中の試験体

 保存修復科学センターでは、厳島神社大鳥居の修復材料について研究を行っています。高温・高湿、水への浸漬、塩類の存在など過酷な条件のそろう臨海環境下で用いることのできる材料を選定し、現在、室内での強制劣化試験と現地での曝露試験を行っています。2010年の6月に現地曝露を開始し、現在、2ヶ月おきに試験体の含水率測定と劣化状態観察を行っています。今後も同じように試験を続行し、2011年度には強度試験等により劣化状況の確認を行う予定です。併せて、室内での強制劣化試験では紫外線照射試験と冷熱繰り返し試験を行っており、2011年度には塩水噴霧試験も行う予定です。

アジア文化遺産国際会議「西アジアの文化遺産―その保護の現状と課題」

 3月3日から5日までの3日間の日程で、イラク、シリア、レバノン、ヨルダン、バハレーンのアラブ5カ国の専門家を東京文化財研究所へ招き、日本の専門家と共に各国の文化遺産、その保護の現状について情報を交換し、今後の日本を含む各国間の連携による国際協力による保護活動の可能性について討論する会議を開催しました。文化遺産国際協力センターは、アジアの各地域について、文化遺産保護のための地域内ネットワークの構築と、日本の貢献を促進することを目ざし、中央アジア(2007年度)、東南アジア(2008年度)、東アジア(2009年度)の各地域の国々による国際会議を開催してきました。今回の会議は、これまで主に考古学や歴史研究での交流が盛んだった西アジア地域について、今後文化遺産保護という視点から新たなネットワークを構築していくための貴重な一歩となりました。

文化遺産国際協力コンソーシアム平成22年度総会および講演会「欧州における遺産:非政府的視点から」の開催

講演会の模様

 2011年3月11日(金)に標記総会および講演会を開催しました。総会では、コンソーシアムの平成22年度事業報告と、次年度事業計画が報告されました。これに続いて開催した講演会では、欧州の文化遺産保護のために活動するNGOであるヨーロッパ・ノストラの副会長ジョン・セル氏にご講演いただきました。はじめに、多言語や複雑な政治体制などヨーロッパの多様な文化が育まれた背景と、今日の文化遺産保護に係る条約や政策についての説明がありました。続いて、震災を受けたイタリアのラクイラなどにおける危機遺産保全キャンペーンや、優れた保存活動等を顕彰するヨーロッパ・ノストラ・アワードなど、ヨーロッパ・ノストラの活動についてご紹介いただきました。長年に亘って、文化遺産保護に関する連携・協力を推進してきたヨーロッパ・ノストラの経験は、文化遺産国際協力コンソーシアムの今後の活動の在り方を考える上でも大いに参考となりました。

『美術研究』400号、『美術史論壇』30号記念日韓共同シンポジウム「人とモノの力学-美術史における『評価』」開催

洪善杓氏による基調講演「国史形美術史の栄辱―朝鮮後期絵画の解釈と評価の問題」
ディスカッションの様子

 2月27日に、当研究所において表題にあるシンポジウムを開催しました。『美術研究』(1932年創刊)は、当研究所企画情報部が、また『美術史論壇』(1995年創刊)は、星岡文化財団韓国美術研究所が刊行している学術誌です。韓国美術研究所長の洪善杓博士は、『美術研究』の海外編集委員を委嘱している関係から交流があり、実現したシンポジウムでした。当日は、はじめに洪博士の基調講演があり、韓国側からは、張辰城(ソウル大学校)、文貞姫(韓国美術研究所)両氏に発表願い、また当研究所からは、綿田稔、江村知子の両名の発表があり、その後ディスカッションが行われました。美術史における「評価」という重要な問題をとりあげ、意見交換する機会となりました。
 なお、3月12日には、同じ発表者による、韓国ソウル市(梨花女子大学校)にてシンポジウムを開催する予定です。

文化財施設の環境解析と博物館の省エネ化に関する研究会の開催

ドレスデン工科大学のグルネワルド教授の講演

 2011年2月25日に、東京文化財研究所セミナー室で「文化財施設の環境解析と博物館の省エネ化」に関する研究会を開催しました。現在、地球温暖化の問題から、あらゆる施設で温室効果ガスの排出削減に向けた取り組みが必要になってきています。博物館、美術館等の施設に関してもこの例外ではありません。博物館、美術館等の施設では、文化財を安全に後世へ伝えていくために、それを取り巻く環境を良好に保ちながら、施設の省エネ化を図っていくことが必要です。今回は、ドイツの建物の省エネ化に関するプロジェクトで環境解析を担当しているドレスデン工科大学のジョン・グルネワルド教授には、「ドイツにおける建物の省エネルギー化と環境解析技術」、同じくドレスデン工科大学のルドルフ・プラーゲ博士には、「環境解析に関わる建材の物性測定法」というテーマで講演頂きました。プラーゲ氏の講演では、ベルリンのウンター・デン・リンデン通りの大理石の石造彫刻の劣化と周囲環境の解析についての話題提供もありました。また、清水建設株式会社の菅野元衛、矢川明弘、太田昭彦さんには、「文化財施設内の環境解析のための気流シミュレーション技術と応用事例」というタイトルで、環境解析手法および根津美術館の収蔵庫の改修の際に行った解析事例の紹介を頂きました。参加者は、全部で50名であり、活発な意見交換が行われました。

文化財保存修復国際研修に関する研究会の開催

討議の様子

 文化遺産国際協力センターでは2月2日・3日の2日間にわたり、「海外の文化財保存修復専門家養成を目的とする国際研修等の実施に関する研究会」を、東京文化財研究所会議室にて開催しました。本研究会は、当センターが行っている「諸外国の文化財保護に係る人材育成」事業の一環として、国際研修のより効果的かつ実践的な実施に向け、国内外の研修実施機関との情報共有および意見交換の場として企画したものです。途上国を中心とする外国からの研修生を対象とした保存修復技術や能力開発の研修に焦点をあて、プログラムの具体的内容や教授方法、さらには研修成果の評価法や問題点などについて、海外4機関および東文研を含む国内3機関の担当者から報告を受けたのち、これらを踏まえて参加者による意見交換を行いました。
 研修実施事例の分析を通じて、いくつかの共通課題が浮き彫りとなりました。主なものとしては、研修事業自体のマネージメント、研修の継続性とプログラム同士の相互連携、研修情報の共有などが挙げられます。このようなテーマでの研究会は従来あまり行われてきませんでしたが、今後も様々な機会を通じて、研修方法の改善や多国間での相互連携の可能性などにつなげていきたいと考えています。

ミクロネシア連邦における文化遺産国際協力コンソーシアム協力相手国調査 ~ナン・マドール遺跡~

王の墓といわれるナン・ダワス
ミクロネシア連邦政府側との打ち合わせ
干潮時遺跡調査

 文化遺産国際協力コンソーシアムでは2月18日から25日まで、ミクロネシア連邦のナン・マドール遺跡を対象として協力相手国調査を実施しました。この遺跡は6世紀から16世紀の間につくられたと伝えられており、92もの人工島とその上に建つ建造物からなっています。現在でも遺跡の全容は解明されておらず、神秘の遺跡といわれています。今回の調査は、遺跡の現状を調べるとともに、遺跡保護のために何が必要か把握し、我が国の協力の可能性を検討することを目的として行いました。
 玄武岩の石柱を重ねてつくられた建造物には、崩壊した部分も多く見られました。その要因としては、自然風化やマングローブなど植物の繁殖が影響していると考えられます。さらには近年の温暖化にともなう水位上昇により、満潮時に水没する遺跡も見られました。このような点について今後詳細な調査を行い、管理計画を策定する必要があると考えられます。同時に、遺跡保護に関する現地の人々の理解を促進することも不可欠でしょう。いくつかの島や建造物は王の墓や祭儀場であったと伝えられています。遺跡そのものを守るとともに、このような伝承も含めた包括的な保護を図る必要性を強く感じました。

アルメニア共和国における文化遺産国際協力コンソーシアム協力相手国調査

写真1 アルメニア共和国文化省での関係者との面談
写真2 古文書研究所・博物館での聞き取り調査

 文化遺産国際協力コンソーシアムは、2011年2月7日から13日まで、アルメニア共和国において協力相手国調査を実施し、東文研からは専門家として2名が参加しました。この調査の目的は、日本による同国における文化遺産保護分野での将来的な協力可能性を探ることにありました。
 今回の調査では、文化遺産保護を管轄している文化省(写真1)をはじめ、歴史博物館、国立美術館、マテナダラン古文書研究所・博物館(写真2)、歴史・文化財科学研究センターといった保護や調査・研究に関わる諸機関を訪れ、担当者と面談を行うとともに、情報収集や意見交換を行いました。その結果、アルメニアがこの分野において今日抱える主要な問題として、ソ連邦からの独立後に生じた資金の不足やロシアを中心とした教育システムの終焉による人材育成面の困難などがあることが明らかとなりました。機器供与や博物館建設といったハード面の充実も必要ですが、同国にとっては文化遺産保護に関わる人材を育成することが急務であると感じられました。
 今後の日本からの協力のあり方としては、アルメニアの研究機関と連携しながら、アルメニア人専門家の人材育成を主眼とした共同研究や研修などを実施していくことが考えられます。

1月施設見学

資料閲覧室での説明(1月17日)

 名古屋市博物館学芸員ほか4名
 1月17日、染織関係資料の保存・調査研究に関する視察のため来訪。企画情報部資料閲覧室、無形文化遺産部実演記録室、保存修復科学センター化学実験室及び文化遺産国際協力センター研修室において、各担当職員が業務内容に関する説明を行いました。

近世風俗画共同研究調査報告会

近世風俗画調査研究報告会ディスカッションの様子
地下1階ロビーでの高精細画像展示

 企画情報部では2009年度より徳川美術館との共同研究として、近世風俗画の調査を実施しています。2011年1月29日には東京文化財研究所において報告会を開催しました。冒頭には徳川黎明会会長・徳川美術館館長の徳川義崇氏に近年のIT技術の情勢をふまえてご挨拶頂きました。そして江村が「歌舞伎図巻の描写について」と題して、「歌舞伎図巻」(徳川美術館蔵・重要文化財)の細部描写にはこれまでの美術史研究において見過ごされてきた特徴的な表現が認められることを中心に報告しました。次に徳川美術館学芸員・吉川美穂氏が「本多平八郎姿絵屏風の表現について」と題して、「本多平八郎姿絵屏風」(同館蔵・重要文化財)の人物描写を高精細画像のスライドとともに紹介し、画中の葵文小袖を着た女性には、高貴な女性の風俗儀礼・化粧方法の一つである置き眉の痕跡が認められることなどを報告しました。つづいて徳川美術館副館長・四辻秀紀氏による司会でディスカッションを行い、画像情報に関しては国立情報学研究所研究員の中村佳史氏にも議論にご参加いただきました。美術史だけでなく、音楽史、芸能史、服飾史、さらに文化財修復に関係する方々など110名を超える参加者を得て、盛況のうちに閉会しました。また会場としたセミナー室前のロビーでは上下巻で15mに及ぶ「歌舞伎図巻」の原寸大出力画像も展示し、参加者にご覧頂きました。今後もさらなる調査研究とその情報発信をつとめて参ります。

国際研究集会「「復興」と文化遺産」の開催

総合討議の様子

 第34回文化財の保存および修復に関する国際研究集会「「復興」と文化遺産」を東京国立博物館平成館において、1月19日から21日の3日間開催しました。自然災害、そして紛争からの復興過程、さらには社会変化の渦中における社会と文化遺産の関わりをめぐり、それぞれの状況に対応する3セッションを設けて、海外から10件、国内から4件の講演と、議長・講演者によるディスカッションが行われました。
文化遺産の意味や価値付けが社会状況によって変化する中で人々にとって復興されるべき文化遺産とは何かなど、多様な課題をめぐって活発な議論が交わされました。
 本研究集会の詳細な内容については、来年度、報告書を刊行する予定です。

12月施設見学

修復アトリエでの説明(12月6日)

 金沢美術工芸大学日本画専攻学生ほか5名
 12月6日に、文化財保存・修復現場の見学のために来訪。4階文化遺産国際協力センター、保存修復科学センター化学実験室、3階保存修復科学センター修復アトリエ及び2階資料閲覧室を見学し、それぞれの担当者が説明及び質疑応答を行いました。

2010度第7回企画情報部研究会開催

2010年12月17日に、今年度第7回目の企画情報部研究会を行いました。発表者と題目は以下の通りです。
 ・皿井舞(企画情報部研究員)
  「平安初期神仏習合彫刻史試論
   京都・神光院薬師如来立像をめぐって」
 ・佐々木守俊氏(町田市立国際版画美術館学芸員)
  「“北宋風作善”の受容と印仏・摺仏の像内納入」
 皿井は、10月初旬に京都・神光院でおこなった調査をふまえ、これまであまり知られてこなかった、本院の薬師如来立像について紹介をしました。またあわせて、本像が、平安時代初期の神仏習合を考えるうえでも、重要な作例である可能性を指摘しました。本像の紹介は、当研究所が刊行している『美術研究』誌上でおこなう予定です。
 佐々木氏は、平安時代後期よりさかんになる、仏像の像内に版画(印仏・摺仏)を納入する信仰について、中国・北宋時代の信仰の受容という観点から、読み解かれました。すなわち、印仏・摺仏の像内納入が北宋期の『地蔵菩薩応験記』所収の説話にもとづいたものであること、またそれが「奇瑞を期待する営為」という意味であったことなど、貴重な指摘がなされました。大陸文物の受容のあり方を考える上でも、重要な報告をしていただきました。
 本研究会では、水野敬三郎先生(東京芸術大学名誉教授)や浅井和春先生(青山大学教授)をはじめ、彫刻史を専門とする先生方にもお越しいただき、活発な討議をおこないました。
 討議で出された意見は、今後、研究をすすめていく上での重要な論点ばかりでした。こうした問題意識の共有化は、研究を活性化させる原動力となります。本研究会が、原動力を生み出す場として機能し続けるよう、今後も研究会開催のあり方を模索していきたいと思います。

第5回公開学術講座「和泉流狂言の伝承」in 金沢

 無形文化遺産部恒例の公開学術講座を、今年度は金沢大連携融合事業・日中無形文化遺産プロジェクトとの共催で、12月12日、石川県立能楽堂で開催しました。金沢市は江戸時代から能楽が盛んな土地柄で、宝生流の謡曲と和泉流の狂言が行われています。今回は和泉流の狂言にスポットを当てました。同じ和泉流でも金沢と名古屋では伝承が大きく異なっています。その歴史的な背景や実技の違いについて講演をおこない、それぞれの伝承に基づく狂言を演じていただきました。東京都は異なり聴衆はそう多くはありませんでしたが、熱心な聴講者が多く、好評でした。

to page top