ワット・ラーチャプラディットの日本製扉部材と伏彩色螺鈿に関する研究会の開催

ワット・ラーチャプラディット拝殿の扉
研究会の様子

 平成30(2018)年7月30日、本研究所において標記の研究会を開催し、11名の専門家による10件の研究発表が行われました。
 タイ・バンコク所在のワット・ラーチャプラディットは、1864年にラーマ4世の発願により建立された王室第一級寺院です。同寺院の拝殿の窓と出入口の扉の室内側には、アワビなどの貝を薄く剥ぎ、基底材に接する側に彩色や線描、金属箔を施したものを用いる伏彩色螺鈿、及び漆絵により装飾された部材が使われています。この扉部材について、タイ文化省芸術局及び同寺院の依頼により、東京文化財研究所は平成24(2012)年からタイでの修理事業に対する技術支援を始めました。特に、平成25(2013)年~平成27(2015年)には2点の扉部材を日本に持ち込み、研究所内外の専門家と連携して詳細な科学的調査と試験的な修理を実施しています。
 本研究会では、扉部材の透過X線撮影、顔料等の蛍光X線分析、漆塗膜や下地等の有機分析といった上記の科学的調査のほか、現地で実施した光学的調査や、漆絵による文様の図像の解釈に関する成果が報告されました。それらの成果を通じ、扉部材の装飾に用いられた技法や材料が明らかになるとともに、扉部材が日本製である証拠が示されています。また、この扉部材や、日本及びタイに所在する日本製の伏彩色螺鈿製品を対象に、製作技法に関する検討や、時期的な変遷に関する考察を行った成果も報告されました。
 伏彩色螺鈿の技法が用いられたのは18世紀末~19世紀後半の比較的短期間に過ぎませんが、その系譜は明らかとは言えません。私たちは今後も、ワット・ラーチャプラディットの扉部材の修理事業への技術支援とともに、扉部材や伏彩色螺鈿に関する日タイ両国での調査研究を続けます。

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