仁和寺孔雀明王像の表現と技法―文化財情報資料部研究会の開催

研究会の様子

 平成30(2018)年11月27日の文化財情報資料部では、今年度第6回となる月例の研究会を開催しました。今回は、東京藝術大学非常勤講師の京都絵美氏をお迎えし、「絹本著色技法の史的展開について―仁和寺所蔵孔雀明王像をめぐる一考察」と題して発表をいただきました。仁和寺の所蔵する孔雀明王の画像は、制作期が北宋時代に遡るとする見解もある作品で、孔雀の羽に動きさえ感じさせるダイナミズムと日本の仏画とは対照的に独特のリアリズムを表わした国宝のきわめて優れた作品です。
 京都氏は、美術史研究でも業績を重ねる一方、数々の優れた作品を発表されている作家でもあります。京都氏は仁和寺自性院源證が、江戸時代の安永8年(1779)に透き写しの技法を取り入れた模本を紹介して比較し、また、日本画の画絹の絹継ぎが縫ってつないでいるのに対し、中国画は縫い目のないこと、さらには、画絹素地に施される「にじみ止め」によって同様の描写によってもその表現性に多様な変化が生じることを、実際の多くのサンプルによって示されました。美術の表出性―美しさは「かたち」に宿っており、その「かたち」を支えているのはリアルな物質的技法であるといえるでしょう。しかしながら、これはこれまでのオーソドックスな美術史研究においてはアプローチが難しかった点です。京都氏は支持体、線描、彩色、色材について分析して興味深い知見を示され、今後のさらなる研究が期待されました。

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