英国、セインズベリー日本藝術研究所での協議と講演

セインズベリー日本藝術研究所主催の講演会の様子

 英国、ノリッチにあるセインズベリー日本藝術研究所は、欧州における日本の芸術文化研究の拠点のひとつです。同研究所と東京文化財研究所は2013年より「日本藝術研究の基盤形成事業」を共同で進めており、その一環として毎年、文化財情報資料部の研究員がノリッチを訪れ、事業に関する協議および講演を行なっています。2017年度は塩谷純、安永拓世、小山田智寛の3名が2月13日から16日にかけてノリッチに滞在し、その任に当たりました。
 協議では、考古・文化遺産学センター長のサイモン・ケイナー博士をはじめ、スタッフの平野明氏、西岡恵子氏、林美和子氏と上記事業の発展に向け、今後の施策について話し合いました。具体的には当研究所で毎年刊行している『日本美術年鑑』の英訳や、データベース上での日本人作家名に関する基本的な情報提供の改善などが議題となりました。
 2月15日には塩谷を講師として、ノリッチ大聖堂のウェストン・ルームにて講演会が催されました。これはセインズベリー日本藝術研究所が毎月第三木曜日に開催する、一般の方向けの月例講演会として行なわれたもので、2014年からは東京文化財研究所のスタッフもその講師を年一回務めています。今回の塩谷の講演は「崇敬と好奇、そして禁忌のまなざし―明治天皇の視覚表現をめぐって Respect, Curiosity and Taboo-Differing Visual Expressions of the Meiji Emperor」の題で、上記のケイナー博士に通訳の労をとっていただきました。同講演では、塩谷が執筆代表者を務めた『天皇の美術史』第6巻(吉川弘文館)をふまえ、同書掲載の増野恵子氏による明治天皇の肖像論を紹介しながら、ジャーナリスト宮武外骨が犯したとされる不敬罪や、欧州での明治天皇のカリカチュアを例に、近代日本における天皇の視覚表現の展開と限界について論じました。今回は80名ほどの方が聴講され、現地の常連の参加者の他にロンドン芸術大学名誉教授でイースト・アングリア大学教授の渡辺俊夫氏や、ケンブリッジ大学准教授のバラク・クシュナー氏といった研究者の方々もお見えになりました。講演の後の質疑応答では参加者から多くの質問が寄せられ、日本文化に対する現地での関心の高さがうかがえました。

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