研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

東京文化財研究所 保存科学研究センター
文化財情報資料部 文化遺産国際協力センター
無形文化遺産部


“第36回文化財の保存および修復に関する国際研究集会 文化財の微生物劣化とその対策:屋外・屋内環境、および被災文化財の微生物劣化とその調査・対策に関する最近のトピック“について

Microbial Biodeterioration of Cultural Property

 文化財の微生物による劣化は、屋外・屋内環境を問わず、文化財の劣化要因として大きな影響を与えています。また、地震・津波などによって被災した文化財は水濡れの影響から、微生物劣化が短期間のうちにおきやすく、その状況をみきわめるための調査と対策はきわめて重要です。東京文化財研究所では、標記のシンポジウムを平成24年12月5日(水)~12月7日(金)、東京国立博物館 平成館 大講堂にて開催いたします。今回は招待講演のほかに、上記のテーマに関わる22件のポスター発表が行われます。国内外の研究者や文化財関係者と積極的な議論や情報交換をする機会ですので、文化財の保護に関わる方々、研究者、文化財の分野に興味をお持ちの学生の方を含め、多くの方々のご参加をお待ちいたしております。10月20日まで参加お申込みを受け付けております。
詳しくはhttp://www.tobunken.go.jp/~hozon/sympo2012/をご覧ください。お問い合わせは、sympo2012@tobunken.go.jpまで。 

キンベル美術館所蔵「二十五菩薩来迎図」修復中の調査撮影

撮影調査風景
「二十五菩薩来迎図」右幅、キンベル美術館(修理前)
(左)同部分
(中)同部分裏面カラー画像(左右反転)
(右)同部分裏面近赤外線画像(左右反転)

 在外日本古美術品保存修復事業として平成23年度より「二十五菩薩来迎図」(キンベル美術館、フォートワース、米国)の修復を行っています。この作品は絹本着色の二幅対で、14世紀頃の制作と見られます。諸菩薩は皆金色で精緻な切金文様が施されていますが、経年の汚れのために画面が暗く沈み、随所で糊浮きが生じて保存上の問題がありました。今回の修復では作品を解体して表装を改めることとし、現在、右幅の肌裏紙の除去が完了した状況です。画絹を裏側から見ると、下描きの墨線や裏彩色が確認でき、修復のために必要な調査と撮影を行いました。作品表面から見ると、諸菩薩は端正な顔貌で表現されていますが、近赤外線画像で確認すると、表面のやや硬い線描に較べてより柔和な線描による、おおらかな表情のすぐれた下描きが作品全体に存在していることがわかりました。また画絹の裏から白や緑の絵具を塗った裏彩色が正統的な仏画らしく施されていることが確認できました。このような画像は、解体修理の際にしか記録できません。作品の表面だけでなく、裏面も高精細画像で記録することによって、より安全に修復を進めることができ、今後の研究資料としても活用できます。所蔵館学芸員とも協議を重ねながら、今後の作業を進めていきたいと思います。

7月施設見学(1)

実演記録室での説明(7月2日)

 武蔵野市社会教育関係団体老壮連合会「ハッピー76会」 計19名

 7月2日、文化財の保存・修復の現場を見学するために来訪。無形文化遺産部実演記録室、保存修復科学センター修復アトリエ及び同化学実験室を見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。

7月施設見学(2)

資料閲覧室での説明(7月5日)

 文化学園大学服装学部 計7名

 7月5日、文化財の保存・修復の現場を見学するために来訪。企画情報部資料閲覧室、無形文化遺産部実演記録室及び保存修復科学センター分析科学研究室を見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました

7月施設見学(3)

生物実験室での説明(7月19日)

 独立行政法人国立文化財機構新任職員 計36名

 7月19日~20日、独立行政法人国立文化財機構新任職員研修会の一環として来訪。企画情報部資料閲覧室、無形文化遺産部実演記録室、保存修復科学センター生物実験室及び同分析科学研究室を見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。

7月施設見学(4)

化学実験室での説明(7月24日)

 参議院第三特別調査室 計4名

 7月24日、東京文化財研究所の視察のために来訪。企画情報部資料閲覧室、無形文化遺産部実演記録室及び保存修復科学センター化学実験室を見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。

7月施設見学(5)

X線撮影室での説明(7月31日)

 文部科学省主催「放射線等に関する課題研究活動の支援」参加校の高校生 計35名

 7月31日、文化財におけるX線の利用及び文化財の化学分析手法について見学するために来訪。保存修復科学センターX線撮影室、分析科学研究室及び電子顕微鏡室を見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。

韓国国立文化財研究所との第二次研究交流

狂言師野村万作師へのインタビュー

 昨年11月の調印により、韓国文化財研究所との第2次の研究交流が始まりました。5月に、無形文化財研究室の高桑が韓国で調査を行いましたが、韓国文化財研究所から李明珍研究員が7月に来日し、1ヶ月間、狂言について調査を行いました。
 韓国では、無形文化財のありかたが日本とは異なり、日本のように重要無形文化財と重要無形民俗文化財には分かれていません。芸能に関しては、重要無形民俗文化財に相当するものがほとんどですし、伝承のあるべき姿についての基本的な考え方も異なります。芸能や制度の比較をおこなう際には、その相違をふまえる必要があるのですが、今回は、和泉流の狂言師にインタビューをおこないながら、日本での伝承のあり方について、認識を深めました。

「博物館・美術館等保存担当学芸員研修」の開催

文化財害虫同定実習の様子

 表題の研修は、文化財保存に必要な知識と技術をその任にあたる学芸員に伝えることを目的としています。7月9日より2週間開催した今年度の研修には、全国より30名の学芸員や行政担当者が参加しました。本研修は主に、(1)自然科学に立脚した保存環境に関する項目、(2)文化財の種類ごとの劣化要因とその防止対策に関する項目の2つの柱から講義や実習カリキュラムが構成されています。
 保存環境実習を実地で応用する「ケーススタディ」は国立歴史民俗博物館のご厚意により、同館で行いました。参加者が8つのグループに分かれて、それぞれが設定した温湿度や照度などの実地調査と評価を行い、翌日にその結果を発表しました。
 本研修参加者には、勤務館のみならず、地域の文化財保存における中核的存在となることを期待しております。募集要項は毎年2月頃、各都道府県教育委員会を通じて各施設に配布しておりますので、ぜひとも参加をご検討下さい。

ワークショップ「日本の紙本・絹本文化財の保存修復」の開催

基礎編における日本画制作技法のデモンストレーション
応用編における掛軸応急修理のデモンストレーション

 本ワークショップは在外日本古美術品保存修復協力事業の一環として毎年開催しています。本年度は7月11~13日の期間で基礎編「Japanese paper and silk cultural properties」を、16~20日の期間で応用編「Restoration of Japanese hanging scroll」をベルリン博物館群アジア美術館で行いました。
 基礎編では、制作、表具、展示、鑑賞という実際に文化財が私たちの目に触れるまでの過程に倣い、原材料としての紙・糊・膠・絵具、書画の制作技法、表具文化、取扱いまでの講義、デモンストレーション、実習を行いました。
 応用編では装潢修理技術による掛軸の修復に関して、実習を中心にワークショップを行いました。何層もの紙や裂から成る掛軸の構造、掛軸修復のための診断、伝統的な刷毛や刃物の取り扱、応急修理などに焦点を当てました。
 近年、日本の装潢修理技術が海外で認められ、海外の絵画、書籍などにも応用されるようになって参りました。しかし、海外の多くの修復技術者は、文献あるいは人伝に学んでいるのが現状です。本ワークショップを通して、一人でも多くの海外の修復技術者に本場の材料と技術を理解する機会を提供していきたいと考えています。

カンボジア・タネイ遺跡における建築測量研修

トータルステーション操作方法の実習
遺構実測の様子

 カンボジア政府アンコール地域遺跡整備機構(アプサラ機構)との協力協定に基づく新規の人材育成プロジェクトとして、アンコール遺跡群内のタネイ遺跡における建築測量研修を開始しました。本研修は、GPSとトータルステーションを用いた遺構実測と、取得したデータをCADに移行して行う図化作業までの一連の基本的手順をカンボジア人スタッフに習得してもらうことを目的とするもので、現場および室内での実習と講義を組み合わせたトレーニングコースを準備しています。来年度にかけて全四回を実施予定の研修の初回となる今回は、7月30日から8月3日までの5日間にわたり行われ、アプサラ機構のほか、プレアヴィヒア機構、JASAチーム等から建築及び考古を専門とする若手・中堅スタッフが計12名参加しました。研修生たちは技術を習得しようと皆熱心に取り組んでおり、当面は遺跡全体の現状平面図を完成することを目標にしています。

第1回ASEAN+3文化協力ネットワーク会合

会議集合写真
会議の様子

 フィリピンのボホール島で2012年7月20日から23日に開催された第1回ASEAN+3文化協力ネットワーク会合(Meeting of the ASEAN Plus Three Cultural Cooperation Network, 通称APTCCN)に、文化庁からの依頼により参加しました。ASEAN諸国及び中韓の文化行政担当官公庁と各国の文化遺産保護及び文化事業全般について情報交換と、ASEAN諸国の文化遺産保護支援のため資するための情報収集を行いました。昨年までは、東アジア文化遺産ネットワーク(Networking of East Asia Culture Heritage, 通称NEACH)と呼ばれていましたが、今後の五カ年計画に、1.無形、有形分野での専門家のネットワーク構築を通じての文化分野での地域間協力の強化、2.ASEAN+日中韓における固有のアイデンティティの発展、3.文化遺産マネジメント、文化分野における人材育成、中小規模の文化企業の発展における共通認識の必要、といったより広い課題が含まれたことにより、会議名称の変更がありました。
 2013年は、ASEAN日本交流40周年記念にあたります。ASEAN諸国と日本の関係性を深めるうえでも、この会合の重要性は今後、より増加していくと考えられます。

寄附金の受入

東京美術倶楽部にて感謝状贈呈(6月11日)

 東京美術商協同組合から東京文化財研究所における研究成果の公表(出版事業)の助成を、また、株式会社東京美術倶楽部から東京文化財研究所における研究事業の助成を目的として、それぞれ寄附金のお申し出があり、ありがたく拝受いたしました。
  6月11日、東京美術商協同組合において、六川研究支援推進部長から東京美術商協同組合総支配人 喜好勝美氏に、東京美術商協同組合 下條啓一理事長及び株式会社東京美術倶楽部 浅木正勝代表取締役社長宛の感謝状を贈呈しました。
  当研究所の事業にご理解を賜りご寄附をいただいたことは、当研究所にとって大変ありがたいことであり、研究所の事業に役立てたいと思っております。

6月施設見学

資料閲覧室での説明(6月28日)

 川村学園女子大学教育学部社会教育学科 計16名

  6月28日、学芸員を目指す学生が文化財の保存・修復の現場を見学するために来訪。企画情報部資料閲覧室、保存修復科学センター化学実験室、第2修復実験室を見学し、各担当者が業務内容について説明を行いました。

仙台、昭忠碑の高所作業車による調査・作業

高所作業車による調査の様子。右下に落下したブロンズの鵄がみえます。
塔上、ブロンズ部の被災の様子。中央から右に突き出した植物装飾が、緩んだボルト一本でかろうじて留まっている状況です。

 仙台城(青葉城)本丸跡に建つ昭忠碑は、明治35年(1902)、仙台にある第二師団関係の戦没者を弔慰する目的で建立されたモニュメントです。今年1月の活動報告でもお伝えしたように、同碑は昨年の東日本大震災で20m余りの塔上部に設置されたブロンズの鵄が落下・破損するという被害を受けました。そこで1月に行なった被害調査・破片回収に引き続き、6月26日には文化財レスキュー事業の一環として高所作業車を使用し塔上部・塔部の被害調査および破片回収等の作業を実施しました。
 今回の調査・作業には昭忠碑を所有する宮城縣護國神社の方々をはじめ、宮城県被災文化財等保全連絡会議から三上満良氏(宮城県美術館)、国内にある屋外彫刻の調査保存で実績のある屋外彫刻調査保存研究会の方々、地元建設会社の(株)橋本店の方々が参加し、また東京芸術大学美術学部工芸科の橋本明夫氏、同大学美術学部教育資料編纂室の吉田千鶴子氏も調査に加わりました。また今回の作業は、(有)カイカイキキから文化財レスキュー事業に役立てるべく東京文化財研究所にいただいた寄付金により行われました。
 今回の調査では塔上部にも多くのブロンズ破片が散乱していることがわかり、その回収を行いました。さらに残存するブロンズ部を調査したところ、植物装飾の一つが緩んだボルト一本でかろうじて留まっていること、ブロンズの鵄を支えていた柱礎のくびれ箇所に亀裂が廻っていること、塔上で水平に張り出したコーニスに落下したブロンズの一部が衝突して陥没した穴がみられること等が確認されました。今回は外れかかっている植物装飾をベルトで固定し、柱礎より上の部分をブルーシートで覆いましたが、これはあくまで応急処置であり、再び大地震が発生すれば塔下へ落下する危険性があります。さらにコーニスにあいた穴や破損した柱礎からの雨水の塔内へ侵入が塔全体の崩壊につながる恐れもあり、塔下に落下したまま放置されているブロンズの鵄の処置と併せ、引き続き対策を講じていくことが必要です。

第36回世界遺産委員会

世界遺産委員会の会場となったタブリーダ宮殿
パレスチナの資産の記載が決まった瞬間の会場の様子
歓迎レセプションでの花火(ペテルゴフ大宮殿)

 第36回世界遺産委員会は、6月24日~7月6日、ロシアのサンクトペテルブルクで開催されました。当研究所では、世界遺産リストに記載されている資産の保全状況や、リストへの記載の推薦に対して、諮問機関が行った評価や勧告内容の要約と分析を事前に行うとともに、筆者を含む3名が委員会に参加し情報収集を行いました。
 今回は26件の資産が新たにリストに記載されました。記載延期の勧告から記載の「2段階昇格」資産は2件で前回より減りましたが、情報照会が勧告された資産6件すべてが記載され、諮問機関の勧告が覆される傾向は委員国の改選で緩和されたものの、まだみられるといえます。また、今回記載された資産には鉱山遺跡が3件ありますが、いずれも労働運動や事故など「負の歴史」にも関連し、歴史の暗部に着目する傾向も引き続きみられました。
 世界遺産条約は最も成功した条約ともいわれ、190カ国が批准しています。その知名度を象徴する現象として、今回「キリスト生誕の地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼の道」が緊急に記載されましたが、記載の推薦は「国家」が行うので、パレスチナが国家であることをアピールするものです。また、マリの世界遺産がイスラム原理主義者により破壊されましたが、これも、世界遺産の破壊という行為が世界に与える影響を考慮したものといえるでしょう。
 昨年のパレスチナの世界遺産条約批准によりアメリカの分担金拠出が停止され、最大の拠出国は日本となりました。また今回から、日本は委員国として自由に発言できる立場となったこともあり、日本が果たすべき役割は大きいといえます。当研究所では、国内関係者への情報提供とともに、世界遺産委員会へ日本が貢献するための情報分析などの支援も実施していきたいと考えています。

来訪研究員金子牧氏による研究発表

 昨年7月から1年間、企画情報部来訪研究員として調査研究を行ってこられたカンザス大学美術史学部アシスタント・プロフェッサーの金子牧氏が来訪期間を終えるにあたり、6月28日に企画情報部研究会において成果発表を行いました。金子氏はアジア太平洋戦争および戦後という時代が美術家たちの制作にどのように表出されるかを追及しておられ、その調査の中で浮かび上がってきた興味深い問題のひとつとして素朴な貼り絵で知られる山下清(1922-71)を巡る評価の変遷に着目し、「「国民的画家」の表出:アジア・太平洋戦争期と戦後の「山下清ブーム」と題して発表されました。
 山下清が最初に注目を集めた時期は日中戦争勃発から1年目にあたる1938年から1940年までの二年間で、その頃は知的障害を持ちながら優れた造形力を示す「日本のゴッホ」といった位置づけであったのに対し、戦中を経て再度注目された1950年代半ばには無垢な感性で牧歌的な郷愁を誘うイメージをつむぐ「国民的な画家」として語られていきます。
 金子氏はそうした山下清像に、戦争に向かって総力戦体制を構築していった1930年代後半、そして「もはや戦後ではない」と言われ、戦争の記憶が様々な形で甦った1950年代、という二つの時代の社会状況が反映されているのではないか、と指摘されました。
 狭義の「美術」という枠を超え、視覚表象の受容のあり方から社会を分析しようとする興味深い試みでした。金子氏は6月末に当所での調査を終え、帰国されました。

ボルネオ島サラワク洲における削りかけ状祭具の調査

ブラワンの削りかけ
客人歓迎のための装飾
カヤンの削りかけ
焼畑の際に削って立てる

 6月下旬、ボルネオ島サラワク州において日本の「削りかけ」に酷似した木製具の調査を行ないました。削りかけは、日本では小正月に飾る慣習が広く認められるほか、アイヌ民族における最も重要な祭具(イナウ)でもあります。削りかけに酷似する祭具がボルネオでも見られることはこれまでも知られていましたが、専門家による現地調査や比較研究は従来ほとんど行なわれてきませんでした。そこで今回は、アイヌ文化やイナウ研究を専門とする北海道大学アイヌ・先住民研究センターの先生方と共同で、将来的な比較研究のための予備調査を行ないました。
 現地ではいくつかの民族に話を聞く機会を得たほか、製作も見せていただくことができ、その習俗についておおよその概要を知ることができました。民族により、削りかけ状祭具の名称、用途、形態、素材等は少しずつ異なりますが、例えばイバンではBungaiJaraw(bungaiは花を意味する)などと呼ばれ、現在では客人を歓迎するための単なる装飾と捉えられることが一般的のようでした。しかし、かつては首狩り習俗や伝統的な祭りに際して重要な役割を果たすなど、より象徴的、宗教的な意味合いを持たされていた痕跡も見受けられ、さらに踏み込んだ調査が必要と言えます。
 今後もボルネオをはじめとする国外の削りかけ状祭具の調査を進めることで、日本列島における削りかけ習俗や製作技術についての理解を深め、その文化史的、文化財的な位置づけを究明していきたいと考えています。

無形文化遺産保護条約第4回締約国総会

無形文化遺産保護条約第4回締約国総会

 無形文化遺産保護条約第4回締約国総会は、去る6月4日から8日まで、パリのユネスコ本部において開催され、東京文化財研究所からは、無形文化遺産部の宮田繁幸が参加しました。今回の会合では、運用指示書の改訂が主要議題であり、今までの総会以上に参加各国の活発な議論が行われました。従来の総会は、政府間委員会の決定を承認するという役割が強く、実質的な議論の場と言うよりは形式的な承認の場といった性格が強かったのですが、今回は政府間委員会に劣らない議論の場となりました。特に激しい議論となったのは、代表一覧表の審査方法に関する議論で、政府間委員会からの勧告で盛り込まれた、審査担当を従来の補助機関から、緊急保護一覧表と同様に専門家により構成される諮問機関へ移すことの是非をめぐって激しい議論が行われました。結果としては、政府間委員会の勧告は修正され、従来の補助機関による審査方式が継続することになりましたが、一方で長らく懸案であった年間の審査件数の制限(シーリング)が正式に運用指示書に記載されるなど、今後の条約実施に大きな影響を与える決定が行われました。
 本来締約国総会は条約上最高意思決定機関であることは変わらないのですが、今回のように政府間委員会の勧告が明確に覆された例はなく、今後条約の運用に課題を残す結果となったともいえます。また地域グループ毎の意見の対立が表面化したことも、今後注視し続けなければならない点でしょう。総会がこのような実質的討議の場として重きを増してきた以上、今後ともその動向把握に注意する必要があると考えます。 

保存担当学芸員フォローアップ研修

研修の様子

 表題の研修は、今年度で29回目となる「博物館・美術館等保存担当学芸員研修」の修了者を対象に、保存に関する最新の知見等を伝える目的で毎年行なっており、今年は6月25日に開催し、80名の参加者を得ました。今回は下記のように、前半に東北地方太平洋沖地震被災文化財等救援委員会(文化財レスキュー事業)のこれまでの活動に関して、後半に我々が携わっている保存環境に関わる取り組みについて取り上げました。

  • 文化財レスキューのこれまで(保存修復科学センター長 岡田健)
  • 大規模災害に強い文化財施設と設備(主任研究員 森井順之)
  • フィルム収蔵庫の保存環境 (保存科学研究室長 佐野千絵)
  • 東文研が関わる保存環境調査、相談と助言に関して(吉田直人 主任研究員)

 毎年、本研修には保存担当学芸員修了者総数の1割を超える方に参加して頂いており、これは東文研の保存環境への取り組みに対する期待の表れと考えています。今後も、その期待に応えるべく、ニーズを的確に捉えた活動を続けていく所存です。

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