「アジア太平洋の無形文化遺産と自然災害に関する地域ワークショップ」開催報告

女川町における「獅子振り」の実演の見学

 平成30(2018)年12月7日から9日にかけて仙台市で開催されたアジア太平洋無形文化遺産研究センター(IRCI)主催の「アジア太平洋の無形文化遺産と自然災害に関する地域ワークショップ(Asia-Pacific Regional Workshop on Intangible Cultural Heritage and Natural Disasters)」に、共催機関として本研究所から山梨絵美子副所長をはじめとする7名のスタッフが参加しました。このワークショップは、平成28(2016)年度よりIRCIが進めてきた事業「アジア太平洋地域の無形文化遺産と災害リスクマネジメントに関する研究」のまとめとして開催されたものです。なお本事業の実施にあたっては本研究所無形文化遺産部が協力し、これまでベトナム・フィリピン・フィジーにおける現地調査にもスタッフを派遣してきました。
 今回のワークショップでは、アジア太平洋地域の8か国から文化遺産や災害リスクマネジメントの専門家を招き、そこに国内外の専門家を加え、自然災害からどのようにして無形文化遺産を守るかについて報告と議論をおこないました。また2日目には本研究所無形文化遺産部の久保田裕道の案内で、宮城県女川町へのエクスカーションを実施し、東日本大震災からの復興において無形文化遺産が果たした役割について、その実情を参加者に見てもらう機会を持ちました。
 このワークショップにおける議論を通じて、無形文化遺産と自然災害との関係についてのとらえ方が国や地域によって異なるようであることが印象に残りました。例えば日本の専門家は、無形文化遺産が被災したコミュニティの絆を取り結び、復興に向かう力の源となるという側面を強調していたのに対し、海外の専門家の何人かは、伝統的な知識の中には自然災害を予測したり、あるいはそれに備えたりするためのものが含まれているという点を強調していました。ユネスコの「無形文化遺産の保護に関する条約」では無形文化遺産の分野の一つとして「自然及び万物に関する知識及び慣習」が挙げられ、伝統的な知識は無形文化遺産であるという認識が一般的です。一方で日本の文化財保護法においては、伝統的な知識は無形文化財のカテゴリとしては明確に位置づけられていません。
 もちろん日本においても、津波石碑のように自然災害に関する民俗的な記録や知識は注目されてきましたが、無形文化遺産と自然災害との関係という文脈において語られることは少なかったかもしれません。今回のワークショップを通じ、国や地域によって考え方に違いがあることを知り、またそうした違う考えの人たちと議論することができたことは、私たちのものの見方を広げる上でも有意義な機会であったと思います。

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