研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『東文研ニュース』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


アジア文化遺産国際会議「中央アジアの文化遺産と日本の貢献」の開催

会議の様子
ウズベキスタン考古学研究所壁画修復室見学の様子

 文化遺産国際協力センターは、アジアにおいて文化遺産の保護活動に携わる専門家の交流を促進するために、国際会議やワークショップを開催してきました。平成19年度からは、さらなるネットワークづくりを目指し、毎年アジア各地において専門家会議を開催することになりました。一年目は中央アジア地域に焦点を合わせ、3月12日から3日間、ウズベキスタンの首都タシュケントで開催しました。ウズベキスタンのほか、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、さらにユネスコの専門家を招聘し、各国における文化遺産保護活動の現状と課題について報告と討論を行いました。会議後、サマルカンドの遺跡、歴史的建造物、博物館、考古学研究所を見学し、文化遺産の保存・展示方法について意見を交換しました。参加者からは、日本を含む各国が直面している問題点、保護活動の事例を知ることができ有意義であった、今後も連携をはかり情報交換を行いたい、などの感想が寄せられました。

タジキスタン共和国の文化遺産保護のための協力に関する合意書の締結

 平成20年3月10日、タジキスタン共和国科学アカデミー、歴史・考古・民俗研究所と東京文化財研究所の間で、文化遺産保護のための協力に関する合意書と覚書が締結されました。合意書は包括的なもので、歴史・考古・民俗研究所と当研究所が協力して、タジキスタン共和国の文化遺産保護のための活動を行うこと、また、実際の保存修復作業やワークショップ等を通じて人材育成・技術移転を図ること等が、その内容に含まれています。覚書は、同研究所に所属する国立古物博物館所蔵の壁画資料の保存修復事業及びそれに係わる人材育成・技術移転のための協力に関するものです。文化遺産国際協力センターは、これらの合意書及び覚書に基づいて、平成20年度から具体的な活動を開始する予定です。

モンゴルでの文化遺産および国際協力に関する相手国調査の実施について

国立文化遺産センターでの布製品修復作業の様子
文学文化国家センターでのインタビューの様子

 2月26日から3月4日までの間に、文化遺産国際協力コンソーシアムの行う「協力相手国調査」の一環として、モンゴルでの文化遺産保護及び国際協力に関する情報収集を行いました。調査では、モンゴルの文化遺産保護に係わる主要な博物館、機関等あわせて12カ所で、それぞれ2時間から3時間程度のインタビューを行ってきました。モンゴルは1990年にそれまでの社会主義体制から民主主義体制に移行しましたが、その際に文化財行政にも大きな変化がありました。現在は、遊牧文化をはじめとするモンゴルの貴重な有形・無形の文化遺産を次世代に伝えていくための法整備や制度作りがようやく本格化してきたところであり、今後、人材育成や全国に広がる文化財の調査登録作業などが予定されているとのことです。

「聚光院問題」の検討

 企画情報部では毎月、研究会を開催しています。2月は27日(水)、コメンテーターに渡邊雄二氏(福岡市美術館)を迎え、綿田が「聚光院問題を考える」の題目で研究発表を行いました。大徳寺聚光院方丈(重要文化財)の創建年代については従来、狩野松栄・永徳親子による障壁画(国宝)の作期との関連で、永禄9年(1566)か天正11年(1583)かという議論がなされてきました。今回綿田は、めまぐるしく変化していた政情を考慮しつつ、断片的に残された史料を根拠に元亀2年(1571)という年次をあらたに提案しました。続いて渡邊氏より、塔頭障壁画全体の流れで考えると聚光院障壁画のプランはやはり古様な側に属しているという見解が示されました。その後、研究所外からの参加者も交えて活発な議論が行われました。

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『緑林五漢録』完結

一龍斎貞水師による講談

 東京文化財研究所では、平成14年から講談の実演記録を実施しています。ご協力いただいているのは、一龍斎貞水師と宝井馬琴師のお二人です。
 重要無形文化財「講談」保持者の貞水師には、時代物と世話物、二席の連続長講をお願いしていますが、世話物の『緑林五漢録』が、平成20年2月13日、貞水師としては第21回目となる実演記録をもって、遂に完結の運びとなりました。第1回目が平成14年6月11日ですから、足掛けで7年を費やしたことになります。
 緑林(みどりのはやし)とは盗賊のことです。『緑林五漢録』は、五人の義賊が次々に登場しては、刑場の露と消えてゆくまでを描いた長大な物語です。
 時代物は『天明七星談』(平成17年12月26日完結)に続き、現在は『仙石騒動』を口演していただいています。来年度からは新たな長編の世話物が始まる予定です。

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第31回文化財の保存および修復に関する国際研究集会

国際研究集会での講演の様子

 2月5日から7日にかけて、東京文化財研究所セミナー室において第31回文化財の保存および修復に関する国際研究集会を開催致しました。今年度は保存修復科学センターが担当し、「文化財を取り巻く環境の調査と対策」というテーマで、海外から7名、国内から8名の研究者による講演が行われました。
 国内の発表者からは、主に今年度解体が行われた高松塚古墳に関する温湿度制御、微生物対策等に関する講演が行われました。一方海外からは、同様の問題に取り組んでいるラスコー洞窟壁画についての講演も行われ、有意義な討議を交わすことができました。さらに、他の装飾古墳の保存対策、国際的な文化財保存の取り組み、非接触調査法に関する情報交換や意見交換も行いました。

第1回伝統的修復材料および合成樹脂に関する研究会「漆芸品に用いられた金属の劣化」

研究会の様子
研究会の様子

 保存修復科学センター伝統技術研究室では、2月27日(水)に当研究所セミナー室において「漆芸品の用いられた金属の劣化」を開催しました。当日は、伝統技術研究室の北野と保存科学研究の佐野千恵室長のほか、関西大学文学部教授・博物館館長の高橋隆博先生、漆芸家で重要無形文化財保持者(人間国宝)の北村昭斎先生、宮内庁正倉院事務所の成瀬正和先生の3名をお招きし、ご講演いただきました。近年、蒔絵粉や覆輪金具などのような漆芸品に用いられた金属の劣化に関する問題が話題となりつつあります。そのためか当日は年度末にもかかわらず多数の出席者がありました。研究会ではまず北野の劣化が著しい近世の出土蒔絵の話からはじまり、高橋先生からは漆工史の視点から日本や中国・朝鮮半島における金属が用いられた漆芸品の歴史と技法に関する解説をいただくとともに、博物館の立場からどのような点に注意しておられるかについてのお話がありました。引き続き、北村先生からは修復家の立場から実際に先生が手がけられた国宝・重要文化財の漆芸品の修復や復元模造について詳細で貴重なお話があり、実際に作業された方にしかわからない細かい点まで含めてご紹介いただきました。成瀬先生からは分析化学の立場から正倉院御物の漆芸品を中心とした古代から中世の漆芸品に用いられた金属の分析結果とそれらの劣化状態についてのお話をいただきました。最後に佐野室長からは保存科学の立場から博物館施設の保管環境や木製保管箱と金属の劣化との関係に関する話題提供がありました。講師の先生はお三方とも、実践を踏まえてのお話であっただけに、説得力もあり、会場からは、さまざまな質問が出て大変盛会でした。

大エジプト博物館保存修復センター設立のための支援事業: 紙の保存修復ワークショップの開催

ワークショップの風景
ワークショップ参加者一同
大エジプト博物館保存修復センター長のナディア・ロクマ女史との一場面

 国際協力機構(JICA)は、円借款事業で建設中の大エジプト博物館に付属する保存修復センターに対して、人材育成・技術移転事業を行っています。今回、文化遺産国際協力センターは、その一環としてJICAの要請を受け、現地エジプトの保存修復専門家およそ20名に対し、2月24日から28日までの日程で、紙の保存修復ワークショップを開催しました。紙本修復家である坂本雅美さんを講師として、ヨーロッパの紙や日本の紙の製造法や特性、材質に関する講義と、それぞれの保存上の問題やさまざまな保存処置方法、長期的な保存のためのマウントの方法などに関する実習を行いました。エジプトには、パピルスや染織品など、さまざまな出土遺物があり、保存処置が困難な資料も数多くあります。参加者の多くは、長年保存修復に携わってきた経験豊かな専門家であり、ワークショップ中も、さまざまな有意義な質問が出され、議論が行われました。そして参加者からは、ワークショップを通じ、エジプトの文化遺産の保存修復のために参考となる知識、技術や材料に関する知見を得ることができたと、非常に高い評価を受けました。このワークショップの結果、今後の日本からの継続的な支援に対しても大きな期待を寄せていただくことができました。

研究所で総合消防訓練実施

消防本部(本部長:鈴木所長、副本部長:三浦副所長、永井管理部長)
救護者の搬送
訓練参加者の様子
消化器による放水体験

 1月25日午前10時30分から当研究所で総合消防訓練が実施されました。
 この日は研究所3階の給湯室からの出火を想定し、初期消火、通報、避難誘導、救護などを研究所の職員で構成する自衛消防隊を中心に訓練を行い、当日研究所に勤務する職員が多数参加しました。
 午前10時30分、所内に設置された火災警報機が鳴り、「火災が発生したので非難してください」と放送されると、自衛消防隊及び火災発見者が消火器による初期消火(模擬)と119番通報(模擬)を行い、職員を誘導し屋外に避難させました。
 その間、消防本部、救護所を設置するとともに、自衛消防隊が、煙を吸って具合が悪くなり、逃げ遅れた職員1人を担架で避難させ、文化財(模擬)を搬出しました。
 訓練終了後、鈴木所長から、訓練参加への謝辞及び感想、文化財防火デーの意義、防火意識の高揚を図ることなどの講評がありました。
 また、実際に消火器を使用した消火訓練では、消火器の種類、取扱い方法の説明を受けた後、「火事だ!」との発声とともに放水を行いました。
 研究所では、1月26日の「文化財防火デー」に合わせ、関連行事として毎年、消防訓練を行っています。

国立台湾大学芸術史研究所・陳芳妹氏講演会の開催

講演する陳芳妹氏
淡水・ギン山寺全景(1991年整備以前)

 企画情報部ではプロジェクト研究「東アジアの美術に関する資料学的研究」の一環として「人とモノの力学」というテーマを設け、美術品や文化財といったモノの価値形成において、縦横に広がる人と人とのつながりを視野に入れながら、そこにどのような力関係でモノが絡んでいくのかに注目し、研究を進めています。このたび当部発行の研究誌『美術研究』391号に中国宋代の古代銅器受容について論考をお寄せいただいた国立台湾大学芸術史研究所の陳芳妹氏をお招きして、1月15日(火)に講演会を開催しました。
 「淡水ギン山寺に造られた神聖空間と民族相互認識の問題―社会芸術史の探究」と題した発表は、18世紀末から19世紀初頭にかけて台湾へ移住した漢民族、とりわけ福建省西山区の客家汀州を出身とする人々の表象についての内容でした。彼らは少数派ながら、台湾北部の淡水にギン山寺を建立し、その伽藍や意匠が出身地汀州の記憶をとどめたものであることを陳氏は突き止めています。わたしたちにはなじみの薄い台湾の前近代史が話の対象でしたが、移動する人にまつわるアイデンティティーの主張は上記の研究テーマにも適い、発表後はマイノリティー(少数派)の自己表象をめぐって議論が交わされました。

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菩薩立像のX線透過撮影

菩薩立像上半身 X線透過画像

 企画情報部のプロジェクト研究「美術の技法と材料に関する広領域的研究」の一環として、1月29日(火曜日)に当研究所において都内在住の個人が所有する脱活乾漆造の菩薩立像(像高77.1㎝)のX線透過撮影を行いました。本像については6月の活動報告で述べたように作風から8世紀の最末もしくは9世紀に入っての造像が考えられるものです。6月に行った調査は目視による表面観察にとどまったため、構造・技法を明確にすることはできませんでした。そこで今回のX線透過撮影では、像内に像を支える構造材が存在するのか、用いられた麻布貼りは何層にわたっているのか、どの程度、補修・後補部が像に及んでいるのかなどを解明するために実施したものです。結果、像内には像を支える構造材が存在しないことや、補修は表面にとどまり像内に及ぶような損傷は少ないことが確認できました。また、一般に脱活乾漆造の場合、粘土でつくった原型に麻布を数層にわたって貼り重ねたのち、後頭部と体部背面に長方形の窓を開けて、そこから原型の粘土を除去して像内を中空としますが、本像では両耳を通る線で像を前後に切断して粘土の除去を行っていたことがX線透過撮影による画像から窺え、頭体部を前後に切断しやすくするために両腕を別に作って肩部で接合していたことも判明しました。このことは脱活乾漆造の終末期において構造・技法面に新たな展開があったことを示唆するようでもあります。今後、その方面でのさらなる技法解明が課題となったよう考えます。

ACCU無形文化遺産保護パートナーシッププログラム 無形文化遺産保護のための集団研修

 この集団研修は、文化庁及びユネスコアジア文化センター主催で、アジア諸国から無形文化遺産保護に関わる行政官を招き、1月21日から26日に行われました。東京文化財研究所は共催機関としてその企画段階から参画し、研修の実施に当たっても、無形文化遺産部の宮田が講師として参加し、「日本における無形文化遺産の保護及び目録作成のメカニズムについて」「東京文化財研究所の無形文化遺産活動について」の2テーマについて、講義を行いました。参加者からは、日本の制度はもちろん当研究所の活動についても多くの質問が寄せられ、その関心の高さがうかがわれました。

IPM研修

 川崎市との共催で、平成20年1月31日、川崎市民ミュージアム講義室でIPM研修をおこないました。講義は、「IPMの基本的考え方」と「対策の進め方」の2コマでしたが、参加人数が少なく小さな集まりでしたので、ロの字に組んだ机を講師と受講者が囲む形式となり、くつろいだ様子で受講いただけました。ムシの観察なども大きな会場では難しいのですが、今回はルーペを皆で覗きながら経験を交流でき、特にサイトミュージアムでは問題となるハチ対策などについても、各館の連携を助長できた点などがこれまでにはなかった経験でした。次々と質問があり、具体的な清掃方法についても実地に材料・道具を触りながら研修できたりなど、小集団への研修方法としておもしろい経験となりました。

第21回近代の文化遺産の保存修復に関する研究会「航空機の保存と活用」

会場の様子

 保存修復科学センター近代文化遺産研究室では、1月25日(金)に当研究所セミナー室において「航空機の保存と活用」を開催しました。当日は、イギリス海軍航空隊博物館の航空部門学芸員兼主任技術者のデイブ・モリス氏、日本航空協会の長島氏、平山郁夫美術館の平山助成館長の3氏をお招きし、ご講演いただきました。
 デイブ・モリス氏からは氏が手掛けられたコルセアの修復について詳細なお話があり、実際に作業された方にしかわからない細かい点まで含めてご紹介いただきました。長島氏からは、航空遺産の保存について所沢航空発祥記念館に展示されている91式戦闘機の保存を例にとりながらお話しいただきました。平山館長からは、館長が以前海上自衛隊鹿屋航空基地修理所に所属されておられた時に、現在の南さつま市において海中より引き上げられた零式3座水上偵察機の保存処理について、当時の資料を使ってお話しいただきました。お三方とも、実践を踏まえてのお話であっただけに、説得力もあり、会場からは、さまざまな質問が出て、予定した時間を大幅にオーバーする程の盛会でした。

中国新疆ウイグル自治区の仏教壁画を有する石窟の現状調査

シムシム千仏洞の景観と保存修復された石窟群
キジル石窟224窟に見られる有機物からなる赤色の色材(新疆ウイグル自治区文物局提供)

 現在、文化遺産国際協力センターでは、敦煌莫高窟やバーミヤーン遺跡、アジャンター石窟などユーラシアの広範な地域に所在するさまざまな仏教石窟において、壁画の技法材料と保存修復に関する調査、研究を実施しています。新疆ウイグル自治区は中央アジアの東端に位置し、それらの仏教壁画を東西交流という観点から比較研究する上で、非常に重要な遺跡が分布しています。中国では、敦煌研究院を中心に、研究活動や保存修復作業が進んでいます。今回、株式会社NHKエンタープライズの受託調査研究として、1月5日から12日にかけて、極寒の中、トルファンのベゼクリク千仏洞、クチャのキジル千仏洞、シムシム千仏洞、クムトラ千仏洞、クズルガハ千仏洞の石窟において、壁画の彩色技法の観察、写真記録、保存状態の調査等を行いました。調査にあたっては、日本から4名と、新疆ウイグル自治区文物局と敦煌研究院保護研究所からそれぞれ中国人研究者の参加を得て、共同で調査を行いました。これらの遺跡は、バーミヤーン遺跡と同様に、礫岩やシルト岩、やわらかい砂岩からなる崖に石窟を掘り込んでいるか、あるいは泥レンガで構造物を付加することにより祠堂などを形成し、その壁面に土壁を施し、その上に、セッコ技法によって彩色するという共通点を持っています。有機物からなる鮮やかな赤色など、比較的保存状態の良い色材もあり、今後、科学的な研究を行うことによって、シルクロードの壁画の技術を明らかにする鍵となるような、重要な成果が得られるのではないかという実感を持ちました。

文化遺産国際協力コンソーシアム研究会「リビング・ヘリテージの国際協力」の開催

研究会の様子
ポスター展示の様子

 1月9日に文化遺産国際協力コンソーシアム研究会「リビング・ヘリテージの国際協力」が開催されました。この研究会は、文化遺産国際協力センターが事務局業務を受託している「文化遺産国際協力コンソーシアム(会長:平山郁夫前東京芸術大学学長)」が主催する研究会で、文化遺産国際協力に関する様々なテーマを取り上げ、検討するための研究会です。第2回目となる今回の研究会では、リビング・ヘリテージ、すなわち「生きた遺産」、「活かされている遺産」という切り口に注目し、100名を超える様々な分野の方にご参加いただきました。基調講演では、ユネスコ・バンコク事務所の文化担当アドバイザー R. エンゲルハルト氏に、リビング・ヘリテージという概念が登場した背景や、遺産を継承する地域の人々をも含めた文化遺産国際協力の重要性、日本の果たすべき役割について講演いただきました。また、事例紹介として昭和女子大学によるベトナムでの学際的な取り組みに関する事例や、三浦恵子氏による東南アジア各地でのリビング・ヘリテージの保全に関する事例紹介をいただきました。パネル・ディスカッションでは、現地で直面する課題や、変わりゆく価値観の中で何をどのように守っていくべきなのか、日本はいったいどのような協力が出来るのか、といった話題について、会場も含めた活発な議論がおこなわれました。文化遺産国際協力コンソーシアムでは、今後も定期的に研究会を開催し、文化遺産国際協力に携わる様々な関係者のネットワーク構築を支援していきます。

勤労者美術展東京都知事賞受賞

受賞を喜ぶ石丸さんを囲んで
右から永井管理部長、鈴木所長、石丸さん、後藤

 管理部管理室会計係の石丸真弥さんが、平成19年12月2日に東京都知事から勤労美術展東京都知事賞(書の部)を受賞し、鈴木所長にその報告を行いました。
 鈴木所長からは、今回の受賞に対して、お祝いの言葉が述べられた後、作品についての説明や創作活動の状況などについて懇談しました。
 この美術展は、東京都が都内勤労者の日頃の創作活動の成果を発表する場として「勤美展」の愛称で親しまれ、今年が60回目という大きな節目を迎えた歴史ある展覧会である。
 今回は、日本画、洋画、立体造形・工芸、書、写真の幅広い分野にわたる合計880点が出品され、「書」部門においては47点の出品のうち東京都知事賞は最も栄誉ある賞であります。審査員からは「力強い線条で、若さが作品全体にあふれている。作品構成は、「序破急」と三つの部分で構成し、中央で大きく盛りあげている。行間の白も美しく、冬行との響きあいも見事」と選評されています。
 石丸さんは、子供のころから書道に強い魅力を感じ、大学では書道科に進学し、その後大学院で文学研究科書道学を専攻し、研究面でも業績をあげています。現在は、読売書法会や藍筍会の書道団体に所属し、本研究所に勤務する傍らの限られた時間の中で創作活動を行っています。文化財研究の拠点である本研究所での勤務は良い刺激であり、今後より良い作品を創作し、芸術文化の発展に寄与したいと頑張っています。
 (※石丸さんの主な作品や活動等については自身のホームページでもご覧いただけます。
http://www.h2.dion.ne.jp/~shinya-i/top.htm

寄付金の受入れ

下條理事長、浅木社長から寄付を受ける鈴木所長
左から吉田副理事長、下條理事長、浅木社長、鈴木所長、永井管理部長
浅木社長に感謝状を贈呈する鈴木所長
左から浅木社長、鈴木所長
下條理事長に感謝状を贈呈する鈴木所長
左から下條理事長、鈴木所長

 東京美術商協同組合から、東京文化財研究所における文化財に関する調査・研究等の成果の公表にかかる出版事業の助成を目的として、また㈱東京美術倶楽部から東京文化財研究所における研究事業の助成を目的として、それぞれ寄付金のお申し出がありました。
 東京美術商協同組合からは、2001年秋から毎年春と秋に各100万円のご寄付をいただいており、今回で13回目となり、(株)東京美術倶楽部からは、昨年秋と今年春に各100万円のご寄付をいただいており今回で3回目となります。
 12月17日、港区新橋の東京美術商協同組合において、鈴木所長が東京美術商協同組合下條啓一理事長並びに(株)東京美術倶楽部浅木正勝代表取締役社長から寄付を受領いたしました。
 また、今回までにご寄付いただいたことに対して、東京美術商協同組合下條啓一理事長並びに(株)東京美術倶楽部浅木正勝代表取締役社長にそれぞれ鈴木所長から感謝状を贈呈しました。
 その後、文化財保存・修復並びに美術品等の展覧会に関する文化事業について懇談しました。
 当研究所の事業にご理解を賜りご寄付をいただいたことは、当研究所にとって大変有難いことであり、研究所の事業に役立てたいと思っております。

“オリジナル”研究通信(3) ―文化財修理の基本理念

 企画情報部では、来年度に行われる「文化財の保存に関する国際研究集会」の準備のため、“オリジナル”をテーマに部内研究会を開いています。12月は、長年にわたって文化財修理の第一線に臨まれてきた、所長・鈴木規夫と議論を交わしました。
 現在、「現状維持を原則とし、学術的・資料的・美的価値を損なわないように、必要最低限の処置をほどこす」ことが、日本の文化財修理の基本理念となっています。ただ、文化財の素材(材料)あるいは形態などどの部分に力点を置くのか、あるいはどの時点の姿を残すのかという問題は、文化財の本質的な価値がどこにあるのかという根本的な問題と密接に関わるもので、決して一律に判断を下せることではなく、現場においてさまざまにむずかしい判断が要求されるようです。
 特に興味深く感じたのは、日本には文化財が長年の時を経て身にまとう経年変化―よく古色・古びという言葉で言い表したりしますが―に美を見出し、それをうまく残しつつ伝えるという、日本独自の感性・価値観があるということでした。文化財が造られた当初の姿だけではなく、それが伝来してきた歴史の重みをも重視するこの考え方は、我々が新しく提示しようとしている“オリジナル”の考え方とも通じており、議論が活発に行われました。

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『昭和期美術展覧会の研究〔戦前篇〕』研究会の開催

プロレタリア美術研究所のポスター
 1930(昭和5)年頃

 企画情報部ではプロジェクト研究「近現代美術に関する総合的研究」の一環として、昭和戦前期の美術に関する論文集『昭和期美術展覧会の研究〔戦前篇〕』の2008年度刊行をめざしています。その刊行にむけての研究会を、12月27日に当部の研究会室で開きました。発表者とタイトルは次の通りです。
 ◆喜夛孝臣氏(早稲田大学會津八一記念博物館)「矢部友衛とプロレタリア美術運動―プロレタリア美術研究所を中心にして」
 ◆足立元氏(東京藝術大学大学院)「「悪女」と戦争―小野佐世男の漫画をめぐって」
 ◆敷田弘子氏(東京藝術大学大学美術館)「昭和前期の日本における最小限住宅とその室内設備についての一考察―型而工房とその関係者のデザイン活動から」
 若手研究者ということもあって、プロレタリア美術・漫画・デザインの未開拓分野に挑んだ発表内容は、いずれも真摯で刺激的なものでした。発表者・出席者ともに『昭和期美術展覧会の研究〔戦前篇〕』の執筆陣が中心の研究会でしたが、30名近くの研究者が参加し、発表を受けてホットな議論が交わされました。本研究会が、同論集刊行にむけてのよい弾みとなったことは間違いないでしょう。

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